博 士 ( 歯 学 ) 阿 保 備 子
学位論文題名
Comparison of bonding efficacy of an all‑in‑one adhesive withaself‑etching primer system・
(一液性試作アドヒーシブとセルフエッチングシステムとの接着性能の比較)
学位論文内容の要旨
接着性 コン ポジ ット レジ ン修 復は現在、臨床の場で広く行われている。アドヒーシブレ ジ ンはコ ンポ ジッ トレ ジン の歯 質との接着を仲介するものであり、その基本的構成は、歯 面 処理材、プライマーレジンおよぴボンディングレジンである。これら3つの働きにより、
歯 質の脱 灰、 親水 性モ ノマ ーの 浸透と疎水性モノマーの架橋・重合が行われ、歯質との接 着 が達成 され る。 臨床 に韜 いて はより簡略化された接着操作が望まれ、接着に必要なステ ッ プの簡 略化 が計 られ てき た。 現在 では2ステ ップ シス テム が広く用いられており、そし て さらに ステ ップ を少 なく した1ステ ップ のも のが 最近 各社 から多く商品化されている。
1ス テ ッ プ 接 着 シ ス テ ム に は 、 処 理前 に2つ のボ トル から1液ず つ混 ぜて 用い るも のや 触 媒のみ 処理 前に 混ぜ て用 いる もの など 、様 々な タイ プの ものがあるが、最終的に1液の レ ジン溶 液で 歯面 との 接着 に必 要な脱灰、モノマーの浸透、重合の操作を効果的に行うよ う に設計 され てい る。 今回 用い た試 作ア ドヒ ーシ ブは 、最 も単純な形態で1っの容器内に 全 ての要 素、 っま り酸 性機 能性 モノマー、溶媒、重合開始触媒を含んだワンボトルタイプ のオールインワンアドヒーシプである。
この一 液性 試作 アド ヒー シブ の接着性に関する過去の研究では、他のワンステップアド ヒ ーシブ シス テム と同 等か 良好 な成績が報告されている。ワンステップシステムはステッ プ が簡略 化さ れ臨 床的 操作 も容 易であるとされている反面:一般的にその接着性能につい ては疑問視する報告も多く見られる。
近年、 接着 シス テム の歯 質に 対する接着性能の評価は、微小引張り接着強さ試験による 接 着強さ やサ ーマ ルサ イク リン グ後の辺縁漏洩試験などを用いて総合的に行われる。この ー 液性試 作ア ドヒ ーシ プに 関す る前述の研究では、象牙質に対する剪断強さのみで接着性 を 評価し て韜 リ、 エナ メル 質と 象牙質が混在するような臨床的に多く遭遇する窩洞に対す る接着性を十分に評価しているとはいえない。本研究ではー液性試作アドヒーシブ(ヘレウ ス クルツ ァー 社製ADボ ンド 、以 下AD)の接 着性 能を サー マル サイクリング後の辺縁漏洩試 験 ならび にエ ナメ ル質 及ぴ 象牙 質に対する微小引張り接着強さの測定により評価し、合わ せ てセルフエッチングシステム(クラレメディカル社製クリアフイルメガボンド、以下SE) と 比較・ 検討 した 。ま たス テッ プの簡略化により、エナメル質に対する脱灰能の低下が懸
念されることから、エナメル質の脱灰能をSEM観察にて評価した。
〔方法〕
1. サー マル サイ クリ ング 後の辺縁漏洩試験:ヒト小臼歯歯頸部に直径3mm、深さ1,5mm のV級 窩 洞 を 形 成 し た 。 窩洞 は各 シス テム10歯 ずつ 作製 した。 メー カー の指 示通 り に各 種ア ドヒ ーシ ブを 塗布 後、コ ンポ ジッ トレ ジン を充 填、 光照 射し た。37℃ 水中 に24時 間 保 管後 研 磨 し 、5℃‑55℃ の サ ー マ ル サ イ ク リ ングを5000回行 った 。終 了 後、 マー ジン 部以 外に バー ニッシ ュを 塗布 し、O.5%塩基性フクシンに2時間浸漬、
水洗 後に エポ キシ レジ ンに 包埋し た。 エポ キシ レジ ン硬 化後 、ダ イヤ モン ドデ ィス ク に て 長 軸 方向 に2箇 所 で 切 断 し 、 得 ら れた4縦 断 面 に おいて 窩壁 適合 性を 包素 の 浸透性により評価した。 ,|
2. チナ メル 質及 び象 牙質 に対 する 微小 引張 り接 着強 さの測定:低速のダイヤモンドデ イ ス ク に て ヒト 小 臼 歯 を 歯 頸部で 分断 し、V級 窩洞 を想 定し、 歯冠 側エ ナメ ル質 お よ ぴ 歯 根 側 象牙 質 を 耐 水 研 磨紙#600にて 切削 し、 それ ぞれ被 着面 とし た。 試料 は 各シ ステ ム10歯ず つ作 製し た。メ ーカ ーの 指示 通り に各 種ア ドヒ ーシ ブを 塗布 、コ ン ポ ジ ッ ト レジ ン を 積 層 し た試料 をく37℃ 水中24時 間保 管後 、O,5 mmXlmmの角 柱 試験片を作製し、1 mm/minの速度で試験を実行した。
3. エ ナ メ ル 質 に対 す る 脱 灰 能 の 評 価 : ヒ ト 前 歯 唇 側 面 を 耐水研 磨紙 #600に て1分 問 研 磨 後 長 軸 方向 に2箇 所 切 断 し 、3片 の 平 滑 な エ ナ メ ル 質面を 作製 した 。蒸 留水 に て1分 間 超 音 波 洗 浄 し た 後、 中央 部は コン トロ ール とし て用い るこ とに し、 未処 理 とし た。 また スミ ア層 の保 護の為 に切 縁側 半分 をビ ニル テー プに て覆 った 。左 右側 2片 をADま た はSEプ ラ イ マー を メ ー カ ー 指 示 通 り 塗 布 し 、 そ の 後 ア セ ト ン と 蒸 留 水で 各30秒ず つ超 音波 洗浄 した。 それ ぞれ の液 には 光重 合開 始剤 が含 まれ てい るこ とか ら塗 布以 降の 処理 は暗 室にて 行っ た。 全て の処 理後 にデ シケ ータ 内で24時 間保 管後、通法により金蒸着し、SEM観察した。
〔結果および考察〕
漏 洩試 験に おい て窩 壁に 漏洩 が認め られ なか った のは 、歯冠側においてADで1窩洞、SE で10窩 洞 、 ま た 、 歯 根 側 に お い て はADで8窩 洞 、SEで9窩 洞 で あ っ た 。ADはSEに 比 べ 歯冠側において漏洩が有意に多く見られた(P<0.05)が、歯根側では両者間に差は認めら れなかった(P〉O.05)。微小引張り接着強さは、ADの場合、エナメル質において25.2MPa、 象牙 質に おい て68. 3MPaで あったのに対し、SEの場合、エナメル質において35.8MPa、象 牙質 にお いて76.4MPaであ り、ADはSEに比 ベェ ナメ ル質 に対 して は有 意に 低い 接着 強さ を示した(P〈O.05)。これらの結果より、ADが歯冠側の窩壁適合性において劣るのはエナ メ ル 質 に 対 す る 接 着 強 さ の 低 い こ と が 影 響 し て い る と 考 え ら れ る 。 一 方、 処理 後の エナ メル 質表 面のSEM像 では 、コ ント ロール試料で確認できたスミア層 がADおよ びSEによ り除 去さ れて いるも のの 、い ずれ の処 理面 も研 磨に よる 線状 痕が 認め られ た。 しか し、ADの 方がSEと 比較し て線 状痕 が明 瞭で あっ た。 また 、処 理面 には 小柱 構造 が観 察さ れる もの の、ADに おいて はSEと比 較し て不 鮮明 であ った 。こ れら の所 見よ り 、 エ ナ メ ル 質 に 対 す る 脱 灰 能 はADの 方 がSEよ り 劣 る こ と が 考 え ら れ る 。
一般に歯質との接着強さは、被着面におけるエナメル小柱の走行あるいは象牙細管の走 行や密度によって影響される。本研究では、V級窩洞の窩壁を想定した歯冠側エナメル質 と歯根側の象牙質を用いて接着強さを測定した。
適切な歯質との接着を得るためには、切削面に存在するスミア層の除去に必要な脱灰能、
またその処理面ヘレジンモノマーが十分に浸透し硬化することが必要である。さらに最近 では機能性モノマーの歯質中のカルシウムやコラーゲンとの化学的結合性も注目されてい る。
象牙質においてADはSEと同等の接着性を示した。これは、ADに含まれているグルター ルアルデヒドがコラーゲン内のアミノ基と架橋結合し、また、機能性モノマーである4
‑METAがハイドロキシアパタイトやコラーゲン線維と結合したためと考えられる。一方、
エナメル質においてADはSEに比ベ接着性能が劣っていた。`これは、ADの脱灰能がSEに 比べ劣っていたためと推測される。pHはADが2.1、SEプライマーが2.Oと報告されてお り、脱灰能はpHだけで決定されるものではなく、それぞれが含有する機能性モノマー(AD: 4‑META、SE:lcrtDP)の差によるものかもしれない。
〔結論〕
ADの接着性能は、象牙質に対してはSEと同等の良好なものといえるが、エナメル質に 対しては十分とはいえない。臨床的見地から、エナメル質との接着性は重要であり、脱灰 能 の 向 上 等 に 関 し て 一 液 性 試 作 ア ド ヒ ー シ ブ の 更 な る 改 良 が 期 待 さ れ る 。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Comparison of bonding efficacy of an all‑in‑one adhesive withaself‑etching prlmerSyStem.
(一液性試作アドヒーシブとセルフエッチングシステムとの接着性能の比較)
審査 は佐 野、 亘理 およ び大 畑審 査委 員が実施し、学位申請者に対して提出論 文 の内 容と それ に関 連す る学 科目 につ いて口頭試問の形式によって行われた。
以下に、提出論文の要旨と審査の内容を述べる。
学位申請者は、一液性試作アドヒーシブ(ヘレウスクルツァー社製ADボンド、
以 下AD)の 接着 性能 をサ ーマル サイ クリ ング 後の 辺縁 漏洩 試験 なら びにエナメ ル 質及 び象 牙質 に対 する 微小 引張 り接 着強さの測定により評価し、合わせてセ ルフエッチングシステム(クラレメディカル社製クリアフイルメガボンド、以下 SE)と 比較 ・検討した。またステップの簡略化により、エナメル質に対する脱灰 能 の低 下が 懸念されることから、エナメル質の脱灰能をSEM観察にて評価した。
サ ー マ ル サ イ ク リ ン グ 後の 辺縁漏 洩試 験に おい ては 、ADとSEに関 して 各10 歯 ずつ 用い た。 窩洞 は各 シス テム10歯 ずつ作製した。ヒト抜去臼歯歯頚部に形 成 したV級 窩洞 にメ ーカ ーの指 示通 りに 各ア ドヒ ーシ ブを 塗布 後、 コンポジッ ト レジ ンを 充填、光照射し、37℃水中に24時間保管した。研磨後、5℃−55℃の サ ーマ ルサ イクリングを5000回行った後、0.5%塩基性フクシンに2時間浸涜、
水 洗し た。 試料 をエ ポキ シレ ジン に包 埋し 、窩 洞を 通るよ うに 長軸 方向に2箇 所 で 切 断 し 、 縦 断 面 に お い て 窩 壁 適 合性 を 色 素 の 浸 透 性 に よ り 評 価 し た 。 微小 引張 り接着強さに関しては、V級窩洞の歯冠側壁エナメル質および歯根側 壁 象 牙 質 に 対 し て 行 っ た 。ADとSEに 関し て各10歯 ずつ 用い た。 メー カー の指 示 通り に各 アド ヒー シブ を塗 布後 、コ ンポジットレジンを積層した試料を37℃ 水 中に24時 間保 管し た後 、O.5 mm xi mmの角柱試験片を作製し、1mm/minの速 度で試験を実行した。
エナ メル 質に 対す る脱 灰能 は、 各ア ドヒーシブにて処理したヒト前歯唇側エ ナメル質をSEM観察にて評価した。
彦 夫
昇
英 文
野 野
畑
佐 亘
大
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
ADはSEと比較して歯冠側における漏洩が多く見られた(P〈O.05)が、歯根側 において両者に差は認められなかった(P〉O.05)。また、微小引張り接着強さは、
ADの場 合、 エナ メル 質に おい て25.2MPa、象牙質において68.3MPaであったの に 対し 、SEの場 合、 エナ メル 質にお いて35. 8MPa、象牙質において76. 4MPaで あり、エナメル質において、ADはSEよりも低い接着強さを示した(P<0.05)。
こ れら の結 果よ り、ADの エナ メル質 に対する低い接着強さが歯冠側に韜ける窩 壁適合性に関与をしていると考えられる。
エナ メル質処理面のSEM観察では、処理によルスミア層は除去されているが、
い ずれ の処 理面 も研 磨時 に生 じた線 状痕が認められた。ただし線状痕はADの方 がSEと 比べ 明瞭 であ った 。さ らに、ADにおいては、小柱構造が観察されるもの のSEと 比 べ 不 鮮 明 で あっ た。 以上 より 、ADの エナ メル 質に 対す る脱 灰能 はSE より弱いと推測される。
一般 に歯 質と の接 着強 さは 、被着 面におけるエナメル小柱の走行あるいは象 牙 細管 の走行や密度によって影響される。本研究では、V級窩洞の窩壁を想定し た 歯 冠 側 エ ナ メ ル 質 と 歯 根 側 の 象 牙 質 を 用 い て 接 着 強 さ を 測 定 し た 。 象 牙 質 に お い てADはSEと同 等の 接着 性を示 した 。こ れは 、ADに含 まれ てい る グル ター ルア ルデ ヒド がコ ラーゲ ン内のアミノ基と架橋結合し、また、機能 性 モノ マー であ る4−METAがハ イド ロキ シア パタ イト やコ ラーゲ ン線維と結合 し た た め と 考 え ら れ る。 一方 、エ ナメ ル質に おい てADはSEに比 べ接 着性 能が 劣 って いた 。こ れは 、ADの脱 灰能がSEに比べ劣っていたためと推測される。pH はADが2.1、SEプラ イ マ ー が2.Oと 報 告 さ れ て お り、 脱灰 能はpHだ けで 決定 さ れる もの では なく 、そ れぞ れが含 有する機能性モノマー(AD:4−META、SE: MDP)の差によるものかもしれないと示唆している。
本研 究の 結論 とし て、ADは 象牙質 に対してはSEと変わらず良好な接着が得ら れ るが 、切 削し たエ ナメ ル質 に対し てその接着性能は象牙質と比較して十分と は いえ ない 。臨 床的 見地 から 、エナ メル質との接着性は重要であり、脱灰能の 向 上等 に関 して 一液 性試 作ア ドヒー シブの更なる改良が期待される、としてい る。
学位 申請 者に 対し て論 文内 容に関 連する質問が行われた。主な質問内容を以 下に示す。
1. ポ ン デ ィ ン グ レ ジ ン の 厚 さ が 接 着 性 能 に 影 響 す る 可 能 性 2.象牙細管の走行に対しての接着カの違い
3. 象 牙 質 に お い て 形 成 さ れ た レ ジ ン タ グ が 接 着 に 寄 与 す る 割 合 4.各ボンディング剤による接着試験片の破断様式の違い
これ らの 質問 に対 して それ ぞれ適 切な回答が得られ、一液性試作アドヒーシ ブ の接 着性 能の 評価 を微 小引 張接着 強さ試験や辺縁漏洩試験などを用いて総合 的に行ったことについて評価された。
したがって学位申請者は博士(歯学)の学位授与に相応しい者と認められた。