博 士 ( 工 学 ) 主 藤 祐 功
学 位 論 文 題 名
バ イ オ ガ ス を 原 料 と した 水素 と 芳 香 族 化 合 物 の 製 造 シ ス テ ム の 開 発
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近年、温室効果ガスに起因する地球温暖化、化石資源の枯渇、価格高騰による原燃料の供給不安 の3つの深 刻次問題があり、それらを解決するために再生可能教未利用資源であるバイオマスが期 待されている。バイオマスは熱源のみをらず、化学原料に顔る可能性があるにも関わらず、現在、
バイオマス発酵時に発生するバイオガスの利用は発電や熱供給を目的とした燃焼に限られており、
効率良く再生活用されているとは言い難い。そこで本研究では、バイオガスの新しい活用方法の開 発を目的として、バイオガスからの水素と芳香族化合物の製造、付随する設備として水素貯蔵・供 給システムの開発、および排熱利用型冷却装置用水素吸蔵合金の開発を実施した。最後に実験的成 果 に基づき 、乳牛糞尿100トン/日処理プラントを設計した。本論文はそれら成果を纏めたもので あり、以下の7章から構成される。
第1章では、本研究の背景として再生可能教国産エネルギー資源であるバイオガスの賦存量、利 用法、問題点を紹介し、本研究の目的、意義およびその構成を述べた。
第2章では、メタンの脱水素芳香族化反応により工業的に水素とべンゼンを同時製造する技術の 実 用化を目 的とし て、Mo/ZSM‑5ベレット触媒の開発を行い、水素、ベンゼンおよび副生炭化水素 の 生成特性 を評価 した結 果、73%の べンゼ ン選択 率、SV変 化に対する高い安定性と耐コーキング 性 能を示し た。また、耐久性試験では水素添加率9vol%時に水素とべンゼンの生成速度が低下した ので、定期的に純水素再生した。その結果、ベンゼンと水素の生成速度はそれぞれ1500nmoトC/g/sヽ 2400nmol/g/sを 維 持 し 長 時 間 安 定 運 転 が 可 能 と 叔 り 、 実 用 化 の 可 能 性 を 見 出 し た 。 第3章では 、200Nm3/日 規模のバ イオガ スから 水素と べンゼ ンを同 時製造 する実証プラントシ ス テムの物 質収支 、エネ ルギー 需要、 エクセ ルギー 損失、およびC02排出量を評価した。その結 果 、入カエ クセル ギーの21%が水 素とべ ンゼン に変換 され、79%がェクセルギー損失となった。
ま た、エク セルギ ー損失 の内訳 は脱水 素芳香 族化反 応器が最大で全体の47%を占めた。一方、プ ラ ント稼動 に必要 を電カ はバイ オガス 発電に より供 給したのでC02排出量はゼロとをり、温室効 果ガスの排出抑制に貢献するシステムであることを確認した。
第4章では、有機ハイドライドを利用した水素貯蔵・供給システムの開発を目的としてメチルシ ク ロヘキサ ン(以 下、MCH)に着目し、実用規模のスプレーパルス反応器とPt担持活性炭織布触媒 を 用 い て、MCH脱 水 素に よ る 水 素お よび トルエ ン(以 下、TOL)生 成特性 と、TOL水 素化に よる MCH生 成 特性 を 評 価 した 。MCH脱 水素 反 応 で は598Kで最 大 の 転 化率 と 水 素 発生 速 度 を示 した が 、副生ベ ンゼン の生成 が顕著 であっ た。ま た、TOL水 素化反応では523Kで最大の転化率と水素 貯 蔵 速 度を 示 し た 。MCH脱 水 素 反応 とTOL水 素化反 応のア レニウ スプロ ットよ り求め た活性化
ー 61ー
エ ネルギ ーは、 それぞ れ108.9kj/mol、13.3kj/molであった。さらに、水素をlONm3/hの速度で貯 蔵 ・供給 するシ ステム では、 有効水 素移動量が4.lmass%、352Nm3̲H2/m3に達すると試算された。
こ れ に よ り有 機 ハ イ ドラ イ ド を 用い た オ ン サイト 水素貯 蔵・供 給の可 能性を明 らかに した。
第5章で は、バ イオガスから水素を製造し、有機ハイドライドを用いて水素を貯蔵・供給するシ ステムの実用可能性を評価した。原料バイオガス200Nm3/日規模の実証プラントの物質収支、エネ ル ギー需 要、エ クセル ギー損 失およ びC02排出 量を調 査した 。プラント全体の入カエクセルギー は バイオ ガス、 水、TOLお よび電 気の合 計たの で、そ の77ワDが 再生水素、再生TOLおよびオフガ ス に変換 され、 その23% が損失 した。 プラントの稼動に必要顔電カをバイオガス発電によって供 給 すると 、必要 バイオ ガス量 は6.5Nm3斛m3‐H2であり、原料と合わせた総量は7.2Nm3鳳m3‐H2 と 教った 。カー ポン・ 二ユー トラル の原則 により 新たにC02を排出し顔いので、温室効果ガス排 出抑制に貢献するシステムであることを確認した。これら結果は、地域に広く分散するバイオガス を 水 素 源 と し て 活 用 す る 水 素 貯 蔵 ・ 供 給 シ ス テ ム の 可 能 性 を 明 ら か に し た 。 第6章では、実用規模BTH(BiogasーTo‐Hydrogen)プラントから供給可能教水素量を試算し、C02 排 出量削 減に及 ばす効果を評価した。1日当り乳牛2,000頭分のふん尿130tと食品残渣8.67tを投 入すると5,200Nm3のバイオガスが発生し、その20ワ。が水素原料として利用可能で、1,560Nm3の 水 素を製 造でき る。BTHプ ラント 導入後 の温室 効果ガ ス排出 量は、スラリー処理と比較して年間 1,920t一C02削減される。また、運搬車両として燃料電池自動車を導入した場合、温室効果ガス排出 量 はさら に削減 できる 。家畜 糞尿や 食品残 渣教ど の地域に 広く分 散する水素源を活用したBTHプ ラ ントは 温室効 果ガス 排出削 減に資 するこ とから 、同プラ ントシ ステム の普及 が期待 される。
第7章で は、バ イオガス 発電機 の排熱 を利用 可能社MH冷凍シ ステム用合金であるTi−Z卜Mn‐V 系 合金の 微細組 織観察 により 、微細 組織と製造プロセスおよび水素吸蔵特性との関係を明らかに することを目的とした。Ti−Zr・Mn‐V‐Fe合金が急冷凝固によって特性改善したのは母相の均質化 に よるも ので、 熱処理 によっ ても均 質化し教いのはZrの拡散速度が遅いことに起因する。一方、
Ti−MnーV−Fe合金が急冷凝固によって特性改善されをいのはE93相の広範を析出によると示唆され た 。E93相 を母相 とする合金の吸蔵特性は狭いプラトーを複数有することから、同相の析出はプラ ト ー平坦 性を低 下させ 、熱処 理によ る特性改善はTiの均質拡散と不均一歪みの軽減に起因した。
こ の合金 系にお けるd−Zr02やE93相 の析出浩酸素低減により抑制可能であり、水素吸蔵量とプラ トー平坦性は改善すると推測される。これらの知見よりTi−Zr一MnーV系合金の特性が一層向上し、
高性能のMH冷凍システムの開発が期待される。
以上、本論文では、バイオガスを活用した実用的を水素および芳香族の製造・貯蔵・利用に関す る実証研究を行い、特性の向上や問題点の改善のための検討を行った。また、本研究を実施した実 証プラントの実効可能性や環境性を定量的に評価し、実用化と温室効果ガス排出削減に向けての利 点や課題を把握した。本研究では、新エネルギーとしてのバイオガスの活用のみ歡らず水素および 芳香族の広範靉製造・貯蔵・利用の実用化の可能性を材料工学、反応工学およびプロセスシステム 工学の観点から明らかにした。
62ー
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
バイオガスを原料とした水素と 芳香族化合物の製造システムの開発
・近年、温室効果ガスに起因する地球温暖化、化石資源の枯渇、価格高騰による原燃料の供給不安 の3つの深刻誼問題があり、それらを解決するために再生可能を未利用資源であるバイオマスが期 待されている。バイオマスは熱源のみ教らず、化学原料に教る可能性があるにも関わらず、現在、
′ヾイオマス発酵時に発生するバイオガスの利用は発電や熱供給を目的とした燃焼に限られており、
効率良く再生活用されているとは言い難い。そこで本研究では、′ヾイオガスの新しい活用方法の開 発を目的として、バイオガスからの水素と芳香族化合物の製造、付随する設備として水素貯蔵・供 給システムの開発、および排熱利用型冷却装置用水素吸蔵合金の開発を実施した。最後に実験的成 果に 基づき、乳牛糞尿100トン/日処理プラントを設計した。本論文はそれら成果を纏めたもので あり、以下の7章から構成される。
第1章では、本研究の背景として再生可能次国産エネルギー資源であるバイオガスの賦存量、利 用法、問題点を紹介し、本研究の目的、意義およびその構成を述べた。
第2章では、メタンの脱水素芳香族化反応により工業的に水素とべンゼンを同時製造する技術の 実用 化を目 的とし て、MoZSM−5ペレット触媒の開発を行い、水素、ベンゼンおよび副生炭化水素 の生成特性を評価した結果、73ゲ。のべンゼン選択率、SV変化に対する高い安定性と耐コーキング 性能を示した。また、耐久性試験では水素添加率9vol%時に水素とべンゼンの生成速度が低下した ので、定期的に純水素再生した。その結果、ベンゼンと水素の生成速度はそれぞれ1500nmo卜C/gs、 2400nm01/gsを 維 持 し 長 時 間 安 定 運 転 が 可 能 と 誼 り 、 実 用 化 の 可 能 性 を 見 出 し た 。 第3章では 、200Nm3/日 規模の バイオ ガスか ら水素 とべンゼンを同時製造する実証プラントシ ステ ムの物 質収支 、エネ ルギー 需要、 エクセ ルギー 損失、およびC02排出量を評価した。その結 果、入カエクセルギーの21%が水素とべンゼンに変換され、79ワ。がェクセルギー損失と教った。
また 、エク セルギ ー損失 の内訳 は脱水素芳香族化反応器が最大で全体の47%を占めた。一方、プ ラン ト稼動 に必要 を電カ はバイ オガス 発電に より供 給したのでC02排出量はゼロと社り、温室効 果ガスの排出抑制に貢献するシステムであることを確認した。
第4章では、有機ハイドライドを利用した水素貯蔵・供給システムの開発を目的としてメチルシ
− 63―
宏
哉
一
明
友 一
精 惣
山
川
辺
貫
秋 黒
渡 大
授
授
授
授
教
教
教
教
査
査
査
査
主
副
副
副
クロヘキ サン(以下、MCH)に着目し、 実用規模のスプレーパルス 反応器とPt担持活性炭織布触媒 を 用い て、MCH脱水 素 によ る水 素お よび ト ルエ ン( 以下 、TOL)生成 特性 と、TOL水素 化に よる MCH生 成 特 性 を 評 価 し た 。MCH脱 水 素 反 応 で は598Kで最 大 の転 化率 と水 素発 生 速度 を示 した が 、副 生ベ ン ゼン の生 成が 顕著 で あっ た。 また 、TOL水 素化 反 応では523Kで最大の転化率 と水 素 貯蔵 速度 を 示し た。MCH脱水 素反 応とTOL水素 化 反応 のア レニ ウス プ ロッ トよ り求 めた 活性 化エネル ギーは、それぞれ108.9kj/mol、13.3kj/molであった。さ らに、水素をlONm3/hの速度で 貯蔵・供 給するシステムでは、有効水 素移動量が4.lmass%、352Nm3̲H2/m3に達すると試算した。
こ れに より 有 機ハ イド ライ ドを 用 いた オン サイ ト 水素 貯蔵 ・供 給の 可 能性 を明 らか にし た。
第5章で は、バイオガスから水素を 製造し、有機ハイドライドを用いて水素を貯蔵・供給するシ ステムの 実用可能性を評価した。原料 バイオガス200Nm3/日規模の実証プラントの物質収支、エネ ル ギー 需要 、 エクセルギー損失お よびC02排出量を調査した。 プラント全体の入カエクセル ギー は ′ヾ イオ ガ ス、水、TOLおよび電 気の合計なので、その77%が 再生水素、再生TOLおよびオ フガ スに変換 され、その23ワDが損失した 。プラントの稼動に必要教電カをバイオガス発電によって供 給 する と、 必 要バイオガス量は6.5Nm3/Nm3‐H2であり、原料と 合わせた総量は7.2Nm3パm3‐H2 と 顔っ た。 カ ーポン・二ユートラ ルの原則により新たにC02を 排出し教いので、温室効果ガ ス排 出抑制に 貢献するシステムであること を確認した。これら結果は、地域に広く分散するバイオガス を 水 素 源 と し て 活 用 す る 水 素 貯 蔵 ・ 供 給 シ ス テ ム の 可 能 性 を 明 ら か に し た 。 第6章で は、実用規模BTH(Biogas‐To‐Hydrogen)プラントから供給可能教水素量を試算し、C02 排出量削 減に及ばす効果を評価した。1日当り乳牛2,000頭分のふん尿130tと食品残渣8.67tを投 入すると5,200Nm3のバイオガスが発 生し、その20%が水素原料と して利用可能で、1,560Nm3の 水 素を 製造 で きた。BTHプラント導 入後の温室効果ガス排出量 は、スラリー処理と比較して 年間 1,920トC02削減した。また、運搬車両として燃料電池自動車を導入した場合、温室効果ガス排出量 は さら に削 減 できた。家畜糞尿や 食品残渣顔どの地域に広く分 散する水素源を活用したBTHプラ ントは温 室効果ガス排出削減に資する ことから、同プラントシス テムの普及が期待できた。 ゛ 第7章で は、 バイ オ ガス 発電 機の 排熱 を利用可能顔MH冷凍シ ステム用合金であるTi―Zm江小V 系合金の 微細組織観察により、微細組 織と製造プロセスおよび水 素吸蔵特性との関係を明らかに すること を目的とした。Ti‐ZrlMn‐V‐Fe合金が急冷凝固によって特性改善したのは母相の均質化 によるも ので、熱処理によっても均質 化しをいのはZrの拡散速度 が遅いことに起因した。一方、
Ti−Mn一V‐Fe合金が急冷凝固によっ て特性改善され放いのはE93相の広範誼析出によると示唆され た。E93相 を母相とする合金の吸蔵特 性は狭いプラトーを複数有することから、同相の析出はプラ トー平坦 性を低下させ、熱処理による 特性改善はTiの均質拡散と 不均一歪みの軽減に起因した。
この合金 系におけるa−盈02やE93相の 析出は酸素低減により抑制 可能であり、水素吸蔵量とプラ トー平坦 性は改善すると推測された。 これらの知見よりTi−ZrIMn‐V系合金の特性が一層向上し、
高性能のMH冷凍システムの開発が期待 できた。
以上、 本論文では、バイオガスを活 用した実用的を水素および芳香族の製造・貯蔵・利用に関す る実証研 究を行い、特性の向上や問題 点の改善のための検討を行った。また、本研究を実施した実 証プラン トの実行可能性や環境性を定 量的に評価し、実用化と温室効果ガス排出削減に向けての利 点や課題 を把握した。本研究では、新 エネルギーとしてのバイオガスの活用のみをらず水素および 芳香族の 広範を製造・貯蔵・利用の実 用化の可能性を明らかにした。これらの結果はバイオマスの 有効利用 のみをらず、材料工学、反応 工学およびプロセスシステム工学に対しても貢献するところ 大である 。よって著者は北海道大学博 士(工学)の学位を授与さ れる資格があるものと認める。
―64―