博 士 ( 水 産 学 ) 山 崎 裕 治
学 位 論 文 題 名
Genetic differendadonandmorphologiC
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(極東域におけるカワヤツメ属ヤツメウナギ類 の遺伝的分化および形態、生活史、繁殖形質)
学位論文内容の要旨
極 東域に生 息するカ ワヤツメ属(Lethenteron)には,寄生性・回遊型のカワヤ ツ メ(L. j̲aponicum),非寄生性・淡水型のシベリアヤツメ(L. kessleri)および スナヤツメ(L. reissneri)が報告されている(Berg,1931,1948;Hubbs and Potter, 1971;Iwata et al.、1985)。これら3種は形態的特徴に基づき,それぞれ独立し た 種 と して 扱 われ て きた 。しかし ,種の分類 に用いら れる形態 形質が3者 間で 必 ずしも不 連続性を 示さないた め,種の 異同は明 確ではな い。また 一般に,ヤ ツ メウナギ 類におけ る種分化は 寄生性・ 回遊型の 種から非 寄生性・ 淡水型の種 への方向で起きたと考えられている(Zanandrea,1959;Hardisty and Potter,1971c; Vladykov and Kott,1979)。この仮説を検証するためには,本属内における種間 の 系統類縁 関係を明 らかにし, 生活史お よび繁殖 形質を比 較するこ とにより,
種 分化のプ 口セスと 要因を明確 にする必 要がある 。しかし カワヤツ メ属におい て ,生活史 および繁 殖形質につ いては十 分な研究 が行われ ておらず ,特に年齢 査 定にっい ては,近 年ヤツメウ ナギ類で も行われ ている耳 石を用い た解析を行 う 必要があ る。さら にシベリア ヤツメお よびスナ ヤツメに おいては ,人為的な 移 植が行わ れていな いと考えら れるため ,両者の 分布域を 明らかに し,その分 散 プロセス を解明す ることは, 日本列島 における 淡水魚類 相の成立 過程を考え る上で重要な示唆を与えるものと期待される。
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そ こで 本研 究で は, 日本 ,韓 国お よび ロシ ア極東域から採集されたカワヤツ メ属 につ いて ,ア ロザイムを遺伝的指標に用いた集団解析を行い,Mayr(1963) の生 物学 的種 概念 に従 い, 種の 異同 につ いて 検討した。その結果認められた各 種に つい て, 種内 の遺 伝的 集団 構造 ,お よび 種問の遺伝的類縁関係の解明を行 った 。ま た各 種の 形態 的特 徴, 生活 史, 繁殖 形質の解明とそれらの種間比較を 試み た。 以上 によ り得 られ た結 果に 基づ き, カワヤツメ属種群における種分化 プロセスおよび分布域形成パターンを考察した。
ア ロ ザ イ ム 解 析 に お い て , 調 査 し た15酵 素1蛋 白 質 か ら27遺 伝 子 座 が 推 定さ れ, それ らに 基づ いて 集団 遺伝 学的 な解 析を行った。その結果,遺伝的組 成 の 異 な る4つ の 分 類 群 が 認 め られ た。 これ ら4者 は, 従来 のカ ワヤ ツメ ,シ ベリ アヤ ツメ ,お よび スナ ヤツ メ内 に認 めら れた高 度に 遺伝 的分 化を 遂げ た2 つの 地域 集団 群( 北方 およ び南 方集 団群 )で あった 。こ れら4者 間の 同所 的生 息地において,対立遺伝子の置換が認められ,生殖的隔離の存在が示唆された。
ただ しシ ベリ アヤ ツメ とス ナヤ ツメ 南方 集団 群間においては同所的な生息地が 認められなかったが,両者は高度に遺伝的分化を遂げていた(D=0.584‑0.843)。
それ ゆえ ,4つの 分類群 はそ れぞ れ独 立し た種 に相 当す ると 考え られ る。 ただ し, カワ ヤツ メお よび シベ リア ヤツ メの 種と しての分類学的地位はそれぞれ確 立さ れた が, スナ ヤツ メに おい ては ,原 記載(Dybowski,1869)が不十分である た め , 今 後 学 名 な ど に 関 す る 分 類 学 的 な 再 検 討 が 必 要 で あ る 。 4種の いず れに おいて も, 各集 団の 遺伝 的変 異性 は高 く, ほと んど の集 団が 大き な集 団サ イズ を有 する と考 えら れる 。ま た淡水 型3種そ れぞ れに おけ る種 内集団問の遺伝的分化の程度は,スナヤツメの遺伝的ニ型(北方集団群Gsr0.499, 南方 集団 群Gsf 0.653) に比 べ, シベ リア ヤツ メ(Gsr0.117)で低かっだ。この 結果 から ,シ ベリ アヤ ツメ はス ナヤ ツメ の遺 伝的二型に比べてより新しい年代 に日本列島へ分布域を広げたと考えられる。
ス ナヤ ツメ の遺 伝的 ニ型 間に おい ては ,そ の同所的な生息地において生殖的 隔離 の存 在が 認め られ たが ,形 態的 特徴 が極 めて類似していたため,両者は隠 蔽種に相当すると考えられた。
耳石上の輪紋パターンに基づく年齢査定の結果,回遊型カワヤツメの変態お よび成熟年齢は淡水型3種のそれらに比べて高いと推察された。また前者には,
後者に比べて小卵多産の傾向が認められた。これらの結果から,回遊型カワヤ ツメでは産卵数を出来るだけ増やすことを,一方の淡水型3種では卵サイズを 大きくすることを,それぞれ優先した繁殖戦略が採用されていると考えられた。
スナヤツメの遺伝的二型の同所的生息地のーっである山形県牛渡川でニ型の 個体群構造と繁殖特性を調査した。その結果,ニ型のいずれにも底土の粒子サ イズが小さいほど生育密度が高くなる傾向が認められたが,生息場所の選択性 にニ型問で違いは認められなかった。牛渡川は湧水性河川であり,年間を通し て生育環境が安定しているため,二型が比較的高密度で,生息場所の選択性を もつことなく共存できると考えられた。またニ型のいずれにおいても雄に比べ て雌の 方が大型( 平均約130mm)および 高齢(2〜4才)で変態していた。こ の結果から,一般に雄に比べて雌の方が繁殖のコストが高いため,雌では変態 を遅らせ,生殖腺を発達させることを優先した生活史戦略が採用されていると 考えられる。さらにニ型の産卵期には重なりが認められ,両者はそれぞれの型 毎に独自に産卵床を形成していたことから,これら二型間には繁殖前隔離機構 が働いていると推測された。
ミツバヤツメ(Entosphenus tridentatus)を外群として用い,カワヤツメ属4種 の系統類縁関係を推定した結果,カワヤツメ,シベリアヤツメおよびスナヤツ メ北方集団群の3種間において,比較的低い遺伝的距離(D=0.042‑0.394)が示 されたので,これら3種は単系統であると考えられた。また本研究において回 遊型のカワヤツメに淡水型の生活様式を持つ矮小・早熟個体の出現が認められ た。回遊型集団内に矮小な淡水型集団が継続的に出現した場合,両集団問では 体サイズに基づく同類交配により,生殖的隔離が強化され,その結果として両 者間における遺伝的分化が促進される。このような過程を経ることにより,回 遊型の種から淡水型の種への同所的種分化が可能となる。それゆえ上記の3種 においても,回遊型のカワヤツメあるいはその祖先種から,淡水型のシベリア ヤツメ,およびスナヤツメ北方集団群がそれぞれ矮小・早熟な種として派生し たと考えられる。
最後に淡水型3種の起源と分散経路を,現在の分布域と種内集団間の遺伝的 分化の程度に基づき推定した。その結果,スナヤツメ南方集団群は韓半島を含 むアジア大陸東岸に起源し,日本列島ヘ南から侵入したと考えられ,その分散 は3種の中では最も古くに始まったと考えられる。一方,スナヤツメ北方集団 群は北海道と本州中部以北でのみ生息が確認されたことから,約130万年前 に日本列島北部に起源し,その後の氷河期に分布を南方へ広げたと考えられる。
そしてシベリアヤツメは日本列島北部およびロシア極東域に広く分布している ことから,シベリア地方に起源し,青柳(1957)の示したシベリア系淡水魚類 の浸潤経路に沿って,日本列島北部に侵入したと考えられる。また本種が本州 東北地方ヘ侵入した時代は,津軽海峡が最後に陸橋となったりス氷期(14〜 21万年前;小野,1994)以前であると考えられる。
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 山 崎 文 雄 副 査 教 授 尼 岡 邦 夫 副 査 助 教 授 後 藤 晃
学 位 論文 題 名
Genetic differentiation and morphological
,life‑history and reproductive characteristics of LetheTzte7
一OTl
゛taxa from the Far East
(極東域におけるカワヤツメ属ヤツメウナギ類 の遺伝的分化および形態、生活史、繁殖形質)
カ ワ ヤ ツメ 願 ヤツ メウ ナギ 煩に は 、内 水I而の 水産 資源 カワ ヤツメは|等生性・rI』游 型の生活様式を示すことが知 が 乏 し く 現 在 見 ら れ る 資 源 の 減 少に 対し て 適切 な対 応が 2チ !p.淡水世の也活史をもっ シベルアヤツメとスナヤ`ソ 和 は 小 型 で産 楽 的に は未 利J司禰 であ るが 、 カワ ヤツ メと テ ス 幼 生J舛 の偶 体で は形 堰 形質 に必 ずし も 純問 で不 述続 飃の 腫としての異|司の舛検討、輙1踟の系統類縁関係、.純 分 煩 学 的 、 進 化 学 的Itl題 の 解 明 が 顰 ま れ て い た 。 l扣 諦 者は この 点に 注目 し 、日 本、 韓園 お よび 口シ ア極 採 集 し 、 ア 口 ザ イ ム を 遺 伝 指 標 とし て集 団 解析 を行 うと 特 性 の純m|比 較 を行 い上 記の 渚R剴題 を明らかにしよう と 中 請 者 は 日 本 各 地 、 韓 園 、 ロ シア 極東 域 から 採集 され ザ イ ム 解 析 に よ り 、 従 来 の カ ワ ヤツ メ、 シ ベリ アヤ ツメ 頗 腓 を 新 た に 区 別 で き る こ と 、 この ため 従 来カ ワヤ ツメ 群 に 分 け ら れ る こ と を 初 め て 明 らか にし た 。ス ナヤ ツメ 方 集 団 群 と 南 方 に 偏 る 南 方 集 団 群と に分 け られ るこ と、
て も 両 群 問 に 遺 伝 的 交 流 は な く 、両 群は 独 立し た種 に相 集 団 群 は 高 度 に 遺 伝 的 分 化 を 遂 げて いる が 、形 態的 には い 隠 蔽 腫 に 相 当 す る と し 種 分 化 を考 える 上 で貴 重な 資料 本 研 究 で 明 ら か に し た カ ワ ヤ ツメ 、シ ベ リア ヤツ メ、
の4分 類 群 は 同 所 的 生 息 地 に お い て 、 対 立 遺 伝 子 に 遼 換 か ら4群 が 独 立 し た 種 で あ る と し た 。 シ ベ リ ア ヤ ツ メ と 生 息 地 が な く 、 遺 伝 的 に も 高 度 に分 化し て いる こと から 唆 し た 。 更 に 淡 水 型 の シ ベ リ ア ヤツ メと ス ナヤ ツメ 北方 リ ア ヤ ツ メ の 遺 伝 的 分 化 の 程 度 が低 くシ ベ リア ヤツ メは に 日 本 列 島 に 分 布 域 を 広 げ た と する 考え 方 を提 示し た。
本 研 究 で は 更 に 耳 石 上 の 輪 紋 パタ ―ン か ら年 齢査 定を 雄 間 の 相 違 を 明 ら か に し た 点 を 評価 した 。 回游 型カ ワヤ 種 に 比 較 し て 高 い こ と 、 前 者 に は小 卵多 産 、後 者に は大 っ た 繁 殖 戦 略 が 採 用 さ れ て い る 点を 指摘 し た。 スナ ヤツ 殖 場 所 と 生 息 場 所 に 差 は な く 両 種は 共存 で きる こと 、更
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と し て 重 要 な カワ ヤツ メが 含 まれ る。
ら れ て い る が 、生 活史 や繁 殖 等の 知見 困 姓 な 状 態 に ある 。一 方、 ホ 屈に は非 メ が 作 在 す る と さ れ て お り 、 こ れ ら2 形 態 的 特 徴 が 類似 し、 特に ア ンモ シ一 性 は み ら れ な い 。 こ の た め 、 こ れ ら3 分 化 様 式 と 極 東域 での 分散 経 路な ど、
束 域 を ふ と も に 、 した。
た 総 計 約 の 他 に 遺 属 に 認 め 2分顯群 ま た 同 一 当 す る と 区 別 で き を 提 供 し ス ナ ヤ ツ カくあり、
ス ナ ヤ ツ 両 群 の 分 集 団 群 と ス ナ ヤ ッ
く む 広い 地 域か ら本 属魚 類を 形 態 形質 、 生活 史形 質、 繁殖 3,000個 体 の本 屈標 本 のア 口 伝 的 に 異 な る ス ナ ヤ ツ メ2分 ら れ て い た3分 類 群 を4分 類 は 、 生 息 域 が北 方域 に 偏る 北 河 川 内 に 生 息す る場 合 であ っ 判 断 し た 。 こ の ス ナ ヤ ツ メ2 ず 、 魚 類 で は極 めて め ずら し た 。
メ 、 北 方 集 団群 、南 方 集団 群 生 殖 的 隔 離 が推 定さ れ るこ と メ 南 方 集 団 群間 では 同 所的 な 散 経 路 に 相 違の ある こ とを 示 南 方 集 団 群 の3群 の 内 、 シ ベ メ の2種 に 比 べ て 新 し い 年 代 行 い 変 態 時 期 に みら れ る種 問お よび 雌 ツ メ の 変 態 お よ び 成 熟 年 齢 が 淡 水 型3 卵 少 産 の 傾 向 を 認め 、 それ ぞれ に異 な メ2種 問 で の 生 殖 的 隔 離 に 関 し て は 繁 に 両 種 の 産 卵 期 が重 な って いる こと か
ら両種間に繁殖前隔離機構が存在することを指摘した。この指摘は形態的に区別はできないが 両種の繁殖に種の認識上何らかの情報に差のあることを示唆するものであり新しい研究分野を 拓くものとして評価した。
本研究はM游型のカワ ヤツメに遺伝的な差はなく、I弸らかに遺伝子ブールを共有していると 考えられる淡水型生活様式を持つ矮少・早熟個体のあることを明らかにしたぃ申請者はこの事 実を基に回游型集団内に矮少な淡水型集問が継続的に出現した場合を想定;し、両集団問で体サ イズに基づく同類交配により、|回游型の種から淡水型の種への同所的種分化の可能性を論じ、
これまでの圃游型カワヤツメから淡水型シベリアヤツメ、スナヤツメへの種分化説を支持する 新たな論拠を提示した。ヰT請者は更に韓国、口シア極東域の資料を加えて本研究で得られたカ ワヤツメ屈4腫の系統類 縁関係を推定し、カワヤツメ、シベリアヤツメおよびスナヤツメ北方 集団群の3樋は相互に遺 伝的距離が小いことから、これら3種は単系統群であるとした。また 圃游型のカワヤツメあるいはその祖先種から、淡水型シベリアヤツメ、およびスナヤツメ北方 集団群が矮少・早熟な種として派生したとする新たな考え方を提示した。更にスナヤツメ南方 集団群は韓半島を合むアジア大陸束岸を起源とし、 その分散は3種の中では最も古く、一方ス ナヤツメ北方集団群は日本列島北部を起源とし、シベリアヤツメはシベリア地方を起源として 口本41J島北部に侵人したとする分散仮説を提示して、カワヤ`ソメ属4種にっいての総合的な論 考を行った。
ホ石幵究はカワヤツメ属の遺伝的集団構造、種の異同、系統類縁関係および種分化様式、起源 と′′}散経路を自らの資料を壊に論じたものとして貴重であり、また資源の回復と保全を計る上 でも寄与するところが人きく、審査f一剛は1蜉ヒ(水産学)の学位に相当する業績と判定した
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