博士(文学)工藤祐嗣 学位論文題名
古辞書における漢字の字体注記と処理手段 学位論文内容の要旨
第1章・ 第2章は、古辞書の字体注記 の分析を目的としている。
第1章「 『篆 隷万 象名 義 』. 『大 広益 会玉 篇 』に おけ る原 本 系『 玉篇 』の 字体 注記の受容」に お いて は、 『玉 篇 』系 宇書 の字 体 注記 に着 目し 、字 体 注記を抜き出して相 互比較を行った。その 結 果、 まず 、『 大 広益 会玉 篇』 の 字体 注記 には 、原 本 系『玉篇』の注記を 継承するものが多いこ と が明 らか とな っ た。 これ は、 『 大広 益会 玉篇 』の 「 反切」が大きく書き 換えられているのとは 異 なる 現象 であ る 。ま た、 『大 広 益会 玉篇 』の 「籀 文 」注記の漢字を『篆 隷万象名義』と比較す る こと で、 『篆 隷 万象 名義 』の 五 帖以 外の 帖に おい て は「籀文」注記が「 同」系統の注記に変化 し て い る こ と が 明 ら か と な り 、 「 籀 文 」 注 記 の 受 容 の 姿 勢 を 推 測 で き る 結 果 と な っ た 。 第2章「『 大広益会玉篇』.『大宋重修広韻』の字体注記について」では、『大広益会玉篇』.『大 宋 重 修 広 韻 』の 字 体注 記の 全体 的な 概 観を 明ら かに した 上 で、 両辞 書に 共 通す る文 字を 考察 の 対 象と して 、字 体 注記 がど の程 度 共通 して いる かに つ いて 明ら かに した 。 第1章 では、『玉篇』
系 の辞 書に 考察 対 象が 限定 され て いた が、 本章 では 、 『切韻』系韻書の字 体注記にも考察を広げ る こと となった。全 体を概観した結果、『大宋重 修広韻』には、『大広益会 玉篇』と較べて「俗」
系 統 の 字 体 注記 が 多い こと など が明 ら かに なり 、ま た、 両 書を 比較 した 結 果、 共通 する 文字 の 主 要 な 字 体 注 記 の 規 範 に は 、 大 き な 異 な り が な い こ と が 明 ら か と な っ た 。 第3章 ・ 第4章 で は、 古辞 書の 漢字 を 、電 子テ キス ト上 で 表現 して ゆく 問 題に つい て論 じた 。 第3章 は、 沢存 堂本 『大 宋 重修 広韻 』の デー タ ベー スの 設計 の 手段 につ いて 論じ たものである。
『 大 漠 和 辞 典』 を コー ドブ ック とし て デー タベ ース を設 計 する こと につ い て、 その 問題 点や 解 決 策 に つ い て論 じ 、デ ータ ベー ス化 を 実践 した 。設 計し た デー タベ ース に つい ては 、イ ンタ ー ネ ッ ト に よ っ て 公 開 す る 。 本 章 は 、 デ ー タ ベ ー ス と 対 と な る べ き 規 格 書 の 実 践 で あ る 。 第4章 は 、 第3章 の デ ー タ ベ ー ス の 設 計 に お い て 行 っ た 文 字 同 定 の 包 摂 規 準 を 、JIS X0208:1997所 収 字 に 限 定 し て 、 よ り 精 密 な 形 で 具 体 的 に 例 示 する もの で ある 。こ の章 の段 階 に よ っ て 、 宋版 と 現代 漢字 字体 との 包 摂規 準に つい て、 多 くの 規準 の例 示 の達 成が 得ら れた 。 また、本 論には、以下の資料が付属し ている。
『大広 益会玉篇』字体注記索引 『大宋 重修広韻』字体注記索引
沢存堂 本『大宋重修広韻』所収のJIS漢字一覧表 『大宋 重修広韻』データベース
資料 「『 大広 益 会玉 篇』 字体 注 記索 引」 およ び「 『 大宋重修広韻』字体 注記索引」は、第二冊
「 資料 篇一 」に 収 録し た。 第1章・ 第2章に 関連 して 、 『大広益会玉篇』. 『大宋重修広韻』の全 ―34―
字体注記をひきあてることを目的とした索引である。
資料「沢存堂本『大宋 重修広韻』所収のJIS漢字一 覧表」は、第4章に関連して、『大宋重 修広韻』所収のJIS X0208:1997所収字を全て一覧として示したものである。沢存堂本『大宋 重修広韻』とJIS X0208:1997の字形双方を示し、また、同定に用いた包摂規準も合わせて示 し、具体的にどのように同定を行ったかを明示している。
資料「『大宋重修広韻』データベース」は、第3章において設計手段を示したデ一夕べースを、
そのままイン夕一ネット上に公開したものである。まだ改善すべき点は多いと思うが、本論に 添付する便宜もあり、公開している。
ー 35―
学位論文審査の要旨
学位論文題名
古辞書における漢字の字体注記と処理手段
本論文は、原本系『玉篇』.『篆隷万象名義』.『大広益会玉篇』.『大宋重修広韻』等の古辞書 に於ける字体注記に注目して、その相互関連・受容の実態を実証的に解明し、また、『大宋重修 広 韻 』 を デ ー タ ベ ー ス 化 し 、JIS漢 字 と の 文 字 同 定 を 行 っ た も の で あ る 。 第1章及び第2章の字体注記の部分は、『大広益会玉篇』の「反切」が原本系『玉篇』のそれ を大きく書き換えたものとなっているのとは異って、『大広益会玉篇』の字体注記は原本系『玉 篇』の注記を継承したものが多いことを実証し、また『大宋重修広韻』と『大広益会玉篇』と の字体注記を全面比較して両者の規範には大きな異りがないことを実証して、専門分野の全国 学 会 に 於 い て 研 究 発 表 し 、 高 い 評 価 を 得 て そ の 論 文 が 機 関 誌 に 掲 載 さ れ て い る 。 第3章及び第4章は、学界の基本資料である沢存堂本『大宋重修広韻』を『大漠和辞典』を コー ドブックとしてデータベースを作成し、文字同定の包摂規準をJISX0208に依拠して具体 的に例示したものであり、将来の研究の進展を見込んで作成したデ一夕べースであり、基礎的 労作として評価し得るものである。
付属資料類も学界共有の工具書として有用なものである。
以上より、当委員会は、全員一致して、本論文を博士(文学)の学位授与に相応しいものと 認定する。
― 36―