博士(農学)安 起弘 学位論文題名
Community structures of arbuscular mycorrhizal fungi in symbiosis with pioneer grass specleS n 勿 § C ロ 銘 競 Z 岱 SZ 銘 ¢ 刀 S 絡 1naCidSulfateSOilS (酸性硫酸塩土壌におけるパイオニア植物ススキに共生する アーバスキュラー菌根菌の群集構造)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
火山噴出物由来の岩石やマングローブ林に由来する河口付近の底質などに多く 含まれるパイライト(FeS2)が、大規模な土砂の切り出しや干拓などの開発によ り地表面に露出すると、化学的および微生物的に酸化されて硫酸が生じ、酸性硫 酸塩土壌が生成される。このような土壌では、酸性化によるアルミニウムやマン ガンなど有害元素の可溶化、リン酸可給度の低下や塩基の溶脱により、植生の定 着が著しく阻害される。また、裸地のまま放置すると、水域の酸性化や金属元素 の沈着による汚染を引き起こし、沿岸生態系を脅かすことも報告されていること から、その緑化修復技術の確立は急務である。ー方、劣悪な環境に最初に侵入・
定着するパイオニア植物は、高いストレス耐性を持っと共に、菌根菌や窒素固定 菌などの共生微生物を利用して、貧栄養環境に適応している。アーバスキュラー 菌根菌は、およそ80%の陸上植物と共生して、宿主にりン酸を供給する能カを 持っていることから、リン酸が不足しやすい酸性土壌においては、植生の定着に 重要な役割を果たしていると考えられる。しかし、本菌は培養できない絶対生体 栄養菌であるため、その生理・生態には不明な点が多く、特に荒廃地の初期遷移 過程における役割や群衆構造に関する情報は乏しい。本研究では、この菌を利用 した緑化修復技術を確立するための基礎的知見を得ることを目的に、東アジア地 域の酸性硫酸塩土壌において重要なパイオニア植物であるススキ(Miscanthus sinensis)に共生するアーバスキュラー菌根菌の群集構成について調査した。
酸陸硫酸塩土壌が分布する北海道蘭越町(亜寒帯)、愛知県幡豆町(温帯)お よび沖繩県名護市(亜熱帯)に加え、北海道厚真町の河岸段丘(砂質土壌)に形 成されたススキ群落を調査対象地とした。酸性硫酸塩土壌が分布する各調査地で
は無作為に選んだ12個体のススキ根圏から土壌を採取した。厚真町のススキ群 落 からは30X50mの プロ ット内 に設 定し た12か所の 格子 交点から根圏土壌を 採取した。温室においてこれらの土壌でススキ実生を2か月間栽培した後、地下 部を液体窒素による急速凍結後に凍結乾燥し、それぞれの根サンプルよりDNA を抽出した。これを鋳型として糸状菌特異的プライマーによルアーバスキュラー 菌根菌のりボソームRNA遺伝子の一部を増幅し、各個体のクローンライブラリ ーを作成した。個々のライブラリーからランダムに選んだ16〜32クローンの塩 基配列を決定し、BLAST検索により近縁な種を特定すると共に、系統解析によ り塩基配列に基づぃた分類群を決めた。また、採取した根圏土壌の化学分析を行 った。
根圏土壌サンプルのpHは、蘭越町で最も低く(3.0‑5.0)、次いで幡豆町(3.5‑
4.5)およぴ名護市(3.0‑5.5)の順であり、厚真町の砂質土壌では最も高かった (5.0‑6.0)。全炭素および全窒素含量は土壌pHと高い相関が認められ、pHが高 い調査地の土壌ほど、全炭素およぴ窒素含量が高かった。全リン含量は厚真町の 土壌で最も低く、次いで蘭越町および名護市の順であり、幡豆町の土壌で最も高 かった。各調査地のサンプルからそれぞれ100クローン以上の塩基配列を決定し、
合計で20種類のアーバスキュラー菌根菌の分類群を同定した。各調査地間の菌 根菌群衆構造の類似性と地理的距離(気候帯)との間には、有意な相関は認めら れなかった。さらに、調査地間の群集構造の相違を主成分分析により比較したと ころ、第一主成分は土壌pHの相違を反映していることが推定された。そこで、
各分類群の第―主成分スコアーとそれぞれの分類群が検出された土壌pHとの回 帰分析を行ったところ、これらの間に有意な相関が認められた。また、それぞれ の分類群が検出される土壌pHの範囲は、分類群の間で有意に異なっており、酸 性から中性の広い範囲のpHに適応しているgeneralis惚と主に中性土壌に分布す るncu恤lspecialistSにグループ分けされた。
本研究では、強酸性土壌の初期遷移で重要な役割を果たすパイオニア種のアー バスキュラー菌根菌の群衆構造が初めて明らかにされた。また、菌根菌群集の主 要な決定要因が土壌pHであること、強酸性土壌に棲息しているアーバスキュラ ー菌根菌には、広い範囲のpHに適応できるgeneralistが多いこと、地理的隔離 や気候帯は菌根菌の群衆構造にはほとんど影響しないことなども同時に明らかに された。これらの知見は、極限環境におけるアーバスキュラー菌根菌の生態を知 る上で重要なものであるだけでなく、荒廃地の緑化修復技術を確立するための重 要な示唆を与えている。
学位論文審査の要旨 主査 准教授 江澤辰広 副 査 教授 大崎 満 副 査 教授 山田敏彦
学 位 論 文 題 名
Community structures of arbuscular mycorrhizal fungi ●
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lnSynlbiOSiSWithpioneergraSSSpeCleS 舩 Cロ 刀 励 ZZSSZ刀 ¢ 勿 SZSlnaCidSulf・ ateSOilS
(酸性硫酸塩土壌におけるパイオニア植物ススキに共生する アーバスキュラー菌根菌の群集構造)
本論文は英文67頁、図19、表2、引用文献52、緒言、2章、英文総括からなり、ほかに 参考論文1編が付されている。
火山噴出物由来の岩石やマングローブ林に由来する河口付近の底質などに多く含まれる パイライト(FeS2)が、大規模な土砂の切り出しや干拓などの開発により地表面に露出す ると、化学的および微生物的に酸化されて硫酸が生じ、酸性硫酸塩土壌が生成される。こ のような土壌では、酸性化によるアルミニウムやマンガンなど有害元素の可溶化、リン酸 可給度の低下や塩基の溶脱により、植生の定着が著しく阻害される。また、裸地のまま放 置すると、水域の酸性化や金属元素の沈着による汚染を引き起こし、沿岸生態系を脅かす ことも報告されていることから、その緑化修復技術の確立は急務である。一方、劣悪な環 境に最初に侵入・定着するパイオニア植物は、高いストレス耐性を持っと共に、菌根菌や 窒素固定菌などの共生微生物を利用して、貧栄養環境に適応している。アーバスキュラー 菌根菌は、およそ80%の陸上植物と共生して、宿主にりン酸を供給する能カを持っている ことから、リン酸が不足しやすい酸性土壌においては、植生の定着に重要な役割を果たし ていると考えられる。しかし、本菌は培養できない絶対生体栄養菌であるため、その生理・
生態には不明な点が多く、特に荒廃地の初期遷移過程における役割や群衆構造に関する情 報は乏しい。本研究では、この菌を利用した緑化修復技術を確立するための基礎的知見を 得ることを目的に、東アジア地域の酸性硫酸塩土壌において重要なパイオニア植物である
スス キ(Miscanthus sinensis)に共生するアーバスキュラー菌根菌の群集構成にっいて調査 した。
酸性硫酸塩土壌が分布する北海道蘭越町(亜寒帯)、愛知県幡豆町(温帯)および沖繩 県名 護市( 亜熱 帯) に加 え、 北海 道厚 真町 の河岸段丘(砂質土壌)に形成されたススキ群 落を 調査対 象地 とし た。 酸性 硫酸 塩土 壌が 分布する各調査地では無作為に選んだ12個体の スス キ根圏 から 土壌 を採 取し た。 厚真 町の スス キ群 落か らは30 X50mの プロット内に設定 した12か所 の格 子交 点か ら根 圏土 壌を 採取 した。温室においてこれらの土壌でススキ実生 を2か 月問 栽培 した 後、 地下 部を 液体窒 素に よる 急速 凍結 後に 凍結 乾燥 し、それぞれの根 サ ンプ ル よ りDNAを 抽 出 し た 。 これ を 鋳 型 と し て糸状 菌特 異的 プラ イマ ーに よル アー バ スキ ュラー 菌根 菌の りボ ソー ムRNA遺伝 子の 一部 を増 幅し 、各 個体 のク ローンライブラリ ーを作成した。個々のライブラリーからランダムに選んだ16丶一丶32クローンの塩基配列を決 定し 、BLAST検 索に より 近縁 な種 を特定 する と共 に、 系統 解析 によ り塩 基配列に基づいた 分類群を決めた。また、採取した根圏土壌の化学分析を行った。
根圏土 壌サ ンプ ルのpHは 、蘭 越町 で最 も低く(3.0‑5.0)、次いで幡豆町(3.5‑4.5)お よび 名護市(3.0‑5.5)の 順で あり 、厚真 町の 砂質土壌では最も高かった(5.0‑6.0)。全炭素 お よび 全 窒 素 含 量は 土壌pHと 高い 相関 が認 めら れ、pHが高 い調 査地 の土 壌ほ ど、 全炭 素 およ び窒素 含量 が高 かっ た。 全リ ン含 量は 厚真町の土壌で最も低く、次いで蘭越町および 名護 市の順 であ り、 幡豆 町の 土壌 で最 も高 かっ た。 各調 査地 のサン プル からそれぞれ100 クロ ーン以 上の 塩基 配列 を決 定し 、合 計で20種類のアーバスキュラー菌根菌の分類群を同 定し た。各 調査 地間 の菌 根菌 群衆 構造 の類 似性と地理的距離(気候帯)との間には、有意 な相 関は認 めら れな かっ た。 さら に、 調査 地間の群集構造の相違を主成分分析により比較 し たと こ ろ 、 第 ー主 成分 は土 壌pHの相 違を 反映 してい るこ とが 推定 され た。 そこ で、 各 分 類群 の 第 一 主 成分 スコ アー とそ れぞ れの 分類 群が検 出さ れた 土壌pHと の回 帰分 析を 行 った ところ 、こ れら の間 に有 意な 相関 が認 められた。また、それぞれの分類群が検出され る 土壌pHの 範 囲 は、 分類 群の 間で 有意 に異 なっ ており 、酸 性か ら中 性の 広い 範囲 のpHに 適 応 し て い るgeneralistと 狭 いpH範 囲 の 中 性 土 壌 に 分 布 す る グ ル ー プ 分 け ら れた 。 本研究 では 、強 酸性 土壌 の初 期遷 移で 重要な役割を果たすパイオニア種のアーバスキ ユラ ー菌根 菌の 群衆 構造 が初 めて 明ら かに された。また、菌根菌群集の主要な決定要因が 土 壌pHで あ る こ と、 強酸 性土 壌に 棲息 して いる アーバ スキ ュラ ー菌 根菌 には 、広 い範 囲 のpHに適応 でき るgeneralistが多 いこ と、 地理的隔離や気候帯は菌根菌の群衆構造にはほ とん ど影響 しな いこ とな ども 同時 に明 らか にされた。これらの知見は、極限環境における −849―
アーバスキュラー菌根菌の生態を知る上で重要なものであるだけでなく、荒廃地の緑化修 復技術を確立する上で重要な基礎的知見であると言える。
よって,審査員一同は,An Gi‑Hongが博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有 するものと認めた。