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雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

社会科における環境教育の実践に関する一考察 − 奈良公園における野外観察を通して−

著者 岩本 廣美

雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要

巻 2

ページ 23‑32

発行年 1993‑03‑31

その他のタイトル A Field Study of Environmental Education in Social Studies

URL http://hdl.handle.net/10105/4454

(2)

社会科における環境教育の 実践に関する一考察

−奈良公園における野外観察を通して−

岩 本 廣 美

(社会科教育教室)

AFieldStudyofEnvironmentalEducationinSocialStudies HiromiIWAMOTO

(DepartmentofSocialStudies)

要旨:社会科教育において環境教育を実践する場合の、目標の設定の仕方や具体的視点・方法につ いて、異体的事例を通して考察した。事例として取り上げた奈良公園における野外観察とは、

筆者自身の大学における授業(初等教科教育法・社会)での学生の取り組みのことを指して いるが、その背後ではあるいは前提としては、小学校における児童の取り組みを想定したも のでもある。

Keywords:EnvironmentalEducation,FieldWork

l.問題の所在

地球環境問題への関心の高まりとともに、昨今、環境教育の重要性がますます認識されるように なってきた。文部省が『環境教育指導資料』(中学校・高等学校編、1991年)、同(小学校編、1992 年)を発行し、啓蒙に努めているのもそうした表れのひとっといえよう。その小学校編には、小学 校における環境教育のねらいの3つのうちのひとつとして、「身近な問題を重視すること」と示さ れている。このことは以前から指摘されてきたことであるが、社会科におけるその具体的視点や方 法については、必ずしも一般化されていないのが現状であろう。そこで、本稿では、奈良教育大学

(以下本学とする)における筆者自身の授業実践例(初等教科教育法・社会)を通して、この問題 について若干の考察を試みたい。

「身近な地域」にはさまざまな意味があるが、本稿では、本学から徒歩で容易に到達できる範囲 内にあるという意味で、奈良公園を取り上げた。

2.奈良公園における野外観察 1)奈良公園及び周辺の水系の概観

東大寺・興福寺・若草山・飛火野等を含み、約5.3平方キロメートルの面積を有する名勝奈良公 園は、大勢の観光客や修学旅行生が訪れるところであると同時に、本学の学生にとっては「身近な 地域」であるともいえよう。

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岩 本 贋 美

図1によると、奈良公園内を流れる川は人工的な水路も含めて、概ね東から西の方向に流れてい ることがわかる。また、公園内の随所に湧き水や湿地が見られる。これらの中で、飛火野の南側の 斜面で常時水が惨み出していること等は、気を付けて見ればバスの車窓からも容易に観察すること ができる。

このような奈良公園は、大部分の本学学生が、一度ならず足を踏み入れているところであり、ま た、相当数の学生にとっては、通学のためのバスの車窓から毎日のように目にする景観でもある。

生活科や理科等の授業(初等教科教育法または教科専門)の一環で訪れている学生も多い。しかし、

観光客や修学旅行生はもとより本学の学生のほとんどは、奈良公園内の池・水路・川といった水系 には全く関心をもっていないといってよい。もちろん、猿沢の池・荒池・鷺池・雪消えの沢の池

(ゆきげのさわのいけ)・津越川といった池や川の存在に気付いている学生は多いであろうが、とく に問題意識を持って調べた学生等を除けば、それらの池や川を周囲の自然環境との関連で捉えてい る学生はいないといってよいであろう。奈良公園を野外観察の場所あるいは対象として取り上げた のは、こうした学生の実態を考慮したためであり、授業を通して少しでもこれを改善したいと考え たためである。

2)野外観察の実施状況

奈良公園での学生の野外観察は、筆者の担当する初等教科教育法・社会(半期、2単位)の授業 の一部分として実施した。平成4年度前期に開講したこの授業の受講者は、3回生を主体とする183

0       300m      凡  一一一 ‥ 河川・水路 ●    井戸

ト−」    例 ◎  混地.湧畑

図1 奈良公園付近の水文環境の概観(吉越、1990)

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社会科における環境教育の実践に関する一考察

図2 野外観察のルートと観察地点(1/2500の国土基本図を用いた)

名であった。これを2つに分けて、月曜日(1・2限)の104名、火曜日(7・8限)の79名が実 際の受講者数である。

両方の授業ともに、14コマ分の授業のうちの2コマを「地域素材の教材化」というテーマで展開 する計画にした。ひとっは「奈良公園内の水の観察」というサブテーマにし、もうひとつは「奈良 市内の農家を訪ねて」というサブテーマにしたが、いずれも野外観察に取り組むものであり、観察 場所は本学から徒歩で容易に到達できるところである点で共通している。大学から最寄りのところ を選んだのは、授業時間の90分以内で実施できるという便宜的理由にもよるが、むしろ身近であれ ばあるほど、学生が日頃見落としていることを取り上げることの効果が高いのではないかと考えた

1)

ためである。

筆者の意図としては、学生にはどちらの野外観察にも参加させたかったが、野外での引率指導に は上述の人数は不適当であるため、やむを得ず、学生には2コマのうちの少なくともひとつには参 加することを義務づけた。結果としては、月曜日には104名中の58名が、火曜日には79名車の53名 が参加し、合計して半分強の学生が「奈良公園内の水の観察」に取り組むことになった。奈良公園2)

での野外観察を実施した日付・時間帯・天候は以下のとおりである。

・1992年5月11日(月),AM9:15〜10:15、晴天

〝 12日(火),PM2:55〜3:55、晴天

いずれの目も、学生には現地集合・解散させ、その間の約60分で学生は筆者の案内に従って徒歩 で移動しながら観察を行った。予定していた観察地点では学生を集めて、筆者が観察する事象や視 点を解説したうえで観察を促した。

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岩 本 廣 美

なお、学生には、野外観察の内容を後日レポートにまとめて提出することが義務づけられており、

そのことは事前に知らせておくとともに、レポート作成の要領も予め提示しておいた。

3)観察ルート・地点と観察内容

野外観察の当[=こ、学生には図2の内容のルートマップ(B4判に印刷したもの)を配布し、野 外観察及びレポート作成のための便宜を図った。次に、図2の記号で示した地点ごとに観察した内 容やそれらを取り上げた意図等について、概略を記す。

Ⅹ:雪消えの沢の池の北側に学生を集合させた。この池の東の隅付近では、渇水期を除いては 絶えず水が湧き出しており、この池の水の供給源になっている。湧き出している分と同量 の水が池の西の隅から流れ出していることもここでは観察できる。こうした一連の事実に 学生が全く気付いていないと予想していたため、この地点では湧出地点と流出地点の両方 を観察させるとともに、湧出地点では水に手をっけてみることを促した。地下水が湧き出 しているために、当日の気温に比べてかなり冷んやり感じられる。このように雪消えの沢 の池を取り上げたのは、この池が外見と異なり、水の供給源だけを見ればきわめて清浄な ものだからである。

1:この地点は、飛火野の中では最も高い尾根にあたる部分である。この尾根筋には、書城川・

春日大社・万葉の池方面からの人口水路が流れているのを見ることができる。この水路の

3)

水はやがて猿沢の池に達するが、こうした一連の事実をここでは指摘して関心を促した。

2:このあたりでは絶えず水が渉み出していて、飛火野の南斜面一体が湿地状になっている。

したがって、この斜面の状態を「足」で感じ取らせようとした。また、この水がⅩで見た 湧き水と同じように地下水の湧き出たものであることをここでは指摘した。

3:2で見た、渉み出した水のうち斜面を流れていったものがここで集まり、わずかながら水 流になっているのを見ることができる。ただし、渇水期には流れが枯れることがある一方

で、降雨時やそのあとには斜面を流れた水がここに集まって、増水する。なお、ここでは 小規模であるが、地形の一部分が侵食されて段差ができ、約1メートルほどの滝ができて

いるようすも観察できる。

4:3で見た流れは、ここで津越川に合流する。ここでは、南の方向から人工的な水路の水が 流れ込んでいて、この水には未処理の家庭排水も含まれていることを指摘し、観察の注意

を促した。ここで初めて、今回の野外観察のポイントが川の汚れという事実であることを 喚起し、この先、津越川の上流に沿ってその実態を見ていくことを予告した。なお、津越 川の沿岸は概ね竹林・森林・草地で占められており、また、川の水そのものも外見上はき

れいである。

5:この地点では、津越川を挟んだ対岸に、直接下水管の水っまり家庭排水が流れ込んでいる のが観察できる。下水管の一部分は地表にむき出しになっており、また、その周辺はヘド ロが堆積していることも容易に見ることができる。

6:この地点でも、家庭排水が川に流れ込んでいるのが観察できる。

7:この地点では、汚水ではなく、川の対岸の崖から湧き水が潜み出しているのが観察できる。

惨み出した水は、小量だが津越川に流れ込んでいる。4、5、6で見た汚水とは全く対照 的である。

8:ここでも、また家庭排水が見られる。この地点から先は川の沿岸の地形が急峻になるため、

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社会科における環境教育の実践に関する一考察

川に沿って進むことができない。ここからYまでは市街地へいったん出て迂回することに なる。その途中に家庭排水を出している当該の家屋を確認することができる。

Y:ここでは、川に農業用水の余りと思われる水の流れ込んでいるのが見れる。ここで学生を 解散させた。なお、ここが川の源流に近いことを指摘した。

3.野外観察への学生の反応

1)奈良公園での野外観察自体への反応

Ⅹ、1から8、Yまで終始、参加した学生の口からは次々に驚きの声があがる等、野外観察自体 への学生の反応はきわめて良好であった。しかし、このような記述では全く主観的になるため後日 に学生の提出したレポートの内容を取り上げながら、学生の反応傾向をまとめておきたい。

学生には前述のように、レポートの作成要領を予め示しておいたが、それはレポートの構成の仕 方すなわち項目の立て方、レポート作成上の注意(字数や原稿用紙の使い方などについて)、レポー

トの提出期日と提出先、評価のポイントを列挙したものである。これらのうち「レポートの項目」

として、①.観察目時②.観察した内容や事実③.考察(社会科学習との関連を中心に)④.その 他(感想、自分で調べたことなど)の4項目を挙げた。大部分の学生はこの項目に従ってレポート を作成していた。

提出されたレポートを、本稿のテーマでもある筆者の授業の意図から見て、3つのランクに分類 してみた。すなわち、授業の意図がかなり反映しているもの(Aランクとする)、授業の意図があ る程度反映されているもの(Bランク)、授業の意図があまりまたはほとんど反映されていないも の(Cランク)の3つの段階である。AとB、BとCの区別はレポートを読んで評価する筆者の判

4)

断によるため、多分に窓意的にならざるを得ないが、それぞれの人数は次のようになった。

A…………23名   レポート末提出者……2名

B…………69名

C…………17名   合計………111名

以下にAランクのものの実例を2点紹介する。レポートの内容のうち、項目の①と②はすでに述 べたことと重複するので、③と④の部分のみを取り上げる。

(諺 考察

「水」というものは人間だけでなく、あらゆる生物にとって必要不可欠な生命の源である。

我々の生活も、動植物の生活も「水」を基にして成り立っている。そこで「水」の大切さを知 ることを大事にしたい。

この水の流れと下水についての学習では、実際に地図を持って歩くという「地図の学習」と

「水と人間生活」の二つの柱としていくべきであると考える。そこに加えて水というものと生 態系、生物学的分野及び環境問題という点からも理解を深めていきたい。対象学年としては、

自分の住む地域の地図を使い、比較等を行うこと、地域社会のことを学習することであるから 小学校4年生が適当であると患われる。

「地図の学習」としては、まず地図を見てどのような場所かを理解する。そのうえで、現地 へ赴き、確認をする(主に、地図のかき方について)。そしてこの場合、水の流れを追うこと によって自分の地図上の位置を知ることを理解させると同時に、地図との相違にも気付かせる

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岩 本 廣 美

とよいと思われる。

「水と人間生活」としては、家または学校で水を何に使うか、使った水はどうなるかという 導入をもって関心をひき、近所を調べてその排水のいきっく行方を迫って川まで行って見るべ きだろう。さらに上水道、下水道、生活排水のことを学んで下水処理場への見学をするのがよ いと思われる。川と生活排水の現状を知り、下水がいかに汚いかを知り、美しい水に対する大 変さを感じ取って考えてほしい。

次に理科的要素として「川の流れ(4年生)」を学んでこの授業へつなげ、生物のこと、水 質の比較も行って総合的な内容にもできればよいと思う。

最後に一般的な生活のこととして、ゴミの問題、水の大切さを知って実生活の中に生かせる ことができれば十分に意義のある学習となるだろう。

以上のように、地域社会の生活を地図学習とからめて学んでいき、その過程で理科の学習や 遺徳的なこと(または環境問題も含めて)と合わせて総合的な学習として理解を深めて行くこ

とがよいと思う。

④ 調べたこと、感想

下水道のことから日本の公共下水道普及率を調べた。全国平均42パーセント、奈良県では31 パーセントと低い。世界の先進国の中では非常に立ち遅れている。

下水については、インダス文明モヘンジョダロに始まるが、近代的なものは産業革命後のイ ギリスからである。日本では明治、下水処理は大正からである。しかし、下水処理は本来人間 の衛生上のためにできたものである。自然ということは後にでてきたのである。自然環境に対 する処置はまだ不十分である。

感想−日頃なにげなく見ている小川ですらいまだ未完成の人間生活のツケが回っていると 感じた。下水について見て昔、下水処理場を見学したことを思い出した。こういうことを別世 界のように考えないで身近な問題としてとらえられる授業にできればよいと恩った。

③ 考察

自然がいっぱいの奈良公園を流れる川が、一見きれいに見えるのに、実は、下水が流れ込み 汚れていたということについて、どうしてそういうことになったかを考えていく授業にする。

学年は第4学年に下水道について学ぶ項目があるので、その教材として適切だと思う。小学校 学習指導要領の目標(1)において記されている「地域社会における人々の健康や安全を守るため の諸活動を理解し、地域社会の成員として地域社会の発展を育てる」ということについて学習 する。

まず導入として、児童を奈良公園に連れていき、湧き水を観察させる。山からきれいな水が 湧き出ているのを知らせた後、水が泡立っているところに注意を促し、なぜ泡立っているのか を考えさせる。そして、川が汚れる原因になっているところを、子どもたち自身に発見させる。

そうすることによって、美しいはずの川が汚れる原因を調べようとする意欲をわかせ、さらに は、下水道全体についての認識を高めていくようにすることが大切だと恩う。班ごとに分かれ て、下水道ができるまでの生活はどのようになっているのか、等を調べて発表しあう。そして、

最初に観察した、奈良公園の川の水、また、地域の川の水を美しくするには、どうしなければ ならないかを考え、話し合う。そうすることによって、地域社会の健康を守る諸活動を理解し、

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社会科における環境教育の実践に関する一考察

地域社会の発展を願う態度を育てることができると思う。ここで大切なことは、子どもたちが、

自分たち自身で調べることだと思う。それが、子どもたちの身につくようにする最良の方法だ と思う。また、普段なにげなく接している身近な場所にも、いろいろと改善されなければなら ない点があるということを気付かせることも大切だと思う。

④ 感想

美しい自然が残っていると思っていた飛火野、春日野にも、下水が流れ込んでいるのを知り、

驚いたし残念に思った。早く下水道を完備するべきだと思う。子どもたちにも、地域の人達に も、このことを知ってほしいと思う。また、教材となるべき題材・問題点は、ほんの身近なと ころにあり、少し注意深く、または視点を変えて見れば、たくさん存在するということを感じ た。身近にある良い教材を探し出し、授業に活用することは、難しいけれど、大切なことだと 患う。今回の奈良公園の水に関する事柄は、身近にあり皆が美しいと思っていた水が実は下水

によって汚されていたという驚きが、調べてみようという意欲につながる良い教材だと恩った。

2)野外観察への学生の自主的取り組み

学生の中には、授業での野外観察のほかに自分で場所や時間を設定し、自主的な野外観察に取り 組んでいる者があった。また、レポートの内容を充実させるために、授業で回った観察ルートに沿っ てもう一度回りながら観察ポイントの写真撮影を行い、レポートに添付するとともに解説に役立て ている者もあった。それらの写真については、筆者の授業の意図が概ね反映されていた。下に示し た写真はその一例である。

写真 学生の撮影した雪消えの沢の池 学生が自主的に選んだ観察場所及び内容は次のとおりである。

A.学内の「マンホール調べ」       B.高畑町付近の下水について C.飛火野から猿沢の池までの流路について D.猿沢の池の水について

E.率川(いさがわ)の流路について    F.蛙股池(あやめ池方面)の汚染とその背景

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岩 本 廣 美

G.大測地(学園前方面)の汚染と背景

Aは本学構内における水に関する諸事象を調べたもので、奈良公園よりもさらに「身近」なとこ ろに目を向けたものといえよう。Bは授業で観察したことの延長になるが、C、D、Eも水系とし て見れば、授業で観察したことの延長に当たる。しかし、FとGは、内容的には確かに授業の内容 の延長に当たるが、観察した場所は自分で独自に選択している点で注目される。FとGのそれぞれ の場所は、いずれも当該の学生の自宅付近に当たるので、奈良公園とは別の意味で「身近な地域」

になる。その意味では、筆者が授業で意図したことが発展した内容ということになろう。

4.社会科における環境教育の可能性 1)地域素材としての水の教材化

奈良公園における野外観察の対象として、今回は水に関する諸事象を取り上げた。それには次の ようないくつかの理由がある。

5)

まず第一に、水のもつ総合的性格に着目したためである。新見(1988)によれば、水は自然界と 社会の間を絶えず循環しているもので、したがって、水を教材として取り上げることにより地域イ メージの深化及び自然環境と人間の関係の総合的理解が容易になるという。筆者も、基本的にこの

6)

視点を支持するものであり、拙稿(1989)においても、水をあくまでも自然界にひとつの事象と捉 え、その視点は一貫させていくと述べたことがある。社会科における環境教育のための教材として 水を取り上げる場合も、この視点を貫いていくべきであると筆者は考えている。そうしてこそ、環 境教育の可能性はより広がっていくと思われる。

第二点目の問題として、すでに述べた「水の総合的性格」とも関連することであるが、水は単に 社会科の教材であるに止まらず、理科や家庭科など他の諸教科と共有できる教材である。このこと は、先に叡り上げた学生のレポートの実例1でも指摘されていることで、言い換えれば、水は合科

7)

的指導を十分に可能ならしめる教材であるといえよう。これに関しては、すでに拙稿(1986)でも

「水のように自然的事象を取り扱う際には、理科との合科的指導をむしろ積極的に進めてよいであ ろう」と述べているとおりである。

第三点目として、水のもつ普遍的性格に着目したためである。すなわち、水は人間の生活すると ころであれば、地球上のどこにでも必ず身近に存在するものである。というより、人間は水の得ら れるところに生活しているのである。もちろん、日常生活における水の得方は、水道による場合や 井戸による場合などさまざまである。しかし、水であることには変わりはない。また、人間が水を 使えば、必ず汚れた水が発生する。したがって、人間の生活しているところでは、きれいな水と汚 い水の両方が必ず見れることになる。環境教育の可能性を一般化させていくうえで水は最も有力な 教材であるといえよう。ただ、それぞれの地域のもっ性格には差(地域差)があるため、そうはいっ ても、水の取り上げ方すなわち教材化の仕方にはそれぞれの地域で工夫を要することはいうまでも あるまい。その意味では、奈良公園は比較的限られた範囲内で、きれいな水と汚い水の両方を容易 に観察できる点で格好の場所であるといえる。

ところで、現行の学習指導要領による限りでは、レポートの実例2でも指摘されていたことであ るが、社会科で水を取り上げる場合は、小学校4学年が最も適当であると思われる。上水道や下水 道に関する学習をすることになっているためである。しかし、これはあくまでも一例であって、ほ かの学年で取り上げても、環境教育の目標を達成しようとするのであれば、何ら差し支えない。む

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社会科における環境教育の実践に関する一考察

しろ、それぞれの地域の実情に応じて、取り上げ易い学年あるいは単元で扱うことが望ましい。

2)観察の方法について

奈良公園での観察においては、筆者は観察の方法としてひとっの考え方に基づいて実践している。

それは、観察するルート及び観察地点の設定の仕方である。今回の観察では、図2の4番から8番 までが中心的内容に関連するものであるが、これらはすべて津越川に沿った観察地点である。拙稿

8)

(1992)において、野外観察においては「1本の道路に沿って」観察していくことが効果的である と述べたが、ここでは、通路ではなく川を1本の線として意識して利用した。1本の線に沿って観 察地点を設定することによって、個々の観察地点における観察内容を関連づけて捉えることが容易 になるためである。ことさらに線を意識しなくとも、地図を用いればよいではないかとの意見もあ ろうが、むしろ、やはり1本の線に沿って観察し、さらに地図で絶えず定着を図っていくようにし たい。

今回の観察範囲では、1番から4番までは草地(飛火野)の中であったため、個々の観察地点相 互の関連は比較的捉え易いが、4番から8番までは周囲が森林や竹林に覆われているため、ややも すると移動中に方向感覚を失いやすく、したがって、個々の観察地点の位置的関連が捉えにくい。

このことは学生であってもあてはまることであり、小学生に対する指導であれば、なおのこと配慮 するべきことがらであろう。

なお、ここでいう観察の方法とは、特別な道具等を使用することではなく、自らの足で移動しな がら自らの目で観察することを指している。最も素朴な形態の観察ということになるが、最も基本 的観察の方法である。

3)「身近な地域」における野外観察の意義

環境教育を進めるうえでは、「身近な地域」の素材をできる限り活用していくことが大切である

9)

と、すでに佐島(1986)などによって指摘されている。環境教育はややもすると観念論に終わりか ねない危険性をはらんでいるだけに、筆者も、とりわけ「身近な地域」における野外観察を重視し たい。一般に「身近な地域」における学習によって得られた知識やものの見方・考え方は、他地域 の事象を学習するうえでの具体的な目安になり得るからである。すなわち、環境教育の場合、他地 域における環境問題ひいては地球規模の問題をも取り扱う必要があるが、それらへの理解・認識の ためには、判断材料あるいは推察の手掛かりとして、「身近な地域」における環境問題が有効であ ると考えられる。その場合、子どもの発達段階に合わせて、社会科としての目標・内容・方法を盛 り込んでいくことが大切であるのは、言うまでもない事である。

社会科においても、望ましい自然観(環境観)を育成していくことが重要であると、筆者は考え ているが、そのためには「身近な地域」における野外観察が不可欠であると患われる。自然観は、

自然に対して絶えず意識的に目を向けていってこそ養われるものだからである。およそ、あらゆる 社会事象や自然事象は複雑に絡み合ったものであり、環境問題はその絡み合った中で起こるもので あろう。しかし環境教育においては、まず野外観察を通して自然界に起こっている事実としての環 境問題を捉えることが重要ではないか。その繰り返し及び努力が、やがては子どもの心の中に確か な自然観を形成することに結びつくと恩われる。こうした営みが、環境教育の可能性を高めていく うえでの、地味ではあるが近道であると筆者は考えている。

5.おわリに

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岩 本 廣 芙

本稿は、テーマについて常日頃考えてきたことを、奈良公園での野外観察に材料を借りて述べた ものである。奈良公園は、本学に着任して間もない筆者にとっては必ずしもなじみの深いフィール ドではない。しかし、それだけに奈良公園で目にすることのできるさまざまな事象はどれも新鮮に 写ったことも確かである。その新鮮な感動が、授業の中に奈良公園における野外観察を取り入れよ

うとした動機になった。

本稿は、また、本学における筆者の授業実践の一端を紹介したものでもある。授業の質という点 ではまことに心許ないものであるかもしれないが、本稿で述べたようなごく基本的な野外観察が、

大学においては意外におろそかにされているのではないかと思われ、敢えて紹介した次第である。

その意味で、本稿が野外観察あるいはフィールドワークに関心のある方々に何らかの参考にでもな ればと恩う。

ただ、今回(平成4年度)の授業では、奈良公園における野外観察がその後の教室での講義の展 開に十分に生かされたかについては疑問が残る。この点は今後の課題として、本学における自身の 授業改善にさらに努めていきたい。

〔付記〕

本稿の骨子は、愛知教育大学における1992年度の日本社会科教育学会・全国社会科教育学会合同 研究大会で口頭発表した。

奈良公国の水系に関する資料の収集については、奈良市役所の河川課及び下水道管理課の方々に 大変お世話になった。また、奈良大学の吉越昭久先生には貴重な文献をご提供いただいた。以上の 方々にこの場を借りて御礼申し上げたい。

注及び文献

1)岩本贋美「小学生の東京探険と野外調査の指導」、『地理』31巻1号、古今書院、1986年 2)農家見学では先方の都合等を考慮したために、授業時間内に実施しないで、1992年5月9日田

の午前9時から10時までの時間帯で、2クラス分合同で実施した。こちらの内容については、本 稿のテーマと直接関わりがないため、とくに触れないことにした。

3)吉越昭久、「春日大社境内の水文環境」、『史跡春日大社境内地実態調査報告及び修景整備基本 構想策定報告書』、(財)春日顕彰会、1990年

4)ただし、単位を出すにあたっては、レポート以外の資料も用いて総合的に評価した。

5)新見治、「自然地理教育の課題と授業改善の試み」、『地理』33巻5号、古今書院、1988年 6)岩本廣美『フィールドで伸びる子どもたち』日本書籍、1989年

7)岩本廣美、「水に対する子どもの関心と地理学習」、『地理』31巻12号古今書院、1986年 8)岩本腐美、「路上観察法に学ぶ」、『社会科教育』、361号、明治図書、1992年

9)佐島群巳「社会科と 環境教育 」、『東京学芸大学紀要・社会科学・第3部門』38号1986年

参照

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