博 士 ( 環 境 科 学 ) 平 池 友 梨
学位論文題名
A model study on descending surf ・ aCeWateratthe marginaliCeZOnerelatin 童 tOAntarCtiCIntermediateWater (南極中層水形成に係る氷縁域の表層水沈降を解明するモデル研究)
学位論文内容の要旨
地球温暖化に代表される気候変動を知る上で,観測データの少ない南大洋で起こって いる諸現象を解明することは非常に重要な研究課題である.本研究では海氷面と開水 面に対する海面応カの違いによって生じる氷縁域avlIZ)で独特の物理現象であるEkman収 束(ECMIZ)に注目した.このMIZでの海面応力差は海氷の空気に対する抵抗が開水面の大 気に対する抵抗よりも大きいことにより生じることが知られている,MIZでの海面応力 差に注目した先行研究は北半球に集中しており,ラブラドル海などでのEkman発散によ る湧昇現象がモデルや観測により示されている.しかし,南半球の南極海で起こるECMI Zを指摘した先行研究はない.南極海は冬季に海氷が大きく張り出す季節海氷域である,
海氷の張り出しが最大になる冬季にはMIZはほば環状に存在し冬季に強まる強い偏西 風帯付近に位置する.そのような風の場とMIZの関係から,ECMIZが起こると期待できる.
さらにMIZは渦による等密度面混合が活発であると考えられている南極周極流の南端 に位置し,海氷融解により表層塩分は低下する.表層水の等密度面混合は南半球中層 に分布する低塩低温の水塊である南極中層水(AAIW)形成プ口セスのーつであると考えら れている.このように冬季MIZ,偏西風帯と南極周極流の位置関係から,ECMIZにより 沈降した表層水が渦による等密度面混合を経てAAIW形成に寄与しているものと考えるこ とができる.また,表層水の沈降は大気中の二酸化炭素吸収を見積もる際にも重要とな る.
以上のような観点から,本研究では海氷海洋結合モデルを用いて,ECMIZの強さや分 布を調べ た実験に用 いる大気デ ータはECMIZの強さが西風の強さに大きく影響する ことから,西風の年々変動を特徴づける大気大循環の主要モードである南半球環状モー ドの正(2001年,西風 耐と負(2000年,西風弱を考慮した観測やモデルによる先行研 究を参考 に海氷の空 気に対する 抵抗は開水 面の2倍に設定して実験を行った実験の 結果,ECMIZは2001年と2000年ともに7月から10月に大西洋域と太平洋域で海氷の融解 を伴い,高密度AAIWのoutcrop領域で起きていた,これらの領域ではMIZは西風の極大 付近に位 置していた ために強し¥ECMIZが引き起こされた一方,背景の風が強い発散 場であるインド洋では非常に弱かった.また,2001年のECMIZは2000年よりも強く,大 気の年々変動による違しゝがあることを示したさらに海氷と開水面の空気に対する抵 抗を同じに設定した比較実験を行った結果,ECMIZが起きなかったことから,ECMIZが 海面応力差により引き起こされていることを確認した
上記の実験は海洋表層の混合を一定として行った実験で,ECMIZの領域間の違いや 年々変動を適切に表すことができた.海洋混合層やMIZでの海氷の広がりをより良く表
現するために結合モデルに混合層バラメタリゼーションを組み込み,同様の実験を行 った現実 の海洋では表層の混合は鉛直シアや成層状態で決まり,季節や領域など時 空間的に変わる.また,海氷の運動方向には海氷海洋間の摩擦の大きさとわずかな向き の違いが重要である,海洋最上層流の表現は表層の混合(Ekman層厚)の変化により,
その結果海洋海洋間の摩擦が変化する.組み込む混合層バラヌタリゼーションはPacan owski and Philander (1981)を使用した,このバラメタリゼーションは鉛直粘性・拡 散係数を鉛直シアや密度成層の強弱から計算するものである.また,鉛直一次元モデル で振る舞いを確認した結果,海洋混合層バラヌタリゼーションとしてよく使用されてい る乱流混合バラヌタリゼーションと同様の,風応カや成層の強弱による混合の違いを明 確にあらわした
この混合層バラヌタリゼーションを組み込み,混合を一定とした実験と同様に2001 年と2000年の大気データを用いて実験を行ったその結果,海氷分布の年々変動の再現 性や海氷 域の混合層が改善されたその原因は主に成層の強い夏季の鉛直混合が改善 されたた めに表層の成層が維持され海氷生成によるブライン排出が起こる冬季に非 現実的な深い対流が起こらなかったためである.その結果,AAIWの起源と考えられてい るMIZの 表層水塩分は混合を一定とした実験よりも低くなった.MIZでのoutcrop.密 度は混合を一定とした実験よりも低いものの,高密度AAIWの密度と一致した,また,
ECMIZの大きさや分布は,MIZの広がりや融解の早さの違いにより若干の違いはあるもの の,混合を一定とした実験とほぽ同様の結果が得られた
実験で得られた流速場や混合を用いて人工トレーサー実験を行い,ECMIZによる表層 の下向き輸送量を解析した.その結果,環状モードの強v¥2001年の輸送量は環状モード の弱い2000年のおよそ1.4倍であり,どちらの年も大西洋域の輸送量は太平洋域の2倍で あった.それぞれの領域におけるECMIZによる表層水の沈降量は先行研究による高密 度AAIW形成量の5−7%(太平洋域),16―22%(大西洋域)であり,大西洋域でのECMIZの 寄与は大きいと考えられる.さらに下向きフラックスだけを積分し,総観規模擾乱に よるECMIZによる下向き輸送量を解析した.総観規模擾乱によるMIZでの表層水の沈降量 は東部太平洋域で大きく,先行研究により等密度面混合の重要I生がこの領域で指摘さ れていることから,東部太平洋域での総観規模擾乱による表層水の沈降はAAIW形成に重 要であると示唆される.また,ECMIZによる表層水の沈降を示唆する観測されたCFC−11 の分布とトレーサー実験の結果はよく類似していた
以上の結果より,本研究で明らかになったECMIZによる表層水の沈降は等密度面混 合プ口セスに基づいた考察を加えると,高密度AAIW形成に寄与することが示唆されたI すなわち,ECMIZが海氷の融解による低塩分の表層水を沈降させ,AAIW形成に重要な役 割があると考えられる.さらに大西洋AAIWは太平洋AAIWよりも低温低塩であり,大西 洋域のECMIZはこの領 域間のAAIWの違 いに効果的に寄与していることが示唆された さらに本研究で明らかにされたECMIZでの表層水の沈降は将来の水塊形成や二酸化 炭素吸収量変化の解明において重要であると示唆される.近年,渦解像モデルによる南 大洋の水塊形成の再現をめざす研究がさかんに行われている.過去から注目されている 等密度面混合を引き起こす渦の解像や降水,海氷生成・融解による表層水の再現性に加 え,本研究で示したECMIZを考慮することにより,AAIWの再現性は向上すると考えられ る.また,地球温暖化により南半球環状モードが強化されることが指摘されている.そ れにより,偏西風帯の南極側の発散域では深層水の上昇が強化され海洋から大気への 二酸化炭素放出が増加する,一方で,環状モードの強化はMIZでの表層水沈降量を増加 させ MIZでの二酸化炭素吸収量は増加すると期待される.よって,気候変動予測にお いて水塊形成や二酸化炭素吸収量変化の解明は重要な課題であり,その解明にはMIZで
の表層水の沈降を考慮することが必要であると示唆される.
学位論文審査の要旨
主査 教授 池田元美 副査 教授 山崎孝治 副査 教授 三寺史夫 副査 准教授 渡辺 豊 副査 准教授 青木 茂
副査 准教授 牛尾収輝(国立極地研究所)
学位論文題名
A model study on descending surf ・ aCeWateratthe marginaliCeZOnerelatingtOAntarCtiCIntermediateWater (南極中層水形成に係る氷縁域の表層水沈降を解明するモデル研究)
地球温暖化に代表される気候変動を知る上で,観測デ一夕の少ない南大洋で起こっている 諸現象を解明することは非常に重要な研究課題である。本研究では,海氷面と開水面に対す る 海 面 応カ の 違い に よっ て生じる 氷縁域Gvnz)で 独特の物 理現象であ るEkmanエ嚠ミ (ECMIZ)に注目した。このMIZでの海面応力差は海氷の空気に対する抵抗が開水面の大気に 対する抵抗よりも大きしゝことにより生じる。rvnzでの海面応力差に注目した先行研究は北半 球に集中しており,ラブラドル海などでのEkman発散による湧昇現象がモデルや観測により 示されている。しかし,南半球の南極海で起こるECMIZを指摘した先行研究はない。南極海 は冬季に海氷が大きく張り出す季節海氷域である。
海氷の張り出しが最大になる冬季には,rvnzはほぼ環状に存在し冬季に強まる強い偏西風 帯付近に位置する。そのような風の場とrvnzの関係から,ECMIZが起こると期待できる。
さらに]vnzは渦による等密度面混合が活発であると考えられている南極周極流の南端に位置 し,海氷融解により表層塩分は低下する。表層水の等密度面混合は,南半球中層に分布する 低塩低温の水塊である南極中層水(AAIW)形成プロセスのーつであると考えられている。こ のように,冬季1vnz,偏西風帯と南極周極流の位置関係から,ECMLZで沈降した表層水が 渦による等密度面混合を経てAAIW形成に寄与しているものと考えることができる。また表 層 水 の 沈 降 は 大 気 中 の 二 酸 化 炭 素 吸 収 を 見 積 も る 際 に も 重 要 と な る 。 本研究では海氷海洋結合モデルを用いて,ECMIZの強さと分布を調べた。実験に用いる 大気データは,ECMIZの強さが西風の強さに大きく影響することから,西風の年々変動を 特徴づける大気大循環の主要モードである南半球環状モードの正(2001年,西風崗と負(2000 年,西風弱)を考慮した。観測やモデルによる先行研究を参考に,海氷の空気に対する抵抗は 開水面の2倍に設定した。ECMIZは両年とも7月から10月に大西洋域と太平洋域で海氷の融 解を伴い,高密度AAIWのoutcrop領域で起きていた。rvnzは西風の極大付近に位置していた
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ために,強V)ECMIZが引き起こされたが,背景の風が強い発散場であるインド洋では非常に 弱かった。2001年のECMIZは2000年よりも強く,大気の年々変動による違いがあることを 示した。さらに,海氷と開水面の空気に対する抵抗を同じに設定するとECMIZが起きなか っ た こ と か ら ,ECMIZが 海 面 応 力 差 に よ り 引 き 起 こ さ れ て い る こと を 確 認し た 。 上記の実験に加えて,海洋混合層や1Vnzでの海氷の広がりをより良く表現するために,結 合モデルに混合層パラメタリゼーションを組み込み同様の実験を行った。表層の混合は鉛直 シアや成層状態で決まり,季節や領域などで変わる。また海氷の運動と分布には海氷海洋間 の摩 擦の大き さと向き の違いが 重要であ る。組み 込む混合層 パラヌタ リゼーションは PacanowskiandHmander(1981)を使用した。鉛直一次元モデルで振る舞いを確認したと ころ,海洋混合層バラメタリゼーションとしてよく使用されている乱流混合パラメタリゼー シ ョ ン と 同 様 , 風 応 カ や 成 層 の 強 弱 に よ る 混 合 の 違 い を 明 確 に あ ら わ し た 。 この混合層バラメタリゼーションを用いた実験では,海氷分布と海氷域の混合層が改善さ れた。その原因は,主に成層の強い夏季の鉛直混合が改善され表層の成層が維持されて,
海氷生成によるブライン排出が起こる冬季に非現実的な深い対流が起こらなかったためであ る。その結果,AAIWの起源と考えられているMIZの表層水塩分は,混合を一定とした実験 より も低くな った。MIZで の0utcrop密度とECMIZの強さや分布は,混合を←定とした実 験とほぼ同様の結果が得られた。
実験で得られた流速場や混合を用いて人工トレーサー実験を行しゝ,Eの皿Zによる表層の 下向き輸送量を解析した。環状モードの強い2001年の輸送量は環状モードの弱い2000年の およそ1.4倍であり,どちらの年も大西洋域の輸送量は太平洋域の2倍であづた。そゎぞゎの 領域におけるECMIZによる表層水の沈降量は,先行研究による高密度んuW形成量の5.7%
(太平洋域),16.22%(大西洋域)であり,大西洋域でのE(コMIZの寄与は大きいと考えら れる。さらに,下向きフラックスだけを積分し,総観規模擾乱によるECMIZの下向き輸送 量を見積もった。この沈降量は東部太平洋域で大きく,先行研究により等密度面混合の重要 性がこの領域で指摘されていることと合わせ,東部太平洋域での表層水の沈降はAAIW形成 に重要であると示唆される。また観測されたCFC・nの分布に類似しており,ECMIZによる 表層水の沈降を示唆する。
以上の結果より,本研究で明らかになったECMIZによる表層水の沈降は,等密度面混合 プ口セスに基づしゝた考察を加えると,EC:MIZが海氷融解による低塩分の表層水を沈降させ,
AAIW形成 に重要な 役割を果たす。また大西洋AAIWは太平洋AAIWよりも低温低塩であり,
EC:MIZがこの領域間のAAIWの違いに寄与している。
さらに本研究で明らかにされたECMIZでの表層水の沈降は,将来の水塊形成や二酸化炭 素吸収量変化の予測に重要であると示唆される。渦解像モデルによる等密度面混合の導入,
降水 と海氷生 成・融解 による表 層水の再 現性に加 え,ECMIZを考慮することによって,
AAIWの再現性は向上する。また,地球温暖化により南半球環状モードが強化されると予測 されているが,その結果として偏西風帯の南極側の発散域では深層水の上昇が強化され,海 洋から大気への二酸化炭素放出が増加する一方で,環状モードの強化はMIZでの表層水沈降 量を増加させ,MIZでの二酸化炭素吸収量は増加すると期待される。このように本研究は,
地球温暖化の予測,およびその際の二酸化炭素吸収量変化の推定にも重要な貢献をするもの である。
審査委員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心であり,大 学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ,申請者が博士(環境科学)の学位を受 けるのに充分な資格を有するものと判定した。