博 士 ( 医 学 ) 橋 都 浩 哉
学 位 論 文 題 名
破 骨 細 胞 波 状 縁 の 立 体 形 態 お よ び 加 齢 変 化 ー マ ウ ス 頭 頂 骨 に お け る 走 査 電 子 顕 微 鏡 的 観 察
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
【 は じ め に 】 近 年 骨 粗 鬆 症 を め ぐ り , 骨 組織 の微 小 動態 の研 究が 活発 とな って いる . 骨 の 量 は , 骨 形 成 と 骨 吸 収 の パ ラ ン ス に よ り保 たれ る ,こ のう ち骨 吸収 は破 骨細 胞に よ っ て 行 な わ れ る . 破 骨 細 胞 が 骨 に 接 し て 骨 吸収 を行 な う部 位は 細胞 膜が 複雑 に入 り組 ん だ構 造を し てお り, 波状 縁(ruff led border)と呼ば,れ る.波状縁の形態は破骨細胞の 機 能 状 態 に 応 じ て 変 化 す る と 考 え ら れ て い るが ,波 状 縁を 立体 的, 定量 的に 観察 する 方 法 は こ れ ま で な か っ た . 私 ど も は ご く 最 近 ,破 骨細 胞 の骨 に接 する 面を 骨基 貿側 から 走 査 電 子 顕 微 鏡 で 立 体 観 察 す る 新 し い 方 法 を 考案 した . 本研 究で はこ の方 法を 用い ,生 後 1,4,13,100週の マウ スに おい て破 骨 細胞 の骨 接触面を観 察し,週齢による波状縁の立体 形態 の変 化 を観 察し た.
【方 法 】頭 頂骨 を硬 膜と 骨膜 をっ けた まま 摘出 し,2Xグ ルタ ル アル デヒ ドーO.lMカコ ジ ル 酸 綬 衝 液 に2日 問 浸 し て 固 定 し た . さ ら に4XEDTAで1週 間 か け て 脱 灰し ,5N−KOHで 60℃ ,8分 間 処 理 し て 骨 基 買 と 周 囲 の 結 合 組 織 を 除 い た . 臨 界 点 乾 燥 後 に頭 頂骨 の内 側 面 を 覆 う 細 胞 層 を 剥 離 し , 剥 離 し た 面 を 上 にし てア ル ミニ ウム の試 料台 にの せ, 走査 電 子 顕 微 鏡 で 観 察 し た . こ の 方 法 で 合 計149個 の 破 骨 細 胞 を 観 察 し た . さ らに ,破 骨細 胞 の 骨 接 触 面 を そ れ ぞ れ 写 真 撮 影 し , 破 骨 細 胞の 骨接 触 面全 体の 面積 ,そ れに 含ま れる 波 状縁 の面 積 を算 出し た.
【 結 果 お よ ぴ 考 察 】 破 骨 細 胞 の 波 状 縁 は ,一 般に 指 状あ るい は板 状の 微小 突起 の集 団 で , 各 突 起 は 複 雑 に 分 岐 し て い る こ と が 多 かっ た. ま た, 波状 縁は ,突 起が 疎で 平坦 な 辺 縁 帯 で 囲 ま れ てい た. 幼 若齢 の1週で は破 骨細 胞骨 接 触面 (波 状縁 と辺 縁帯 から なる ) は 広 く , 波 状 縁 も 広 く 発 達 し て い た . こ の 時期 の波 状 縁は ,主 に指 状の 突起 から なり , そ の 配 列 は 不 整 で あ っ た . 波 状 縁 は 全 体 と して 骨基 質 に向 って 膨隆 して いた .成 熟齢 の 13遇 , 老 齢 の100週で は破 骨細 胞骨 接触 面は 小さ く, 波 状縁 の面 積も 小さ くな って いた . こ の 時 期 の 波 状 縁 の 突 起 は , 指 状 の 中 に 板 状の もの が 混在 して おり ,各 突起 の長 軸は 一 定 方 向 を 向 い て い た . ま た , 波 状 縁 の 膨 隆 は 小 さ く な っ て お り ,100遇 では 波状 縁の 中 央が 陷凹 し ,突 起の あま り発 達し てい ない 波状 縁も 観察 され た・
マ ウ ス 頭 頂 骨 で は , 頭 頂 骨 が 発 育 す る 幼 若 期 の 生 後1週 で 破 骨 細 胞 の 骨吸 収活 性が 高 く , 成 熟 期 の13週, 老齢 の100週に なる と破 骨細 胞活 性 は低 下す るこ とが 知ら れて いる .
‑ 307―
今回観察した波状縁の形態変化は,週齢により変化する破骨細胞の骨吸収活性を反映し ていると考えられる.すなわち幼弱齢では,破骨細胞は波状縁を大きく膨隆させて活発 に骨吸収を行ない,深い骨吸収窩をっくる.一方,成熟期,老齢期では波状縁はあまり 膨隆せずに浅い骨吸収窩をっくり,突起を一定の方向に配列させていると考えられる・
このように,破骨細胞はその様々な機能状態により,波状縁の広さ,波状縁を構成する 突起の形,方向性が変化していることがわかる.したがって,この新しい観察法により,
生 体 内に お け る破 骨 細胞 の 機能 状憩を, より詳し く定量的に 評価でき ると考え る.
【結諭】 1)破骨細胞の波状縁は,細胞の骨接触面において,指状突起,板状突起の 集合を形成し,これらの突起のあまりない辺縁帯に囲まれる,2)波状縁は破骨細胞の機 能状態に応じて形態を変化させIる.3)骨吸収機能活性の高い破骨細胞は,骨に接する面 積が広く,大きな波状縁を有する.波状縁は大きく隆起し骨吸収窩を形成する,波状縁 の突 起は指状 で不整に 配列する .中央部 で各突起 は疎で,突起の周囲に間隙を示す.
4)骨吸収機能活性の低い破骨細胞は,骨接触面は小さく,波状縁の面積も狭い.波状縁 は骨側にあまり膨隆せず,指状あるいは板状の突起が密集して同一方向を向いて配列す る.
―308−
学 位論文審査の要旨 主査 教授
副査 教授 副査 教授
金 田 清 志 松 田 英 彦 藤本征一郎
学 位 論 文 題 名
破 骨細胞波状縁の立体形態および加齢変化
―マウス頭頂骨における 走査電子顕微鏡的観察
研 究 目 的
近 年 骨 粗 鬆 症 を め ぐ り 、 骨 組 織 の 微 小 動 態 の 研 究 が 活 発 と な っ て い る 。 骨 の 量 は 骨 形 成 と 骨 吸 収 の バ ラ ン ス に よ り 保 た れ 、 こ の う ち 骨 吸 収 は 破 骨 細 胞 に よ っ て 行 な わ れ る 。 破 骨 細 胞 が 骨 に 接 し て 骨 吸 収 を 行 な う 部 位 は 、 細 胞 膜 が 複 雑 に 入 り 組 ん だ 構 造 を し て お り 、 波 状 縁(rufnedborder) と 呼 ば れ て い る 。 そ の 形 態 は 玻 骨 細 胞 の 骨 吸 収 機 能 に 応 じ て 変 化 す る と 考 え ら れ る が 、 こ れ ま で の 超 薄 切 片 の 観 察 でtま 波 状 縁 の 立 体 形 態 を 正 確 に 把 握 す る こ と は 困 難 で あ る 。 そ こ で 本 研 究 は 次 の 様 な 目 的 で 行 な っ た 。1) 破 骨 細 胞 波 状 縁 の 立 体 形 態 を 走 査 電 子 顕 微 鏡 で 観 察 す る 方 法 を 開 発 す る 。2) 波 状 縁 の 立 体 形 態 の 詳 細 を 解 析 す る 。3) 週 齢 に よ る 波 状 縁 の 形 態 変 化 を 明 ら か に す る 。4) 破 骨 細 胞 の 骨 吸 収 機 能 と 波 状 縁 の 立 体 形 態 の 関 連 を 変 化 す る 骨 吸 収 機 能 と 関 連 し て 解 析 す る 。
材 料 お よ び 方 法
幼 若 な 生 後1、4週 、 成 熟 期 の13週 、 老 齢 の100週 の 雌 マ ウ ス を 用 い 、 頭 頂 骨 を 摘 出 し て2% グ ル タ ル ア ル デ ヒ ド で2日 聞 固 定 し.4%EDTAで4〜5日 脱 灰 し た 。 次 い で SN−KOHで60℃ 、8分 間 処 理 し て 膠 原 線 雑 を 溶 解 除 去 し た 。 標 本 は 導 電 染 色 を ほ ど こ し 、 臨 界 点 乾 燥 後 、 骨 表 面 の 細 胞 層 を 実 体 顕 微 鏡 下 に 剥 離 し 、 そ の骨 に接 する :
丶
面を走査電子顕微鏡で観察した。
結果
1)今回開 発した方 法により 骨の基質が 除かれて 、骨表面 の細胞層を骨蜘から観 察できる ようにな り、多数 の波状縁の 立体形態 をはじめ て観察てきた。ここでtま 総計149個の 破骨細胞 を観察し た。この観 察により 、破骨細 胞骨接触面における波 状縁 の 大 きさ、形、 位置、さ らに波状 縁を構成 する突起 の詳細な 形状と配列 など 多くの新 しい情報 が得られ た。
2)波状縁tま、直径が10〜50ロmで、幅0.1〜0.3ばm6f)微小突起の集団だった。突 起は、指 状あるい は板状を 呈し、各突 起は複雑 に分岐し ていた。波状縁1ま突起の ノ
形状 、 配 列、 全 体の 膨 隆 の状 態 によ り2型 に 分類 で きた 。I型 は 突起 が方向性 を 示さ ず 、 やや 疎 に乱 立 し 、全 体 とし て 膨隆し ていた。H型の波状 縁は板状と 指状 の突 起 が 混在して、 一定の方 向性を示 して密に 配列し、 あまり膨 隆せず、平 坦な 面で囲ま れていた 。
3)生後1週 でtま、波 状縁はす べてI型であ った。成 熟期の13週、老齢の100週で は 、 主 と し てI型 で あ っ た 。 E型 の 割 合 は13週 よ り100週 で 高 か っ た 。 4) 各 週齢 ごとに破骨 細胞骨接 触面と波 状縁の面 積を計測 すると、1週の破骨細 胞の骨接 触面の面 積と波状 縁の面積は ともに、13週、100週に 比べて広かった。側 定値 は1週 では 大 き なば ら っ きを 示 した 。13週、100週では、 個体差tま 小さかっ た.
考察
走査電 子顕微鏡 による観 察でtま、観察したい細胞を試料表面に露出させる必要 がある 。ここで は破骨細 胞の波状 縁を露出 させる新 しい方法を開発し、多数の破 骨細胞 の波状縁 の立体構 造を、生 体内にあ るがまま の構造を保って観察すること に成功 した。
マ ウス頭 項骨にお ける骨吸 収の程度tま、加齢 に伴う頭頂 骨の成長 率に関連 す
る。頭蓋は、脳の発育と関連して生後早期に急速に成長し、生後4 週で渟止する。
すなわち頭蓋の成長は、脳の発育と関連して、ここでt ま生後1 週で最も活発であ り、破骨細胞も、この時期で最も活発であるとみなされる。したがって、1 週にみ ら れる
I型 は骨吸収機能が活発な像であり、これに比ベn 型は
I型より機能活性 が低い像であるとみなされる。1 週でI 型の膨隆する波状縁は、活発な骨吸収によ り形成される深い骨吸収窩に陷入し、
H型の平坦な波状縁は、浅い骨吸収窩上に 存在する像と解釈される。
破骨細胞骨接触面と波状縁は、今回の方法では全体が観察されるため、形態像 を種々の指標で定量化できる。今回の計測結果は、定量成績が骨吸収活性の程度 を表現することを示唆している。
以上の様に、本研究では、波状縁の立体形態を破骨細胞の機能状態と関連して 示した。今後、破骨細胞の様々な機能状態における波状縁の形態を分析すること に より、生体 内における 破骨細胞の 機能状態を詳しく評価できると考える。