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博 士 ( 農 学 ) 野 副 卓 人

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 野 副 卓 人

学 位 論 文 題 名

水 田 土 壌 中 に お け る 有 機 酸の 集 積 及 び メ タ ン 生 成 機 構 と そ の抑 制 方 策 に関 す る 研 究

学 位 論 文内 容 の 要 旨

昭和40年 代後 半か ら のコ ンバ イン の普 及は 水田 土壌 への 稲わ らの 施用 を一 般 化さ せた 。水 田土壌 に施用された稲わらは水稲の栄養供給 源となる一方、中間分解生成物である酢酸、プロピオン酸、門・

酪酸 など の揮 発性 有 機酸 (以 下有 機酸 )が水稲の生育を抑制する。また 、水田から発生するヌタン は温 室効 果ガ スと し て地 球環 境に 大き な影響を与えているが、有機酸は メタン生成の基質となって いる 。そ こで 本研 究 は水 田土 壌中 にお ける有機酸の集積及びメタン生成 機構とその制御方策を解明 する こと を目 的と し て実 施し た。 実験 は圃 場か ら採 取し た土 壌試 料を 嫌気 的 に培 養し て行 った。

1.水 田土 壌中における有機酸の集積

1) 湛水 土壌 に稲 わら を添 加す る こと によ って 有機 酸の 集積 量が増加した。稲わらを添加しない場 合 有 機酸 はほ とん ど集 積し なか ったことから、 稲わらが有機酸生成のための主な基質となっている と 考 え ら れ た 。 集 積 量 は 酢 酸 が 最 大 で プ 口 ピ オ ン酸 、門 ‐酪 酸( 以下 酪酸 ) がそ れに 次い だ。

2) 酢酸 及び プ口 ピオ ン酸 の集 積 量は 高温 にな るほ ど増 加し たが、集積期間は短かかった。プ口ピ オ ン 酸は 酢酸 より 遅れ て集 積し 、これらの有機 酸の集積時期は重ならなかった。酪酸と酢酸の集積 時 期 は重 なる ため 、温 度が 高く 酢酸の集積量が 多くなるほど酢酸が酪酸の生成と分解を抑制した。

そ の結果、酪酸の集積量は高温になるほど減少し、集積期 間は長期間にわたった。以上の結果から、

有 機 酸集 積パ ター ンに 対す る温 度の影響は、酢 酸、プロピオン酸で酪酸とは異なることを明らかに し た。

3) 実験 に用 いた 土壌 の風 乾期 間 が長 くな ると 、湛 水後 の有 機酸集積量は上昇した。また、同じ土 壌 で も、 前作 が水 田作 の場 合よ り畑作の場合に 有機酸集積量は上昇した。これらの結果は、湛水前 の 土 壌が 酸化 的で ある 場合 には 、稲わらを添加 して湛水した後の有機酸の集積量が増加することを 示 し てい る。 この 原因 とし て、 湛水前に酸化的 な条件の期間が長いほど乾土効果によって易分解性 の 有 機物 量が 増加 し、 これ によ って有機酸を生 成する通性嫌気性菌が増加したことが考えられた。

稲 わ らを 連用 する こと によ り有 機酸の集積量は 減少したが、これは連用により有機酸分解菌が増加 す るためであると推察された。

4) 硝酸 塩の 添加 によ り有 機酸 の 集積 量が 増加 し、 非晶 質酸 化鉄や、硫酸塩の添加により有機酸の 集 積 量が 減少 した 。こ のこ とは 、硝酸還元は有 機酸生成に、鉄還元と硫酸還元は有機酸分解に関与 し ていることを示す。

2.酢 酸、 プ ロピオン酸、酪 酸の分解機構及びヌタンの生成機構

(2)

1

)風乾土を嫌気的に培養した場合には水素の存在はメタン生成を抑制せず、酢酸の分解を抑制し た。これはヌタン生成において二酸化炭素十水素が酢酸に優先して利用されることに起因すると考 えられた。

2

)風乾土を嫌気的に前培養した土壌に酢酸を添加して再び嫌気的に培養すると、水素の添加がヌ タンの生成と酢酸の分解を抑制した。このことはメタン生成を伴う酢酸の分解が、@酢酸の二酸化 炭素と水素への分解、◎二酸化炭素と水素からメタン、の生成のニつの反応により構成されている ことを示している。反応@は自由エネルギー増加の反応であるため、生成物の水素がこの反応を抑 制している。反応@においてヌタン生成に水素が利用され、水素分圧を低く保つことによって酢酸 の分解反応を可能にしている。これらのことから、水素分圧を低く保てば、酢酸の分解が促進する と考えられた。

3

)これらの結果から、以下のことが明らかになった。培養初期の水素が豊富な条件下では二酸化 炭素十水素から優先的にヌタンが生成されるが、水素が消費され、不足すると酢酸から直接メタン を生成する反応に切り替わる。さらに培養期間が長くなると酢酸はー度二酸化炭素十水素に分解さ れた後、その二酸化炭素十水素を基質としてヌタンが生成する。培養期間中の水素の存在は酢酸の 分解を抑制する。

4

)プロピオン酸は酢酸に分解した後、ただちにヌタン及びニ酸化炭素に分解した。従って、プ口 ピオン酸由来の酢酸はほとんど集積しなかった。プ口ピオン酸は硫酸イオンが存在しない条件下で はヌタン生成を伴うプ口ピオン酸酸化により酢酸に分解された。プ口ピオン酸酸化菌によるプ口ピ オン酸分解は自由エネルギー増加の反応であるため水素利用ヌタン生成菌が水素分圧を低く保つこ とによってプ口ピオン酸の分解を可能にしていると推察された。また、硫酸イオン存在条件下では ブ口ピオン酸は硫酸還元により酢酸に分解した。従って、硫酸塩の添加によルプ口ピオン酸の分解 は促進された。硫酸イオン存在下でプ口ピオン酸は硫酸還元菌によって分解され、その結果生成し た酢酸はヌタン生成を伴い分解される。ブ口ピオン酸が存在している問は硫酸還元とヌタン生成と の間で基質に対する競合は起こらなかった。

5

)酪酸は鉄還元に伴って酢酸に分解され、生成した酢酸は分解されヌタンを生成した。ただし、

易還元性の酸化鉄が充分に存在する条件下では酢酸は鉄還元に利用され、二酸化炭素を生成した。

3.

鉄資材と、硫酸塩の添加による有機酸とヌタンの生成抑制作用

稲わらが土壌中で分解する際、有機酸の他に水素も中間生成物として生成された。水素はヌタン生 成の基質となるとともに、酢酸やプ口ピオン酸の分解を抑制した。鉄還元や硫酸還元において水素 が電子供与体として使われる性質を利用し、鉄資材や硫酸塩の添加によるメタン生成と有機酸の集 積の抑制方策を検討した。

1

) 非 晶 質 酸 化 鉄 及 び 硫 酸 塩 の 添 加 に よ っ て 有 機 酸 の 集 積 量 は 低 下 し た 。

2

)非晶質酸化鉄添加は稲わら存在下で二価鉄の生成を増加させ、メタン生成量を減少させた。非 晶質酸化鉄はそのまま鉄還元菌に利用されるわけではなく、有機物とキレート複合体を形成して利 用された。添加した稲わらは鉄還元の電子供与体を提供するだけではなく、この複合体を作るため の有機物を提供していると考えられた。

3

)水素の添加によって硫酸イオンの還元は促進された。すなわち、水素が硫酸還元に電子供与体 として利用されることを実験的に確認した。

4

)硫酸塩の添加によって水素が利用され、その結果水素量が減少し、二酸化炭素十水素からのヌタ ン 生成が抑 制された 。また、 水素による酢酸分解の抑制が解除され、酢酸分解が促進した。

(3)

5

)以上の結果により、非晶質酸化鉄または硫酸塩の添加は有機酸の集積とメタン生成を抑制する 有効な手段であると考えられた。

水田から発生する温室効果ガスであるヌタンは、湛水条件という水稲を長期的、安定的に生産する 条件下で有機物の分解最終産物として生成される。もしメタン生成を阻害すれば水稲生育に有害な 有機酸が集積するため、ヌタン発生は一種の避けがたい必要悪と考えられてきた。本研究では水田 土壌中における有機酸集積とヌタン生成のヌカニズムを明らかにし、鉄資材と硫酸塩資材の施用に よ っ て メ タ ン 生 成 と 有 機 酸 の 集 積 を 同 時 に 抑 制 で き る こ と を 明 ら か に し た 。

(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

但野 生越 波多野 山口

学 位 論 文 題 名

利秋     明 隆介 淳一

水 田土壌中における有機酸の集積及 び メタン生成機構とその抑制方策に関する研究

  本 論 文 は 図59、 表16、 引 用 文 献159を 含 み 、6章 から な る 総 頁数103の 和 文 論文 で あ る。 別 に11編 の 参 考 論 文 が 添 え ら れ て い る 。

  水 田 土 壌 に 施 用 さ れ た 稲 わ ら は 水 稲 の 栄 養 供 給 源 と な る 一 方 、 中 間 分 解 生 成物 で あ る酢 酸 、 プ 口 ピ オ ン 酸 、n一 酪 酸 な ど の 揮 発 性 有 機 酸 ( 以下 有 機 酸) が 水 稲 の生 育 を 抑制 す る 。 ま た 、 有 機 酸 は 水 田 か ら 発 生 す る 温 室 効 果 ガ ス で あ る メ タ ン の 基 質 と な る 。 本 研究 は 、 水 田 土 壌 中 に お け る 有 機 酸 の 生 成 ・ 集 積 ・ 分 解 と メ タ ン 生 成 の 機 構 を 解 明 し て 、 これ ら の 集 積 ・ 生 成 を 抑 制 す る 技 術 を 確 立 す る こ と を 目 的 と し て 実 施 さ れ た も の で あ ろ 。 得ら れ た 成 果 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る 。

1. 水 田 土 壌 中 に お け る 有 機 酸 集 積 の 特 徴

1)湛 水 土 壌 に 稲 わ ら を 添 加 す る こ と に よ っ て 有 機 酸 の 集 積 量 が 増 加 し た 。 集 積 量 は 酢 酸 が 最 大 で プ ロ ピ オ ン 酸 、n. 酪 酸 ( 以 下 酪 酸 ) が そ れ に 次 い だ 。

2)湛 水 前 の 土 壌 の 風 乾 期 間 が 長 く な る と 、 湛 水 後 の 有 機 酸 集 積 量 は 増 加 し た 。 こ の 結 果 は 、 湛 水 前 の 土 壌 が 酸 化 的 な 場 合 に 、 稲 わ ら を 添 加 し て湛 水 し た後 の 有 機 酸集 積 量 が増 加 す る こ と を 示 し て い る 。

3)硝 酸 塩 の 添 加 に よ り 有 機 酸 の 集 積 量 が 増 加 し 、 非 晶 質 酸 化 鉄 、 硫 酸 塩 の 添 加 に よ り 有 機 醸 の 集 積 量 が 減 少 し た 。 こ の こ と か ら 、 硝 酸 還 元 は 有機 酸 生 成に 、 鉄 還 元と 硫 酸 還元 は 有 機 酸 分 解 に 関 与 し て い る と 推 察 さ れ た 。

2. 酢 酸 、 プ 口 ピ オ ン 酸 、 酪 酸 の 分 解 機 構 及 び メ タ ン の 生 成 機 構

1) 風 乾 土 を 嫌 気 的 に 培 養 す る こ と に よ っ て 生 成 する 水 素 の 存在 は メ タン 生 成 を抑 制 せ ず、

酢 酸 の 分 解 を 抑 制 し た 。 こ の 結 果 は メ タ ン 生 成 に お い て ニ 酸 化 炭 素 +水 素 が 酢酸 に 優 先し

(5)

て利用されることを示す。

2 )培養期間が長くなると、酢酸は、@ニ酸化炭素と水素に分解され、同時に、◎生成し た二酸化炭素と水素からメタンが生成された。反応@は自由工ネルギ一増加の反応である ため、生成物の水素がこの反応を抑制する。反応@においてメタン生成に水素が利用され、

水 素 分 圧 を 低 く 保 つ こ と に よ っ て 酢 酸 の 分 解 反 応 を 可 能 に し て い る 。 3) これらの結果から、以下のことが明らかになった。培養初期の水素が豊富な条件下で は二酸化炭素十水素から優先的にメタンが生成されるが、水素が消費され、不足すると酢 酸からのメタン生成に切り替わる。さらに培養期間が長くなると酢酸は一度ニ酸化炭素十 水素に分解された後、その二酸化炭素十水素を基質としてメタンが生成する。培養期間中 の水素の存在は酢酸の分解を抑制する。

4 )プ口ピオン酸は酢酸に分解した後、ただちにメタン及びニ酸化炭素に分解した。従っ て、プロピオン酸由来の酢酸は集積しなかった。プ口ピオン酸は硫酸イオンが存在しない 条件下ではメタン生成を伴うプ口ピオン酸酸化により、硫酸イオン存在条件下では硫酸還 元によりいずれも酢酸に分解した。プ口ピオン酸の分解は硫酸塩の存在下でより促進され た。

5 )酪酸は鉄還元に伴って酢酸に分解され、生成した酢酸は分解されニ酸化炭素とメタン を生成した。ただし、易還元性の酸化鉄が充分に存在する条件下では酢酸は鉄還元5 こ利用 され、メタンを生成すろことなしにニ酸化炭素を生成した。

3 . 鉄 資 材 と 硫 酸 塩 の 添 加 に よ る 有 機 酸 集 積 と メ タ ン 生 成 の 抑 制 作 用    稲わらが土壌中で分解する際、有機酸の他に水素も中間生成物として生成された。水素 はメタン生成の基質になるとともに、酢酸やプロピオン酸の分解を抑制した。鉄還元や硫 酸還元に水素が電子供与体として使われる性質を利用レ、鉄資材や硫酸塩の添加による有 機醸集積とメタン生成の抑制作用を検討した。

1 ) 非 晶 質 酸 化 鉄 及 び 硫 酸 塩 の 添 加 に よ っ て 有 機 酸 の 集 積 量 ほ 低 下 し た 。 2 )非晶質酸化鉄添加は稲わら存在下でニ価鉄の生成を増加させ、メタン生成量を減少さ せた。非晶質酸化鉄はそのまま鉄還元菌に利用されろわけではなく、有機物とキレート複 合体を形成して利用された。添加した稲わらは鉄還元の電子供与体を提供するだけではな く、この複合体を作るための有機物を提供すると考えられた。

3 )水素の添加によって硫酸イオンの還元は促進された。すなわち、水素が硫酸還元に電 子供与体として利用されることを実験的に確認レた。

4 )硫酸塩の添加によって水素が利用され、その結果水素量が減少し、メタン生成が抑制 さ れた 。 ま た、 水素による 酢酸分解の 抑制が解除 され、酢酸 分解が促進 された。

5 )以上の結果より、非品質酸化鉄または硫酸塩の添加は有機酸の集積とメタン生成を抑 制する有効な手段であると考えられた。

   以上のように、本研究はこれまで不明な点が多かった水田土壌中における有機酸の生成・

集積・分解とメタン生成の機構を明らかにするとともに、鉄資材と硫酸塩資材の施用によっ

(6)

てメタン生成と有機酸の集積を同時に抑制できることをはじめて示したものである。した がって、得られた知見は学術的に高く評価される。さらに、鉄資材と硫酸塩資材の施用は 実際の農家レベルで既に有機酸集積とメタン生成の抑止技術として利用されており、水稲 生産及び環境保全に対して大きな貢献をしている。

   よって、審査員一同は、野副卓人が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す

るものと認めた。

参照

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