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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 水 産 科 学 ) 尾 本 直 隆

    学 位論文題 名

    Studies on artificial propagation     and sex control in sturgeon

( チョウザ メの人為 繁殖および 性統御に関する研究)

学位論文内容の要旨

  チョ ウザメ類 は経済価 値の高い 魚種であり、特に卵巣はキャビアと称され 珍 重 され て い る。 日本は 世界第一 位のキャ ビア輸入 国で、1995年 には、キ ヤビ アとその 代用品を 合計12,639t輸入している。本グループは硬骨魚類の 中 で は極 め て 原始 的 な丁 群 で ある 軟 質上 目(Chondrostei)に属し 、分類学 的に も貴重で あるが、 成熟に長 期間を要し、人為的な環境改変が著しい大き な 河 川に 依 存 して 生息し ているこ とから、 天然資源 が激減し ている。1998 年か らは全種 がワシン トン条約 の規制対象となり、資源保護および養殖技術 の開 発が世界 各国で進 められて いる。日本においては、北海道の石狩川や天 塩川 にて約100年 前までチ ョウザメ 漁が行わ れていた 記録がある が、近年、

在来 種は絶減 状態にあ る。一方 、旧ソ連で養殖用に交配された、オオチョウ ザメ(lluso huso)の雌とコ チョウザ メ(Acipenser ruthenus)の雄の雑種ベス テル が国内に 導入され て以来、 成長およぴ成熟が比較的早い本種が新たな養 殖対象種として注目されている。

  チョウザメ類iま飼育環境下では排卵しないことから、.人為繁殖はホルモン 投与 による排 卵誘発に 依存して いる。そのため、ホルモン投与に適した親魚 の選 抜技術が 重要とさ れ、その 指標のーっとして生体外培養による卵成熟能 の評 価が有効 とされて きた。し かし、殆どの研究は河川に産卵遡上した天然 魚を 対象とし ており、 魚体が大 きく成熟に長期間を要するチョウザメ類にお いて は、飼育 個体を対 象とした 研究事例は乏しい。成熟度の判定は、飼育魚 の 方 が天 然 魚 に比 べて困 難なうえ 、ホルモ ン投与に 供した親 魚の成熟 度が     ―1424ー

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その後の孵化率等にも影響すると考えられることから、より精度の高い成 熟度評価手法の確立が要求されている。さらに水産養殖分野においては、

キャビアの効率的生産を目的とした全雌種苗生産技術の確立が期待されて いる。そこで本研究では、チョウザメ類の効率的な人為繁殖技術と性統御 技術の確立を目的として以下の実験を行った。

  はじめに、日本における天然個体群の自然繁殖および人為繁殖の可能性 を明らかにすることを目的として、北海道で稀に漁獲されるチョウザメ類 に関して生殖腺の発達度を調査した。その結果、ダウリアチョウザメ(〃.

dauricus)とミカドチョウザメ(A. mikadoi)の他に、これまで日本において 報告例が無いアムールチョウザメ(A. schrenckii)およびダウリアチョウザ メとアムールチョウザメの雑種が北日本沿岸を回遊していることが確認さ れた。しかし、`河川における成熟個体および稚魚の捕獲例が皆無だったこ とから、かって石狩川や天塩川で産卵したとされるミカドチョウザメの日 本の産卵群は絶減したと考えられた。一方、沿岸で漁獲されたミカドチョ ウザメを淡水に馴致して長期間飼育した結果、雌1尾が成熟したことから、

漁 獲 個 体 の 飼 育 に よ る 本 種 の 人 為 繁 殖 の 可 能 性 が 示 さ れ た 。   次に、排卵誘発に適した雌親魚の効率的な選抜技術を確立することを目 的として、生体外培養による卵成熟能の評価を試みた。天然個体が入手困 難なことから、以下の実験は全てベステルを用いた。ホルモン投与の前に バイオプシーにより摘出した卵母細胞を17a‑ヒドロキシプロゲステロン O.l Ug/ml存 在下で40時間培養し、卵核胞の崩壊(GVBD)を観察した。そ の結果、GVBDが高い割合で観察される個体ほど、生殖腺刺激ホルモン放 出ホルモン投与後の排卵までに要する時間が短く、排卵された卵の孵化率 も高い傾向が認められた。従って、卵成熟能を指標とした成熟度評価は、

ホルモン投与による排卵誘発の成功率を高めるだけでなく、排卵される卵 の質を予測するにも有効であることが初めて示され、人為繁殖の際に高い 孵化率を実現させることが可能となった。

  さらに、人為繁殖により得られた稚魚の生殖腺の性分化過程を組織学的 に観察し、生殖細胞の減数分裂への移行は孵化後16カ月まで確認できない     ー1425一

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ものの、孵化後6カ月以降の個体では生殖腺表面の一部に見られる陥入部 の有無により2型に分けられることを示した。この陥入部は、卵巣薄板構 造に発達することから、孵化後6カ月には生殖腺の卵巣への形態的分化が 始まる個体が出現すると推定された。これらの結果を基に、エストラジオ ール‑17p (E2)および170c‑メチルテストステロン(MT)の経口投与が性分化 に及 ばす影響を 調べた。第1実験では、孵化後14〜31カ月のベステルF2 に、E2およびMTをそれぞれ10および25 yg/g‐dietの濃度で投与したが、

MT投与群の性比に大きな偏りはなく、E2投与群は殆どが雌に分化したもの の、生残率が低く、約半数の個体は卵巣特有の薄板構造が観察されなかっ た。そこで、第2実験ではホルモンの投与期間およぴ濃度を、それぞれ孵 化後6〜18カ月および1p〆g‐dietに変えたところ、E2投与群の97%が雌に、

MT投与群の93%が雄に分化した。以上の結果から、チョウザメにおいても、

適切な時期に適切な濃度で性ホルモンを投与することにより、性転換が誘 導されることが示された。また、魚体が大きいことにより性分化期におい ても採血が可能なことから、内分泌撹乱物質関連の実験動物としてもチョ ウザメは有用と推察された。

  最後に、性統御や陸決定機構の解明に有効な染色体操作をベステルヘ応 用できるか検証するため、3倍体およぴ雌性発生2倍体の作出を試み、染色 体操作個体の孵化率、生殖腺の発達および性比を調べた。その結果、他魚 種と同様に紫外線照射により精子を遺伝的に不活性化できることが分かっ たが、照射量が同一であっても採精に用いた雄親魚により孵化率には大き な差が認められた。また、15℃で管理された受精15〜20分後の卵を、3分 問34℃の温度ショックにより倍数化できることが分かった。対照群の孵化 率が低い卵を用いた実験では、倍数化処理群の孵化率は非常に低く、対照 群の中に僅かながら自然発生的な3倍体が確認された。さらに3年魚の卵 巣を組織学的に観察した結果、対照2倍体と雌性発生2倍体では周辺仁期 の卵母細胞が多数確認されたのに対して、3倍体の卵形成は対合期以前の状 態で遅滞したことから、3倍体は不妊性を示すものと推察された。一方、性

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比については、雌の割合が対照2倍体では40.0〜55.0%であったのに対して、

3倍体は60.0〜73.7%、雌性発生2倍体は70.0〜80.0%の割合で雌に偏った。

従っ て、 雌ヘ テロ 型(ZW一22c7¥)の 性決 定機 構を 持っと推察され、チョ ウザ メに おい ては 、1代 の染 色体 操作 のみ では 全雌 生産は不可能と考えら れた 。逆 に、 ミカ ドチ ョウザメの卵に遺伝的に不活性化したベステルの精 子を 受精 させ 、雌 性発 生2倍 体を 誘起 する こと によ り、雌雄のミカドチョ ウザ メの 次世 代が 得ら れることが示された。即ち、染色体操作の応用によ る、 絶滅 の危 機に 瀕し た種の保存を目的とした人為繁殖(復活)の可能性 が示唆された。

  以 上、 チョ ウザ メの 人為繁殖およぴ性統御に有用な技術を確立した。本 研究 の結 果は 、チ ョウ ザメ類の資源保護および増養殖の両面において、多 大に貢献できるものと考えられた。

(5)

学位論文審 査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

山 内 晧 平 原    彰 彦 荒 井 克 俊 足 立 伸 次

    学 位 論 文 題 名

    Studies on artificial propagation     and sex control in sturgeon

( チ ョ ウ ザ メ の 人 為 繁 殖 お よ ぴ 性 統 御 に 関 す る 研 究 )

  チ ョ ウ ザ メ 類 は 経 済 価 値 の 高 い 魚 種 で あ る が 、 成 熟 に 長 期 間 を 要 し 、 人 為 的 な 環 境 改 変 が 著 し い 大 き な 河 川 に 依 存 し て 生 息 し て い る こ と か ら 、 天 然 資 源 が 激 減 し て お り 、 資 源 保 護 お よ び 養 殖 技 術 の 開 発 が 世 界 各 国 で 進 め ら れ て い る 。 日 本 に お い て は 、 近 年 、 在 来 種 は 絶 減 状 態 に あ る 。 一 方 、 旧 ソ 連 産 の オ オ チ ョ ウ ザ メ の 雌 と コ チ ョ ウ ザ メ の 雄 の 雑 種 ベ ス テ ル が 国 内 に 導 入 さ れ て 以 来 、 成 長 お よ び 成 熟 が 比 較 的 早 い 本 種 が 新 た な 養 殖 対 象 種 と し て 注 目 さ れ て い る 。

  チ ョ ウ ザ ヌ 類 は 飼 育 環 境 下 で は 排 卵 し な い こ と か ら 、 人 為 繁 殖 は ホ ル モ ン 投 与 に よ る 排 卵 誘 発 に 依 存 し て い る 。 そ の た め 、 ホ ル モ ン 投 与 に 適 し た 親 魚 の 選 抜 技 術 が 重 要 と さ れ る が 、 殆 ど の 研 究 は 河 川 に 産 卵 遡 上 し た 天 然 魚 を 対 象 と し て お り 、 飼 育 個 体 を 対 象 と し た 研 究 事 例 は 乏 し い こ と か ら 、 よ り 精 度 の 高 い 成 熟 度 評 価 手 法 の 確 立 が 要 求 さ れ て い る 。 さ ら に 養 殖 分 野 に お い て は 、 キ ャ ピ ア の 効 率 的 生 産 を 目 的 と し た 全 雌 種 苗 生 産 技 術 の 確 立 が 期 待 さ れ て い る 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 チ ョ ウ ザ ヌ 類 の 効 率 的 な 人 為 繁 殖 お よ び 性 統 御 技 術 に 関 す る 研 究 を 行 っ た 。

  は じ め に 、 日 本 に お け る 天 然 個 体 群 の 自 然 繁 殖 お よ び 人 為 繁 殖 の 可 能 性 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て 、 北 海 道 で 稀 に 漁 獲 さ れ る チ ョ ウ ザ メ 類 に 関 し て 生 殖 腺 の 発 達 度 を 調 査 し た 。 そ の 結 果 、 ダ ウ リ ア チ ョ ウ ザ メ と ミ カ ド チ ョ ウ ザ の 他 に 、 こ れ ま で 日 本 に お い て 報 告 例 が 無 い ア ム ー ル チ ョ ウ ザ メ お よ び ダ ウ リ ア チ ョ ウ ザ メ と ア ム ー ル チ ョ ウ ザ ヌ の 雑 種 が 北 日 本 沿 岸 を 回 遊 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。 し か し 、 河 川 に お け る 成 熟 個 体 お よ び 若 齢 個 体 の 捕 獲 例 が 皆 無 だ っ た こ と か ら 、 か つ て 北 海 道 の 石 狩 川 等 で 産 卵 し た と さ れ る 、 ミ カ ド チ ョ ウ ザ メ の 日 本 の 産 卵 群 は 絶 滅 し た と 考 え ら れ た。

一 方 、 沿 岸 で 漁 獲 さ れ た ミ カ ド チ ョ ウ ザ メ を 長 期 間 飼 育 し た 結 果 、 雌1尾 が 成 熟 し た こ と か ら 、 漁 獲 個 体 の 飼 育 に よ る 人 為 繁 殖 の 可 能 性 が 示 さ れ た。

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  次 に、 排卵 誘発に適 した雌親 魚の効率 的な選抜 技術を確立 すること を目 的と し て、 生体外培 養による 卵成熟能 の評価を 試みた。以 下の実験 は全て ベステルを用いた。

  ホ ルモ ン投 与の前に バイオプ シーによ り摘出し た卵母細胞 を17a‑ヒド口 キ シ プ ロ ゲ ス テ ロ ンO.l Vg/ml存 在 下 で40時 間 培 養 し 、 卵 核 胞 の 崩 壊 (GVBD)を 観 察 し た 。 そ の 結 果 、GVBDが 高 い 割 合 で 観 察 さ れ る 個 体 ほ ど、 排 卵さ れた卵の 孵化率も 高い傾向 が認めら れた。従っ て、卵成 熟能を 指標 と した 成熟度評 価は、ホ ルモン投 与による 排卵誘発の 成功率を 高める だ け で な く 、 排 卵 さ れ る 卵 質 の 予 測 に も 有 効 で あ る と 示 唆 さ れ た 。   さ らに 、稚 魚の生殖 腺の性分 化過程を 組織学的 に観察し、 生殖細胞 の減 数 分 裂 へ の 移 行 は 孵 化 後16カ 月 ま で確 認 で きな い もの の 、 孵化 後6力 月 以降 の 個体 で は 生殖 腺 表面 の 一 部に 見 られる 陥入部の有 無により2型に分 けられる ことを示し た。この陥入部は、卵巣薄板構造に発達することから、

孵化 後6力 月に は 卵 巣へ の 形態 的 分 化が 始まる 個体が出現 すると推 定され た。 こ れら の結果を 基に、工 ストラジ オール‑17[3 (E2)お よび17a‑ヌチル テス ト ステ ロ ン(MT)の経 口 投与 が 性 分化 に及ぼす 影響を調べ た。第1実 験 で は 、 孵 化 後14〜31カ 月 の 稚 魚 に 、E2お よ びMTを そ れ ぞ れ10お よ び 25 yg/g‑dietの 濃度で投 与したが 、MT投与群 の性比に 大きな偏 りはなく、

E2投 与群 は殆 どが雌に 分化した ものの、 生残率が 低く、約半 数の個体 は卵 巣特 有 の薄 板 構 造が 観 察さ れ な かっ た 。そこ で、第2実験 ではホル モンの 投与 期 間お よび濃度 を、それ ぞれ孵化 後3〜 18カ月 および1yg/g‑dietに変 えた と ころ 、E2投 与 群 の97%が 雌 に 、MT投 与群 の93% が 雄に 分 化し た。

以上 の 結果 から、チ ョウザメ において も、適切 な時期に適 切な濃度 で性ホ ル モ ン を 投 与 す る こ と に よ り 、 性 転 換 が 誘 導 さ れ る こ と が 示 され た 。   最 後に 、3倍 体 およ び 雌性 発 生2倍 体の 作 出を 試 み 、染 色 体 操作 個体 の 孵化 率 、生 殖腺の発 達および 性比を調 べた。そ の結果、他 魚種と同 様に紫 外線 照 射に より精子 を遺伝的 に不活性 化できる こと、15℃で 管理され た受 精15〜20分 後 の 卵 を 、3分 間34℃ の温 度 シ ョッ ク によ り 倍 数化 で きる こ とが 分 かっ た 。 さら に3年 魚の 卵 巣 を組 織 学的 に 観 察し た 結 果、 対 照2倍 体と 雌 性発 生2倍 体 では 周 辺仁 期 の 卵母 細 胞が 確 認 され た の に対 し て、3 倍体の卵 形成は対合 期以前の 状態で遅 滞したこ とから・、3倍体は不妊性を 示す も のと 推 察 され た 。性 比 に つい て は、雌 の割合が対 照2倍体で は40.0

〜5 5.0%であったのに対して、3倍体は60.0 '‑‑73.7%、雌性発生2倍体は70.0

〜 80.0%の割 合で雌に偏 った。従 って、雌 ヘテ口型 (ZW♀―ZZ♂)の性決 定機 構 を持 っ と 推察 さ れ、1代 の 染 色体 操作の みでは全雌 生産は不 可能と 考え ら れた 。逆に、 ミカドチ ョウザメ の卵に遺 伝的に不活 性化した べステ ルの 精 子を 受 精 させ 、 雌性 発 生2倍 体を 誘起す ることによ り、雌雄 のミカ ドチョウザメの次世代が得られることが示された。

  上 記の よう に、本研 究では、 チョウザ ヌの人為 繁殖および 性統御に 有用 な技 術 を確 立できた 。これら の結果は 、チョウ ザヌ類の資 源保護お よび増 養殖 の 両面 において 、多大に 貢献でき るものと して高く評 価され、 本論文 が 博 士 ( 水 産 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 の あ る も の と 判 定し た 。

参照

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