博 士 ( 医 学 ) 長 沼 睦 雄
学 位 論 文 題 名
ジ ア シ ル グ リ セ ロ ー ル に よ り 誘 導 さ れ る り ポ ソ ー ム 膜 に お け る 液 晶 一 逆 ヘ キ サ ゴ ナ ル 相 転 移 の 螢 光 分 光 学 的 解 析
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
研究目的
ジアシリグリセロ ール(DAG)はホスホリパーゼCの作用により生じ,プ口テインキナーゼ C一に結合しそれを活性化するという細胞内情報伝達のセカンドメッセンジャーとして重要な役割 を果 たしている。一方DAGは二重層構造の液晶(La)相を呈している生体膜に ,極性頭部 を内側に向けた円筒型一重層構造である逆ヘキサゴナル(Hii)相などの非二重層構造を形成し,
膜融合あるいはホスホIJパーゼA2やプ口テインキナーゼCの活性促進などに関与している。ま たHii相 の脂 質は 抗 リン 脂質 抗体 症候 群 の抗 原に なり 得ることが最近報告さ れている。
本研究はDAGのHii相誘導性とその機序をより生 理的な条件で検討することを目的に,脳 シナプス膜の膜融合を念頭に置き,複合天然脂質で構成される多重膜リポソームを用いてLaー Hii相転移開始に必要 なDAGの膜内濃度を定常光螢光分光法により求めた。また時間分解螢光 偏光解消法により,DAGにより誘導されるLa―Hii相転移時の脂質頭部と脂肪酸鎖部の運動 性を解析した。
実 験 方法 実 験 材料 :
螢光脂 質にはホスファチジル工夕ノ ールアミン(PE)の頭部を 螢光プ口ーブNBDおよび DNSで ラ ベ ル し たNBD―PEお よ びDNS−PE,脂 肪酸 鎖部 を 螢光 プ口 一ブDPHでラ ベル し たDPH―ホ ス ファ チジ ルコ リン (DPH―PC),DPHーホ スフ ァチ ジン 酸 (DPH−PA)およ びDPH一グ リ セロ ール (DPH−G)を用 いた。リポソームの構成脂 質には牛脳PC(BrPC), 牛 脳PE(BrPE), ジ オレ オイ ルPC(DOPC),ジ オ レオイルPC(DOPE),コレステ口ール
(CHOL) およ びジ オ レオ イルG(DOG) を 用い た。 本研究ではDAGとして合成脂質である DOGを 用い た 。
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Jポソームの調製
定 常 光 螢 光 分 光 法 の 測 定 に は 混 合合 成脂 質(DOPE:DOPC:CHOL =1.1:1:1,mol/
mol)あ る い は , 混 合 天 然 脂 質(BrPE:BrPC:CHOL=ニ1:1:1,mol/mol)で 構 成 さ れ たO.2mMの多 重 膜リ ポソ ーム(MLV) およ び大 型一 枚膜 リ ポソ ーム (LUV)浮遊液 を調 製 した 。ま た3'P―NMRの測 定に は上 記 の混 合合成脂質 によるO.lMのMLV浮遊液を, 時間 分解螢光偏光 解消法の測定には上記の混合天然脂質による0.2 mMのMLV浮遊液を調製した。
リポソームの 透過型電子顕微鏡による確認 :
調製したり ポソームを日立透過型電子顕微鏡で観察し,直径O. 8〜2.2〃mのMLVおよび直 径O. 2〜0.5〃mのLUVを予め確認した。
定常光螢光分 光法によるLば―Hii相転移の 測定:
温度依存性の螢光強度変化の測定には島津定常光励起螢光光度計を用い,試料の温度を5℃か ら65℃まで自 動昇温した時のDNSーPEを含 んだりポソーム浮遊液の螢光強度を1℃ごとに記 録した。
31P―NMRによるLa−Hii相転移の測定:
測定 にはBruker社NMRを用い,22℃より60℃まで4ー5℃間隔で 測定した。
時間分 解螢光偏光解消法による脂質 分子の運動解析:
0, Imolの螢 光脂 質と5〜15molのDOGを導 入した混合天然 脂質MLVを用い37℃,pH7, 4にて実験した。沮lJ定にはニっのレーザーを組み合わせたピコ秒パルス発生系および時間相関単 一光子計数器を用いたピコ〜ナノ秒光現象検出系からなる装置を使用した。励起パルスを縦偏光 として試料に照射し,発せられる螢光を縦偏光および横偏光として測定し,それらの時間滅衰曲 線を得た。これより螢光異方度の時間減衰曲線を導出し,非線形最小二乗法コンピュー夕一プ口 グラムによりこの曲線の初期値,収束値を求めた。この値から円錐内揺動運動モデルの理論式に よ り 円 錐 角 の 半 角 を 表 す 揺 動 角 を 算 出 し, 螢光 プ口 ーブ の 運動 範囲 の指 標と し た。
実験成績
昇温によるLa―Hii相転移の定常光螢光分光法による測定:
昇温 にと もな う 螢光強度の変化 からLUVおよびMLVの相転移 開始温度は各々22℃および
昇温によるLa−Hii相転移の‥P一NMRによる測定:
スペクトル波形の分析から,相転移開始温度は22℃と26℃の間,相転移終了温度は45℃付近 と測定され,定常光螢光分光法による結果とほぼ一致した。これは定常光螢光分光法の測定の信 頼性を保証するものである。
DOGによるLa一Hii相転移温度の変化:
DOGを1か ら4mol%ま で変 化させた時の相転移の開 始温度の低下は,DOGl mol%にっき 5.6℃で あり,37℃における相転移開始に必要なDOGの膜内濃度は1.6mol%であった。この 値はDAGの 生理的な膜内濃度が約O.5mol%であり,細胞刺激により約3倍に増加するとの報 告をあわせると,十分生理的意味を持っものと考えられた。
DOG導 入 に よ るLa―Hii相 転 移 に お け る り ン 脂 質 頭 部 と 脂 肪 酸 鎖 部 の 分 子 動 態 : 螢光 プロ ー ブの 運動 範囲 の指標である揺動角は, 加えたDOG濃度に依存してDNS−PEお よ びNBD―PEで 滅少 し ,DPHでラペルした脂質で増加 した。これは相転移に伴い ルン脂質 頭部の有効運動体積が狭くなり,脂肪酸鎖部では逆に広がったことを示している。この変化は脂 質曲面が 平面から脂肪酸鎖部に対し凸 に湾曲したことを意味しており,La相からHii相への 形 状変 化を 分 子運 動の 両面 から 明 らか にし たも の である。一方DPH−Gの揺動角 はDPH― PAおよ びDPH―PCの そ れよ り常 に大 きく , この こと は脂 肪酸 鎖 部が 同じ であっ てもDAG tま PCお よ び PAよ り 脂 肪 酸 鎖 部 の 運 動 性 が 高 い こ と を 示 唆 し て い る 。
結 語
(1) 混 合 天 然 脂 質 (BrPE/BrPC7CHOL二 ニ1:1:1,mol/mol)多重 膜 リポ ソー ムに お い て, La―Hii相転移開始に必 要なDOGの膜内濃度はpH7.4,37℃で1.6mol%であり,
そ の 濃 度 は 生 体 膜 に お い て 生 理 的 に 生 じ う るDAG濃 度 に ほ ば 匹 敵 し た 。 (2) DOGによるHii相の誘導にともない螢光プロープの運動範囲はりン脂質頭部で減少し脂肪 酸鎖部で増加した。このことfま La―Hii相転移における膜の平均曲率の変化を分子運動学的 に明らかにしたものである。
(3) 脂 肪 酸 鎖 部 に あ るDPHの 運 動 範 囲 はDPH−Gの 方 がDPH一PAお よ びDPH一PCよ り 大 き く ,DAGの 脂 肪 酸 鎖 部 がPCやPAよ り も 高 い 運 動 性 を 持 っ こ と が示 唆さ れた 。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 石橋輝雄 副査 教授 西 信三 副査 教授 小山富康
研究目 的
ジ ア シ ル グ ルセ 口 一 ル (DAG) は ホ スホ リ パ ー ゼCの 作 用 に よ り生 じ , プ口 テイン キナー ゼ Cに結 合 しそ れを活 性化す るとい う細 胞内情 報伝達 のセカ ンドメ ッセ ンジャ ーとし て重要 な役 割 を 果 た し て い る 。 一 方DAGは 二 重 層 構 造 の 液 晶 (La) 相 を 呈 し てい る 生 体 膜 に, 極 性 頭 部 を内側 に向 けた円 筒型一 重層構 造で ある逆 ヘキサ ゴナル (Hii)相などの非二重層構造を形成し,
膜 融合 あ るいは ホスホ ル′ くーゼAzやプ口 テイ ンキナ ーゼCの活 性促進 などに 関与し てい る。ま たHii相 の 脂 質 は 抗 リ ン 脂 質 抗 体 症 候 群 の 抗 原 に な り 得 る こ と が 最 近 報 告 さ れ て い る 。 本 研 究 はDAGのHii相 誘 導 性と そ の 機 序 を より 生 理 的 な 条件 で 検 討 す るこ と を 目 的 に, 脳 シ ナプ ス 膜 の 膜 融合 を 念 頭 に置 き, 複合天 然脂質 で構成 される 多重 膜リポ ソーム を用い てLaー Hir相 転 移 開 始に 必 要 なDAGの 膜 内 濃度 を 定 常 光 螢 光分 光 法 に よ り求 め た 。ま た時間 分解螢 光 偏 光 解 消 法 に よ り ,DAGに よ り 誘 導 さ れるLa―Hii相 転 移 時の 脂 質 頭 部 と脂 肪 酸 鎖 部 の運 動 性を解 析し た。
実 験 成績
昇 温 に よ るLa一Hii相 転 移 の 定常 光 螢 光 分 光法 に よ る 測 定:
昇 温 に と も な う 螢 光 強 度 の 変 化 か らLUVお よ びMLVの 相 転 移 開 始 温 度は 各 々22℃お よ び 23℃ , 相 転 移 終 了 温 度 は 両 者 と も43℃ と 測 定 さ れ た 。LUVとMLVで は 差 が ほ と ん ど見 ら れ な か っ た こと か ら , 本 研究 のMLVを 用 い た 実 験 結果 を 一 枚 膜 であ る 生 体 膜 に応 用 し て 考 える
ことが可能と思われた。
昇温 によるLa一Hii相転 移のa'p―NMRによ る測定 :
ス ペ ク ト ル 波 形の 分 析か ら,相 転移開 始温度 は22℃ と26℃の 間, 相転移 終了温 度は45℃付近
DOGを1から4mol%まで変化さ せた時の相転移の開始温度の 低下は,DOGl mol%にっき 5.6℃ であり,37℃における相転移開始に必要なDOGの膜内濃度は1.6mol%であった。この 値はDAGの生理的な膜内濃度が約0.5mol%であり,細胞刺激により約3倍に増加するとの報 告をあ わせると,十分生理的意味 を持っものと考えられた。
DOG導 入 に よ るLa―Hii相 転 移 に お け る り ン 脂 質 頭 部 と 脂 肪 酸 鎖 部 の 分 子 動 態 : 螢光 プ口 一ブ の 運動範囲の指標である揺動角 は,加えたDOG濃度に依存し てDNS一PEお よ びNBD―PEで 滅少 し,DPHでラベルしだ脂質で 増加した。これは相転移に 伴いりン脂質 頭部の有効運動体積が狭くなり,脂肪酸鎖部では逆に広がったことを示している。この変化は脂 質曲面が平面 から脂肪酸鎖部に対し凸に湾曲したことを意味しており,La相からHii相への 形 状変 化を 分子 運 動の 両面 から 明ら か にした ものである。一方DPH−Gの揺 動角はDPH− PAおよ びDPH―PCの それ より 常 に大 きく ,こ の こと は脂 肪酸 鎖部 が同じで あってもDAG はPCおよびPAより脂肪酸鎖部の運動性が高いことを示唆している。
結 語
(1) 混 合 天 然 脂 質(BrPE/BrPC/CHOL二 二 ニ1:1:1,mol/mol)多 重膜 リポ ソ― 厶 にお いて ,La―Hii相転移開始に必要なDOGの膜内濃度tまpH7.4,37℃で1.6m ol%であり そ の 濃 度 は 生 体 膜 に お い て 生 理 的 に 生 じ う るDAG濃 度 に ほ ば 匹 敵 し た 。 (2) DOGによるHii相の誘導にともない螢光プローブの運動範囲はりン脂質頭部で減少し脂肪
酸鎖部で増 加した。このことはLロHii相転移における膜の平均曲率の変化を分子運動学的 に明らかに したものである。
(3) 脂 肪 酸 鎖 部 に あ るDPHの 運 動 範 囲 はDPHーGの 方 がDPH―PAお よ びDPH―PCより 大き く,DAGの脂肪酸鎖部がPCやPAよりも高い運動性を持っこ とが示唆された。
以上,本研究はジアシルグリセ口ールによって脂質リポソーム膜の液晶から逆ヘキサゴナル相 転移への相転移を螢光分光学的に初めて明らかにしたものであり,博士(医学)の学位を授与す るに値するものと認定された。
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