博士(農学)金 洪鉉 学位論文題名
落葉樹林のりーフリターの二酸化炭素発生量に関する研究 学位論文内容の要旨
1.陸上生態系において,土壌呼吸は主要なC02発生源(ソース)である。地球上の土壌は,大気 中に含まれる炭素量の2倍の炭素を有機物として蓄えていると見積もられており,土壌の炭素蓄積 量および土壌呼吸のわずかな変化が大気中の炭素量を大きく変化させると考えられている。土壌呼 吸は,主に植物根の呼吸と微生物による有機物の分解過程(微生物呼吸)によって生じる。微生物 呼吸の基質は,デトリタス(植物体の破片,枯死体(リター)および分泌物,動物と微生物の死骸 など)であるが,量的にはりターが最も重要である。りターは,植物の地上部に由来するもの(リ ターフオール)と地下部(根)に由来するものに別れ,りターフオールは大部分が落葉によって占 められる。林床に供給されたりターフオールは,小動物や微生物によって分解され,含まれる炭素 の 一部はC02として大気に放出される。また残りは,土壌有機物として土壌の構成成分となる。
2.1」夕ーの分解は炭素と栄養素の循環において非常に重要な役割を演じているため,地球規模で の炭素循環や窒素循環を評価するには,リターの分解過程を十分に理解する必要がある。リターの 分解は,最初の急激な溶脱の後,ほぼ2段階に分かれて進行する。数年間続く最初の段階では,糖 類,アミノ酸,セル口ースなどの可変性の化合物が主に分解される。一方,第二段階では,リグニ ンなどの安定な化合物が中心となって分解される。リターの分解に関する研究は非常に多く,その メカニズムはかなりわかってきている。しかしながら,リターの分解にともなうC02発生速度の季 節変化,および分解の初期段階におけるC02発生速度の環境応答性については,情報がほとんどな い。また,林床に堆積したりターの分解によるC02発生が,土壌呼吸から分離して測定され,定量 的に評価されることはほとんどなかった。林床のりター層とその下の鉱物性土壌では,物理的,化 学的環境が異なり,また生物学的機能も異なるため,リター層と土壌の呼吸速度を個別に評価し,
それらの環境応答を調べる必要がある。そのような研究は,森林生態系における炭素循環の解明,
および森林生態系のC02固定能カの定量化に貢献できると考える。
3.本研究では,以上の背景を踏まえ,1)落葉樹林におけるりーフリターのC02発生速度の季節変 化および環境に対する応答性を明らかにする,2)りーフリターのC02発生速度をモデル化し,落 葉樹林における土壌呼吸速度に対する寄与を定量的に評価する,ことを目的とした。そのために,
北海道苫小牧市の隣接したミズナラやホオノキが優占する落葉広葉樹林と落葉針葉樹林(カラマツ 人工林)において,リターバッグやりタートラップを使わずに,自然条件で堆積した林床のりーフ リター(Oi層と0。 層)を,2001年10月〜2002年10月に 積雪期間 (12月〜3月)を除いて毎月採
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集 し た。 カ ラ マ ツ林 で は , 他樹 種 も 混 在し ている が,カ ラマツ のりーフ リター のみを 採集し た。採 取 し た り タ ー サ ン プ ル を 用 いて , 異 な る温 度 お よ び含 水 率 の 条件 で ,C02発生 速 度 を チャ ン バ ー 法 に より 測 定 し た。 得 ら れ た結 果 を も とに り ー フ リタ ー のC02発生 速度 をモデ ル化し, 野外条 件に お け るC02発 生 速 度( リ タ ー 呼吸 速 度 ) を連 続 的 に 推定 し た , また ,同 じ落葉 樹林にお いて, プロ フ ァ イ ル 法 を 改 良 し た 方 法 を用 い て , 表層 土(Oヨ層 とA層 ) と 下層 土 (C層 ) のC02発 生 速 度 (土 壌 呼 吸速 度 ) を 連続 測 定 し ,り タ ー 呼 吸速 度と比 較する ことで ,リーフ1」夕ー からのC02発生 量の 土 壌 呼吸 量 に 対 する 寄 与 を 定量 評 価 し た。
4. 単 位 乾物 重 あ た りの り ー フ リタ ーC02発 生速 度(Pdッ ) には 季 節 変 化が 認 め ら れた 。Pdwの季 節 変 化 のパ タ ーンは ,落葉 広葉樹 とカラ マツで 多少異な ったが ,いず れの場 合も6月 に最低 となっ た。
し か し,Qioを 用 いて 評 価 し たPdwの 温 度 応答 性 も 夏 期に 低 下 す る傾 向 が み られ た が ,季節 変化は あ ま り明 瞭 で は なか っ た 。 一方 , 含水 率との 間の回 帰直線の 傾きで 評価し た凡ッ の水分 応答性 は,
落 葉 広葉 樹 と カ ラマ ツ の 両 方で , リー フリタ ーの林 床におけ る滞在 時間が 経過し 分解が 進むに した が っ て低 下 し , 夏期 に 最 低 とな っ た 。 落葉 広 葉 樹 にお け るPdwの季 節変化は ,リー フリタ ーの化 学 的 品 質(C:N比 ) の 変 化に よ っ て ある 程 度 説 明す る こ と がで き た 。 一方 , カ ラ マツ で は夏か ら秋に か け て徐 々 に 供 給さ れ た 新 鮮な り ター フォー ルの影 響が現れ ,PdwとC:N比の関 係は複 雑であ った。
し か し, 落 葉 広 葉樹 , カ ラ マツ と も に ,Pdwの 温 度 応答 性 お よ び水 分 応 答 性とC:N比 の間に 正の直 線 関 係が 認 め ら れた 。 こ れ らの 事 実は ,比較 的新鮮 なりーフ リター の分解 の初期 段階に おいて 化学 的 品 質が 重 要 で ある こ と を 示唆 し て い る。 さ ら に ,C02発 生 を考え る場合に は,リ ーフリ ターの 化 学 的 品質 をC:N比 を用 い て 表 すこ と の 有 効性 が 明 ら かに な っ た 。
5.以 上 の 室 内実 験で 得られ たデ一夕 に,P.hの温度 反応を 指数関 数で, また水 分反応 を漸近 線で表 現 す る モデ ル を 適 用し , 各 月 ごと に モ デル の係数 を決定 した。 落葉広 葉樹林 とカラ マツ林で 連続測 定 し た りタ ー 温 度 と, 表 層 土 の含 水 率 から 推定し たりタ ー含水 率をモ デルに 入カし ,その出 カに単 位 面 積 あた り の り ター 堆 積 量 (り タ ー 密度 )と乗 じるこ とで, 野外条 件にお ける単 位面積あ たりの り ー フ リ タ ー のC02発 生 速 度(RL, リ タ ー 呼 吸 速 度 ) を2002年4月‑11月 の 期 間 , 日 単 位 で 連 続 的 に 推 定 し た 。 さ らに , 改 良 プ口 フ ァ イ ル法 を 用 い て同 じ 期 間 の表 層 土(Oヨ 層 とA層 ) およ び 下 層 土(C層 ) の 土 壌呼 吸 速 度 (そ れ ぞ れRt, 忌 ) を分 離 し て 連続 的 に 測 定し た 。 そ の結 果 ,RLは 土 壌 呼 吸 (足 , 忌 ) とは 異 な る 特徴 的 な 季 節変 化 を 示 した 。 落 葉 広葉 樹林で は,RLは5月下旬 にピー ク 値 で ある0.97 gC m‑2d11に 達 し た。 一 方 ,Rtと 忌 の ピー ク は そ れぞ れ8月 上 旬 ,9月 上旬 であっ た 。RLの 総 土 壌 呼吸 速 度(RaUニ 〓RL十Rt十 忌 ) に 対す る 寄 与(RL/RaU)は ,4〜5月 に 大 きく(0.15
〜0.40), 夏期に 小さか った(0.05以 下)。 カラマ ツ林に おける カラマ ツのり ーフリタ ーでは,RLは 4月に 最 大(0.21〜0.32 gCm・2d・1)で, その後低 下した 。屬と 匙のピ ークは 落葉広 葉樹林 とほぼ 同 じ時期に生じた。RL/尺aIlは,4〜5月にO.19から0.04まで大きく低下し,その後低い値(0.01〜O.03) で 推 移 し た 。4月 〜ll月 の8ケ 月 間 の積 算 値 を 計算 す る と ,RL,R, 忌 およ び 凡 ‖ は, 落 葉 広 葉樹 林 と カ ラマ ツ 林 で それ ぞ れ ,85,683,145,913gCm‥ ,34,700,253,987gCm・2とな った。 その 結果,リーフリター呼吸速度(RL)が総土壌呼吸速度(尺川)に占める割合は,落葉広葉樹林で9.3%,
カ ラ マ ツ林 ( カ ラ マツ の り タ ーの み ) で3.5%とな った。 落葉広 葉樹林 での割 合は, 北米の 森林に おける結果(lO%程度)とほぼ等しかった。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
落葉樹林のりーフリターの二酸化炭素発生量に関する研究
本論文は4章からなり ,図52,表6,引用文献56を含む86ベ←ジの和文論文である。他に 参考論文3編が添えられている。
陸上生態系において,微生物による土壌有機物の分解過程(微生物呼吸)は主要なC02発生 源である。林床に供給されたりターフオール(落葉,落枝)は,小動物や微生物によって分解 され,含まれる炭素の一部はC02として大気に放出される。残りは,土壌有機物として土壌の 構成成分となる。このような微生物による1」夕ーの分解は,陸上生態系の炭素循環において非 常に重要な役割を演じているため,関連した研究は多く,そのメカニズムはかなりわかってき ている。しかしながら,リ夕←の分解にともなうC02発生速度の季節変化,および分解の初期 段階におけるC02発生速度の環境応答性については,情報がほとんどない。本研究では,1)落 葉樹林におけるりーフリターのC02発生速度の季節変化および環境に対する応答性を明らかに し,2)りーフリターのC02発生速度の総土壌呼吸速度に対する寄与を定量的に評価した。
北海道苫小牧市の落葉広葉樹林と落葉針葉樹林(カラマツ人工林)において,自然条件で堆 積した林床のりーフリター(0i層と0。層)を,積雪期間を除いて,2001年10月〜2002年10 月に毎月採集し,異なる温度および含水率の条件でC02発生速度をチャンパー法により測定し た。その結果,1)単位乾物重あたりのりーフリターCOz発生速度は季節変化を示し,夏季に最 低となること,2) C02発生速度が温度とともに指数関数的に上昇すること,3)比較的乾燥し た条件では,含水率とC02発生速度の間には直線関係が成り立っこと,4)COz発生速度の温度 応答性( Qio)も夏季に低下する傾向があること,5)C02発生速度の水分応答性は,りーフリタ ーの林床における滞在時間が長くなり分解が進むにしたがって低下し,夏季に最低となること を明らかにした。また,このようなりーフリターC02発生速度,およびC02発生速度の環境(温 度,水分)応答性とC:N比の間には正の直線関係が認められ,このような季節変化が,C:N比 に 代 表 さ れ る り ー フ リ タ ー の 化 学 陸 に よ っ て 説 明 で き る こ と が 示 唆 さ れ た 。
司 一
良 宏
高
慎
孝
野 野
池
平 浦
小 谷
授
授
授
授
教
教
助
教
教
助
査
査
査
査
主
副
副
副
上記 の室 内実 験の 結 果を もと に, リ ーフ リタ ーC02発生 速度をモデル化し,野外条 件におけ るCOz発 生 速 度 ( リ ー フ リ タ ー 呼 吸 速 度) を2002年4月¥‑11月 の期 間, 日 単位 で連 続的 に 推 定 した 。ま た, 同じ 落 葉樹 林に おいて,プロファイル法を 用いて表層土(0ユ層とA層 )と下層 土 (C層 ) のC02発生 速 度( 土壌 呼吸 速 度) を連 続測 定し , リー フリ ター 呼吸 速度と 比較する こ とで ,リ ーフ リタ ー から のC02発 生量 の総 土壌 呼 吸量に 対する寄与を定量評価した 。その結 果 ,リ ーフ リタ ー呼 吸 速度 は土 壌呼吸速度とは異なる特徴 的な季節変化を示した。落 葉広葉樹 林では,リーフ リター呼吸速度は5月下旬に ピーク値である0. 97 gC m‑zd・1に達した。一方,
表 層土 と下 層土 の呼 吸 速度 のピ ーク は ,そ ゎぞ れ8月上 旬,9月 上旬 に生 じた 。リー フリター 呼 吸速 度の 総土 壌呼 吸 速度 に占 める 割 合は ,4〜5月 に大 きく(15〜40%),夏期に小 さかった
(5%以 下 )。 カラ マツ 林に お けるカラマツのりーフリタ ーでは,リーフリター呼吸速 度は4月 に最大(O. 21〜0. 32 gC Dl‑2d―1)で,その後低下した。リーフリター呼吸速度の総土壌呼吸速 度 に 占 め る 割 合 は ,4〜5月 に19% か ら4% ま で大 きく 低下 し ,そ の後 は低 い値(1〜3% ) で 推 移し た。4月‑vll月の8ケ 月間 の積 算 値を 計算 する と, リ ーフ リタ ー呼 吸量 は,落 葉広葉樹 林 とカ ラマ ツ林 (カ ラ マツ のり ター の み) でそ れぞ れ85,34 gCm‑2とな り, 総土壌 呼吸に占 める割合はそゎ ぞれ9.3%と3.5%と評価 された。苫小牧の落葉広葉樹 林におけるりーフリター 呼吸量の寄与(9.3%)は,北米の森林に おける結果(10%程度)とほぼ等ししゝことが明らかと な った 。ま た, リタ ー フオ ール に関する研究を引用して考 察した結果,苫小牧の落葉 広葉樹で は ,1年 間 にり ター 層(0i層 と0。層 ) から 微生 物に よる 分解によって大気に放出され るC02量 が , リ タ ー フ オ ー ル と し て 供 給 さ れ た 炭 素 の50% 以 上 に な る こ と が 示 唆 さ れ た 。 以上 のよ うに ,本 論 文は 森林 生態 系 にお ける りー フリ ターからのC02発生速度の季 節変化,
お よび 環境 応答 性を 明 らか にし ,リ ー フリ ター から のC02発生量の総土壌呼吸量に対 する寄与 を 定量 的に 評価 した も ので あり ,森 林 生態 系に おけ る炭 素 循環 の解 明, およ び森林 生態系の C02固定能カの 定量化に貢献できると考えら れる。,よって,審査員一同は金洪鉉が博士(農学)
の学位を受ける に十分な資格を有するもの と認めた。
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