博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 上 野 啓 介
学位論文題名
STUDIES ON MOLECULAR WEIGHT DEPENDENT ANTIBACTERIAL ACTIVITY OF CHITOSAN OLIGOMER
(キトサンオリゴ糖の分子量依存的抗細菌活性の研究)
学位論文内容の要旨
近年、病原性微生物に より引き起こされる感染症 が大きな社会問題となってい る。それに伴い微生物の 生育を抑制する抗菌性物 質が注目されてきている。 これまでは微生物による感染 症対策として抗生物質に よる治療が頻繁に行われ てきた。しかし、抗生物質 の汎用は微生物による感染症 対策として非常に有効で あった反面、抗生物質に 耐性を持つ微生物の出現を 誘導する結果を引き起こした 。このため、ここ数年の 間に抗生物質の使用を控 える動きが出始め、抗生物質に代わり天然物由来の抗菌性物質が注目され始めた。
これらの抗菌性物質は抗 生物質と比較して抗菌カは劣るものの、天然物由来とぃうことで生分解性を示し、
人 体 に 対 す る 毒 性 も ほ と ん ど 見 ら れ な い と ぃ う 利 点 が あ り 、 そ の 応 用 が 大 い に 期 待さ れて いる 。 これまで天然物由来の 抗菌性物質としては発酵生 産物であるアルコールや有機 酸類、植物構成成分であ る香辛料やサポニン類、 テルベン系化合物、タンニ ンなど、さらにアミノ酸系の アルカロイドやタンパク 質などが知られている。 これらの抗菌性物質と同様 にキトサンにも抗菌性物質と しての作用が認められて おり、天然物由来の抗菌 性物質としてその応用が期 待されている。
キトサンはこれまで食 品業界や水産業界において 、空気や水質を汚染する産業 廃棄物として問題にされ てきたカニ殻やエビ殻な どに多く含まれている。そ のため、このキトサンを有効 利用する技術の研究開発 は 環 境 汚 染 物 質 の 削 減 と 資 源 の 再 利 用 と ぃ う 面 か ら も 非 常 に 価 値 の あ る も の と 考 え ら れ る 。 キ トサ ンはグルコサミン 残基の2位の炭素にアミノ基 を有し、このアミノ基が容 易に陽電荷を示すこと から非常に特徴的な性質 を示すようになる。キトサ ンの抗菌活性に関してもこの アミノ基に由来する正電 荷が関与していると考え られている。微生物の菌体 表面は様々な糖類やタンパク 質の影響でわずかに負の 電荷を帯ぴている。この ためキトサンの陽電荷が細 胞表面と静電的に吸着し、細 胞の生育を阻害するとぃ われている。カビの細胞 表面に吸着したキトサンは カピの生産する酵素により分 解されオリゴ糖になり、
こ の オ リ ゴ 糖 が カ ピ の 細 胞 内 に 侵入 しDNAか らRNAへ の転 写を 阻 害す るた めに カ ピの 生育 が阻 害さ れ るとぃう報告がされてい る。しかし、細胞内に侵入 することにより生育抑制が起 こるのであれぱ、細胞内 に取り込まれやすい低分 子量のオリゴ糖の方が抗菌 性が強いと考えられるが、高 分子量のキトサンの抗菌 カはオリゴ糖の抗菌カよ りもかなり強いとぃう報告 もなされている。このように キトサンによる抗菌作用 の メ カ ニ ズ ム に つ い て は ま だ ほ と ん ど 明 ら か に さ れ て お ら ず 、 そ の 解 明 が 期 待 さ れ て い る 。 本研究は、細菌に対す るキトサンオリゴ糖の抗菌 活性とその分子量依存性、抗 菌メカニズムの解明を目 的として行われた。ほと んどの細菌は水分を含まな い環境では生息しない。その ため、水溶性を示すとぃ うことが抗菌性物質とし ての応用に重要であると考 えられる。キトサンは水に不 溶な高分子である。キト
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サンに水溶性を 持たせるための方法として は化学修飾や低分子化が考え られる。化学修飾はキトサンに水 溶性を与えるだ けではなく、その抗菌カを 高めることも可能である。し かし、化学修飾することにより天 然物由来の抗菌 性物質とは言えなくなる。 本研究では、低分子化するこ とによルキトサンに水溶性を持た せ、より天然物 に近い形でのキトサンオリ ゴ糖の抗細菌活性を検討した 。キトサンの低分子化には亜硝酸 分解法を用いた 。従来行われてきた、酵素 や濃塩酸などによる分解方法 では、分解されたキトサンオルゴ 糖の分子量を制 御することが非常に困難で ある。しかし、亜硝酸分解法 では分解反応に用いる亜硝酸ナト リウムの量を調 節することにより分解物の 分子量を制御することができ る。この方法により様々な分子量 のキトサンオリ ゴ糖を調製した。調製され たキトサンオリゴ糖は、アル コールに対する溶解度の差を利用 して分画された 。さらに分子量分布の狭い オ.リゴ糖を調製するために、透析による分画を試みた。透析分 画 は分 画分子量の 異なる3種の透析膜を用いて 段階的に行われた。この方 法により、多量のサンプルを 比 較的狭い分子量 分布で得ることに成功した 。しかし、透析分画では多く の試料を調製することが困難であ るため、より詳 細な分子量依存性を明らか にすることは難しい。そこで カラムクロマトグラフイーによる 分画を行い、分 子量の異なるサンプルを多 数調製することに成功した。 透析とカラムクロマトグラフイー に より 分画された キトサンオリゴ糖の抗細菌 活性を測定し、その分子量依 存性を検討した。本研究で は5 つ の抗 菌性 測定 法を 用 いた 。pH測定法と濁度 測定法により相対的な細胞 数の変化を観察し、生菌数測 定 法により細菌の コロニー形成の変化を観察 することにより抗菌活性を測 定した。また、最小阻止濃度の測 定 によ り、 抗菌 剤と し ての 活性 の強 さ を検 討し 、MTT法 により呼吸系酵 素への影響を観察した。指標 菌 としては食中毒 菌として知られている大腸 菌、病原性大腸菌、黄色プド ウ球菌、サルモネラ菌、セレウス 菌 の5菌 種を用い た。測定の結果、キトサンオ リゴ糖の抗細菌活性は細菌 の種に対して活性の強さが異 な るとぃうこと、 その抗菌活性はキトサンオ リゴ糖の分子量に依存するこ と、菌種に対して濃度依存的に活 性を示すことな どが明らかにされた。特に 分子量依存性に関しては分子 量が高い方が抗菌活性が強く、低 分子量のキトサ ンオリゴ糖では増殖抑制効 果はまったく見られず、むし ろ増殖を促進させるような結果が 示すことが明ら かになった。キトサンオリ ゴ糖が分子量依存的に抗細菌 活性を示すメカニズムを解明する ために、共焦点 レーザー顕微鏡による螢光 顕微鏡観察を行った。螢光試 薬であるフルオレセインイソチオ シ アネ ート (FITC) を 結合 させ たキトサンオ リゴ糖(FITCラペ レイヒ キトサンオリゴ糖)を調製し 、 細 菌とFITCラベ ル化 キ トサ ンオ リゴ 糖 由来 の螢 光と の関 係 を螢 光顕 微鏡 下で 観 察したところ、分子 量 の大きいキトサ ンオリゴ糖は細菌の細胞表 面に吸着し強い抗細菌活性を 示すこと、抗細菌活性をまったく 示さない低分子 量のキトサンオリゴ糖は細 菌内に取り込まれていること が明らかになった。細胞表面に吸 着したキトサン オリゴ糖が細胞壁や細胞膜 に与える影響などを検討した 結果、細胞壁の破壊や膜代謝阻害 などが起きてい ないことが確認された。
以上の結果か ら、キトサンオリゴ糖は細 菌の表面に吸着することで細 菌の生育を抑制し、菌体内に取り 込まれたキトサ ンオルゴ糖が抑制作用を示 すことはないと言うことから キトサンオリゴ糖の抗細菌活性に は分子量依存性 が認めらるとぃうことが明 らかになった。また、その分 子量依存性はキトサンオリゴ糖の 膜透過が分子量 に依存するために起こると 考えられる。さらにキトサン オリゴ糖の生育抑制メカニズムの 最初の段階が細 胞表面への吸着であり、吸 着したキトサンオリゴ糖が細 胞壁の破壊などを起こさずに抑制 作用を示すこと が明らかにされた。
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学位論文審査の要旨
主 査
教 授
戸 倉清 一 副 査
教 授
西
則 雄
副 査
教 授
松 山英 俊( 北海 道東 海大学 工学 部)
副 査
助 教 授
坂入 信 夫
、
学 位 論 文 題 名
STUDIES ON MOLECULAR WEIGHT DEPENDENT ANTIBACTERIAL ACTIVITY OF CI‑L[TOSAN OLIGOMER
(キトサンオリゴ糖の分子量依存的抗細菌活性の研究)
近年 、病原性微生物により引き起 こされる感染症が大きな社 会問題となっている。それに伴い微生物の 生育を 抑制する抗菌性物質が注目さ れてきている。これまでは 微生物による感染症対策として抗生物質に よる治 療が頻繁に行われてきた。し かし、抗生物質の汎用は微 生物による感染症対策として非常に有効で あった 反面、抗生物質に耐性を持つ 微生物の出現を誘導する結 果を引き起こした。このため、ここ数年の 間に抗 生物質の使用を控える動きが 出始め、抗生物質に代わり天然物由来の抗菌性物質が注目され始めた。
これら の抗菌性物質は抗生物質と比 較して抗菌カは劣るものの、天然物由来とぃうことで生分解陛を示し、
人 体 に 対 す る 毒 性 も ほ と ん ど 見 ら れ な い と ぃ う 利 点 が あ り 、 そ の 応 用 が大 いに 期 待さ れて いる 。 これま で天然物由来の抗菌性物質と しては発酵生産物であるア ルコールや有機酸類、植物構成成分である 香辛料 やサポニン類、テルペン系化 合物、タンニンなど、さら にアミノ酸系のアルカロイドやタンバク質 などが 知られている。
申請 者は、これらの抗菌性物質と 同様にキトサンにも抗菌性 物質としての作用が認められており、天然 物由来 の抗菌性物質としてその応用 が期待されているが、その 抗菌機構がはっきりしないことに注目して この研 究を始めた。
キトサンはグルコサミン残 基の2位の炭素にアミノ基を 有し、このアミノ基が容易 に陽電荷を示すこと から非 常に特徴的な性質を示すよう になる。キトサンの抗菌活 性に関してもこのアミノ基に由来する正電 荷が関 与していると考えられている 。微生物の菌体表面は様々 な糖類やタンバク質の影響でわずかに負の 電荷を 帯びている。このためキトサ ンの陽電荷が細胞表面と静 電的に吸着し、細胞の生育を阻害するとぃ われて いる。カピの細胞表面に吸着 したキトサンはカピの生産 する酵素により分解されオリゴ糖になり、
こ の オ リ ゴ 糖 が カ ビ の細 胞 内に 侵入 しDNAか らRNAへ の転 写を 阻 害す るた めに カピ の 生育 が阻 害さ れ るとぃ う報告がされている。しかし 、細胞内に侵入することに より生育抑制が起こるのであれば、細胞内 に取り 込まれやすい低分子量のオリ ゴ糖の方が抗菌性が強いと 考えられるが、高分子量のキトサンの抗菌 カはオ リゴ糖の抗菌カよりもかなり 強いとぃう報告もなされて いる。このようにキトサンによる抗菌作用 の メ カ ニ ズ ム に つ い て は ま だ ほ と ん ど 明 ら か に さ れ て お ら ず 、 そ の 解 明 が 期 待 さ れ て い る 。 申請 者は、細菌に対するキトサン オリゴ糖の抗菌活性とその 分子量依存性、抗菌メカニズムの解明を目 的とし て研究を行った。ほとんどの 細菌は水分を含まない環境 では生息しない。そのため、水溶性を示す とぃう ことが抗菌性物質としての応 用に重要であると考えられ る。キトサンは、本来水に不溶な高分子で
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あ る。キト サンに 水溶性 を持た せるための方法としては化学修飾や低分子化が考えられる。化学修飾はキ ト サンに水 溶性を 与える だけで はなく、その抗菌カを高めることも可能である。しかし、化学修飾するこ と により天 然物由 来の抗 菌性物 質とは言えなくなる。本研究では、低分子化することによルキトサンに水 溶 性を持た せ、よ り天然 物に近 い形でのキトサンオリゴ糖の抗細菌活性を検討した。キトサンの低分子化 に は亜硝酸 分解法 を用い た。従 来行われてきた、酵素や濃塩酸などによる分解方法では、分解されたキト サ ンオリゴ 糖の分 子量を 制御す ることが非常に困難である。しかし、亜硝酸分解法では分解反応に用いる 亜硝酸ナトリウムの量を調節することにより分解物の分子量を制御することができる。この方法により様々 な 分子量の キトサ ンオリ ゴ糖を 調製した。調製されたキトサンオリゴ糖は、アルコールに対する溶解度の 差 を利用し て分画 された 。さら に分子量分布の狭いオリゴ糖を調製するために、透析による分画を試みて い る。透析 分画は分画分子量の異なる3種の.透析膜を用いて段階的に行われた。この方法により、多量の サ ンプルを 比較的 狭い分 子量分 布で得ることに成功した。しかし、透析分画では多くの試料を調製するこ と が困難で あるた め、よ り詳細 な分子量依存性を明らかにすることは難しい。そこでカラムクロマトグラ フ イーによ る分画 を行い 、分子 量の異なるサンプルを多数調製することに成功した。透析とカラムクロマ ト グラフイ ーによ り分画 された キトサンオリゴ糖の抗細菌活性を測定し、その分子量依存性を検討するた め 、5つの 抗薗陛 測定法 を用い ている 。pH測定 法と濁 度測定 法により 相対的 な細胞 数の変 化を観 察し、
生 菌数測定 法によ り細菌 のコロ ニー形成の変化を観察することにより抗菌活性を測定した。また、最小阻 止 濃 度の 測定に より、 抗菌剤 として の活性の 強さを 検討し 、MTT法に より呼 吸系酵 素への 影響を 観察し た。指標菌としては食中毒菌として知られている大腸菌、病原´1生大腸菌、黄色プドウ球菌、サルモネラ菌、
セ レウス菌 の5菌種 を用い ている 。測定 の結果 、キト サンオ1Jゴ糖の抗細菌活性は、細菌の種に対して活 性 の強さが 異なる とぃう こと、 その抗菌活性はキトサンオリゴ糖の分子量に依存すること、菌種に対して 濃度依存的に活性を示すことな どを明らかにしている。特に分子量依存性に関しては分子量が高い方が抗 薗 活性が強 く、低 分子量 のキト サンオリゴ糖では増殖抑制効果はまったく見られず、むしろ増殖を促進さ せ るような 結果が 示すこ とが明 らかになった。キトサンオリゴ糖が分子量依存的に抗細菌活性を示すメカ ニ ズムを解 明する ために 、共焦 点レーザー顕微鏡による螢光顕微鏡観察を行った。螢光試薬であるフルオ レ セ イ ンイ ソ チ オ シア ネ ー ト (FITC)を 結 合 さ せた キ ト サ ンオ リ コ つ 暗(FITCラベ ル化キ トサン オ リ ゴ 糖 )を 調 製 し 、細 菌 とFITCラ ベル化 キトサ ンオリ ゴ糖由 来の螢 光との 関係を螢 光顕微 鏡下で 観察 し たところ 、分子 量の大 きいキ トサンオリゴ糖は細菌の表面に吸着し強い抗細菌活性を示すこと、抗細菌 活陸をまったく示さない低分子量のキトサンオリゴ糖は細菌内に取り込まれていることが明らかになった。
細 胞表面に 吸着し たキト サンオ リゴ糖が細胞壁や細胞膜に与える影響などを検討した結果、細胞壁の破壊 や 膜 代 謝阻 害 な ど が起 き て い ないこ とが確 認され、 物理的 な栄養 透過阻 害によ るもの と考え ている 。 以 上の結 果から 、キトサ ンオリ ゴ糖は細菌の表面に吸着することで細菌の生育を抑制し、菌体内に取り 込 まれたキ トサン オリゴ 糖が抑 制作用を示すことはないと言うことからキトサンオリゴ糖の抗細菌活性に は 分子量依 存性が 認めら るとぃ うことを明らかにした。また、その分子量依存性はキトサンオリゴ糖の膜 透 過が分子 量に依 存する ために 起こると考えられ、さらにキトサンオリゴ糖の生育抑制メカニズムの最初 の 段階が細 胞表面 への吸 着で、 吸着したキトサンオリゴ糖が細胞壁の破壊などを起こさずに細菌生育の抑 制作用を示すことを示した。
こ の様に 、申請 者が提出 した論 文の内 容及び 研究の 将来性 等から 、審査 員一同は 申請者が博士(地球 環境科学)の学位を受けるにふさわしい資格を有するものと判定した。
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