博 士 ( 医 学 ) 吉 岡 千 佳
学 位 論 文 題 名
遺 伝 子 導 入 療 法 を 用 い た
同 種 神 経 移 植 に お け る 拒 絶 反 応 抑 制
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
同 種 神 経移 植 に つい て は 数多 く の 実験 的 研 究が 行 わ れ ている が、通常 拒絶反 応抑制の た め に 免 疫 抑 制 剤 の 長 期 全 身 投 与 を 要 し 、 そ れ に よ る 副 作 用 が 問 題 と な る 。 近 年 新 た な 免 疫 抑 制 物 質 とし て 、 可溶 性 融 合 蛋白CTLA4Igが 注 目 され て い る。CTLA4Ig は 細 胞 接 着 分 子 を 介 し たT細 胞 活 性 化 に 必 要 な シ グ ナ ル2を 阻 害 す る こ と に よ り 急 性拒 絶 反 応 を 抑 制 す る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 こ のCTLA4Ig遺 伝 子を 組 み 込ん だadenovirus vector (AdCTLA4Ig)を 用 い た遺 伝 子 導 入療 法 に より 同 種 神経移 植の拒 絶反応を 抑制でき る 可 能 性 が あ る 。 本 研 究 で はAdCTLA4Igの 局 所 及 び 全 身 投 与 が同 種 神 経移 植 に おけ る 拒 絶 を 抑制 可 能 か、 ま た2つ の 投 与法 に は 拒絶 反 応 抑制 効 果 に 差が あ る かど う か を検 討 し た。
く材料と方法>
AdCTLA4Igを 精製し 、109PFU/ml (plaque forming units per ml)台のvlrus溶液を得た。実 験 動物 は 週 齢7〜 10週 、 体重250〜300gの 雄ACIラ ッ ト(R襾 ) と 雄Lewisラ ッ ト (Rnっを 使 用 し 、ACIをdonorに 、Lewisをrecipientに 用 い た 。Donorか ら 採取 し た 坐 骨神 経15mm をrecipientの 坐 骨 神 経 に 作 成 し たSmmのgapに 移 植 し た 。 実 験群 はsyngeneic群(n=10, Lewis to Lewis)、allogeneic非治療群(n=10)ヽallogeneic局所投与群(n〓10)、allogeneic全 身 投与 講 (n=10)を 設 定 した 。 局 所投 与 群 は術 中AdCTLA4Ig (3x108 PFU)を 移植神経 に直 接 注射 し 、 全身 投 与 群は 術 直 後にAdCTLA4Ig(1x109 PFU)を 静 注 レた 。 局 所投 与 群 は術 後 1、2週 で 移 植 神 経 のCTLA4Ig発 現 を 免 疫 組 織 科 学 的 染 色 に よ り 観 察 し た 。 全 身 投 与 群 は 投 与 後3、7、10、14、21日 にCTLA4Ig血 中濃 度 を 測定 し た 。拒 絶 反 応の 評 価 は術 後2、 8週 で 各 群5匹 ず っ 移 植 神 経 を 採 取 しH‑E染 色 後 光 顕 に よっ て 組 織病 理 学 的評 価 を 行い 、 Buttermeyerの 示 す 評 価 法 を 用 い て 拒 絶 のgradeを 定 量 化 し た。 術 後8、16週で は 各 群 の motor nerve conduction velocities (MNCV)の 測 定を 行 い、 各ラッ トの反対 側の坐 骨神経 MNCV値により標準化した。
各 群 の 組 織 病 理 学 的 、 電 気 生 理 学 的 評 価 よ り 得 ら れ た 値 の 平 均 はANOVAとFisher protected least significant difference testを用いて統計学的比較検討を行った。P値く0.05で 有意差有りとした。
く結果>
局所投与群のCTLA4Ig発現は術後1週の移植神経内に観察された。
全 身 投 与 群 で は 血 中CTLA4Ig濃 度 は 投 与 後7〜10日 で ピ ー ク に 達 し そ の 後 漸 減 する 傾 向がみられたが、21日まで高濃度を維持していた。
組 織 病 理学 的 評 価で は 、syngenelc群 の 移 植 神経 は 術 後2、8週共 に 正 常な 神 経 周膜 構造 を 呈し 、 単 核球 浸 潤 、神 経 束 内瘢 痕 形 成は ほ と んど 認 め ら れな か っ た。 術 後8週 の 組 織で は 再生 有 髄 神経 が 多 数認 め ら れた 。 一 方非 治 療 群で は 術 後2週 で は 単核 球 浸 潤と 瘢 痕 形成 が 著明 で 、8週 で は 瘢痕 形 成 が高 度 と なり 神 経 周膜 構 造 の 破壊 も 認 めら れ た 。局 所 投 与群 で は 術 後2週 で は 単 核 球 浸 潤 、瘢 痕 形 成は 比 較 的 軽度 で あ った が 、8週 で は 瘢痕 形 成 が著
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し く、神経周膜構造の破壊も認められた。全身投与群では術後2週では軽度の単核球浸潤 が 認められるのみで、8週でも神経周膜構造は保たれ微細な再生有髄神経も認められた。
電 気生 理 学 的評 価 では 術 後8週 では、非治 療群と局 所投与群 ではMNCVは測 定不能で あ った。全 身投与群 の平均MNCV健 側比は41.2% で、syngeneic群の平均健側比と有意差 は な か った 。 術後16週に 測 定 した 全 身投 与 群 の平 均MNCV健側 比も74.2%と良好 で、
syngeneic群と有意差はなかった。
く考案>
同 種神経移 植の研究 において 、拒絶反応抑制のためにはcyclosporineAやFK506のよう な免疫抑制剤が重要な役割を占めている。しかしこれらの免疫抑制剤は長期間全身投与を 要し、日和見感染、腎障害などの重篤な副作用が問題となる。
こ の問題を 解決する ために新 たな免疫抑制療法として、T細胞活性化のシグナル2を標 的 とした方 法が研究 されてい る。同種 神経移植分 野におい ても抗ICAM‑1抗体、抗LEA‑1 抗体のような細胞接着分子に対するモノク口ーナル抗体を用いた研究が報告されているが、
この場合もモノクローナル抗体の投与を一定期間要する。
そ のため著 者は高い 免疫抑制 能カを持 っとされるCTLA41gに着目した。最近の臓器移 植 分野においてはCTLA4Igによる移植片の長期生着や免疫寛容獲得の報告が多数みられ、
著 者らもラ ット肢移 植モデル を用いてCTLA4Ig全身投与が 複合組織移植における拒絶反 応 抑制に有 効であっ たことを 報告して いる。さら に昨今はAdCTLA4Igを用いた遺伝子導 入療法も同種臓器移植の拒絶反応を抑制することが報告されているが、同種神経移植にお いてはAdCTLA41gを用.いた報告はなかった。
今 回の研究 では同種 神経移植 において移植神経へのCTLA4Ig‑geneの局所的導入が可能 で あ る こと が 確認 さ れ た。 こ の 結果はadenovirus vectorを 用いた末 梢神経で の他の therapeutic molecules発現を確認した過去の報告を支持するものである。しかしその一方 AdCTLA4Ig局 所投与で は長期間 の移植片 生着は得 られなかっ た。この理由としては、局 所 投与では 全身投与 と異なりCTLA4Igは主に移植神経内のSchwann細胞で発現するため、
そ の数は必 然的に限 定され、 発現するCTLA4Ig量も急性拒 絶反応を抑制するには不十分 であった可能性が考えられる。また今回投与した部位は移植神経であったため、正常神経 に導入するよりも蛋白の発現期間も短かった可能性がある。この問題を解決するためには 末 梢神経へCTLA4Ig‑geneをより効率よく導入可能にするvector systemや持続的に導入で きる局所投与法の工夫が必要であると考えられる。
一 方AdCTLA41g全身投 与では非 治療群に 比して拒 絶反応は有意に軽度で、電気生理学 的 回復もsyngeneic群と同様に認められた一方、副作用の発現は認められなかった。また 今 回AdCTLA4Ig単 回投 与 後 のCTLA4Ig血 中濃 度 は 、過 去 の文 献 で 示さ れ たCTLA4Ig蛋 白 多数回投 与よりも 長期に高 濃度を維 持できた。 そのためAdCTLA4Ig全身投与は長期間 拒絶抑制効果を維持することが可能で、recipientへのストレスは他の免疫抑制療法よりも 軽 度であると考えられる。今回の結果よりAdCTLA4Ig全身投与による遺伝子導入療法は、
従来と異なり少ない投与回数で同種神経移植における拒絶反応抑制が可能であると結論で きる。
本 研究 よ りAdCTLA4Ig局所 投 与 では移植 神経へのCTLA4Ig‑gene導 入は可能 であった が 、、移植片の長期生着は得られなかった。一方AdCTLA4Ig全身投与では単回投与で拒絶 反応抑制が確認され、同種神経移植における新たな免疫抑制療法の可能性が示唆された。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
遺 伝 子 導 入 療 法 を 用 い た 同種神経移植における拒絶反応抑制
同種神経移植については数多くの実験的研究が行われているが、通常拒絶反応抑制のた めに免疫抑制剤の長期全身投与を要し、それによる副作用が問題となる。近年新たな免疫抑 制 物質 とし て、 可溶 性 融合 蛋白CTLA4Igが注 目さ れ てい る。CTLA4Igは細胞接着分 子を 介 したT細胞活性化に必要なシグナル2を阻害することにより急性拒絶反応を抑制す るこ 、
と が報告されている。このCTLA4Ig遺伝子を組み込んだadenovirus vectorくAdCTLA4Ig) 十
を用いた遺伝子導入療法により同種神経移植の拒絶反応を抑制できる可能性がある。本研究 の目的はA〔lCTし゜mIg全身投与及び局所投与を用いた遺伝子導入療法により同種神経移植 の 拒絶 反応 を抑 制可 能 か, またAdCTuAIg全身 投与 と局 所投与で拒絶反応抑制効果 に差 があるかを明らかにすることである。
AdCTLA41gを 精 製 し 、109PFU/m1(plaqueformingunitspermD台 のvirus溶 液 を 得 た 。 実 験 動 物 は 週 齢7〜10週 , 体 重250〜300gの 雄ACIラ ッ ト (R卵 ) と 雄kwisラ ッ ト (R刪 ) を 使 用 し ,ACIをdonorに,Lewisをrecipientに用 いた 。Donorか ら採 取し た 坐 骨 神 経15mmをrecipientの 坐 骨 神 経 に 作 成 し た5mmのgapに移 植し た。 実験 群は SyngeneiCgraft群(n゜10,LeWiStOLeWiS)、allogeneiCgraft非治療群(n 10)、a110geneiC graft局所投与群(n 10)、allogeneicgraft全身投与群(n 10)の4群を設定した。局所投 与 群は 術中AdCTLA41g(3x108PFU) を移 植神 経に 直 接注 射し 、全 身投 与群 は術 直後 に AdCTLA41g(1xl09PFU)を 静注 した 。遺 伝子 導入 の 確認 はAdCTLA41g局所投与後の 移植 神 経 で のCTLA41g蛋 白 発 現 を 免 疫 組 織 化 学 的 染 色 に て 確 認し た。 全身 投与 後の 血中 CTuL41g濃度はELISA法によ り測定した。拒絶反応の評価は術後2,8週で移植神経を 採取 し,HーE染 色後光顕によって組織病理学的評価を行い,拒絶のgradeを定量評価した。電 気 生 理 学 的 評 価 と し て は 術 後8,16週 で 坐 骨 神 経 の 神 経 伝 導 速 度 を 測 定 し た 。
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男 光
郎
明 利
菊
浪 出
島
三 上
福
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
AdCTLA4Ig局 所投 与 後 は移 植 後1週 で移植 神経にCTLA4Ig蛋白 の発現が 認めら れ,移 植 神経へ のCTLA4Ig−gene局所的 導入が 示された。しかし組織病理学的評価では術後2週 では非治療群よりも拒絶所見は軽度であったが,8週では非治療群と同程度で,移植片の長 期 間の生 着は得られなかった。また術後8週の神経伝導速度も測定不能であった。一方全 身 投与群 では,血 中CTLA4Ig濃度は投 与後7¥‑10日でピークに達し,その後漸減する傾向 がみられたが,21日まで高濃度を維持していた。また組織病理学的には,術後2,8週とも に 非治療 群に比較 して拒 絶所見は 軽度であ った。 電気生理 学的に も術後8,16週ともに syngeneic graft群と同等の神経伝導速度の回復が認められた。
審査にあたり副査福島教授より拒絶反応の観察期間,神経伝導速度の測定方法,神経伝導 速度の回復状態について,副査上出教授より神経移植における免疫反応,局所投与方法の改 善 策につ いて,主 査三浪 教授より 今回着目したCD28―B7間以外の細胞接着分子の利用,
AdCTLA4Igの投 与時期 の検討に ついて, また今 回観察し た16週以 後に免疫寛容が得られ るかについて質問があり,申請者はこれらの質問に対して今回行った動物実験の結果と過去 の文献を引用し適切に回答した。
この論文は同種神経移植における拒絶反応抑制のために新たな免疫抑制物質を用い,ま声 新たな投与方法として遺伝子導入療法を用いて組織病理学的,電気生理学的検討を行った独 創 的な研 究であり,AdCTLA4Igを用いた拒絶反応抑制の可能性を明らかにした点で同種神 f
経 移植分 野に大き く寄与 した。こ のAdCTLA4Igを用いて さらに 追加の基礎的実験が行わ 1
れ れ ば , 同 種 神 経 移 植 に お け る 新 た な 免 疫 抑 制 療 法 の 臨 床 応 用 が 期 待 さ れ る 。 審査員一同は,これらの成果を高く評価し,大学院過程における研鑽や取得単位なども併 せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) . の 学 位 を 受 け る 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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