博 士 ( 農 学 ) ニ ュ ン ト フ ェ イ
学位論文題名
Studies on Highly Selective Antifungal Antibiotics
高 い 選 択 性 を 有 す る 抗 真 菌 抗生 物 質 に関 する 研究
学位 論文内容の要旨
抗真 菌抗 生物質抗生物質に関する研究は、増えつっあるカビ感染症の治療、植物病原 菌や環境に悪影響を及ぼす糸状菌(Cladosporium,Fusarium,Alternariaなど)の抑制と いった医薬、農業の両点で常に必要とされている。特に、不完全菌であるAlternalia sp.
は 、生 きた 植物に寄生もしくは様々な有機物に腐生する。同様に、Fusarium sp.も植物 に 寄生 し、 病気を引き起こす植物病原菌であり、農業においてこれら糸状菌株の抑制が 難 題の ーっ となっている。これまでにも、非常に多様な天然物質、また半合成および合 成 化合 物が 様々な起源から単離され、スクリーニングされた。特に、今日では生態系と 同 様に 人体 に影響のない抗生物質が求められている中、容易に生物分解される微生物代 謝産物が注目されている。
こう いっ た背景の中で、選択性の高い効果的な抗カピ抗生物質を探し出すことを目的 として、主にAlternalia sp.とFusarium sp.に対して活1生をもつ抗生物質のスクリーニン グを行った。また、Bacillus subtilis、Salmonella typhimuriumとE,coliも被検菌として 用 いた 。本 研究では、得られた抗真菌抗生物質生産株の同定、培養条件、抗生物質の単 離方法、活性、構造などについて検討を行った。
本研究の結果を要約すると、
1. 土壌 から 分離された226株の放線菌を試験した結果、Alternalia sp. S‑1に対して異 な る活 性を 示す4株を 得た 。そ の中 から 、その生産物質の活性の強さと疎水性とぃった 点から、Stiーeptom yces sp.の1株をAlternalia sp.とFusarium sp.に対する抗カビ物質生産 株として選択した。
2.北海道札幌市の土壌より単離されたこの株は、Streptomyces aurantiogriseusと同定 さ れ た た め 、 本 菌 をStreptomyces aurantiogriseus NPO‑101株 と 命 名 し た 。 3. 本 菌 は 、NP‑101A、B、C‑2、C‑3の4つの 抗 生物 質を 培養 液中 に生産 して いる こと が わか った 。そ こで 、NP‑101を 高濃 度で 得る ため の最 適培 地条 件を 検討した結果、窒 素源としてsoybean meal、yeast extractおよびcorn steep liquor powderの混合物(25十5十 lg/り を 、 炭 素 源 と し て glycerol (40g/ り を 使 用 す る こ と と し た 。 4. 本 菌 の10ゼ ジ ャ ー 培 養 を 行 っ た と こ ろ 、 抗 生 物 質 の 収 量 は60時 間後 に 最大 に達 し、そこから精製されたNP‑101Aの収量は4.8mg/ゼであった。
5.NPO‑101株に より 生産さ れる すべ ての 抗生 物質 は、 主に シリ カゲ ルクロマトグラフ
イ ー、分取型薄層クロマトグラフイー、分取型高速液体クロマトグラフイーにより培養 液および菌体の50%メタノール抽出物から精製した。
6.FD‑MS、EI‑MS、HREI‑MS、UV、IR、1H‑NMRお よ び13C.NMRの 結 果 よ り 、NP‑
101Aは 分 子 式C9Hi002N2 (MW=178)で 表さ れる2‑acetamidobenzamideと 明ら かに なっ た 。2‑acetamidobenzamideが自然界から単離され、それが抗カビ活性をもっことを示し たのは今回が初めてである。
7.NP‑1‑OIAの 作用 点を 調べ るた め、 生体 高分 子の 合成 におけ るそ の効 果を 試験 した と こ ろ 、NP‑101Aに よ りRNA合 成 は 阻 害 さ れ ず、DNA合 成 も ま た28時間 後に おい てわ ず かに 阻害 され るの みで あっ た。し かし 、夕 ンパ ク合 成は28時間後に完全に停止し、
夕 ン パク 合成 の明 らか な阻 害が見 られ た。 これ らの 結果 、NP‑101Aは主 にタ ンパ ク合 成 を 阻 害 し 、 い く ら かDNA合 成 に 関し て影 響を 及ぼ すも のの 、RNA合成 には 全く 影響 しないことがわかった。
す で に 、 化 学 合 成 さ れ たbenzamideや3位が 様々 に修 飾され た誘 導体 はpoly (ADP‑
ribose) synthetaseの阻害剤であることが報告されている。さらに、その後、3位のみな ら ず2位 や4位が 修飾 され た誘 導体の 阻害 効果 も報 告さ れた 。この事実と上記結果を考 えあわせると、NP‑101Aはpoly (ADP‑ribose) synthetaseの阻害に関与しているのではな いかと思わた。
9.NP‑101Aは、 特にAlternaria sp.、そ して その 他の 植物 病原糸状菌に対し抑制効果 が 見ら れた 。し かし 、Saccharomyces cerewclaeとぃった酵母やS.typhim urium、E. coli、 B. subtilisな ど の 細 菌 に 対 す る 活 性 は 見 ら れ な か っ た 。 10.NP‑101Bは 分 子 式CllH1406 (MW=242)で 表 さ れ 、 糸 状 菌 に 対し て活 性を 示し た。
その構造は、まだ決定中である。
11.NP‑101C‑2お よびC‑3もStreptom yces sp. NPO‑101株の培養上清から単離された。
ESI‑MSとFAB‑MSに よ り 、 こ れ ら の 分 子 量 は そ れ ぞ れ1269[MH+】 と1283[MH+】 と わ か っ た。 また 、IR、NMR、MSスベ クト ルの 結果 から 、こ れらは 同族 化合 物と 推定 され た が 、 そ の 完 全 な 構 造 は ま だ 未 定で ある 。こ れら はと もに植 物病 原性 糸状 菌、 特に Fusarium sp.に対して抗菌活性を示したが、Alternaria sp.に対しては活性は見られない とぃう興味深い結果が得られた。
さ ら に 、 農 作 物 の 利 用 を 目 的 とし 、そ こに 含ま れる 抗菌物 質の スク リー ニン グを 行った。
12.ネ ギの 加工 工程 で廃 棄さ れる 葉の 先端 、む き皮 、根 とぃっ たネ ギの 各部 分を 熱湯 お よぴ メタ ノー ル抽 出を 行い 、糸状 菌に 対す る抗 菌活 性を 試験した結果、根部分のメ タノール抽出物に強い抗菌活性が見られた。
13.メタ ノー ´レ 抽出 物は 、そ の化学的性質(ベーパークロマトグラフイーでの挙動、
pH安定 性) を考 慮し 、pH2.0で 酢酸エチルを用いて抽出することとした。主として様々 な 溶媒 系の シリ カゲ ルク ロマ トグラ フイ ー、 分取 型薄 層ク ロマトグラフイーを用いる ことで酢酸エチル抽出物からNR‑A〜Dを精製した。
14.NR‑A〜Dの 分 子 量 は そ れ ぞ れ440、412、414、488と 見 積 も ら れ 、NR‑AとNR‑B の 分 子式 はC27H5204、C29H480で あっ た。 また 、NR‑A、B、CはFusarium sp.に対 して 抗菌活性を示した。一方、NR‑DはFusarium sp.に活性は見られなかったが、B.subtilis
一 798−
とE● coliに対して活性を持っていた。
今後、NP‑101B、C‑2、C‑3およびNR‑A、B、C丶Dの構造を決定する必要があり、現 時 点 で は 、 こ れら が 新 規の もの かそう でな いか は明ら かで はな い。 しかし 、 Streptomyces sp. NPO‑101によって生産されるNP‑101やネギから抽出されたNRは、医 療、農業分野でのカビ感染症の治療や予防に役立つ新規化合物となる可能性は十分期 待される。
以上、自然界より抗真菌抗生物質を探索し、生産菌の同定、抗真菌抗生物質の単 離、構造決定、作用機作に関する研究を行った。これらはこの分野において基礎的及 ぴ産業的な貢献を果たすものである。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 冨 田 房 男 副 査 教 授 市 原 耿 民 副 査 教 授 田 原 哲 士 副 査 助教授 横田 篤
学位論文題名
Studies on Highly Selective Antifungal Antibiotics
高 い 選 択 性 を 有 す る 抗 真 菌 抗 生 物 質に関 する 研究
本 論 文 は 、 英 文150頁 、 図79、 表24、 引 用 文 献60、6章か らな り、 ほかに 参考 論文 12編が付されている。
抗生 物質 に関 する 研究は、増えつっあるカピ感染症の治療、植物病原菌や環境に悪影 響を及ぼす糸状菌(Fusarium,Alternariaなど)の抑制とぃった医薬、農業の両点で常に必 要 とさ れて いる 。そ こで、選択性の高い効果的な抗カビ抗生物質を探し出すことを目的 と して 、主 にAlternalia sp.とFusarium sp.に対して活性をもつ抗生物質の探索を行つ た 。緒 論で はこ れま での 抗真 菌抗 生物質 に関 する 研究 報告 を総 括し た。 第2章 から第4 章 には 微生 物由 来の 抗真 菌抗 生物 質の研 究結 果、 第5章には作物由来の抗真菌抗生物質 に 関す る研 究結 果、 第6章 には 総括 が述 べら れて ある。その要約は以下に示す通りであ る。
1.土 壌から 分離 され た226株の放線菌を試験した結果、Alternalia sp. S‑1に対して異 な る活 性を 示す4株を 得た 。そ の中 から 、そ の生 産物質の活性の強さと疎水性といった 点から、Alternalia sp.とFusarium sp.に対する抗カビ物質生産株として1株選択した。
2.北海道札幌市の土壌より単離されたこの株は、Streptomyces aurantiogriseusと同定 さ れ た た め 、 本 菌 をStreptom yces aurantiogriseus NPO‑101株 と 命 名 し た 。 3. 本 菌 は 、NP‑101A、B、C‑2、C‑3の4つ の 抗 生物 質 を 培養 液中 に生 産して いる こと が わか った 。そ こで 、NP‑101を高 濃度で 得る ため の最 適培 地条 件を 検討 した 結果、窒 素源としてsoybean meal、yeast extractおよぴcorn steep liquor powderの混合物を、炭 素源としてglycerolを使用することとした。
4.NPO‑101によ り生 産さ れる すべ ての抗 生物 質は 、主 にシ リカ ゲル クロ マト グラフイ ー 、分 取型 薄層 クロ マトグラフイー、分取型高速液体クロマトグラフイーにより培養液 および菌体の50%メタノール抽出物から精製した。
5. 機 器 分 析 に よ り、NP‑101Aは 分 子 式C9Hi002N2(MW=178)で 表 さ れ る2‑acetamido‑
benzamideと 明ら かになった。2‑acetamidobenzamideが自然界から単離され、それが抗 カピ活性をもっことを示したのは今回が初めてである。
6.NP‑101Aの 作用 点を 調べ るた め、 生体 高分 子の合成におけるその効果を試験したと こ ろ 、NP‑101Aに よ りRNA合成 は 阻 害 さ れ ず 、DNA合成 もま た28時間 後に おい てわ ず かに 阻害 され るの みで あっ た。 しか し、 夕ン バク合成は28時間後に完全に停止し、夕 ンパク合成の明らかな阻害が見られた。
す でに 、化 学合 成さ れたbenzamideや2、3、4位 が様々 に修 飾さ れた 誘導 体はpoly‑
(ADP‑ribose) synthetaseの阻害剤であることが報告されている。この事実と上記結果を 考えあわせると、NP‑101Aはpoly (ADP‑ribose) synthetaseの阻害に関与しているのでは ないかと思われた。
7,NP‑IOIAは 植物 病原 糸状 菌、 特にAlternaria sp.に対し抑制効果が見られた。しか し、酵母や細菌に対する活性は見られなかった。
8.NP‑101Bは 分 子 式CiiFI1406(MW=242)で 表 さ れ 、糸 状菌 に対 して 活性 を示 した 。 その構造は、まだ決定中である。
9.NP‑101C‑2お よ びC‑3の 分 子 量 は そ れ ぞ れ1269[MH+]と1283[MH+]とわ かっ た。 ま た、IR、NMR、MSスベ クトル の結 果か ら、 これ らは 同族 化合 物と 推定 され るが、その 完全な構造はまだ未定である。これらはともに植物病原性糸状菌、特にFusarium sp.に 対 し て 抗 菌 活 性 を 示 し た が、Alternaria sp.に 対 し て は 活 性 は 見 ら れ な か っ た 。 10.葉 の 先 端 、 む き 皮 、 根 と ぃ っ た ネ ギ の 各 部 分 を熱 湯お よび メタ ノー ル抽 出を 行 い、 糸状 菌に 対す る抗 菌活 性を 試験 した 結果 、根部分のメタノール抽出物が強い抗菌 活性を示した。
11.根部 分の メタ ノー ル抽出 物か ら、 主に シリ カゲ ルク ロマ トグ ラフ イー 、分取型薄 層 ク ロ マ ト グ ラ フ イ ー な ど を 用 い る こ と で NR‑A ‑Dを 精 製 し た 。 12.そ れ ぞ れ の 分 子 量 は440、412、414、488と 見 積 も ら れ 、NR‑AとNR‑Bの 分 子 式 はC27H5204、C29H480であっ た。 また 、NR‑A、B、CはFusarium sp.に 対し て抗菌活性 を示した。一方、NR‑DはFusarium sp.に活性は見られなかったが、B.subtilisとE.coli に対して活性を持っていた。
ま だNP‑101B、C‑2、C‑3お よびNR‑A、B、C、Dの構 造は 決ま って いな いが 、現 時点 では該 当す る既 知物 質は 見あ たら ない。しかし、これらStreptomyces sp. NPO‑101に I 1
よって 生産 され るNP‑101やネ ギか ら抽出されたNRは、医療、農業分野でのカピ感染症 の治療 や予 防に 役立 つ可 能性 は十 分期 待で きる 。
以上、自然界より抗真菌抗生物質を探索し、.生産菌の同定、抗真菌抗生物質の単 離、構造決定、作用機作に関する研究を行った。これらはこの分野において基礎的及 ぴ産業的な貢献を果たすものである。
よっ て、 審査 員一 同は 別に 行っ た最 終試験の結果と併せて、本論文の提出者ニュ ン トフ ェイ は博 士( 農学 )の 学位 を受 けるのに充分な資格があるものと認定した。