奈良教育大学学術リポジトリNEAR
実証的研究遂行能力の育成を目指した英語科教育大 学院授業プログラムの開発
著者 伊東 治己
雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要
巻 2
ページ 87‑95
発行年 1993‑03‑31
その他のタイトル Curriculum Development for Fostering Abilities to Conduct Empirical Research among Graduate Students Majoring in English Language
Education
URL http://hdl.handle.net/10105/4460
英語科教育大学院授業プログラムの開発
伊 東 治 己 (英語科教育研究室)
Curriculum Development for Fostering Abilities to Conduct Empirical Research among Graduate Students Majoring in English Language Education
ABSTRACT: This paper reports an attempt in curriculum development at the graduate level for fostering prospective teachers abilities to conduct empirical research in the field of English language education. It specifically reports the details of one of the graduate courses for EFL majors specially designed to promote their computer literacy and their knowledge of statistical procedures in data analyses, the two most important ingredients needed in empiri‑
cal research.
KEY WORDS: empirical research, computer literacy 1.はじめに
ここ数年、教員養成系学部あるいは大学への大学院修士課程の設置が急ピッチで進められてきた。
ただ、制度面での整備が着実に進んできた反面、教員養成系学部あるいは大学における修士課程の 使命については、必ずしも十分なコンセンサスが得られていないのが現実である。我々を取り巻く 状況から判断して、従来の大学院教育に求められていた研究者養成という使命をひたすら追求する ことには多少問題があろう。かと言って、学部教育の延長として、高度な教育実践力を備えた教員 の養成という使命だけでは、物足りない。筆者は、高度な教育実践力に加えて、実証的研究遂行能 力を備えた教師の養成を教員養成系学部・大学における修士課程の使命として位置付けている。本 報告書においては、まず、実証的研究遂行能力を備えた教師の養成の必要性を論じた後、この使命 達成の一環として行われた大学院授業プログラムの開発について報告する。
2.実証的研究遂行能力養成の背景 (1)教室からの理論化の動き
柴谷(1973)は、科学の研究方法として、自然科学的認識方法に基づく要素論的研究法と直観的・
経験的認識方法に基づく全体論的研究法の二つの存在を認めている。rl)要素論的研究法は、演鐸的 で、ある種の予見に基づき、仮設を打ち立て、それを検証していく方法である。一方、全体論的研 究法は、帰納的あるいは試行錯誤的で、白紙の状態から、観察デ‑夕を基に仮設を生成していく方 法である。 Seliger&Shohamy (1989)もこの二つの科学研究方法の存在を認め、前者をhypothesis‑
testing、後者をhypothesis‑generatingとして特徴付けている。(2)我々にも馴染のある理論と実践の
伊 東 治 己
関係で言えば、要素論的研究法は「理論から実践へ」というアプローチであり、全体論的研究法は
「実践から理論へ」というアプローチと見なすことも可能であろう。
これら二つの相対する研究方法の存在を指摘した後で、柴谷は、従来の科学的訓練においては、
後者のような方法を非科学的として、頑から否定してかかる傾向があり、その結果、要素論的思考 への過信があったと指摘している。この点、日本における英語教育学も決して例外ではない。戦前・
戦後を問わず、様々な教授法や指導技術、あるいはシラバスが海外から導入されてきたが、必ずし もよい成果を挙げているとは言い難い。その原因の一つとして、要素論的研究法、つまり「理論か ら実践へ」というアプローチへの過信があったと言っても、決して過言ではないであろう。言わば 借り物の理論の現場への応用に気を取られ、実践から学ぶという姿勢が英語教育研究者の問で希薄 であったと言えるであろう。
筆者は、以前から、英語教育学の健全な発展のためには「理論から実践へ」というアプローチに 加えて、 「実践から理論‑」というアプローチも必要であると信じてきた。図1は、従来の英語敬 育学における思考経路が理論から実践へと一方通行的であったことへの反省と、理論と実践の連携 こそが英語教育学をさらに発展させるための大きな推進力になるという将来への展望に基づいて、
筆者がまとめた英語教育学の構図である。̀3'折しも、海外の言語教育研究者の問でも、研究室や実 験室からの理論化偏重への反省として、教室からの理論化の動きか急ピッチで進んでいる。教室か らの理論化の動きの中では、当然、現場教師の位置付けも大きく変化してくる。つまり、単なる̀a passive recipient in the development of theory'としてではなく、 ̀a participant in researchl つまり大学の研究者同様に英語教育学の発展に寄与し得る一人の研究者としての資質が現場教師に も問われる時代が到来したのである。(4)
英 語 教 育 学
<Cparameter>
観察者 GENERAL ABSTRACT IDEALISTIC EXPLICIT
当事者 SPECIFIC CONCRETE REALISTIC IMPLICIT APPROACH ‑‑METHOD‑‑‑ TECHNIQUE
<研究領域>
①英語教育史
②英語教育目的論
③英語学力論
④英語習得論
⑤英語教育課程論
⑥英語教育内容論
⑦英語教育方法論
⑧英語授業論
⑨英語学習評価論
⑲英語学習者論
⑪英語教師論
⑫比較英語教育論
<主要関連科学> 言語学 心理学 社会学 教育学 英語学 心理言語学 社会言語学 教育統計学
図1 理論と実践の連携を踏まえた英語教育学の構図
(2)実証的研究の必要性
よく、「ことばは音声である。だから、英語の学習も音声による聞くことと話すことから始めな ければならない」と言われる。いわゆるspeechprimacyの原理である。この原理を指導法に具体 化したのが口頭導入であり、pre‑readingperiodである。オーラル・コミュニケーション能力育成 の重要性が強く叫ばれている今日、この原理はあたかも「自明の理」のような扱いをされる傾向も 伺える"が、決して実証された教育上の真理ではない。Bazan(1964)の言葉を借りるならば、あくま で̀assumptionwithoutproofとしか言えない種類のものである。(5)あくまで個人的な見解である が、「外国語学習における母国語の使用は、百害あって一利無し」とか、「外国語学習はなるべく 早く始めた方がよい」という主張なども同類ではなかろうか。残念ながら、英語教育学の分野にお いては、まだまだこの種の「信念としての知識」(knowledgeasbelief)や「権威としての知識」
(knowledgeasauthority)が幅をきかせているのが現実である。要素論的研究法と全体論的研究 法のどちらの立場に立っにせよ、英語教育学の科学性を高めるのに必要とされるのは、言うまでも なく、具体的データに裏付けられた「実証的知識」(empiricalknowledge)であり、それを生み 出す実証的研究である16)
。考えてみれば、現場教師は教室を舞台にした実証的研究の最前線に位置
しているのである。日々繰り返される授業の日常性の中に埋没することなく、実践事例を着実に積 み上げ、その成果を整理し、評価し、理論へと高めていく努力が今強く現場教師に求められている のである。筆者は、そういう実証的研究遂行能力を備えた教師の育成が我々教員養成系大学院のス タッフに課せられた責務と考えている。
3.英語科教育特論Ⅱについて (1)授業の目的
今回、「実証的研究遂行能力の育成を目指した授業プログラムの開発」の対象になったのは、大 学院1回生前期に開設されている「英語科教育特論Ⅱ」の授業である。もちろん、本授業だけで英 語教育における実証的研究遂行能力が育成できるとは考えていない。むしろ、英語科教育カリキュ ラム全体の中で養成されていく性格のものであろう。このような認識の下、本授業の設計に当たっ ては、実証的研究法の主要な柱と筆者自身が考えている「コンピュータ・リテラシーの獲得」と
「研究データの統計学的処理法の修得」を、本授業固有の目的として設定した。
(2)授業の内容
上記2つの授業目的を達成するために、本授業を、「第1部:英語教育におけるパーソナル・コ ンピュータの利用」と「第2部:英語教育における統計学的デ‑夕処理法」に分割して、実施した。
以下、本年(1992年)度に実施した授業の概略を紹介する。なお、受講者は、英語教育専攻の大学 院1回生全員(男子4名女子3名計7名)であるQ
【第1部】英語教育におけるパーソナル・コンピュータの利用 1)コンピュータの基礎
情報化社会の進展につれてパ‑ソナル・コンピュータ(以下パソコン)が急速に普及してき たとは言え、パソコンに触るのは初めてという学生が大半を占めていたので、まず、パソコン を構成している個々の機器の簡単な説明から始めた。次に、それら‑‑ドウェアーとパソコン・
ソフトの関連や、学生にも馴染のあるワープロ専用機とパソコンの違いを説明した。ソフトの
面では、特に、MS‑DOSとFEP(Front‑endProcessor)と各種アプリケーション・ソフトと
の関連性について説明した。
伊 東 治 己
2) MS‑DOSの基礎
ファイルの概念ならびに名前の付け方、ディレクトリーの概念ならびに関連操作、ファイル の複写・削除・改称などMS‑DOSを運用していく上でどうしても必要となるファイル管理、
などを中心にMS‑DOSの基本的概念ならびに基本的機能を説明した0 3)日・英語ワープロ(VJE‑Pen)の基礎
パソコン用のワープロ・ソフトとしては、 「一太郎」を初めとして多種多様なソフトが市販 されている。本授業では、その中で、比較的操作が簡単で、処理スピードも速く、低価格で、
かつ、英文ワープロやエディターとしての機能も備えている「VJE‑Pen」を取り上げ、その 使用法を説明した。同時に、英語科では修士論文を英語で作成することが義務付けられている 関係上、 VJE‑Penを使っての英語論文の書き方や、スペルチェックの方法も説明した。
4)英文用例検索システム(PCQR)の基礎
中学校用英語教科書に含まれる言語材料をパソコンを使って簡単に検索することができるよ うに特別に開発された英文用例検索システム(PCQR)の使用法(7壕説明した。本システムで は、パソコンを使って、中学校用英語教科書に含まれる言語材料を文単位でデータ化し、その 中に含まれる英文の総数や異語数、個々の異語の出現頻度を算出するだけでなく、任意の単語
についてそれが当該教科書において使われている全用例を瞬時に検索することができるように なっている。現在、現行中学校用教科書6種すべてについて、本システムを使って用例検索が 可能である。
5)データベ‑ス・ソフト(NINJA Pro/3)の基礎
操作法が比較的簡単で機能性にも優れているカード型データベース・ソフトNINJA Pro/3 の基本的な使用法を説明した。本ソフト自体は、本学情報処理センターから各教室に配分され たものである。貝体的内容に関しては、単に住所録等の作成に留まらず、上記PCQRでの用例 検索の応用編として、中学校用英語教科書に含まれる個々の英文について、その文法的特性や 言語機能的特性など独自に設定された視点からもっと木目の細かい検索ができるように指導し た。この作業は、後で紹介する課題作成において特に必要となる作業である。
6)表計算ソフト(Lotus 1‑2‑3)の基礎
表計算ソフトとして学校現場にも広く普及しているLotus 1‑2‑3の基本的使用法を説明 した。これもNINJA Pro/3同様、本学情報処理センターから各教室に配分されたものを利 用した。異体的内容については、身近なところから、中間考査や期末考査での成績処理の方法 について指導した。その際、後で紹介する第2部の一つの柱となっている標準偏差や偏差値に ついても若干の説明を加えた。さらに、この応用編として、本ソフトを使っての英語教育にお ける実験及び調査データの処理法を指導し、課題(後述)作成へと繋げた。
7)電子辞書COED on CD)の基礎
この電子辞書は、僅か1枚のCD (Compact Disk)からなっており、その中には世界で最 も権威あると見なされている英語辞書、 OED (Oxford English Dictionary)全17巻が収めら れている。本の形の辞書では、当然のことながら、見出し語による検索しかできないが、この 電子辞書では、それ以外に、作品・作家・年代・語義など実に様々な視点からの検索が可能で
ある。このソフトを利用すれば、一昔前までは英語・英文学研究者のライフワークとして見な されていたような作業が、大学院生にも数秒の内に完成できる。隔世の感を禁じ得ない。授業 では、この電子辞書の基本的操作法を指導した。具体的には、例えば、 OEDの中に含まれる
シェ‑クスピア(Shakespeare)の作品からの用例をすべて検索し、その結果をプリント・アウ トしたり、 MS‑DOSのテキスト・ファイルに出力する方法を指導した。
なお、第1部で取り扱ったパソコン・ソフトに関しては、それぞれ分厚いマニュアルが付いている が、当然のことながら、コンピュータの門外漢にとって、それらのマニュアルは、まず無用である。
本授業では、あくまで各パソコン・ソフトの基本操作を修得することが目的であることに鑑み、各 パソコン・ソフトごとにB4用紙1枚分に集約された「使用要領」を準備した。なお、この「使用 要領」は、英語科教育研究室にて入手可能である。
【第2部】英語教育における統計学的データ処理法 1)統計処理の流れ(付録参照)
実証的研究にとって、実験・調査データの統計学的処理は欠かせない存在である。しかし、
現在の教員免許法の関係上、筆者自身も含めて多くの英語教師が、統計学に関しては門外漢同 然であるのが現状である。折角、実験や調査をして貴重なデータが集まっても、数ある統計学 的処理法のうち、どの方法を適用すべきかがわからないのである。そこで、この第2部の授業 では、まず、統計処理の基本的な流れを理解することから始めた。貝体的には、筆者自身が英 語教育の立場からまとめた「英語科教育統計処理マニュアル」 (付録参照)に即して、個々の 実験・調査の方法に即応した統計処理の在り方の概略を説明した。なお、この第2部の授業で は、 Hatch&Farhady (1982)18及び岩井・鈴木(1980)eを基本参考図書として活用した。
2)統計学の基礎概念
代表値、偏差値、分散、標準偏差、正規分布など、統計学の基礎概念を説明するとともに、
項目分析(Item Analysis)やS‑P表など実験・調査データを単体で分析するときに必要に なってくる統計処理の方法について説明した。第1部で扱ったLotus1‑2‑3も併用して、ワー クシート上での標準偏差や偏差値の算出方法を指導した。
3)相関係数
実験・調査データを比較するために英語教育の分野でもよく用いられるピアソンの相関係数 ならびにスピアマンの順位相関について説明した。その際、有意性の検定方法や相関係数の差 の検定方法についても言及した。その際、第1部でLotus1‑2‑3を使って作成した定期考査 の成績表をもとに、例えば国語の成績と英語の成績の相関係数の算出方法も実習した。 Lotus のワークシート上で「回帰分析」を実行すれば、僅か数秒で相関係数が算出される。
4)平均値の差の検定
英語教育の分野での実証的研究において最もよく利用されているのが、ここで扱う2つの平 均値の差の検定法である。授業では、この場合に利用されるZ検定、 t検定、 β検定について、
それらが適用される条件ならびに計算方法を具体的事例を紹介しながら説明した。
5)ノンパラメトリック検定
アンケート調査のように、人数や頻度の形で得られる実験・調査データを比較する場合には、
ノンパラメトリック検定が利用される。授業では、ノンパラメトリック検定の中で最も基本的 で、かつ、英語教育の分野でよく用いられるx2検定を中心に指導した。
6 )分散分析(ANOVA)
2つ以上の平均値の差を検定する場合には分散分析(ANOVA)の手法が利用される。独立
変数の数に応じて、 1元配置法(ONE‑WAY ANOVA)や2元配置法(TWO‑WAYANOVA)
などに枝分かれするが、授業では1元配置法を中心に指導した。この分散分析の手法は、第2
伊 東 治 己
言語習得や第2言語教育に関する海外の文献においてよく活用されているので、大学院生にとっ ては、十分理解しておきたい分析法である。
(3)学習ならびに授業の評価:課題提出
今回実施した「英語科教育特論Ⅲ」の成績評価ならびに授業評価の一環として、受講者に授業目 的に即応した2つの課題を課した。第1課題は、 「コンピュータ・リテラシーの育成」との関連で、
中学校用英語教科書に含まれる英語データの文単位での特徴を、コンピュータを使って分析する課 題である。分析の視点ならびに対象となる教科書については、受講者個人の選択に任された。提出 期限は、 7月上旬に設定された。以下、簡単にこの課題作成プロセスを紹介する。
1)英文用例検索システム(PCQR)に入力されている英語データを、本システムに付随している データ交換プログラムを使って、 MS‑DOSのテキスト・ファイルに変換する。
2) VJE‑Penを使って、このテキスト・ファイルに簡単な加工を施す.この作業は、この後で 利用するNINJA Pro/3のデータ変換プログラムの作動環境を整える上で必要である0 3)この加工済みテキスト・ファイルをNINJAPro/3付随のデータ変換プログラムを使って、
NINJA Pro/3用データに変換する。
4)英語デ‑夕分析の視点を決定する。
5) NINJAPro/3上で、個々の英文に対して分析の視点に呼応したタッグを付ける。
6) NINJAPro/3の検索機能を使って、各タッグごとの頻度を割り出す。
7)分析項目に合わせて、 Lotus1‑2‑3のワークシ‑卜上に表を作成し、必要な数値を入力し、
必要な計算を施す。
i) Lotusl‑2‑3のワークシートに作成された表の数値をもとに、グラフを作成する0 9)英語データの特徴をまとめ、 VJE‑Penを使って文章化し、レポートの形にまとめる。
受講生が選んだ分析の視点は、 ①発話者の年齢、国籍、性別(3名による共同研究)、 ②文型(第 1‑5文型)、 ③文の種類(単文、複文、重文)、および④修飾語句の数ならびにその文中における 位置、であった。それぞれ現在実際に使用されている中学校用英語教科書を分析の対象にしており、
いずれにおいても英語教育学的に貴重なデータが提供された。
第2の課題では、今回の授業のもう一つの柱である「研究データの統計学的処理法の修得」との 関連で、授業で紹介したいくつかのデータ処理法のうち、 2つの平均値の差の検定法を使ったミニ・
リサーチの報告書作成を求めた。提出期限は9月上旬に設定された。作業期間の大半が夏期休業に かかり、実際に中学校や高校の教育現場に赴いてデータを集めてくることが不可能なので、実証的 研究のシュミレーションとして、仮想被験者を設定し、仮想デ‑夕をもとに作業を進めることを認 めた。なお、ミニ・リサーチの報告書は、 ①導入、 ②仮設、 ③被験者、 ④調査方法、 ⑤調査結果、
および⑥考察によって、構成されるものとした。分量は、 A4用紙4枚程度とした。今回提出され たミニ・リサーチの研究題目を以下に紹介する。
1 ) Analysis of the relationship between the ability to grasp an English sentence in terms of chunks and the ability to understand or produce a sentence in English
2 ) The relationship between the ability of interpretation and composition in English and the memorization of English sentences
3)単語力と英語学力の関係に関する調査
4)複数言語話者と単一言語話者における脳機能の比較
5)基礎的な英文の暗記と英語の学力の関係についての調査
6)英文読解と英作文の学習効果の比較
ミニ・リサーチの報告書の作成に当たって、使用言語は特に指定しなかったが、上記の研究題目一 覧から分かるように、 2名の受講者が英文での報告書を提出した。その内、 1番目の受講者の報告
書は、塾に通っている中学生から得られた実際のデ‑夕に基づくものであった。
4.おわリに
以上、 「実証的研究遂行能力の育成を目指した英語科教育大学院授業プログラムの開発」という 研究テーマの下で実施された筆者のささやかな実践を紹介してきた。 「英語科教育持論Ⅱ」を今回
のような形で実施したのは、本年度が最初である。筆者の試みも緒についたばかりで、当然、改善 すべき点が多々あるものと思われる。研究報告会に参加された先生方からも貴重な助言や示唆を頂 いた。それらを糧として、さらに充実した授業の創造を目指して、研鎖を重ねて行くつもりである。
最近になって、本学の学内コンピュータ・ネットワ‑クを通じて、京都大学大型計算機センターが 保有している総合的教育関連データベースERICの検索が可能になった。この中には、教育に関し て全世界で発表された研究論文や報告書の概略が収められており、それこそ実証データの宝庫であ る。早速、来年度の授業計画に組み入れていきたいと考えている。
最後に、今回の報告で取り上げたコンピュータにしろ統計学的データ処理にしろ、それらはあく まで実証的研究を進めていく上での一つの手段にすぎないという点を確認しておきたい。いくらコ ンピュータ操作に熟練していても、また、いくら統計学的データ処理法に通じていても、最初の仮 設の設定の仕方がまずければ、満足のいく結果は得られない。 「争う余地の少ない客観的事実なる ものが提示されると、そのことが本質的にいかに重要であるか否かが忘れられがちである。そして、
その小さな係争点によって、論議の優劣が決せられることもある。そのようになると、いわゆる秀 才は、大きな仮設をたてることより、小さな実証を固めることになり易い。なぜなら、そのやり方
は安全であり、それなりの一つの業績となりうるからである.」という太田(1981)の指櫛'o'や、
"Excellent technology will not compensate for poor science. The value of empirical research ultimately depends on the quality of conceptual analysis that defines the objects of enquiry.
というWiddowson(1990)の指摘(】Uは、実証的研究の落し穴を鋭く突いており、傾聴に値する。教 育現場での実証的研究の質を高めるのは、やはり、研究者としての教師の洞察と思索であることを 改めて心に銘記しておきたい。
【引用文献】
1.柴谷篤弘『反科学論』みすず書房1973,pp.81‑E
Seliger, H. W. &Shohamy, E. , Second Language Research Methods, Oxford: Oxford University Press (OUP), 1989, p.31.
3.伊東治己「理論と実践の連携を踏まえた英語教育学論の展開」 『中部地区英語教育学会紀要』
第20号1990, pp.147‑152.
4. Stern, H.H., Fundamental Concepts of Language Teaching, Oxford: OUP, 1983, pp.
47‑67.
5. Bazan, B. M. , The danger of assumption without proof, The Modern Language
Journal, 48, 6, 1964, pp.337‑346.
(f1 4i ;台 己
6. Seliger, H.W.&Shohamy, E., ibid.の用語
7.伊東治己「パーソナル・コンピュータによる英語教科書用例検索システムの開発」 『和歌山大 学教育学部紀要(教育科学)』第38集1989, pp. 117‑127.
8. Hatch, E. &Farhady, H., Research Design and Statistics for Applied Linguistics, Rowley, Ma. : Newbury House, 1982.
9.岩井勇児・鈴木巌雄『教師のための統計法入門』福村出版, 1980.
10.太田次郎『文科の発想・理科の発想』講談社1981,p.185.
ll. Widdowson, H.G.,Aspects of Language Teaching, Oxford: OUP, 1990, p.25.