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博 士 ( 医 学 ) 中 嶋 俊 雄

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 医 学 )    中 嶋 俊 雄

学 位 論 文 題 名

     口 腔 扁 平 上 皮 癌 細 胞 に お け る シ グ ナ ル 伝 達 ア ダ プ ター 分 子Crk の 役割

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

     【背景と日的】

   近年、わが国の口腔癌患者 は増加傾向にあり、治療成績が向上しているにもかかわら ず、口腔癌死亡数は1950 年の 699 人(男432 人)から2000 年の約5066 人(男3610 、人、8 . 4 倍)と過去50 年間に約7.2 倍 の増加が記録されている。同様の傾向は世界的にも見られ る よう で、 Macfarlane ら の調 査に よる と24 カ国中 19 カ国で口腔癌の増加傾向があり、

特 に中 央や 西ヨーロッ パ諸国における男性患者は過去30 年間に3 倍以上に増加している ことが報告されている。口腔 癌のほとんどは、口腔粘膜に発生する扁平上皮癌であり臨 床病理学的特徴は、男性に多 く、好発部位は舌縁部で、病理組織学的には高分化型とさ れていたが、近年では必ずしもこのように固定したものではないことが報告されている。

   西洋での罹患率は、禁煙とアルコール非摂取の普及に伴ってわずかに低下しているが、

口腔内の舌や特に中咽頭でHPV 感染によるものが、より多く罹患しているとされている。

   また 、治 療後の局所 に存在しているHPV や二次原 発性により大きな死亡数をしめして いると報告されている。口腔 は、大別すると口腔底、歯肉、口唇、口蓋、臼後部からな る器官である。舌には、嚥下 機能、構音機能、味覚認識機能があり、日常背活において 重要な器官である。わが国の 高齢化社会への急速な移行において、特に舌は日常生活に おいて重要な器官であり舌癌 の正確な診断と治療を持って克服すべき疾患である。その た め、 様々 な腫瘍に関 与しているとされるアダプター分子CrkI とCrkll の役割の相違、

お よび HPV との 関連性を舌の扁平上皮癌で解析し、 病理組織学的な相関性の有無を検討 した。

【材料と方法】

   舌 の 扁 平 上皮 癌細 胞の 切片 、HNSCC の 細胞 株そ して 、HSC‑3 は 、北 海道 大学 歯学 部 病態病理学分野の進藤正信教 授からの好意により分与を得た。

   免疫組織化学的染色の評価 をするため、抗CrlI /CrkII モノクローナル抗体を一次抗体 として使用し、peroxidase‑labeled 二次抗体と、diaminobenzidin(DAB) を基質として使 用 し ポ ジ テ ィ ブ に 染 色 さ れ た 染 色 強 度 と 腫 瘍 細 胞 の 比 率 を 記 録 し た 。   Crk II 、 CrkI  /Crk II ノッ クダ ウン のHNSCC 細 胞株 を樹 立す るた め、 BLOCK‑iTTM

‑ 292ー

(2)

  LentiviralPoinmiRNAiExpression Systemを 使 用 し 作 成 し た 。

    pcDNA rrM6.2‑GW/EmGFPmiR‑neg controlは 、 ネ ガ テ ィ ブ コ ン ト ロ ー ル と し て 使 用 し   た 。 ま た 、Lentiviral lartilesを 感 染 さ せ る た め 、pLenti6.4/R4R2N5‑DESTベ ク タ ー は   ViraPower Packaging plasmid mixture:pLPl,pLp2そ し てpLPN SV‑Gを 入 れ た293FT   細 胞 を 使 用 し てlipofectamine 2000と と も に ト ラ ン ス フ ェ ク シ ョ ン し た 。miRNAで 、   HNSCC細 胞 株 、 HSC‑3そ し て HSC‑4へ の ト ラ ン ス フ ェ ク シ ョ ン を し た 。   細 胞 増 殖 能 はlxl05の 細 胞 を 、 直 径60 mmのdishに ま き1%FBSを 含 むDMEMに て 培 養 し1日 、3日 、5日 後 に 細 胞 数 をhemocytometer (Fisher Scientific,Japan)を 用 いて 計 測 し た 。 細 胞 運 動 能 の 解 析 はwound healing assayを 行 っ た 。 細 胞 を 直 径100 mmのdishに ま き10%FBS を 含 むDMEMで 培 養 し た 。Wound lineは 、 細 胞 が 一 層 で コ ン フ ル エ ン ト に な っ た 状 態 で ブ ル ー チ ッ プ に よ りImm幅 で 作 成 さ れ た 。3時 間 、6時 間 、9時 間 、12時 間 に お い て 細 胞 の 移 動 し た フ ロ ン ト ラ イ ン の 長 さ を 計 測 し た 。

【 結 果 】

    *32症 例 の ヒ ト の 舌 扁 平 上 皮 癌 検 体 を 使 用 しin‑situ hybridizationを 行 っ た 。 そ の     結 果 、HPV‑ 16とHPV‑ 18感 染 は 検 出 で き な か っ た 。

    * ヒ ト 頭 頚 部 扁 平 上 皮 癌 細 胞(HNSCC)の 腫 瘍 の66% ケ ー ス に お い て 免 疫 組 織 化     学 的 解 析 で 、CrkI/IIの 大 き な 発 現 を 確 認 で き た 。

    *CrkIの 発 現 強 化 に よ り 細 胞 増 殖 能 と 運 動 能 が 大 き く 回 復 し た 。Crk IIは 、 細 胞 増     殖 能 や 運 動 能 が 低 い た め 過 剰 発 現 を 認 め な か っ た 。

【 考 察 】

    頭 頚 部 扁 平 上 皮 癌 細 胞(HNSCC)の 主 因 な り ス ク で あ る 喫 煙 や 飲 酒 そ し て 、 ヒ 卜 パ ピ   ロ マ ウ ィ ル ス(HPV)は 、 現 在HNSCCの 病 理 学 で 認 知 さ れ て い る 。 全HNSCCの 約25%   はHPVに 関 係 す る と さ れ て い る 。 特 に 、 口 腔 咽 頭 癌 の 約60% は 、 舌 側 や 口 蓋 扁 桃 にHPV   関 連 し て い る と 報 告 も さ れ て い る 。 こ の 研 究 に お い て 、 我 々 は 腫 瘍 形 成 に 関 与 し て い る HPVの 主 要 な サ ブ タ イ プ のHPV16型 と HPV‑ 18型 を 同 定 す る た め32症 例 の ヒ ト の 舌 扁 平 上 皮 癌 検 体 を 用 い てin‑situ hybridizationを 行 っ た 。 そ の 結 果 、HPV‑16とHPV‑ 18 感 染 は 検 出 で き な か っ た 。 し か し 、 免 疫 組 織 化 学 に て 解 析 し た ヒ ト の 舌 扁 平 上 皮 癌 検 体 の ほ と ん ど の 症 例 で 、 高 い レ ベ ル のCRK I/CrkIIの 発 現 を 確 認 し た 。 ま た 、 腫 瘍 の66% の 症 例 に お い てCrkI /IIの 過 剰 発 現 を 確 認 で き た 。 こ の 結 果 か ら 、 ヒ トHNSCCに お い て HPV感 染 よ り もCRKI /IIの 分 子 的 役 割 が 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 同 時 に 、 こ の 研 究 でCrkIがCrk IIよ り も 運 動 能 や 増 殖 能 で 突 出 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。 こ の 結 果 、 CrkIが 、 腫 瘍 形 成 に お い て 重 要 な 細 胞 機 能 を 持 つ こ と が 示 唆 さ れ た 。   【 結 論 】

  我 々 は 、CRKIはCRK IIと 比 較 し てHNSC細 胞 の 運 動 能 や 増 殖 能 の 役 割 に お い て よ り 重 要 で あ る と 確 認 し た 。 こ の と は 、HNSSCの 診 断 や 新 し い 治 療 タ ー ゲ ッ ト と し て 潜 在 的 な 分 子 的 標 的 と な る こ と を 示 唆 し て い る 。

‑ 293 ‑

(3)

学位論文審査の要旨

主査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 教授

佐邊 田中 野口 畠山

学 位 論 文 題 名

壽 孝 伸 哉 昌 幸 鎮 次

     口 腔 扁 平 上 皮 癌 細 胞 に お け る シグナル伝達アダプター分子Crk の役割

   舌癌 を含む 口腔扁平 上皮癌の 国内死亡率は男性で第12 位、女性で18 位、罹患率は男性で第14 位、 女性では 第 20 位で あり、そ の罹患 率は約 50 年 間で約 9 倍に、死亡数は約7 .7 倍に増加して いる重要な疾患である。その最大の危険因子は喫煙であり、飲酒、そしてヒ卜パピロマウイルス な ど が 関 与 す る 。 組 織 病 理 学 的 に は 口 腔 内 の 悪 性 腫 瘍 の 85 % が 扁 平 上 皮 癌 で あ る 。    シグナル伝達アダプター分子Crk はニワ卜リ肉腫を誘導するレ卜ルウイルス CT10 のコードする 癌遺 伝子とし て 1988 年に 分離さ れた。そ のほ乳類 のホモ ログにはCrkI と CrkII があり、CrkI は SH2 ーSH3 という構造を有し、CrkII はSH2 −SH3 (N) ー SH3 (C) から成る。Crk は増殖因子受容体や細胞 接着斑などのチロシンキナーゼのシグナルを下流の低分子量G 蛋白に伝達する役割を果たす。Crk はヒ卜の肺癌、脳腫瘍、卵巣癌、肉腫において発現が増加しており、それらの悪性化に関与する ことが知られている。

   本研究では、口腔扁平上皮癌の病理組織29 症例、および口腔扁平上皮癌細胞株HSC −3 を用いて、

シグ ナル伝達アダプター分子Crk の役割を検討したものである。特にこれまで解析されていなか った CrkI とCrkII のそれぞ れの機 能にっい て、CrkI と CrkII をノ ックダ ウンした 細胞にあらた めて、CrkI またはCrkII を再導入することで検討したものである。

   まずはじめに北海道大学歯学部より分与を受けた舌癌パラフイン包埋組織29 症例を用いてCrk および関連分子Dock180 の免疫組織学的解析おこなった。また、ヒトパピローマウイルスの関与を 検討するためわsitu hybridization 法による解析を行った。次に、口腔扁平上皮癌におけるCrkI およびCrk II の役割を解明するために、レンチウイルスベクターによる Crk に対するshRNA の導入 により口腔扁平上皮癌細胞株HSC ー 3 細胞株由来Crk ノックダウン細胞の樹立を行った。次に、Crk ノッ クダウンHSC ー 3 細胞株を用いて、レトロウイルスベクターによるCrk ノックダウン細胞への CrkI 、またはCrkII の再導入細胞の樹立を行い、それぞれの細胞の増殖能、運動能の解析行い以下

一294ー

(4)

の 結 果 を 得 た 。

  (i) 舌 扁 平 上 皮 癌 パ ラ フ イ ン 包 埋 組 織29症 例 を 免 疫 組 織 学 的 解 析 行 っ た 結 果 、 全 て の 舌 扁 平     上 皮 癌 症 例 に お い てCrkの 過 剰 発 現 が 認 め ら れ た 。 但 し 染 色 強 度 と 臨 床 病 期 の 差 は み ら れ な     か っ た 。

  (11) ヒ 卜 パ ピ ロ ー マ ウ イ ル ス の むsitu hybridization法 に よ る 解 析 で は 、 全29症 例 に お い     て パ ピ ロ ー マ ウ イ ル ス は 同 定 で き な か っ た 。

  (m)Crkノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 の 増 殖 能 は 、 野 生 型 に 比 較 し て 低 下 し て お り 、CrkIの 再 導 入 に よ り     増 殖 能 が 増 加 す る こ と が 判 明 し た 。CrkIIの 再 導 入 で は 変 化 が み ら れ な か っ た 。   ( 如 )Crkノ ッ ク ダ ウ ン 細 胞 の 運 動 能 は 、Wound healing assayに よ り 行 っ た が 、CrkIIで は な     CrkIが 細 胞 の 運 動 能 を 正 に 制 御 す る こ と が 判 明 し た 。

  以 上 か ら 、 口 腔 扁 平 上 皮 癌 に お い て は 、CrkIが そ の 増 殖 能 、 運 動 能 を 制 御 す る こ と が 示 さ れ た 。 こ の こ と か ら 口 腔 扁 平 上 皮 癌 で はCrkIが 将 来 の 新 し い 治 療 の 標 的 と な り う る こ と が 示 唆 さ れ た 。 本 研 究 は 今 後 の こ の 分 野 に お け るCrkに 関 連 す る 治 療 薬 の 開 発 に っ な が る よ う な 研 究 の 向 上 に 貢 献 す る こ と が 期 待 さ れ 、 今 後 高 い 学 術 的 イ ン パ ク ト を 有 す る 成 果 が 期 待 さ れ る 。   審 査 会 で の 発 表 に お け る 質 疑 応 答 で は 、 田 中 伸 哉 教 授 か らCrkの 上 流 分 子 と 舌 癌 の 関 与 は 検 討 し な か っ た の か 、 口 腔 扁 平 上 皮 癌 に お い て はCD133がSrcを 活 性 化 す る こ と で 癌 幹 細 胞 性 、 上 皮 問 葉 移 行(EMT)に 関 与 す る こ と が 報 告 さ れ て お り 、Crkの 関 与 に つ い て は さ ら に 検 討 す る 必 要 が あ る 旨 の 質 問 と 発 言 が あ っ た 。 次 に 、 野 口 昌 幸 教 授 か ら は 、CrkIとCrkIIと 別 々 な 抗 体 を 用 い て 検 討 で き な か っ た の か 、 症 例 数 は 適 切 だ っ た の か 、FAKと パ ピ ロ ー マ ウ イ ル ス の 関 係 に つ い て の 質 問 が あ っ た 。 さ ら に 、 畠 山 鎮 次 教 授 か ら は 、 ヒ 卜 パ ピ ロ ー マ ウ イ ル ス に 関 し て 子 宮 頸 部 の 上 皮 扁 平 癌 に お い て はHPV16型 、18型 が 発 癌 の 主 体 で あ る が 、 西 洋 と 比 較 し 日 本 で の 発 症 の 違 い は あ る の か 、 ま た 、 ど の 程 度 ヒ 卜 パ ピ ロ ー マ ウ イ ル ス が 関 与 し て い る の か 、 子 宮 頚 部 扁 平 上 皮 癌 予 防 ワ ク チ ン の 接 種 で の 予 防 の 可 能 性 つ い て の 質 問 が あ っ た 。 最 後 に 、 佐 邊 壽 孝 教 授 よ り 、p53の 変 異 に っ い て 近 年 薬 剤 耐 陸 と の 関 係 で 再 評 価 さ れ て い る が 、 今 回 用 い た 細 胞 株 のp53変 異 の 状 況 に つ い て 、 ま た 、CrkIIの 免 疫 染 色 の 症 例 数 を 増 や し て の 検 討 も 必 要 だ っ た の で は な ぃ か 、HSC−3細 胞 以 外 の 口 腔 扁 平 上 皮 癌 で のCrkの 解 析 結 果 つ い て の 質 問 が あ っ た 。 い ず れ の 質 問 に 対 し て も 申 請 者 は 自 ら 行 っ た 研 究 や そ の 過 程 で 得 ら れ た 知 見 、 参 考 と し た 文 献 の 引 用 を も と に 的 確 に 回 答 し た 。   審 査 員 一 同 は 、 こ れ ら の 成 果 を 高 く 評 価 し 、 大 学 院 課 程 に お け る 研 鑽 や 取 得 単 位 な ど も 併 せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。

―295―

参照

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