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博 士 ( 医 学 ) 工 藤 岳 秋

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 工 藤 岳 秋

     学 位論文題名

    N‑glycan alterations are associated with drug resistance in human hepatocellular carcinoma      ( 抗癌剤耐性肝癌細胞株におけるN‑ 結合型糖鎖の変化)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

【背景・目的】

  癌の 化学療 法は手術、 放射線な どととも に癌治療 の柱とし て位置づ けられ、外 科領域に お い ても術 後の補助療 法や再発 ・転移の 治療で効 果を上げ ている。 化学療法に おいて大 き な 障 壁とな るのが抗癌 剤耐性で ある。耐 性の一因 として挙 げられる のは、癌細 胞におい て MDRl/ABCB1,BCRP/ABCG2な ど のABCト ラン ス ポ ータ ー が過 剰 発 現す る こと で あ る。 こ ′ れらの分子はN‑結合型糖鎖を結合する膜蛋白質である。

  糖鎖 の構造 や発現量は 癌の性質 と密接に 関連する といわれ ている。 これまでの 研究で、

癌 細 胞にお けるN‑結合型 糖鎖の変 化は転移 、浸潤な どの癌の 性質に関 係すること が明らか に さ れ て き て い る 。 特 に 糖 転 移 酵 素N‑acetylglucosaminyltransferase (GnT)‑Vやa 1,6‑Fucosyltrasferase(a1,6‑FucT)などとそれらによって合成される糖鎖について、その構造 と 機 能の関 係について の研究が 進んでい る。ただ 、抗癌剤 耐性とN‑結 合型糖鎖の 関連につ い て の研 究 は少 な い 。ABCト ラン ス ポータ ーに結合 する糖鎖 の有無に よる抗癌剤 感受性の 変 化 、ある いは抗癌剤 耐性癌細 胞におけ る糖鎖構 造変化の レクチン を用いた探 索、など が 散 見 される が、抗癌剤 耐性に関 与しうるN‑結合型糖 鎖の変化 について 、糖鎖構造 を含めた 詳 細 な検討 は皆無に等 しい。本 研究では 抗癌剤耐 性のメカ ニズムに おける糖鎖 の役割を 明 ら か にする ことを目的 として、 肝細胞癌 培養細胞 株とその 抗癌剤耐 性株につい て、そのN‑

結 合 型糖鎖 を分析し, 抗癌剤耐 性能に影 響する可 能性のあ る糖鎖構 造を探索し た。また 同 定 さ れ た 糖 鎖 変 化 に 関 連 す る 糖 転 移 酵 素 につ い て 各細 胞 株 でのmRNAレ ベル の 発 現量 を 比較検討した。

【材料・方法】

  ヒ ト 肝 癌 細 胞株HLE( 親株 ) と、HLEか ら樹 立 した エ ピ ルビ シ ン耐 性 株(HLE‑EPI)、 ミ ト キ サン ト ロン 耐 性 株(HLE‑MIT)のN‑結合 型糖鎖分 析を行い 、その結 果を比較 することで 抗 癌 剤耐性 に関与する 可能性の ある糖鎖 構造を同 定した。 各耐性株 の抗癌剤耐 性能は継 代 の2日 前 に各 薬 剤を3 2ng/mlの 濃度 で 添 加す る こ とで 耐 性能 を 維持 した。糖 鎖分析には4 X l06個の細胞を用いた。細胞に含まれる糖蛋白質にTrypsin,Chymotrypsin,N‑GlycosidaseF, Pronaseを 作 用 さ せ N‑結 合 型 糖 鎖 と ペ プ チ ド に 分 解 し 、 ゲ ル ろ 過 に よ る 精 製 の 後 2‑aminopyridineを 用いて螢 光誘導体化 して、ODSカ ラムを用 いた高速 液体クロ マトグラ フ イ ー(HPLC)で 分 離 し 、 そ の 相 対 量 を 算 出 し た 。 さ ら にAmideカ ラ ム を 用 いたHPLC分 析

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を 行 い、2次 元 マッ ピ ング 法でより 詳細に糖 鎖構造を決 定した。 構造決定 した複合 型糖鎖 の 合 成に 必 要ぬ 糖 転 移酵 素 で あるal,6‑FucTやGnT‑IV.GnT‑Vの活 性 を 、HPLC分 析で算 出 し た 各 糖 鎖 の 量 比 か ら 計 算 し推 定 した 。 こ れら の 糖転 移 酵 素のmRNAレ ベル の 発 現は RT‑PCR法を 用 いて 検 討 した 。 ま たReal‑time RT‑PCR法も行 い、酵素 の発現をよ り定量的 に比較した。

【結果】

1.HPLCを 用 い た 糖 鎖 プ ロ フ ァイ ル の分 析 で は、 各 細 胞株 に 共通 す る 糖鎖 を 含ん だ9本     の ピ ーク の うち 、 フ コシ ル 化さ れ た3本 鎖糖 鎖310.8が抗癌剤 耐性株( 特にHLE‑MIT)     で 増 加 し て い た 。 ま たAmideカ ラ ム を 用 い た 分 析 の 結 果 、15種 類のN‑結合 型 糖鎖     を同定した。このうち複合型糖鎖は2本鎖糖鎖(200.4,210.4)、3本鎖糖鎖(300.8,310.8)、     4本鎖 糖鎖(400.16,410.16)の6種類であ った。耐 性株で増加している糖鎖は310.8のみ     で 、HLEで の 含有 量 は6.01%だ っ たがHLE‑EPIで は11.29% 、HLE‑MITでは13.97%で     あ っ た。2本 鎖 糖鎖 、フコ シル化さ れていな い3本鎖糖鎖(300.8)は耐性株 での量的 変     化を認めなかったが、4本鎖糖鎖はHLE‑MITでの減少を認めた。

2.1. で 構 造決 定 され たN‑結 合 型糖 鎖 の 合成 に 重 要な役割 を果たす3種の糖転 移酵素(0     1,6‑FucT・GnT‑IV.GnT‑V)について、フコシル化糖鎖(210.4,310.8,410.16)と非フコシ     ル化 糖鎖(200.4,300.8,400.16)の比からal,6FucTの、3本 鎖・4本鎖糖 鎖と2本鎖糖     鎖 の 比 か らGnT‑IVの 、4本 鎖 糖 鎖 と3本 鎖 糖 鎖 の 比 からGnT‑Vの 活 性を そ れぞ れ 計     算し たところ 、耐性株 において は親株より もal,6‑FucTとGnT‑IVの活性が高く、GnT‑V     の活性が低いということが推定された。

3. 各 糖 転移 酵 素のRT‑PCRでは 、 親株 と 耐 性株 で 発 現の 差 を明 ら か にで き なか っ た。こ     の た めReal‑time RT‑PCR法 を 用い 、 さら に 定 量的に そのmRNAの発 現量を比較 した。

    al,6‑FucTの 発 現 は 耐性 株 、 特にHLE‑MITで高 か っ た。GnT‑IVaは耐 性 株 で低 く 、     GnT‑IVbはHLE‑EPIで は 高 くHLE‑MITで は 低 か っ た 。GnT‑Vは 耐 性 株 で 低 か っ た 。

【考察】

  N‑結 合 型糖 鎖 にお け るフコ シル化は 肝細胞癌 におけるIgG,a‑fetoprotein(AFP)や膵癌 にお けるhaptoglobinで増 加すると され、癌 化のメカニ ズムとの関連がさらに検討されてい る。 フコシル 化は抗癌 剤耐性機 構にも何ら かの関わ りを持っ ことが示 唆された が、本研究 で は3本 鎖糖 鎖 のみ で フ コシ ル 化の 変 化 が生 じ て おり 、2本 鎖糖 鎖 で の変 化 を来 すIgG AFPhaptoglobinとは 傾 向を 異 に した 。 フコ シ ル 化3本鎖糖鎖310.8を結合する 蛋白質は 抗 癌 剤 か ら 細 胞 を 保 護 す る 何 ら か の 機 能 を 有 し て い る 可 能 性 が 推 察 さ れ た 。   310.8の 合成 に 必要 と されるも うーつの 糖転移酵 素がGnT‑IVである 。その活 性は大腸 癌 の 転 移、 絨 毛癌 、 腎 癌な ど で 変化 す ると い う 報告 があ る。膵癌 細胞ではGnT‑IVのアイソ ザイ ムの挙動 が異なり 、GnT‑IVaは発現 減少、GnT‑IVbは発 現増加す ると報告 されている。

本 研 究 で はGnT‑IVに よ っ て 合 成 さ れ る3本 鎖 糖 鎖 は 耐 性 株 で 増 加 し た が 、GnT‑IVaと GnT‑IVbのmRNA発現 は 糖鎖存 在量の傾 向と一致 しなかっ た。糖鎖合 成は糖ヌ クレオチ ド、

糖転 移酵素、 結合する 蛋白質、 糖鎖と糖転 移酵素の 分解など の諸条件 によって 左右される ため、さらに詳細な検討を要すると思われた。

  GnT‑Vは 腫瘍 の 悪性 度 の 指標 で ある と い う報 告 の ー方、Squamous cell carcinomaでは GnT‑V活 性 と シス プ ラチ ンの感 受性が一 致すると いう報告や 、膀胱癌 では予後 良好の指 標 で あ ると い う報 告 も ある 。本研究 では、GnT‑Vと その産物の 糖鎖は少 なくとも エピルビ シ

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ン、ミトキサントロンに対して抗癌剤耐性を生ずる方向に機能しないことが示唆された。

  N‑

結合型糖鎖は蛋白質と結合して存在するため、糖と蛋白質の組み合わせがその機能に 重大な影響を及ばすことが推察されている。本研究で量的変化を来した糖鎖は様カな蛋白 質と結合して抗癌剤耐性に関与する可能性が考えられるため、それらの糖蛋白質分子の同 定 が課 題のーっである。また

HLE‑EPI

HLE‑MIT

でそれぞれ強発現しているABC トラン スポーターMDRl/ABCB1 ,

BCRP/ABCG2

はいずれも糖蛋白質であり、.これらの分子に関し てはN‑ 結合型糖鎖の有無による発現、局在、機能の変化が検討されている。しかし、N‑

結合型糖鎖の構造変化と分子の性質との関係については検討されていない。ABC トランス ポーター分子に結合する糖鎖構造の同定と、その構造と機能の関係についての研究がさら なる課題である。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨

     学位論文題名

    N‑glycan alterations are associated with drug resistance in human hepatocellular carcinoma      (抗癌剤耐性肝癌細胞株におけるN‑ 結合型糖鎖の変化)

  癌の化学療法は手術、放射線などとともに癌治療の柱として位置づけられ、外科領域に おいても術後の補助療法や再発・転移の治療で効果を上げている。化学療法において大き な障壁となるのが抗癌剤耐性である。耐性にはABCトランスポーターを初めとする糖蛋白 質が関与している。他方、糖鎖の構造や発現量は癌の性質と密接に関連するといわれてお り、N‑結合型糖鎖の変化は癌の転移、浸潤などの性質に関係することが明らかにされてき ている。しかし抗癌剤耐性に関与する糖鎖構造を詳細に検討した研究はこれまで無く、本 研究では、ヒト肝癌培養細胞株HLEとそのepirubicin,mitoxantrone耐性株のN‑結合型糖鎖 を分析し、抗癌剤耐性に関与する可能性のある糖鎖構造を探索した。また糖鎖の生合成に 関わる糖転移酵素について、活性を糖鎖存在量から推定した上で、RT‐PCR法、Real−time R.T.PCR法を用いてmRNAレベルの発現を測定した。その結果、抗癌剤耐性機構に関与し う る 糖 鎖 と し て フ コ シ ル 化3本 鎖 糖310. 8が 同 定 さ れ た 。 ま た 糖 転 移 酵 素 N‐acetylglucosaInjりltransR汀ase(GnりVの発現が抗癌剤耐性株で低下していることから、

GnT‐Vは抗癌剤耐性機構に抑制的に作用することが示唆された。

  公開発表にあたり、副査の秋田教授より1)同定された糖鎖310.8が結合する可能性の ある蛋白質分子は何か、2)結合する蛋白質分子を構造決定する今後の方法論、について 質問があった。これらの質問に対し、1)糖鎖の量的変化には糖蛋白質全体の量的変化が反 映されていることが考えられるため、majorな蛋白質の可能性が高いが、ABCtranSporter分 子であることも十分考えられる、2)特定の糖鎖構造と結合するレクチンを用いる方法と、

最近開発されてきた糖鎖末端のシアル酸と糖鎖補足担体を化学的に結合させて結合する蛋 白質分子の構造決定をする方法がある、と回答した。

  主査の浅香教授からは、1)抗癌剤耐性機構がepigeneticな変化が主体であると考える か、それともgenetic、あるいは蛋白質レベルか、2)他の細胞株や他の抗癌剤に関する検 討ではどのような結果が出ているか、3)GnT‐Vは転移・浸潤に関与すると言われているが

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正 弘

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抗癌剤耐性に抑制的に作用する可能性 があるという結果についてはどう考えるか、という 質問があった。これらの質問には、1)(epigeneticな)糖鎖構造変化が抗癌剤耐性の原因では なく結果となっている可能性があり判断が難しいが、ABC transporterの糖鎖であればその 変化が機能の変化にっながる可能性がある、2)シスプラチン耐性癌細胞株でa5ロ1integrin のGnTV関連糖鎖構造が変化していたと いう報告やGnT‑III関連糖鎖 を発現する脳腫瘍細胞 でレクチンを反応させると抗癌剤感受性が改善するという報告がある、3)GnT‑Vによる組織 の免疫染色を行った研究では、肺癌のstageIでは予後不良の因子となるという報告があり、

また食道癌では癌化の初期で発現が増 強し進行すると低下するという報告がある。マーカ ーとしての方向性はまだcontroversialであると回答した。

  最後に副査の藤堂教授より、本研究 を通して得られた結果をどのように発展させていく かという点について質問があった。こ の質問に対し、近未来的には糖鎖が結合している蛋 白質の同定と機能の変化を追求し、創薬や遺伝子治療にっなげていくことが考えられるが、

抗癌剤治療後の手術材料を得ることが 難しいため、臨床検体を用いた研究という部分が壁 になると考えられる。また糖鎖・蛋白 質研究についてはグライコミクス、プ口テオミクス の手法が発達してきており、ハイスル ープットな分析を行って検体数をこなすことで解明 を図っていくことが良いと考える、と回答した。

  本研究は、抗癌剤耐性に関与しうる 糖鎖構造と、抑制的に作用しうる糖転移酵素をそれ ぞれ明らかにした。これらをkey moleculesとして、抗癌剤耐性機 構の解明がさらに進む ことが期待される。

  審査員一同は、これらの成果を高く 評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ 申請 者が 博士 ( 医学 )の 学位 を受 ける のに 充分 な資 格を有するものと判定し た。

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参照

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   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院研究科における研鑚と併せ、申 請 者 が博士 (医 学) の学 位を受 ける のに 充分 な資格 を有 する ものと

審査員一同は、本研究がインスリン受容体異常症の治療としてのthIGF −1