博士論文審査報告書
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(2) 今日、出版や放送、インターネット等の多様なメディアが編棒し、新たな情報配信サ ービスが更に拡大し、加速している。このようなメディアの変化に伴い、主メディアと しての出版事業においても出版社や書店販売を主とした形態から、購読者を主体とした オンデマンド出版(POD:Publishing On Demand)へと移行しつつある。 出版事業は、1980年代以降のDTP(Desk Top Publishing)の普及に伴い、特に編集やデ ザイン制作の工程においては、コンピュータの浸透は目覚ましい状況にある。DTPの普及 時から、多様な編集、画像処理等のソフトウェアや環境毎に異なる使用書体(Font)等の 課題があり、これらの分野は必ずしも統合された状況にはない。その結果、出版から配 本に至る工程は益々細分化され、省力化とコスト削減はかろうじて実現はしているが、 反面、各々の制作段階は多分に閉鎖性を残している。また、編集デザインは各々の制作 環境におけるアプリケーション等の性質に大きく左右され、依然として編集者やデザイ ナーの各々のセンス等に依存している状況にあり、必ずしも活版印刷、写真植字期の書 籍デザインや編集の品質を超えるものとは成り得ていない。今日、出版事業は制作コス トに見合った販売部数や販路拡張の術を見出し得ず、低迷の一途にある。このような状 況から、オンデマンド出版に寄せる期待は大きい。 本論文は、オンデマンド出版における購読者のニーズに即した弾力的な制作フローと その管理、制作工程の簡素化と各工程の連係による制作期間の短縮、および制作環境自 体のコスト削減を課題として、遠隔協同作業環境の実現とデザインナレッジベースの構 築とその応用によるオンデマンド出版等の新たなメディアの可能性を示す研究である。 以下、各章毎の概要とその評価を述べる。 第1章では、出版事業に関わる編集やデザインの熟練者(Expert)のいわゆる暗黙的な熟 練知を形式化する事、およびこれらの体系を編む事の両義から、これらをナレッジベー ス(Knowledge Base)と定義し、編集やデザインの場における情報共有や一貫した制作フ ローの形成やその管理としてのナレッジマネージメントを本研究の主たる柱としている。 第2章では、従来のDTP(DeskTopPublishing)による出版デザイニングの発展過程と その状況を検証し、その課題を明らかにしている。電算組版システム(CTS:Computerized TypesettingSystem)から35年余り、コンピュータによるDTPが登場した1985年からは20 年余り経過しているが、これらのいわゆる電子出版の第一期から第二期のe_Book等の電 子出版(ElectronicPublishing)の発展、そして第三期としてのインタrネットを介した. ・1・.
(3) オンライン出版への移行を予測し、オンラインのプラットホームでの知識共有を基盤と した電子出版デザイニング(CAP:Computer Aided Publishing)を提案している。 第3章では、知識共有の環境と制作フローの一括管理を協同出版デザイニングと名付け て、まず従来の出版デザイニングと電子出版デザイニングの差違を取り上げ、出版事業 と購読者の関係を検証し、電子出版デザイニングでは購読者のメディアへの介在やその 噂好が更に反映される事について述べている。これらの検証は、従来の出版事業がいわ ゆる著作事業や著作物販売から、いわゆるパブリックドメインやオープンリソースとし て、メディアとその受容者の関係が大きく変化する兆しについて示唆している。 第4章では、編集やデザインに関わる熟練者の編集作業やデザイニングの過程や知識の 形式化にSECIモデル、データマイニング法を用いた知識発見、コンテンツのパターン化 に関してゲシュタルト心理学派の理論を応用し、形式知による顕在化を図っている。デ ザインナレッジベース構築においては、造形原理による表現の数量化、デザイン知識の 類型化、グリッドシステム等のデザイン理論に基づく表現の定型化を試みて、これらの 再現性について検証している。更に恥bベースの協同出版デザインシステム(Publishing DesignSystem)を設けて、既存のDTPシステムとの処理時間の比較実験、デザインナレッ ジベースの利用と協同作業場としての有用性に関する評価実験を行い、本システムがデ ザイン制作の経費節減や省力化、作業工程の削減に寄与している事を実証している。本 システムの運用により、出版制作においては熟練者の知識を活用しながら遠隔にある制 作者間の共同作業を可能とし、関係を保ちながら当初の企画コンセプトを維持した統合 的な出版デザインの実現が期待される。一般に美術やデザインにおける一連の制作やそ の表現技法は、長期の修練による暗黙的な知識獲得と看倣されており、これらの形式化 を試みた事は、本研究の主たる成果であり、かつ独創的である。 第5章では、本システムの利用による速やかな情報配信、制作工程の簡素化と制作期間 の短縮化、またデザインのナレッジベースの利用によるデザイナーや編集者の単純作業 からの解放、編集デザインに関する技能や知識を持ち得ない購読者個人による出版等の 新たなオンデマンド出版の解決項について示唆している。また本システムの実現と運用 は、コンテンツのデジタルデータ管理や利用を促し、現在の出版以後の保管や再販の経 費高等の理由により生じる絶版書籍等の再生を可能ならしめる事やオンデマンド出版の 将来をも展望している。. ・2・.
(4) 第6章では、結論としてオンデマンド出版の今後を予測すると共に、出版事業の著作事 業、および出版代行から、新たな出版形態に関する知的財産権マネジメントに言及し、 ナレッジベースによる知識共有やその公開、実用化の可能性について総括している。 本論文の新規性は、いわゆるエキスパートシステムとしてのナレッジベースによる出 版社と購読者の相互の知識共有の在り方について捉起し、パーソナルコンピュータによ る閉鎖的な利用環境から、ネットワークを介した購読者の利用にまで裾野を拡げた、イ ンタラクティブな通信利用の協同出版デザインシステムの提案、およびグリッドシステ ムに基づいた造形表現とそのエレメントの定量化を試み、実証している点にある。 以上、要するに本論文は、既存の出版分野において容易に解決し得ない制作フローの 一括管理やその工程情報の統合化の方法としてナレッジベースによるコンテンツ管理を 切り口として、購読者の噂好までを汲み取るオンデマンド出版の将来とその可能性につ いて展望を示した先駆的な研究である。特に編集や知識創造支援が、造形表現の類型化 にある事、これらが熟練者の暗黙知から形式知への表出化の過程において存在する事を 見抜き、これらを実証している点、またこれらの著作権、著作物頒布権までの許容範囲 をも考慮し、実際のインターネットを介した運用面までの知見を示している点は、国際 情報通信学の発展に寄与するところ極めて大きい。よって、本論文は博士(国際情報通 信学)の学位を授与するに値するものと認める。. 2005年. 8月24日. 審査員: 主任. 早稲田大学教授 美術博士(東京芸術大学). 長 幾朗. 早稲田大学教授 工学博士(早稲田大学). 山崎 芳男. 早稲田大学教授 博士(工学)(豊橋技術科学大学). 三友 仁志. 早稲田大学助教授 博士(人間科学)(早稲田大学). 河合 隆史. 早稲田大学客員教授. 森 康晃. ・3・.
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