博 士 ( 医 学 ) 工 藤 峰 生
学 位 論 文 題 名
病 態 生 理 学 的 立 場 か ら み た 胃 炎の 検 討
学 位 論 文 内容 の 要 旨
I緒 言
胃炎とは胃粘膜の炎症性病変を意味する総括的な疾患概念である。病理組織学的には胃 粘膜に単核球や多核自血球などの炎症細胞浸潤が存在すれば胃炎と診断される。ー方臨床 的には、上腹部症状を有し、内視鏡的に胃粘膜の発赤、びらん、出血などの所見が認めら れた場合に、胃炎と診断されていた。したがって胃炎の分類は、病理学的立場と内視鏡的 立場の異なる観点から独立してなされ、お互いの接点がなかなか見いだせなかった。しか し1983 年に胃内の細菌であるHclicobactcr pylori (以下HP )が発見され、本菌と胃炎、
消化性潰癌との関連性が明らかになってくるにっれ、胃炎に対して細菌感染症とぃう観点 から多くの研究が行われるようになってきた。胃炎の分類も成因としてHP を考慮し、か つ病理学的立場と内視鏡的立場を並列した新しい胃炎分類であるシドニ一分類が1990 年 の世界消化器病会議で提唱され、新たな展開をみせている。本研究では内視鏡的胃炎と病 理組織学的胃炎との関連についてシドニー分類に基づぃて検討を行うとともにHP 感染と 血清ベプシノーゲン(以下PG うI 、II 及ぴI ′II 比との関連、血清ガストリンとの関連につ いて検討を行い、総合的に胃炎を再評価した。
II対 象 と 方 法
対象は北海道大学医学部付属病院第三内科で内視鏡検査を受けた200 症例である。内視 鏡検査はオリンバス社製の電子スコープ(EVIS 200 システム)を使用した。内視鏡所見の 記載はシドニ一分類に従った。内視鏡検査と同時に anrrum と corpus より生検を行った。
また血清として‑20 ℃で測定まで凍結保存とした。全例生検及ぴ採血に際してinformcd consent を得た。HE 染色を行った生検組織を炎症細胞浸潤、萎縮、腸上皮化生について シドニ一分類に従って grading を行った。HP の存在診断は生検標本を鏡検することにより ーケ所でもHP が確認されたならば、HP 陽性と診断し、すべての標本に認められないとき に HP 陰性と診断した。また Evans らの方法に従って ELISA 法による血清抗HP IgG 抗体の 測 定 を 行 った 。 血 清 PGI と PGII はダ イナ ポッ ト社 製のキ ット にて 二抗 体法に よる radioimm unoassay (RIA )で測定し、さらにPGI と PGII の比を計算した。ガストルンは RIA キット2 (ダイナポット社製)で測定した。統計学的検討は、X2 検定、Yates の補正 式、 Fischer の直接確率計算法、 unpairedt‑test を用いて、危険率0.05 以下の場合を有意 差ありとした。
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III結 果
年 代 別 HP 陽 性 率 は 鏡 検 で は 40 代 で 最も 高く、 50 代 以降 減少 傾向 がみ られ た。 一方 HP の IgG 抗体の陽性率は40 代以降約70‑80 ゲ。前後でほぼ一定の値を示した。有症状群の内視 鏡 的胃 炎の頻度は無症候詳に比して、発赤を認めるcrythcmatous gastritis やぴらんを認 めるflat crosive gasrritis が多くみられ、atrophic gastritis は少ない傾向を示した。内 視 鏡的 胃炎 のHP の陽 性率 を有 症状 詳と 無症 候詳 とで比 較し たと ころ有意差はみられなか っ た。 胃粘 膜の 炎症 細胞 浸潤 とHP の陽 性率 との 関連に つい て検 討した結果、HP の陽性率 は 単核 球、 好中 球と もそ の浸 潤の 程度 が強 くな る程高 くな った 。鏡検によるHP の陽性率 は 胃 粘 膜 の萎 縮が進 行す ると 低下 した 。一 方、 HP の IgG 抗 体で 診断 した HP の 陽性 率は 、 胃 粘膜 萎縮 の存 在す る症 例で 高い 傾向 を示 した 。さら に腸 上皮 化生の程度とHP の陽性率 と の関 係を 検討 する と、 鏡検 によ るHP の陽 性率 は、腸 上皮 化生 の程度が強くなるほど低 い 傾 向 を 示し た。対 照的 に、 IgG 抗体 によ るHP の 陽性 率は 腸上 皮化 生を 伴う 症例 の方 が 高 い 傾 向 を示 した。 IgG 抗体 によ るHP 陽性 群と陰 性詳 のPGI 、 PGII 、PGI /II 、血 清ガ ス ト ル ン の 平均 値を検 討す ると PGI はHP 陽性 詳と陰 性詳 とで 有意 差は なか った が、 PGII は HP 陽性 群の 方が 高値 を示 し、 PGI/II 比 は逆 に明 らかに 低値 を示 した。血清ガストリン値 はHP 陽性詳では高値を示した。
IV考 案
HP は胃炎の原因の,80 ゲ。以上に関わっていると新しい胃炎分類のシドニーシステムで述 べられ、消化性潰瘍の再発の原因の最も大きな原因のーつであることも明らかになってき て いる 。ま た、 HP 感 染が持 続す ると 、胃 粘膜 萎縮 延いては腸上皮化生を生じ、胃癌殊に 分 化型 胃癌 の発 生と 密接な 関わ りを 有す るこ とが 明らかになりつっある。HP の感染診断 は 、第 一に 直接 H.pylori を 証明 する 培養 法と 鏡検 法、第二にHP の有するurcasc 活性を利 用 した rapid urease tcst 、第 三に 間接 的な 方法 としてHP の抗IgG 抗体を測定する方法が 行 われ てい る。 今回 の検討 では 、HP の陽 性率 は鏡 検よりHP 抗体測定の方が高い値を示し た 。こ れは 、萎 縮が 進行し 腸上 皮化 生を 生じ ると 、その部位にはHP が存在しにくくなる た め鏡 検で は偽 陰性 が生じ るた めと 考え られ る。 年代別のHP 感染率の検討で50 代以降の 高齢者で鏡検とHP 抗体との間でみられた解離も同様の理由で説明可能と思われる。また、
血 清PGI /II 比と 萎縮 性胃炎の病理組織学的重症度が関連し、高ガストリン血症と胃粘膜 の 萎縮 の関 連性 が明 らかと なっ たこ との 他に 、こ れら胃炎の血清マーカーはHP 感染と明 ら かな 関連 性を 認め た。こ れら の結 果よ り、 胃炎 の発生、進展には、HP 感染が密接に関 連 し て お り 、 内 視 鏡 所 見以 上に 病理 所見 が胃 炎の 評価 に重要 であ るこ とが 示さ れた 。
V結 語
1 ) HP 感 染 の 有 無 と 上 腹 部 症 状 の 発 現 頻 度 に は 関 連 性 が 認 め ら れ な か っ た 。 2 ) 胃 粘 膜 に お け る 炎 症 細 胞 浸 潤 は HP 感 染 者 で 明 ら か に 強 い 関 連 が 認 め ら れ た 。 3 ) 胃炎 が進 展し 胃粘 膜の 萎縮 や腸 上皮 化生 を伴っ てく る原 因の 多くはHP 感染であると 考 えら れた 。
4 ) 血清 PGI 、II とI/II 比お よぴ ガス トリンは単に胃粘膜の萎縮の状況を示すだけではな
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く、HP 感染の有無を判定するマーカーとしても有用であると考えられた。
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 浅 香 正 博 副 査 教 授 長 嶋 和 郎 副 査 教 授 加 藤 紘 之
学 位 論 文 題 名
病態生理学的立場からみた胃炎の検討
胃炎 の多く は胃に 存在す る細菌 であるHelicobacter pylori(以下HP)によって引き起こされることが明 らか になっ てきた 。HPによ る胃炎 は胃粘 膜に炎症 細胞浸 潤を惹 起する が、こ の状況 を内視 鏡的に 診断す るこ とは困 難であ るとぃ われてき た。今 回、内 視鏡的胃炎と病理組織学的胃炎との関連について検討を行 うと ともに 、HP感染 と胃炎 の血清 マーカ ーとして 知られ ている 血清ペ プシノーゲン(以下PG)【、【【、
I/I【 比 と の 関 連 お よび 血 清 ガ スト リ ン と の関 連 に つ いて 検 討 を 行い 総 合 的 に胃 炎 を 再 評価 し た 。 対象 は内視 鏡検査 を行っ た200症例 である 。内視 鏡検査 の際にantrumとcorpusの前後璧より生検を行っ た。 次にHES色 を行っ た生検 組織を 単核球 と好中 球の炎症 細胞浸 潤、萎 縮、腸 上皮化 生につ いてgrading を行 った。HPの存在 診断は 生検標 本を鏡 検し、一 ケ所で もHPが確 認され たなら ばHP陽性 と診断 し、すべ ての 標本に 認めら れない ときにHP陰性と 診断した 。またEL【SA法 による 血清抗HP IgG抗体の 測定を行っ た。血清PG【、II、およびガストリンはRtA法で測定した。
年代 別HP陽性 率 は鏡 検では40代で最 も高く50代以降 減少傾 向がみ られた 。一方EL[SA法の陽 性率は50 代以 降約70‑8090前後で ほ;ご一定の値を示した。内視鏡的胃炎のHPの陽性率を有症状詳と無症候詳とで比 較す ると有 意差は みられ なかった 。胃粘 膜の炎 症細胞浸潤とHPの陽性率との関連について検討した結果、
HPの陪 性率は 単核球 、好中 球とも 、その 浸潤の程 度が強 い程高 くなる 傾向を 示した っ鏡検 によるHPの陽 性率 は胃粘 膜の萎 縮が進 行し、腸 上皮化 生の程 度が強 い程低 下した 。一方 、ELfSA法で診断したHPの陽性 率は 、萎縮 や腸上 皮化生 を伴う症 例の方 が高い 傾向を 示した 。HPの陽 性率は 鏡検よ りHP抗体 測定の方が 高か ったが 、これ は萎縮 が進行し 腸上皮 化生を 生じる と、そ の部位 にはHPが 存在し ないた め鏡検 では偽 陰 性 が生 じ る た めと 考え られた 。年代 別のHP陽 性率の 検討で50代以降 の高齢者 で鏡検 とELISA法 との聞 でみ られた 解離も 同様の 理由で説 明可能 である 。総体 的にHP陽 性詳と 陰性詳のPG【、PG【I、PGUU、血清 ガス トリン の平均 値を検 討するとPG[はHP陽性詳 と陰性 詳とで有 意差は なかったが、PGt【はHP陽性詳の 方 が 高 値 を 示 し 、PGt/t【 比は 逆 に 低 値を 示 し た 。血 清 ガ ス トリ ン 値 はHP陽 性 詳 で高 値 を 示 した 。 嚠青PCuは,胃 炎のマー カーと して知 られて いるが、今回の検討でHP陽性者が高い傾向を示したことは、
HP陽性著に胃粘膜の炎症所見が多くみられることを示している。またltImlrPGt/c【比は胃粘膜萎縮のマーカー とし て知ら れてい るが、 今回HP陽 性者が 低い傾向 を示し たこと は、HP陽 性者に 胃粘膜 萎縮が 多くみられ るこ とを示 してい る。こ れらの結 果ほ生 検によ って得 られた 結果と 一致し た。以 上より胃 炎の発 生、進 展には、HP感染が密接に関連しそぃることが示された。
口頭 発表に あたり 、第妥 外科の 加藤教 授より急 性胃炎 と慢性 胃炎を 一括し て論じ る点、 鏡検で はHP陽 性率 が低下 すると ぃう結 果に対し て偽陰 性と表 現した点、胃炎に対して正常例をコントロールとして設定 して いない 点につ いて方 法論とし て問題 はない か、また胃炎の自然史、【gG抗体の意義、H?を除菌すると 胃炎 、血清 ガスト リンは 変化がみ られる か等に ついて の質問 があっ た。次 に第二 病理の長 嶋教授 よりHP の検 出方法 で免疫 染色で は感度が 高くな るか、HPの増殖部位、増殖に必要なfactor、HP陽性例で好中球浸
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潤をきたす援序、腸上皮化生の部位にEPが存在しない理由、HP陰性胃炎の組織像の特徴、HPと胃癌およ び胃悪性リンバ腫との関連性等に関する質問があった。さらに会場から第ー内科宮本助敦授よりHPの胃 内における存在様式、方法諭として4点生検の意義等についての質問が、第ー内科西辛千講諦から実際問題 として胃炎に対する診断、治療はどうするのか、HPll<染者には必ず胃炎が存在するか等の質問を受けた が 、 申 請 者 は い ず れ の 質 問 に も 概 ね 妥 当 な 答 え を な し え た も の と 考 え ら れ た ・ 審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有 するものと判定した。
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