博 士 ( 薬 学 ) 海 藤 功 一
学 位 論 文 題 名
バ ク テ リ ア の 多 剤 排 出 に 関 す る 研 究 : 培 地 組 成 の 排 出 活 性 に 及 ぼ す 影 響
. 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
バク テリ アの薬剤耐性は抗生 物質などの薬物が無効になることから化学療法上 の 障壁 にな っている。このバク テリアの中には構造上相関性のない様々な薬物に 対 する 耐性 (多剤耐性)を獲得 しているものが出現している。最近ニの多剤耐性 は、一つの 輸送担体で構造上全く相関性のなLヽ多種多様な薬物を排出する輸送担 体 (多 剤排 出輸 送担 体 )に よる 薬物 の排 出に よる こと が明 らか になってきた。
従来 の研 究では抗生物質、抗 癌剤、消毒薬などの存在下で生育可能な菌株が単 離 され 、そ の排 出輸 送 担体 が研 究さ れてきた。本研究では2種のバクテリアにお しヽて多剤 排出輸送担体の薬物排出活性は薬物が存在しないにも関わらず、過剰量 の 糖や アミ ノ酸存在下で培養す ることにより増大することが明らかになった。ニ の 結果 は多 剤排出輸送担体の生 理的役割を考察する上で重要な鍵になるニとが考 え られ た。 一方、過剰量の栄養 物質存在下で培養することにより薬物排出が抑制 さ れる 多剤 排出輸送担体に関す る知見が得られ、この知見は輸送担体の起源を考 察する上で 重要であると考えられた。
本編は2編構成である。
第1編では古細菌の一種である高度好塩菌Haloferax volcanii (H.レolcanii)に 存 在す る多 剤排出輸送担体の薬 物排出活性に及ぽす糖、アミノ酸の影響について 検 討し た。 過剰 量のglucose存 在下 での 培養 で、H. volcaniiの 野生株は抗腫瘍 薬 であ るdoxorubicin (DOX)に 対し て耐 性を獲得した。この培養条件下における 野 生 株 の 薬 物 排 出 活 性 をthodamine 123(RH123) を 用 い て 測 定 し た と こ ろ、
R H123排出 活性 は増 大 して おり 、過 剰量のglucose存在下での培養で獲得した薬 剤 耐性 は薬 物の 排出 に よる 耐性 であ ることが示された。過 剰量のglucose存在下 で 獲 得 し た こ のRH123の 排 出 はATPを 駆 動 カ と す る 能 動 的 な 排 出 で あ り 、 DOXを は じ め 様 々 な 抗 腫 瘍 薬 やCa2゛ 拮 抗 薬 で 阻 害 さ れ る こ と が 示 さ れ た 。 glucose以外 の糖 で検 討し た結 果、 過剰 量のfructose存在下で培養したときも薬 物 排出 活性 の増 大が 観 察さ れた 。一 方、2‑deoxyglucose、3‑O‑methylglucose、 L‑glucoseと いっ た非 代謝 性の 糖存 在下 で培養した場合、薬物排出活性は増大し な かっ た。 また 、細 胞 内ATP量 は培 養時 に糖が存在するか否かには無関係であっ た 。 従 っ て 、 薬 物排 出活 性の 増大 は 駆動 カで あるATPの増 大に よ るも ので はな い 。こ れら の結果から、野生株 の薬物排出活性は菌体が利用できる糖が存在する と き に 増 大 し 、 そ の 増 大 に 糖 の 代 謝 が 必 須 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。
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糖 以外 の栄 養物質であるアミノ酸存在下で培養した野生株の薬 物排出活性を測 定し た。 その 結果 、過 剰量 のLeu存在 下での培養により、糖の場 合と同様に薬物 排出 活性 が増 大することが示された。様々なアミノ酸について検 討したところ、
薬物 排出 活性 に対するアミノ酸の影響は一様ではなく、薬物排出 活性を示さない アミノ酸も存在した。薬物排出活性を増大させた比較的脂溶性の高いアミノ酸は、
その 脂溶 性が 膜に相互作用を及ぼし薬物排出活性が増大したこと も考えられた。
実際 、膜 に影 響を及ぼすアルコールを含む培地で培養したところ 野生株の薬物排 出活 性は 増大 した。アミノ酸の脂溶性度に対する薬物排出活性を プロットした結 果、各アミノ酸(ま2群に分類でき、同じ脂溶性度を有するにもかかわらず、葉物 排出 活性 の異 なるアミノ酸が存在した。このことは薬物排出活性 の増大は脂溶性 のみ では 説明 できないことを示している。水溶性の高い物質であ る糖はその代謝 によ って 薬物 排出活性を増大させることを考慮すると、アミノ酸 の代謝が薬物排 出活性の増大に深く関与すると考えられた。
第2編で はH. volcanii以 外の バク テリ ア、 真正 細菌 であ るCorynebacterium glutam icum(C.glutamicum)に 存在 する多剤排出輸送担体の薬 物排出活性に対 する 糖の 影響 を検 討し た。C.がutamicumにはethidium bromide(EtBr)を代表的 な基 質と する 多剤排出輸送担体とtetrapheny】phosphonium ion (TPP)を代表的 な 基 質 と す る 多 剤 排 出 輸 送 担 体 の2つ の 多 剤 排 出 輸 送 担 体 が 存 在 し た 。 C. 〆utamicumの 野 生 株 を 過 剰 量 のglucose存在 下で 培養 した 場合 、EtBrを 排出 する 多剤 排出 輸送 担体 の薬 物 排出 活性 はほ とん ど増 大し なか ったっ一方、
TPPを 排 出 す る多 剤 排出 輸送 担体 の薬 物排 出活 性が 増大 し、 その 増大 は非 代 謝 性のglucose誘 導体 であ る2‑deoxyglucose存在下で培養した場合 には観察されな かっ た。 これ らの 結果 からTPP排 出活 性の 増大 にglucoseの代 謝が 必須であるこ とが 示さ れた 。栄養物質の代謝が薬物排出活性を増大させること はH.レolcanii に 特 異 的 な こ と で な くC. 〆utam icumに おい ても 該当 する こと が示 され た 。 EtBr耐 性株 をglucose存在 下で 培養 した場合、、EtBrを排出す る輸送担体の排 出活 性は 消失 する こと が観 察さ れ た。 バク テリ アに おい てphosphotransferase system (PTS) に よ り 輸 送 さ れ る 糖(PTS sugar)はPTSに よ り 輸 送 さ れな い 糖 (non‑PTS sugar)の 輸送 を抑 制す る現 象が知られており、この現 象はカタボライ ト抑 制と 呼ば れて いる 。EtBr排 出 はPTS sugarであるglucoseやfru ctose存在下 での 培養 によ り抑 制さ れ、non‑PTS sugarであ るgalactoseを 含む 培地で培養し た 場 合 は 抑 制 され なか った 。ま た、EtBr排出 活 性の 抑制 に対 するglucoseの 濃 度依 存性 はカ タボ ライ ト抑 制の 典 型で あるgalactoseの輸送活性 に対するそれと よく 一致 して いた 。こ れら の結 果 からEtBrを排 出す る多 剤排 出輸 送担体はカタ ボライト抑制を受ける可能性が考えられた。人工化合物である薬物を輸送する輸送 担体がカタボライト抑制を受けることは生理的には考え難いのでC glutamicumのEtBr排 出輸送担体は糖の輸送担体が突然変異を起こした結果、薬物を排出するようになったの で は な い か と 考 え ら れ る が 、 現 在 の と こ ろ 詳 細 は 不 明 で あ る 。 以 上本 研究 はバクテリアに存在する多剤排出輸送担体の薬物排 出に対する栄養 物質の影響を検討し、多剤排出輸送担体は栄養物質により活性化、.或いは抑制き れることが示された。
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 加 茂 直 樹 副 査 教 授 鎌滝 哲也 , 副 査 助 教 授 横 井 毅 副 査 講 師 宮 内 正 二
学 位 論 文 題 名
バクテリアの多剤排出に関する研究:
培地組成の排出活性に及ぼす影響
本 論 文 学 位 論 文 は 古 細 菌 に 属 す る 高 度 好 塩 菌Haloferax volcanii お よ び 真 性 細 菌 で あ るCorynebacterium glutamicumの2種 の 細 菌 を 用いて ,菌体の薬 物排出活 性の培養 時の培地 組成の影 響を調べ たものであ り ,3編 か ら 構 成 さ れ て い る . 第1編 は 〃 .volcanii, 第2編 はc・ glutamicumに 関 す る も の で あ り , 第3編 は 実 験 法 を 述 べ て い る . 申請者 より以前の 研究で, 〃.volcaniiでは 多剤耐性 を示す耐 性株が 取られ ていた.こ こで,多 剤耐性と は多くの 種類の抗 ガン剤, 毒物や薬物 に対し て耐性を示 すことを 意味する .この耐 性株の多 剤耐性の 原因は能動 的な薬 物排出に寄 るもので あり,そ の排出輸 送体が構 造的に相 関性のない 多くの 薬物を認識 し,排出 すること により, 多剤耐性 を示すこ とが,申請 者の研 究以前に明 らかにさ れていた .この耐 性株は徐 々に濃度 を上げなが ら 抗 ガ ン 剤 存 在 下 で 継 代 培 養 し て 取 ら れ た も の で あ る , 第1編 第1章 に お い て , 申 請 者 は 多 剤 耐 性 を 示 さ な いH volcanii 野生株 をグルコー スまたは フラク卜 ―ス存在 下で培養 すること のみで,菌 体 はATP依 存 性 の 多 剤排 出 輸 送活 性 を示 す よ うに な るこ と を 発見 し た ,