博 士 ( 工 学 ) 佐 藤 知 敏
学 位 論 文 題 名
Al ― Cu 、 Al − Si 合 金 の 鋳 造 一 方 向 凝 固 組 織 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
大量生産材としての金属材料1ま、原料から融体として精製後、凝固過程を へて鋳塊とし、これを圧延加工して最終製品に仕上げられる。このとき、鋳 塊の凝固組織は圧延加工後も残存し、製品の強度、加工性、表面性状などを 左右する。鋳型造塊、連続鋳造いずれの鋳塊も凝固は鋳型壁から始まって一 方向的に進行し、かつ、主要部分はデンドライト組織となる。したがって、
デンドライトの形態が実用鋳塊の凝固組織を決定することになり、その制御 は工学上きわめて重要である。
デンドライ卜は特定の成長面と成長方向を有する初晶結晶で、幹(一次ア ーム)とそれに対し直交して成長する枝(二次アーム、三次アーム、など)
をもつ樹枝状晶であり、一次ア―ム間隔および二次アーム間隔がその組織を 特徴づける。アーム間隔は、冷却速度、凝固時間、凝固速度、固液共存相中 の温度勾配など種々の凝固変数によって変化するとされているが、現在まで 統一的な関係は見いだされていない。本論文は、実用A1合金の基本系である Al−CuとAl―Si合金の鋳造一方向凝固デンドライト組織について、上記凝固変 数と柱状デンドライト組織アーム間隔の関係、およびそれとは成因がことな る と 考 え ら れ る 羽 毛 状 デ ン ド ラ イ 卜 組 織 につ い て 述 べ た も の で あ る 。 第1章は 緒論で あり 、デンドライト凝固組織の定量化に果たすアーム間隔 の意義や羽毛状晶の重要性など、本研究の背景および目的について述ぺた。
第2章で は、本 研究 で用いた鋳型一端冷却鋳造一方向凝固法について、数 学モデルで伝熱解析した結果について述ぺた。
実験によって凝固層厚さと時間との関係を測定した。凝固層厚さは凝固区
間のない純Alが最も厚く、凝固区間最大のAl―6mass96Cu合金で最も薄くナょり ほぼ凝固区間の大小で整理可能なことがわかった。この結果に適合するよう 数値解析でもとめた鋳型水冷部の熱伝達係数は、0. 10〜0. 13cal/cm2sKとな り、冷却速度が大きい凝固条件にあることがわかった。なお、熱伝達係数の 差はミクロ組織の変化に対応していると考えられた。
第3章では、Al―Cu、Al―Si二元合金、Al−CuーSi三元合金、Al−CuーSi―Zn四 元合金について、アーム間隔におよぼす溶質元素ならびにその濃度の影響に ついて検討した。
三元以上の多元系合金では三次アームが発達して一次アームは不鮮明とな る。また、二元合金でも溶質濃度が増えるほど三次アームがよく発達し、た とえぱAl―Cu合 金では10mass%、Al−Si合金では4mass%以上で一次アーム の測定が困難となった。一次ア―ム間隔は冷却の速い凝固初期で狭く(デン ドライトのセルサイズが小さい)、逆に凝固後期ほどその間隔は広い。また 溶質薑度が高いほど一次アーム間隔は狭くなる。一次アーム間隔は冷却曲線 からも とめ た凝 固時間口のn乗の形で整理できた。デンドライト樹枝間に排 出される溶質元素の濃縮と拡散の釣り合いで一次アーム間隔が決定されると したと き、 指数nは ー1/2となる。これに対し、実験でもとめられたnの値は これよ り小 さい 。さら に、 二次 アー ム間隔 につ いて、凝固開始直後の冷却 速度、固液共存域の平均冷却速度などとの関係をもとめたところ、溶質元素 濃度が高いほど指数nの値は大きくなった。
第4章 では一 次ア ーム間隔に与える各種凝固変数の影響を実験的に検討し た結果について述べた。
実際の凝固では、冷却速度の範囲も広く、また、冷却速度が刻々変動する ような複雑な冷却曲線をもつ場合が多い。より実際の系に近いと思われる一 端冷却一方向凝固法を用いて実験したところ、従来、定説とされている平均 冷却速度では実測の一次アーム間隔を説明できないことが判明した。とくに 変動冷却場では、冷却速度の速いときと遅いときに従来理論との差が大きく なることが示された。そこで、平均冷却速度以外に、凝固速度、凝固前面に おける融液中の温度勾配、固液共存域における温度勾配、およびこれらの複 合因子と一次アーム間隔との関係について検討レた。結論として、一次アー ム間隔は凝固速度(R)と固液共存域の温度勾配(Gs)との積(R‑Gs)の‑1/2乗に 比例して変化するとしたとき最も精度よく実験結果を記述できた。デンドラ
イト結 晶先端の液 相側の温度 勾配ではな く、後方の 固液共存域の温度勾配が 支配要 因のーつで ある理由は 以下のよう に説明され る。多数あるデンドライ ト一次 アームの成 長速度には 差があり、 成長の速い 一次アームの先端は初期 融液と 接している ため液相側 の温度勾配 によって間 隔がきまる。しかし、大 部分の 一次アーム はこれにや や遅れて成 長するため 固液共存場で成長するこ と に な り 、 そ こ で の 温 度 勾 配 に 影 響 さ れ る と 考 え ら れ る 。 第5章 で は 、 二 次 ア ー ム 間 隔 の 支 配 凝 固 要 因 に つ い て 検 討 し た 。 前章と 同様に、複 雑な冷却曲 線をもつ実 際の凝固場にも適合しうる関係を もとめ るため、種 々の凝固変 数について 検討を行っ た。二次アーム間隔は、
一次ア ーム側面に おける濃度 揺らぎによ って多数生 ずる二次アームの芽のう ち、大 きなものが 小さいもの をオストワ ルド成長的 に吸収して定まるとして 考 えた 。 この場合、 二次アーム 間隔は凝固 時間の1/3乗に比例し て変化する ことに なる。凝固 時間は冷却 曲線上にお ける液相線 から固相線までの平均経 遇時間 である。し かしながら 、これによ る二次アー ム間隔の整理は、たとえ ば水冷 方法により 差を生じ、 必ずしも満 足すべき結 果を与えない。実際の冷 却場で は、冷却能 カの変動に より、冷却 曲線上の凝 固区間内で膨れやへこみ が生じ 真の凝固時 間は明確に は定まらな い。そこで 、新しい考え方として修 正凝固時間の導入を試みた。修正凝固時間は、冷却曲線上で液相線温度(Tl) と固相線温度(Ts)に囲まれた面積、すなわち積分凝固時間(S)を(Tl―Ts)で 除 して2倍した値 として定義 した。この 修正凝固時 間を使用し たとき、冷 却 速度を 極端に変化 させた場合 や変動冷却 の場合にも 、二次アーム間隔は凝固 時間( 修正凝固時 間)のほぼ1/3乗に比例して変化することが明確となった。
第6章 は、鋳込み 温度が高い 場合に現れ る羽毛状晶 について、 羽毛状デン ド ラ イ 卜 と し て の 観 点 か ら そ の 形 態 を 明 ら か に し た も の で あ る 。 羽毛状 晶は、発生 初期のV字形から 、成長中期 ではY字形に変化する。熱流 方向に 湾曲する場 合もあるが 、中心線と 側枝のなす 角度は45〜55゜で変化し ない。 羽毛状デン ドライトの 優先成長方 向について 、デンドライトアーム上 にエッ チピットを 生じさせて調べた。 t 1101面の観察では、主軸:く110> 側枝: く110冫 とく100>、 I100l面では、主軸:く110冫、側枝:く100>、
1 111) 面では、主 軸、側枝と もく110> 方向であった。いずれの場合も軸 を中心に双晶成長していることがわかった。
第7章は本論文の総括である。
学 位 論 文審 査 の 要旨 主査 教 授 石 井 邦宜 副査 教 授 鈴 木 朝夫 副査 教授 高橋平七郎 副査 助教授 工藤昌行
学 位 論 文 名
Al―Cu、Al−Si合金の鋳造一方向凝固組織に関する研究
鋳 塊の 凝固 組織 は圧 延加工 後も 残存 し、 製品 の強 度、加工性、表面性状な どを 左右 する 。鋳 塊の 凝固は ミク ロに 見れ ば鋳 型壁 から始まり一方向的に進 行す る。 この とき 、実 用合金 では 柱状 晶、 等軸 晶い ずれも主要部分はデンド ラ イ ト 組 織 とな る 。 し た が っ て 、 そ の 制 御は工 学上 きわ めて 重要 であ る。
デ ンド ライ トは 特定 の成長 面と 成長 方向 を有 する 初晶結晶で、幹(一次ア ーム)とそれに対し直交して成長する枝(二次アーム、三次アーム、ナょど)
から なる 樹枝 状晶 であ り、一 次ア ーム 間隔 およ び二 次アーム間隔がその組織 を特 徴づ けら れる 。本 論文は、実用Al合金の基本系であるAl―Cu合金とAl−S 合金 の鋳 造一 方向 凝固 デンド ライ ト組 織に つい て、 冷却速度、凝固時間、凝 固速 度、 固液 共存 相中 の温度 勾配 など 種々 の凝 固変 数と柱状晶デンドライト ア― ム間 隔の 関係 、お よび、 これ とは 成因 が異 なる 羽毛状デンドライト組織 との関係について述べたものである。
第1章 は 結諭 であ り、 デン ドラ イト 凝固 組織の 定量 化に 果た すア ―ム 間隔 の意 義や 羽毛 状晶 の重 要性な ど、 本研 究の 背景 およ び目的について述べた。
第2章 で は、 本研 究の 実験 で用 いた 一端 冷却鋳 造一 方向 凝固 法に っい て、
数学モデルで伝熱解析した結果について述べた。
ま ず、 実験 によ って 凝固層 厚さ と時 間の 関係 をも とめた。凝固速度は凝固 区間 で整 理で き、 凝固 区間の ない 純Alが最 も速 く、 凝固区間最大のAl−6mas
%Cu合金 で最 も遅 い。 実験に 適合 する よう 数学 モデ ルを構築し、数値解析で 鋳型 水冷 部の 熱伝 達係 数をもとめた。値は0.10〜O.13cal/cmzsKとなり、実 用上 冷却 壁近 傍の 凝固 条件を シミ ュレ ート して いる ことが明らかとなった。
第3章では、AlーCu、Al−Si二元合金、Al−CuーSi三元合金、Al―Cu―Si―Zn四 元 合 金 の ア ー ム 間 隔 に お よ ぼ す 溶 質 元 素 の 効 果 に つ い て 検 討 し た 。 一 次ア ーム 間隔 は冷 却が速 い凝 固初 期で 狭く 、冷 却の遅い凝固後期ほど広
く な る 。 ま た 、 溶 質 濃 度 が 高 い ほ ど 一 次 ア ー ム 間 隔 は 狭 く な っ た 。 一次 アー ム間 隔は 冷却 曲線 から もと めた 凝固 時間pの冪 乗の 形で 整理 でき た。デ ンド ライ ト樹 枝間 に排 出さ れる 溶質 元素の濃縮と拡散の釣り合いで一 次アー ム間 隔が 決定 され ると した とき 、冪 の指数は‑1/2となる。実験値はこ れより 小さ い。 また 、二 次ア ーム 間隔 と凝 固開始前後の冷却速度、固液共存 域の平 均冷 却速 度な どと の関 係を もと めた ところ、いずれに対しても溶質元 素 濃 度 が 高 い ほ ど 指 数 値 が 大 き く な る こ と が 明 ら か と な っ た 。 第4章 で は 一 次 ア ー ム 間 隔 と各 種 凝 固 変 数 の 関 係 を 実 験 的に検 討し た。
実測 の一 次ア ーム 間隔 はこ れま で定 説と されている平均冷却速度では説明 できな い。 とく に変 動冷 却場 では 、冷 却速 度が速いときと遅いときに従来理 論との 差が 大き くな るこ とが 示さ れた 。そ こで、種々検討した結果、一次ア ーム間 隔は 凝固 速度(R)と固液共存域の温度勾配(Gs)との積(R●Gs)のー1/2乗 に比例 する とし たと き最 も精 度よ く実 験結 果を記述できることがわかった。
デンド ライ ト結 晶先 端の 液相 側の 温度 勾配 ではなく、後方の固液共存域の温 度勾配 が支 配要 因の ーつ であ る理 由は 以下 のように説明される。多数あるデ ンドラ イト 一次 アー ムの 成長 速度 には 差が あり、成長の速い一次アームの先 端は初 期融 液と 接し てい るた め液 相側 の温 度勾配によって間隔がきまる。し かし、 大部 分の 一次 アー ムは これ にや や遅 れて成長するため固液共存場で成 長することになり、そこでの温度勾配に影響される。
第5章 で は 、 二 次 ア ー ム 間 隔 の 支 配 凝 固 要 因 に つ い て 検 討 し た 。 二次 アー ム間 隔は 、一 次ア ーム 側面 にお ける濃度揺らぎによって多数生ず る二次 アー ムの 芽の うち 、大 きな もの が小 さいものをオストワルド成長的に 吸収し て定 まる とし て考 えた 。こ の場 合、 二次 アー ム間 隔は凝 固時 間の1/ 乗に比 例し て変 化す るこ とに なる 。凝 固時 間は冷却曲線上における液相線か ら固相 線ま での 平均 経過 時間 であ る。 しか しながら、実際の冷却揚では、冷 却能カ の変 動に より 、冷 却曲 線は 凝固 区間 内で蛇行し真の凝固時間は明確に は定ま らな い。 そこ で、 冷却 曲線 上の 積分 凝固 時間(s)の 温度 平均 値と して 凝固時 間( 修正 凝固 時間 )を 新し く定 義し 、2次 アー ム間 隔を 整理 した 。こ れによ り、 冷却 速度 が極 端に 変化 する 場合 でも、二次ア―ム間隔は凝固時間
(修 正 凝 固 時 間 ) の ほ ぼ1/3乗に 比 例 し て 変 化 す る こ と が 明確と なっ た。
第6章は 、鋳 込み 温度 が高 い場合 に現 れる 羽毛 状晶 につ いて 、羽 毛状 デン ド ラ イ Iト と し て の 観 点 か ら そ の 形 態 を 明 ら か に し た も の で あ る 。 羽毛 状デ ンド ライ トは 、発 生初 期のV字形 から、成長中期ではY字形に変化 するが、主軸と側枝のなす角.度は45〜55°で変化しない。また、@羽毛状デ ンドラ イト は軸 を中 心に 成長 する 双晶 であ る、@{100)面の優先成長方向は 主軸:く110〉、側枝;く100>である、などの事実がはじめて明らかになった。
第7章は本論文の総括である。
これ を要 する に、 本論 文は 、Al合金 鋳塊 の主要組織であるデンドライトの 組織形 態と 凝固 要因 との 関係 を明 らか にし たものであり、鋳造工学の進歩に 寄与するところ大である。よって、著者は、北海遭大学博士(工学)の学位を 授与される資格あるものと認める。