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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 水 産 科 学 ) 横 山 良 太

     学位論文題名

  rvIolecular phylogeny and genetic population structure of freshwater sculpins ,Cottus and7  ̄シ竹C カi 匸た黼勿SSpeCieS ,     fromthe .Far ―EaStreglon

     ( 極 東 域 産 カ ジ カ 属 お よ び ヤ マ ノ カ ミ 属 魚 類 の      分子系統および遺伝的集団構造)

学位論文内容の要旨

  カ ジカ属魚 類(Cottus)は北半球 の広い範 囲の淡水 域に分布し、約40種を有する種多 様 性に富ん だ分類群で ある。分 類学的に は未整理 ではあるが日本列島には本属魚類は 7種が 分 布し 、 そ のう ち5種は 日本固有 種である 。多くの 本属魚類 は河川性 または湖 沼 性の生活 史を有する が、日本 産本属魚 類の生活 史は降河回遊性、両側回遊性、湖沼 性 および河 川性と多様 である。 また、東 アジア地 域には、本属魚類に近縁とされ、降 河回遊性の生活史をもっヤマノカミ属魚類ヤマノカミ(Trachidermus fasciatus)が分布す る 。これら のことから 、日本を 含む極東 域はカジ カ属魚類の種分化の中心地のひとつ であると考えられる。

  多 様性に富 むこの地域 のカジカ 属魚類に ついては 、生活史進化および種分化に関す る 研究が行 われてきた が、議論 の基盤と なるカジ カ属内の種間および近縁属間の系統 関係を明確に示した研究はない。

  そ こ で 、本 研 究 では ミ トコ ン ド リアDNA(mtDNA)の 塩 基 配列 デ 一夕 を 用 いて 、 極 東 域に分布 するカジカ 属および ヤマノカ ミ属魚類 について、種聞や種内といった様々 な レベルの 系統関係を 推定する ことによ って、種 分化過程、系統地理、遺伝的集団構 造および生活史の進化パターンを考察することを目的とした。

  東 アジ ア 、口 シ ア 、ヨ ー口 ッパおよ び北米か ら得られ た、カジ カ属魚類14種およ び ヤ マ ノ カ ミ に つ い てmtDNAの 調 節 領 域 お よ び12S rRNAの 塩 基 配 列( 計1710bp) に基づいた分子系統解析を、Mesocottus haitej、Leptocottus armatusおよびギスカジカ を外群に用いて行った。

  そ の結果、 カジカ属魚 類および ヤマノカ ミは2つの 単系統群 (グルー プIおよびII) に 分けられ た。グルー プIはヤマ ノカミお よびアユ カケ、一 方グルー プIIはアユカケ

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を 除いたカ ジカ属魚 類で各々 構成され ていた。 アユカケ がグループ1に含まれ たこと か ら、カジカ 属は単系 統群では なく側系 統群であ ることが示唆された。さらに、グル ー プIIに含まれ たカジカ 属魚類は4つの単系 統群(サ ブグループIIa―Ild)に分けられ た。

  サブグループIlaはヨー口ッパ、パイカル湖および北米に分布する種(Cottus gobio、 C. kessleri、C.cognatusおよびC.aleuticus)から、サブグループIIbはアムール川およ び ョー口ッバ 産のC. poecilopusの3つの遺伝 子型から 、サブグループlIcは(エゾハ ナ カジカ― ハナカジ カ)およ び(カン キョウカ ジカーキ ビレカジカ )の2つの 単系統 群 から、サ ブグルー プIldはカジ カ種群お よびコウ ライカジ カから、各 々構成さ れて い た。各サブ グループ 間の遺伝 的距離は ほぼ同程 度(4.46‑5.88%)であり、各サブグル ープの分化がほぽ同じ時期に起こったものと考えられた。

  次 に、通し回 遊性のカ ジカ属魚 類の遺伝 的集団構 造を明らかにするために、口シア 極 東 域、 サ ハ リン お よび 北 海 道に分布 する両側 回遊性の ェゾハナカ ジカにつ いて、

mtDNAの塩基配列データの解析を行った。

  上 述 した 分 布 域か ら 採集 さ れ た60個体 に つ いてmtDNAの 調 節領 域(420bp)を解 析 し た 結果 、 得 られ た 遺伝 子 型 は2つのみ であり、 それらは1塩基の置換 で特徴づ けら れ る非常に近 縁なもの であった 。このこ とから、 エゾハナカジカの遺伝的集団構造は 地 域集団間の 遺伝子流 動が大き く、地域 集団間に 長期間の隔離は存在しなかったと推 察 された。こ のような 遺伝的集 団構造は 、本種が 孵化仔魚期に沿岸域で過ごす両側回 遊 性の生活史 を有し、 河川間の 個体の移 動が海を 通じて起こるためにもたらされたと 考えられた。

  一 方、一生を 河川で過 ごす河川 性種の遺 伝的集団 構造を明らかにするために、北海 道 全 域と 東 北 地方 の 一部 に 分 布す る 河 川性 の ハナ カ ジ カに ついてmtDNAの調節領 域 の 塩 基 配 列 (421bpお よ び 973bp)を 用 い て 分 子 系 統 学 的 解 析 を 行 っ た 。

分 布域 全 体 から 得 られ た93個 体につい て解析し た結果、21の遺伝子型 が見出さ れ た 。 それ ら の 遺伝 子 型は 遺 伝 的に分化 した3つの 系統に分 けられ(約3%)、各々の 系 統 はそれぞれ 北海道、 東北北部 、および 山形県に 分布していた。また、各系統内にお い ても河川毎 に固有の 遺伝子型 を有し、 河川間で 同じ遺伝子型を共有することはほと ん どなかった 。このこ とから、 本種は地 域および 河川間の隔離が長期間にわたり維持 さ れ、地域集 団間の遺 伝子流動 がほとん どない遺 伝的集団構造を有していると推定さ れ た。このこ とは、ハ ナカジカ が河川性 の生活史 を有し、その分散能カが低く、地域 集団間で隔離が生じやすいためにもたらされたと考えられた。

  エゾ ハ ナ カジ カ と ハナ カ ジカ はカジカ 属内で最 も近縁な 関係にある とされて きた が 、全く異な る遺伝的 集団構造 を有して いること が示された。その違いは両者の生活

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史の違いによってもたらされたと考えられた。

  次に、エゾハナカジカとハナカジカの遺伝的類縁関係をmtDNAの調節領域の塩基 配列(421bp)に基づいて推定したところ、エゾハナカジカで見いだされた2つの遺伝 子型 はともにハナカジカの北海道の系統に含まれ、2種のmtDNAの系統は入り交じ っていることが示された。さらに、エゾハナカジカの遺伝子型の1っとハナカジカの 北海道南部集団から得られた遺伝子型は同一であり、他の1っも近縁であった。これ は、 北海道南部においては2種間にmtDNAの浸透交雑が生じたためであると考えら れた。

  カジカ属およびヤマノカミ属魚類における多様な生活史の進化を分子系統樹に基づ いて復元することを試みた。系統樹上に産卵場所をマッピングした結果、グループI は海水域、グループIIは淡水域が産卵場所であり、卵および胚の淡水適応能を獲得 したグループIIの祖先系統から両側回遊性、河川性および湖沼性の各生活史が進化 したと考えられた。また、グループIIの日本を含む東アジア地域に分布する複数の サブグループにおしjて、両側回遊性と河川性種が姉妹群(工ゾハナカジカーハナカジ カ、カンキョウカジカ―キビレカジカ、およびカジカ中卵型ーカジカ大卵型)を構成 したことから、これらの生活史進化が複数の系統で平行的に進化したことが示され た。この生活史の平行進化は、両側回遊性と河川性への分化という共通した進化バタ ーンが、本地域のカジカ属魚類が様々な淡水環境に適応する過程で平行的に生じたこ とを示唆する。

  以上の結果から、カジカ属およびヤマノカミ属魚類の種分化、分散過程および遺伝 的集団構造については以下のように考えられる。海産のカジカ科魚類から東アジア地 域において淡水域に侵入した系統から、海水域で産卵する系統(グループIの祖先)

と、淡水域で産卵する形質を獲得した系統(グループIIの祖先)が出現し、後者は 東アジアからバイカル湖を含むシベリア、ヨー口ッパ、および北米大陸へとそれぞれ 分散しながら種分化した。また、上記したように東アジア地域におけるグループII の各サブグループでは生活史分岐を伴う種分化が平行的に生じていたと考えられる。

そのような進化過程を経て生じた近縁種間において、その遺伝的集団構造は生活史の 違いに対応して異なった構造を呈し、さらに、一部地域においてはェゾハナカジカと ハ ナ カジ カ 間で み られ たように 、mtDNAの異 種間浸透も 生じたと考 えられる。

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学 位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授   荒 教 授   嵯 助 教 授  後 助 教 授  矢

井 克 俊 峨 直 恆 藤    晃 部    衞

     学位論文題名

  IvIolecular phylogeny and genetic population structure of freshwater sculpins ,Cottus and Trac たzder7nus species ,     from the Far‑East reglon

(極 東域 産カ ジカ 属お よぴ ヤマ ノカ ミ属魚類の     分 子 系 統 お よ び 遺 伝 的 集 団 構 造 )

  申 請者は、極東域に分布するカジカ属およびヤマノカミ属魚類を対象に、ミトコン ド リ アDNA (mtDNA)の 塩基 配列 解析 を行 い、 それら の種 間と 種内 の様 々な レベ ルに おけ る系統関係を推定するとともに、種分化プ口セス、系統地理、遺伝的集団構造お よ び 生 活 史 進 化 パ タ ー ン に つい て の 研 究 を 行い、 以下 の評 価す べき 結果 を得 た。

1) 日 本 を 含 む東 アジ ア、 口シ ア、 ヨー ロッ パおよ び北 米か ら得 られ たカ ジカ 属14 種 と ヤ マ ノ カ ミ 属 ヤ マ ノ カ ミを 対 象 に 、mtDNAの 調 節 領 域お よ び12S rRNAの 塩基 配列 を決 定し 、分 子系 統解 析を 行っ た結 果、 これ らの カジカ 属魚類とヤマノカミは 大きく2つの単系統群(グル‐プIおよびII冫に分けられた。

2) グル ープIはヤ マノ カミ およ びァ ユカ ケ、 一方 グル ープIIはアユカケを除いたカ ジ カ 属 魚 類 で各 々構成 され てい た。 アユ カケ がグ ルー プIに 含ま れた こと から 、カ ジカ 属は 単系 統群 では なく 側系 統群 であ るこ とが 示唆 された 。さらに、グループII   に 含まれたカジカ属魚類は4つの単系統群(サブグループIIa−Ild)に分けられた。

3)サブグループIIaはヨー口ッパ、パイカル湖および北米に分布する種(Cottus gobio、 C. kessleri、C.cognatusおよびC.aleuticus)から、サブグループIIbはアムール川 およ びョー口ッパ産のC. poecilopusの3っの遺伝子型から、サブグループIlcは(工 ゾ ハ ナ カ ジ カー ハナカ ジカ )お よび (カ ンキ ョウ カジ カー キピ レカ ジカ )の2つの 単 系 統 群 か ら、 サブグ ルー プIIdは カジ カ種 群およ びコ ウラ イカ ジカ から 、各 々構 成されていた。各サブグループ間の遺伝的距離はほぼ同程度(4.46―5.88)であり各サ ブ グ ル ー プ の 分 化 が ほ ぼ 同 じ 時 期 に 起 こ っ た も の と 考 え ら れ る 。

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4 )通し回遊性のカジカ属魚類の遺伝的集団構造を明らかにするために、口シア極東 域、サハリンおよび北海道に分布する両側回遊性のェゾハナカジカについて、上述 し た分 布域 から 採集さ れた60 個体についてmtDNA の調節領域(420bp) を解析した 結果、得られた遺伝子型は2 つのみであり、それらは1 塩基の置換で特徴づけられ る非常に近縁なものであった。このことから、工ゾハナカジカの遺伝的集団構造は 地域集団間の遺伝子流動が大きく、地域集団間に長期間の隔離は存在しなかったと 推察された。このような遺伝的集団構造は、本種が両側回遊性の生活史を有し、河 川 間 の 個 体 の 移 動 が 海 を 通じ て 起 こ る た め に も た ら さ れた と 考 え ら れ る 。 5 )一生を河川で過ごす河川性種の遺伝的集団構造を明らかにするために、北海道全 域と東北地方の一部に分布する河川性のハナカジカについてmtDNA の調節領域の 塩 基配 列(421bp および 973bp) を用いて分子系統学的解析を行った。分布域全体 から得られた93 個体について解析した結果、21 の遺伝子型が見出された。それら の遺伝子型は遺伝的に分化した3 つの系統に分けられ(約3%) 、各々の系統はそれ ぞれ北海道、東北北部、および山形県に分布していた。また、各系統内においても 河川毎に固有の遺伝子型を有し、河川間で同じ遺伝子型を共有することはほとんど なかった。このことから、本種は地域および河川間の隔離が長期間にわたり維持さ れ、地域集団間の遺伝子流動がほとんどない遺伝的集団構造を有していると推定さ れた。

6 ) エ ゾ ハ ナ カジカ とハ ナカ ジカの 遺伝 的類 縁関 係を mtDNA の調 節領 域の 塩基 (421bp) に基づいて推定したところ、エゾハナカジカで見いだされた2 つの遺伝子型    はともにハナカジカの北海道の系統に含まれ、2 種の mtDNA の系統は入り交じっ ていることが示された。さらに、エゾハナカジカの遺伝子型の1 っとハナカジカの 北海道南部集団から得られた遺伝子型は同一であり、他の1 っも近縁であった。こ れ は、 北海 道南 部にお いては2 種間に mtDNA の浸透交雑が生じたためであると考 えられる。

7 )カジカ属およびヤマノカミ属魚類における多様な生活史の進化を分子系統樹に基 づいて復元することを試みた。系統樹上に産卵場所をマッピングした結果、グルー プI は海水域、グループII は淡水域が産卵場所であり、卵および胚の淡水適応能を 獲得したグループII の祖先系統から両側回遊性、河川性および湖沼性の各生活史が 進化したと考えられた。また、グループII の日本を含む東アジア地域に分布する複 数のサブグループにおいては、両側回遊性と河川性種の姉妹群(エゾハナカジカ―

ハナカジカ、カンキョウカジカーキビレカジカ、およびカジカ中卵型―カジカ大卵 型)の生活史が平行的に進化したことが示された。

8 )以上の結果から、カジカ属およびヤマノカミ属魚類は、海産のカジカ科魚類から

東アジア地域において淡水域に侵入した系統から、海水域で産卵する系統(グルー

   プI の祖先)と、淡水域で産卵する形質を獲得した系統(グループII の祖先)が出

現し、後者は東アジアからバイカル湖を合むシベルア、ヨー口ッパ、および北米大

   陸へとそれぞれ分散しながら種分化したと推察される。

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   申請者による以上の研究成果は、水圏生物の多様性の実態とその起源の解明に大

きく寄与するものであり、審査員一同は博士(水産科学)の学位を授与される資格

のあるものと判定した。

参照

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