博 士 ( 工 学 ) 高 島 敏 行
学 位 論 文 題 名
蒸気メタライズ法によるセラミックスと金属の 反応および接合に関する研究
学位論文内容の要旨
窒化ケイ素(SiヨN4)なら びに炭化ケイ素(SiC)セラミックスは硬さ,耐熱性,耐食性など に優れた特性を有し,近年,自動車工ンジン,タービンなどの構造材料として研究・開発されて いる。これらセラミックスは単独より金属と複合化して使用することが得策であり,この複合化 の要素技術としてセラミックスと金属の接合法の確立が望まれている。高強度で信頼性に優れた セラミックス・金属接合体を作製するためには,接合界面における反応・拡散・層構造・成長な どの界面現象を支配する因子を明らかにし,制御することが必要となる。しかしながら,接合界 面におけるこれらの過程を詳細に明らかにすることfま,両者を接合して断面方向から観察する従 来の研究では困難であった。
本論文では,セラミックス表面に金属を蒸気として供給しながら反応させる蒸気メタライズ法 を提案した。この方法では,反応初期から三次元の層構造に至るまで,セラミックスの表面方向 からメタライズ過程を観察でき,さらに,金属と接合するための前処理法として利用できる特徴 を有する。したがって,SiヨN』セラミックスとステンレス鋼およびCr金属との反応挙動を明ら かにし,固相ー固相対法による結果と比較することによって,蒸気メタライズ法の有用性を確認 した。っいで,SiヨN4およ びSiCセラミックスのCrまた はMnによるメタライズ過程に おい て,反応層を構成する生成物,層構造,層成長,などを明らかにした。さらに,これら反応挙動 の結果をふまえて,金属との接合に対して蒸気メタライズ法が有用であることを実証した。
論文は7章27節から構成されている。
第1章は緒論であり,セラミックス・金属接合体の強度と信頼性は両者の界面における反応機 構(生成物,層構造,層成長速度)に支配されることを示し,これらを研究する新しい手法とし て蒸気メタライズ法を提案するにいたった経緯とその特徴にっいて触れ,本研究の目的にっいて 述べたものである。
第2章では,SiヨN4セラミ ックスとFeまたはCr金属およびステンレス鋼との反応挙動につ
い て,ア ルゴン ,窒素 ガス及 び真 空(密 封およ び連続 排気 )雰囲 気で明 らかにした。反応層の成 長 はいず れも放 物線則 に従い ,そ の速度 は真空 ,アル ゴン ,窒素 ガス雰 囲気の順に増大した。さ ら に,連 続排気 雰囲気 中での 反応 は,生 成した 窒素ガ スが 連続的 に排出 されるため,密封真空よ り も小さ い反応 速度を 示した 。こ れらの 結果か ら,窒 化ケ イ素セ ラミッ クスと金属の反応機構に は , 両 者 の直 接 反 応 と とも に,セ ラミッ クスの 熱分解 反応 も寄与 してい る事を 明ら かにし た。
第3章 で は ,SiユN4お よ びSiCセ ラ ミ ッ ク ス に 対 す るCrま た はMn蒸 気 メ タ ラ イ ズの 初 期 過 程 を セ ラミ ッ ク ス 表 面側 から詳 細に観 察した 結果に っい て述べ ている 。Si3N。 セラミ ックス のCrメ タ ラ イ ズ で は 微 細 な 粒 状CrヨSiと 白 色 粒 状CrユN十CrNが ,Mnメ タ ラ イ ズ で は MnSiN: と ロMn(Cr)が 認 め ら れ た 。SiCセ ラ ミ ッ ク ス のCrメ タ ラ イズ で は 結 晶 粒 内に 微 細 なCr5― イSiヨ― ;Cイ+z,結晶粒 界には粒状CrzヨC6がそれぞれ形成されている。いずれのメタライ ズ に お い ても ,SiCセ ラ ミッ クス はSiヨNユセ ラミッ クスよ りも 低い温 度で反 応を開 始す ること が 明 ら か とな っ た 。 こ れは ,Cr中の 遊離炭 素と の反応 が低温 で優先 的に進 行す るため である 。 ま た,本 研究で 認めら れた反 応開 始温度 は固相 ―固相 対法 による 値より も低い。これらの結果か ら ,断面 観察で 確認で きる反 応層 の形成 以前に ,従来 の報 告より も低温 で反応が局部的に進行し て いるこ とを明 らかに し,そ の機 構にっ いて論 述した 。
第4章 で は ,SiヨN。 セラ ミ ッ ク ス に 対す るCrまた はMnメ タラ イ ズ 層 の 構造 と 成 長 速 度 の 時 間 , 温 度, 雰 囲 気 依 存性 に っ い て 明ら か に し た 。Cr蒸 気 メ タラ イ ズ 層 はCr2N十CrN( 表 面 側 )とCrヨSi(焼 結助剤 を含む ,セラ ミッ クス側 )の複 層構造 を示し ,放 物線則に従って成長し た 。Mnメタ ライズ 層の 構造と 成長速 度は温 度と時 間に 依存し て変化 するこ とが明らかとなった。
反 応 の 初 期 に は ,Mn蒸 気 とSiヨN4セ ラ ミ ッ ク ス が 直 接 反 応 し , ロMn (Cr)( 表 面 層 ) と MnSiNよ ( 内 層 )を 形 成 す る 。時 間 の 経 過 と共 に 表 面 層 中のMnの 拡 散が 律 速 過 程 とな る こ と か ら , 内 層 の 一 部 はBMn (Cr)に 変 化 す る 。 こ の ロMn(Cr)層 に は セ ラ ミッ ク ス の 焼 結助 剤 が 残存す るため ,表面 層とは 異な る組織 を有す る中間 層を 形成す る。こ れら内層と中間層はセラ ミ ックス が分解 した領 域に形 成さ れたも ので, それぞ れの 層幅は 増減を 示すが,両者の和は放物 線 則に従 うこと が明ら かにな った 。
第5章 で は ,SiCセ ラ ミッ ク ス に 対 す るCrま た はMn蒸 気 メ タラ イ ズ の 層 構造 , 成 長 速 度 な ら びに成 長機構を明らかにした。Crメタライズ層はセラミックス側から,Crs̲xSiヨ―;Cx+zとSiC の 混 合 層 ,CrsSiヨ 層 , ケイ 化物層 から炭 化物層 への 遷移層 ,およ びCrワCヨとCrヨC2の 混合 層 か ら な る 四層 構 造 を 示 す。Mn蒸 気 メタ ラ イ ズ 層 も四 層 構 造 を 示し , 内 層 はMnヨSi2C十SiC, 中 間 層 はMnヨSi2C, 外 層はMn8SiよC十Mn2ヨC6,表 面 層 はMn2ヨC6か らな る こ と が 明ら か と
な っ た 。 各 メ タ ラ イ ズ 層 の 成 長 速 度 定 数 はSiユN4/Mn,SiC/Mn,SiC/Cr,SiヨN4/Crの 順 に 増大し た。こ れらの 結果か ら, 層成長 速度は 形成さ れる 窒化物 ,炭化 物,ケイ化物中の拡散能 と 層構造 に支配 される ことを 示し た。
第6章 で は , 上 述 の 結果 を ふ ま え て,SiヨNユセ ラ ミ ッ ク スをCrま た はMnで メ タ ライ ズ し た 後,各 種ろう 材を使 用して 金属 と接合 し,メ タライ ズ条 件と破 断強度 および接合層の組織,構 造 の変化 にって い検討 した。 接合 はろう 材とメ タライ ズ層 の反応 によっ て行われ,セラミックス と の 反 応 は関 与 し な い こと が 示 さ れ た。Crお よ びMnい ず れ のメ タ ライ ズにお いて も,金 属と の 接 合 は 良 好 で ,300MPaの 強 度 が 得 ら れ た 。Crメ タ ラ イ ズ 層 の 最 適 厚さ は 数nmと狭 い の に 対 し て ,Mnメ タ ラ イ ズ層 は 数 十nmの 範 囲 で 安 定し た 高 い 接 合 強度 が 得 ら れ るこ と を 明 ら か にした 。これ らの結 果から ,高強度でかっ信頼性に優れた接合体を作成するためには,セラミッ ク ス 表 面 にMnSiNよ の よ う な 複 合 窒 化 物 を 形 成 させ る こ と が 有 効で あ る こ と を提 案 し た 。 第7章 は 結 論 で あ り , 本 研 究 で 得 ら れ た 成 果 を 総 括 し , 結 び と し た 。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査
副 査 副 査 副 査 副 査
教 授 成 教 授 石 教 授 永 教 授 高 教 授 小
田 敏 夫 川 達 雄 井 忠 雄 橋平七郎 平 紘 平
本論文 は,金 属を蒸 気とし て供 給しな がらセ ラミッ クス と金属 の反応 過程を初期から三次元の 層 構造に 至る まで, セラミ ックス の表 面方向 から直 接観察 できる メタ ライズ法を提案し,反応層 の 形成 機構の 解明 と接合 前処理 法への 応用の 可能 性を明 らかに したも ので ,7章27節か ら構成 さ れ ている 。
セラミ ックス ・金属 接合体 の強 度と信 頼性は 反応機 構( 生成物 ,層構 造,層成長速度)に支配 さ れるこ とを 示し, これら を研究 する 新しい 手法と して蒸 気メタ ライ ズ法を提案するにいたった 経 緯 と そ の 特徴 に っ い て 触れ , 本 論 文 の 目的 に っ い て 述べ た 。 次 いで ,SiヨN4とFeま たはCr 金 属およ びス テンレ ス鋼と の反応 挙動 にっい て,ア ルゴン ,窒素 ガス および真空雰囲気で明らか
にした。
SiヨNエ お よ びSiCに 対 す るCrま た はMn蒸 気 メ タ ラ イ ズ の 初 期 過 程 を セ ラ ミッ ク ス表 面側 か ら 詳 細 に 観 察 し た 結 果 ,SiヨN4のCrメ タ ラ イ ズ で は 微細 な粒 状CrヨSiと 白 色粒 状CrよN十 CrNが ,Mnメ タ ラ イ ズ で はMnSiNユ とBMn (Si)が 認 め ら れ た 。SiCのCrメ タ ラ イ ズ で は結晶粒内に微細なCr5 ̲xSiヨー・;Cイ+z,結晶粒界→こは粒状Cr2ヨC。が,一方,Mnメタライズで は 粒 内と 粒 界にMnヨSi:CとMn2ヨC。 が それ ぞれ 形 成さ れて い る。 いず れ のメ タラ イ ズに おい て も ,SiCはSi。N。 よ り も 低 い 温 度 で 反 応 を 開 始 す る こ と を 明 ら か に し た 。 Cr蒸気 メ タラ イズ 層 はCr2N十CrN( 表 面側 )とCrヨSi(焼 結 助剤 を含 む ,セ ラミ ッ クス 側)
の複 層構 造 を示 し, 放 物線 則に 従 って 成長 し た。Mnメ タ ライ ズ層 の 構造 と成 長速度は温度と 時 間 に 依 存 し て 変 化 す る こ と が明 らか と なっ た。 反 応の 初期 に は,Mn蒸 気 とSiaNイ が 直接 反応 し , ロMn (Si)( 表 面 層 ) とMnSiN: ( 内 層 ) を 形 成 す る 。 時 間 の 経 過 と 共 に表 面 層中 のMn の 拡 散が 律 速と なる こ とか ら, 内 層の 一部 は ロMn (Si)に変 化 し, この 層 には セラ ミ ック スの 焼結 助剤 が 残存 する た め, 表面 層とは 異なる組織を有す る中間層を形成す る。これら内層と中 間 層は セラ ミ ック スが 分 解し た領 域に形 成されたもので, 各層幅は増減を示 すが,両者の和は放 物 線則に従うことが 明ら゛かとなった 。
SiCに 対 す るCrメ タ ラ イ ズ 層 は セ ラ ミ ッ ク ス 側 か ら ,Crs ̲xSiいzCx+zとSiCの 混合 層,
Cr。Siヨ 層 ,ケ イ化 物 層か ら炭 化物層 への遷移層,およ びCrアCヨ とCr。Cよの混合層からなる 四 層 構 造 を 示 す 。Mn蒸 気 メ タ ラ イ ズ 層 も 四 層 構 造 を 示 し , 内 層 はMnヨSi2C十SiC, 中 間 層 は MnヨSiよ , 外層 はMnヨSiユC十MnzヨC。 ,表 面層 はMn2ヨC。からなること が明らかとなった。 各 メ タ ラ イ ズ 層 の 成 長 速 度 定 数 はSi3Nユ/Mn,SiC/Mn,SiC/Cr,SiヨNユ/Crの 順に 増 大し た。
これ らの 結 果か ら, 層 成長 速度 は形成 される窒化物,炭 化物,ケイ化物中 の拡散能と層構造に 支 配されることを示 した。
上 述 の 結 果 を ふ ま え て ,SiヨN4をCrま た はMnで メ タ ラ イ ズ し た 後 , 各 種 ろう 材 を使 用し て金属と接合し, メタライズ条件と 破断強度および接合 層の組織,構造の 変化にっいて検討した。
接合 はろ う 材と メタ ラ イズ 層の 反応に よって行われ,セ ラミックスとの反 応は関与しないこと が 示 さ れ た 。Crお よ びMnい ず れ の メ タ ラ イ ズ に お い て も , 金 属 と の 接 合 は 良 好で ,300MPaの 強 度 が 得 ら れ た 。Crメ タ ラ イ ズ 層 の 最 適 厚 さ は 数 ロmであ る のに 対し て ,Mnメタ ラ イズ 層で は 数 十umの 範 囲 で 高 い 接 合 強度 が得 ら れる こと を 明ら かに し た。 これ ら の結 果か ら ,高 強度 で か っ信 頼 性に 優れ た 接合 体を 作 成す るた め には ,セ ラ ミッ クス 表 面にMnSiNよ複 合 窒化 物を 形成させることが 有効であることを 提案した。
こ れを要 するに ,本 論文は 蒸気メタライズという新しい方法を開発することによって,セラミッ ク スと金 属の反 応機構 を詳細 に検 討し, さらに ,これ らの 研究成 果を基 礎に,蒸気メタライズ処 理 が セ ラ ミッ ク ス と 金属 の接合 法とし ても 有用で あるこ とを実 証し たもの で,金 属およ びセラ ミ ックス 材料工 学に寄 与する とこ ろ大な るもの がある 。よ って, 著者は 博士(工学)の学位を授 与 される 資格あ るもの と認め る。