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博 士 ( 薬 学 ) 海 藤 功 一

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 海 藤 功 一

学 位 論 文 題 名

バ ク テ リ ア の 多 剤 排 出 に 関 す る 研 究 : 培 地 組 成 の 排 出 活 性 に 及 ぼ す 影 響

. 学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  バク テリ アの薬剤耐性は抗生 物質などの薬物が無効になることから化学療法上 の 障壁 にな っている。このバク テリアの中には構造上相関性のない様々な薬物に 対 する 耐性 (多剤耐性)を獲得 しているものが出現している。最近ニの多剤耐性 は、一つの 輸送担体で構造上全く相関性のなLヽ多種多様な薬物を排出する輸送担 体 (多 剤排 出輸 送担 体 )に よる 薬物 の排 出に よる こと が明 らか になってきた。

  従来 の研 究では抗生物質、抗 癌剤、消毒薬などの存在下で生育可能な菌株が単 離 され 、そ の排 出輸 送 担体 が研 究さ れてきた。本研究では2種のバクテリアにお しヽて多剤 排出輸送担体の薬物排出活性は薬物が存在しないにも関わらず、過剰量 の 糖や アミ ノ酸存在下で培養す ることにより増大することが明らかになった。ニ の 結果 は多 剤排出輸送担体の生 理的役割を考察する上で重要な鍵になるニとが考 え られ た。 一方、過剰量の栄養 物質存在下で培養することにより薬物排出が抑制 さ れる 多剤 排出輸送担体に関す る知見が得られ、この知見は輸送担体の起源を考 察する上で 重要であると考えられた。

  本編は2編構成である。

  第1編では古細菌の一種である高度好塩菌Haloferax volcanii (H.レolcanii)に 存 在す る多 剤排出輸送担体の薬 物排出活性に及ぽす糖、アミノ酸の影響について 検 討し た。 過剰 量のglucose存 在下 での 培養 で、H. volcaniiの 野生株は抗腫瘍 薬 であ るdoxorubicin (DOX)に 対し て耐 性を獲得した。この培養条件下における 野 生 株 の 薬 物 排 出 活 性 をthodamine 123(RH123) を 用 い て 測 定 し た と こ ろ、

R H123排出 活性 は増 大 して おり 、過 剰量のglucose存在下での培養で獲得した薬 剤 耐性 は薬 物の 排出 に よる 耐性 であ ることが示された。過 剰量のglucose存在下 で 獲 得 し た こ のRH123の 排 出 はATPを 駆 動 カ と す る 能 動 的 な 排 出 で あ り 、 DOXを は じ め 様 々 な 抗 腫 瘍 薬 やCa2゛ 拮 抗 薬 で 阻 害 さ れ る こ と が 示 さ れ た 。 glucose以外 の糖 で検 討し た結 果、 過剰 量のfructose存在下で培養したときも薬 物 排出 活性 の増 大が 観 察さ れた 。一 方、2‑deoxyglucose、3‑O‑methylglucose、 L‑glucoseと いっ た非 代謝 性の 糖存 在下 で培養した場合、薬物排出活性は増大し な かっ た。 また 、細 胞 内ATP量 は培 養時 に糖が存在するか否かには無関係であっ た 。 従 っ て 、 薬 物排 出活 性の 増大 は 駆動 カで あるATPの増 大に よ るも ので はな い 。こ れら の結果から、野生株 の薬物排出活性は菌体が利用できる糖が存在する と き に 増 大 し 、 そ の 増 大 に 糖 の 代 謝 が 必 須 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。

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  糖 以外 の栄 養物質であるアミノ酸存在下で培養した野生株の薬 物排出活性を測 定し た。 その 結果 、過 剰量 のLeu存在 下での培養により、糖の場 合と同様に薬物 排出 活性 が増 大することが示された。様々なアミノ酸について検 討したところ、

薬物 排出 活性 に対するアミノ酸の影響は一様ではなく、薬物排出 活性を示さない アミノ酸も存在した。薬物排出活性を増大させた比較的脂溶性の高いアミノ酸は、

その 脂溶 性が 膜に相互作用を及ぼし薬物排出活性が増大したこと も考えられた。

実際 、膜 に影 響を及ぼすアルコールを含む培地で培養したところ 野生株の薬物排 出活 性は 増大 した。アミノ酸の脂溶性度に対する薬物排出活性を プロットした結 果、各アミノ酸(ま2群に分類でき、同じ脂溶性度を有するにもかかわらず、葉物 排出 活性 の異 なるアミノ酸が存在した。このことは薬物排出活性 の増大は脂溶性 のみ では 説明 できないことを示している。水溶性の高い物質であ る糖はその代謝 によ って 薬物 排出活性を増大させることを考慮すると、アミノ酸 の代謝が薬物排 出活性の増大に深く関与すると考えられた。

  第2編で はH. volcanii以 外の バク テリ ア、 真正 細菌 であ るCorynebacterium glutam icum(C.glutamicum)に 存在 する多剤排出輸送担体の薬 物排出活性に対 する 糖の 影響 を検 討し た。C.がutamicumにはethidium bromide(EtBr)を代表的 な基 質と する 多剤排出輸送担体とtetrapheny】phosphonium ion (TPP)を代表的 な 基 質 と す る 多 剤 排 出 輸 送 担 体 の2つ の 多 剤 排 出 輸 送 担 体 が 存 在 し た 。   C. 〆utamicumの 野 生 株 を 過 剰 量 のglucose存在 下で 培養 した 場合 、EtBrを 排出 する 多剤 排出 輸送 担体 の薬 物 排出 活性 はほ とん ど増 大し なか ったっ一方、

TPPを 排 出 す る多 剤 排出 輸送 担体 の薬 物排 出活 性が 増大 し、 その 増大 は非 代 謝 性のglucose誘 導体 であ る2‑deoxyglucose存在下で培養した場合 には観察されな かっ た。 これ らの 結果 からTPP排 出活 性の 増大 にglucoseの代 謝が 必須であるこ とが 示さ れた 。栄養物質の代謝が薬物排出活性を増大させること はH.レolcanii に 特 異 的 な こ と で な くC. 〆utam icumに おい ても 該当 する こと が示 され た 。   EtBr耐 性株 をglucose存在 下で 培養 した場合、、EtBrを排出す る輸送担体の排 出活 性は 消失 する こと が観 察さ れ た。 バク テリ アに おい てphosphotransferase system (PTS) に よ り 輸 送 さ れ る 糖(PTS sugar)はPTSに よ り 輸 送 さ れな い 糖 (non‑PTS sugar)の 輸送 を抑 制す る現 象が知られており、この現 象はカタボライ ト抑 制と 呼ば れて いる 。EtBr排 出 はPTS sugarであるglucoseやfru ctose存在下 での 培養 によ り抑 制さ れ、non‑PTS sugarであ るgalactoseを 含む 培地で培養し た 場 合 は 抑 制 され なか った 。ま た、EtBr排出 活 性の 抑制 に対 するglucoseの 濃 度依 存性 はカ タボ ライ ト抑 制の 典 型で あるgalactoseの輸送活性 に対するそれと よく 一致 して いた 。こ れら の結 果 からEtBrを排 出す る多 剤排 出輸 送担体はカタ ボライト抑制を受ける可能性が考えられた。人工化合物である薬物を輸送する輸送 担体がカタボライト抑制を受けることは生理的には考え難いのでC glutamicumのEtBr排 出輸送担体は糖の輸送担体が突然変異を起こした結果、薬物を排出するようになったの で は な い か と 考 え ら れ る が 、 現 在 の と こ ろ 詳 細 は 不 明 で あ る 。   以 上本 研究 はバクテリアに存在する多剤排出輸送担体の薬物排 出に対する栄養 物質の影響を検討し、多剤排出輸送担体は栄養物質により活性化、.或いは抑制き れることが示された。

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学位論文審査の要旨

主 査    教 授    加 茂 直 樹 副 査    教 授    鎌滝 哲也 , 副 査    助 教 授    横 井    毅 副 査    講 師    宮 内 正 二

学 位 論 文 題 名

バクテリアの多剤排出に関する研究:

培地組成の排出活性に及ぼす影響

    本 論 文 学 位 論 文 は 古 細 菌 に 属 す る 高 度 好 塩 菌Haloferax volcanii お よ び 真 性 細 菌 で あ るCorynebacterium glutamicumの2種 の 細 菌 を 用いて ,菌体の薬 物排出活 性の培養 時の培地 組成の影 響を調べ たものであ り ,3編 か ら 構 成 さ れ て い る . 第1編 は 〃 .volcanii, 第2編 はc・ glutamicumに 関 す る も の で あ り , 第3編 は 実 験 法 を 述 べ て い る .     申請者 より以前の 研究で, 〃.volcaniiでは 多剤耐性 を示す耐 性株が 取られ ていた.こ こで,多 剤耐性と は多くの 種類の抗 ガン剤, 毒物や薬物 に対し て耐性を示 すことを 意味する .この耐 性株の多 剤耐性の 原因は能動 的な薬 物排出に寄 るもので あり,そ の排出輸 送体が構 造的に相 関性のない 多くの 薬物を認識 し,排出 すること により, 多剤耐性 を示すこ とが,申請 者の研 究以前に明 らかにさ れていた .この耐 性株は徐 々に濃度 を上げなが ら 抗 ガ ン 剤 存 在 下 で 継 代 培 養 し て 取 ら れ た も の で あ る ,     第1編 第1章 に お い て , 申 請 者 は 多 剤 耐 性 を 示 さ な いH volcanii 野生株 をグルコー スまたは フラク卜 ―ス存在 下で培養 すること のみで,菌 体 はATP依 存 性 の 多 剤排 出 輸 送活 性 を示 す よ うに な るこ と を 発見 し た ,

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一般に高 度好塩菌は 糖を代謝す ることは出来ないが. H volcanii は糖 を利用出来る.しかし,その生育に糖の存在は必須ではない.グルコース の代わりに非代謝性の糖の添加では,排出輸送活性の発現は見られなかっ た.

     第2 章において,培地への糖の添加のみでなく,高濃度のアミノ酸の 添加でも,野生株に排出輸送活性が生じることを発見した.種々のアミノ 酸存在下で発現した輸送活陸を添加したアミノ酸のハイド口パシ―インデッ クスに対してプロットすると, 3 つのグル―プに分かれた.その内の1 つ のグループは荷電をもつ親水性のアミノ酸であり,活性の誘導に殆ど効果 がなかった.他の 2 つのグループについては,1 つのグループの中では疎 水性の高いもの程高い活性を引き起こしたが,2 つのグル―プにわたって 考えると,同じ疎水性でも,弓I き起こす排出活性は犬きく違っていた.

     第3 章では,これら糖とアミノ酸の結果を総合して考察している.推 定にしか過ぎないが,大過剰の栄養物を添加することにより,通常では多 くが生成されない「細胞にとって有害な物質」が出来,それを排除するた めに排出輸送体が誘導されると推論している.有害な物質の同定は将来の 問題である.なお,アミノ酸の疎水性も関与すると思われるので,膜に何 らかの摂動を与えることでも誘導されると推論している.本結論は細菌で の考察にとどまらず,ガン細胞に発現する P ―糖夕ンパクについても適用 できると思われる.

     第2 編 はc .  glutamicum に関 す る結果を 述べている .Hvolcanii

は古細菌と呼ばれている生物のグループに属し,真核生物に近い生化学的

性質を持っている.そこで,古細菌のみでなく,その他の細菌にも,栄養

物 過 剰 負 荷 の 効 果 が 見 ら れ る か ど う か を 検 討 す る た め に , c .

glutamicum を選んでい る.第 1 章では,高 濃度のエチ ジュウムブ 口マ

イド存在下で生育出来る耐性株を得取している.この変異株では1 つの菌

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体 に 2 種 類の 排 出輸 送 体が 発 現し て いる こ とを 明 ら かに し てい る .      第2 章では,第1 編で見いだしたグルコースの効果を 2 つの場合につ いて検討している,まず,野生株を高濃度のグルコース存在下で培養する と, 2 種類の うちの1 種類(夕イプ 1 輸送体と名付けている)の排出輸送 活性が活性化する.従って,栄養物過剰負荷による排出輸送体の活性化と いう 現象は,H volcanii のみではない.もう1 つの排出輸送体は耐性株 でのみ発現しており,野生株には活性がない.そこで,グルコース存在下 で耐性株を培養してみると,排出活性は消失した.細菌をグルコ―ス存在 下で培養すると,色々な物質の膜透過や代謝に関与する酵素の発現が抑制 される現象は,力夕ボライト抑制として広く知られている,この生理的役 割は,グルコースが存在するときはグルコースを優先的に利用することに

.より,無駄なタンパクを合成しないことにある.薬物排出輸送体がカタボ ライト抑制を受けることは,従って,合目的でない.そこで,申請者は,

エチジュウムブ口マイドの存在下で変異株を選択したため,何らかの元来 存在する輸送体が変異して,多剤排出輸送体になったのでないかと推論し ている.この推論の当否は輸送体の一次構造の解明によって明らかにされ ると述べている.

     このように,申請者は細菌の多剤排出輸送に関して,興味ある現象を

見いだし,推論を立てている.この推論の当否は将来の研究に待たなけれ

ばならないが,興味ある今後の研究の「扉」を開いたものであり,博士

   ( 薬 学 ) の 学 位 を 授 与 す る に 十 分 で あ る と 認 め た .

参照

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