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博士(農学)発 正浩 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)発   正浩 学位論文題名

新ピログルタミルペプチターゼ阻害物質 benarthin および pyrlzmOStatin に関する研究

学位論文内容の要旨

  酵素は,個体発生から老化に至るすべての生命現象と深いっながりを有している。生体内で起 こる様々な現象に関与する酵素の働きを知り,それらの酵素に対する阻害物質の役割を明らかに することは,生体の制御機構ならびに病因を理解する上に役立ち,治療への重要なアプ口ーチの ーっであると考えられる。これらの観点から,微生物化学研究所では抗生物質研究を応用し,微 生物培養液より数々の酵素に対する阻害物質の探索研究が行われ,数多くの低下分子酵素阻害物 質が発見されている。この研究の一環として,ピログルタミルペプチダーゼ(PGPase)に対す る阻害物質を微生物培養液中に探索した。PGPaseはエキソペプチタ―ゼの一種であり,1968 年にPseudomonas fluorescens菌体中に見出され,部分精製された酵素である。この酵素は タンパク質やペプチドのアミノ末端のピ口グルタミン酸残基を特異的に遊離する酵素である。ま た,PGPaseは広く各組織に分布しているにもかかわらず,その生理的機能に関しては未だ解 明されていない部分が数多く残されているのが現状である。この点からも,その阻害物質の発見 はPGPaseの生理機能の解明においても大いに役立っと考えられ,また,新たな薬理活性を有 する薬剤開発へのアプ口一チを可能にすることが期待される。

  この様な背景の中で,PGPaseに対する阻害物質を微生物培養液中より探索し,新規化合物 benarthin及びpyrizinostatinを見いだした。本研究はこれらの阻害物質の探索方法,生産菌 の同定,単離方法,生物活性,物理化学的性状および構造解析にっいて検討したものである。さ ら に ,benarthinに 関 し て は 合 成 法 を 確 立 し , 構 造 活 性 相 関 を 検 討 し た 。   本研究の結果を要約すると,

  1.牛肝臓由来PGPaseのアッセイ系を確立し,微生物培養液中より阻害物質の探索を行つ     たところ,約1500の被検菌株のうちの一株であるMJ244・SF1株の培養液中に阻害物質が     生産されていることを見いだした。構造解析の結果,新規化合物であったのでbenarthin     と命名した。

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2.   Benarthin生 産菌 で あ るMJ244・SF1株 は, 東京都 品川区 の土 壌より 分離さ れた放 線菌   で あ る 。 その 形 態 お よ び菌 学 的 性 状 からStreptomyces属 に 属す る と考え られ,Strepto‑

  myces属 よ りMJ 244,SF1株 類 似 の 既 知 菌 種 を 検 索 し た 結 果 ,Streptomyces xan‑

  thophaeusが ほ ば 一 致 し た 。 従 っ て,MJ 244―SF1株 はStreptomyces xanthophaeus MJ   244―SF1株 と同定 され た。

3.Streptomyces xanthophaeus MJ244‑SF1に よ るbenarthinの 生 産 は2日 目 で 最 高 に   達し, その後 培養 液のpH上 昇とと もに 低下し た。

    従 って ,Benarthinの 精 製 は 培 養2日 目 の 培 養濾 液 よ り 行 った 。 培養濾 液4Lを 活性炭 ,   っ い で ダ イア イ オ ンHP−20で 処理 し , 活 性粗 粉末を 得た 。この 粗粉末 をセフ ァデ ックスG   10に よる ゲ ル 濾 過 ,さ らに, 遠心液 一液分 配ク 口マト グラフ ィーを 行い ,benarthinを396

・ mg単離し た。

4.BenarthinのPGPaseに 対 す る 阻 害 様 式 をLineweaver‑Burkプ 口 ッ 卜 に よ り 解 析 し た   と こ ろ , 基質 に 対 し て 拮抗 的 で あ り ,そ のKi値は1.2x10‑'Mであっ た。ま た,benarthin   のマク 口ファ ージ ,好中 球およ びりン パ球 への作 用,細 胞障害 性およ び分化誘導活性を検討   し た が 強 い活 性 は 認 め られ な か っ た 。Benarthinは 抗菌お よび抗 真菌活 性は 示さず ,マウ   スに対 して100mg/kgの静 脈内投 与で毒 性は 認めら れなか った。

5.Benarthinは 水 溶 性 の 無 色 粉 末 と し て 得 ら れ , そ の分 子 式 は , 高分 解 能FAB・MSお よ   び 元 素 分 析の 結 果 よ りC17HZr)N70.と 決 定 さ れ た。 呈 色 反 応 にお い て は 坂 □,GL, モ リ   ブデン 硫酸試 薬に 陽性で ,ニンヒドリン試薬には陰性であった。IRスペクトルにおいて1660,   1520cm‑1に アミド 基に由 来する 吸収が 認め られた 。

6.  Benarthinの'C NMRス ペ ク 卜 ル で は17本 の 炭 素 シ グ ナ ル が 観 測 さ れ ,DEPTお よび   HMQC実 験 に よ り ,メ チ ル 炭 素 一つ , メ チ レ ン炭 素 三 っ ,sp゜ の メチ ン炭素 三つ, さら に   カ ル ボ ニ ル炭 素 三 っ を 含む 七 っ のsp゜ 四 級 炭 素 であ る こ と が 判明 し た 。JHNMRス ペク ト   ルにお いては ,そ れぞれ の炭素 に対応 した シグナ ルのほ かに三 っの交 換性水素のシグナルが   認 め ら れ た 。 こ れ ら の シ グ ナ ル の っ な が り を ,'H―IHCOSYお よ びHMBC実 験 に よ り   解 析 し , 平 面 構 造 の 決 定 を 行 っ た 。 次 い で , 酸 加 水 分 解 に よ りL・ar ginineお よ び   L‑threonineを 得 るこ と に よ りbenarthinの 絶 対構 造 をLー (2,3・dihydroxy―benzoyl)   arginyl―L‑threonineと 決 定 し た 。 ま た , こ の 構 造 を 合 成 に よ り 確 認 し た 。 7.   Benarthinの 合成法 を応用 し,12個の誘 導体を 合成し 構造 活性相 関の検 討を行 った。 そ   の 結 果 ,benarthinのPGPaseに 対 す る 阻 害活 性 発 現 部 位は カ テ コ ー ル部 分 で あ る こ とが

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  明らかとなった。

  8.Benarthin発見の後も,微生物培養液中より阻害物質の探索を行ったところ,約350の被     検菌株のうちの一株であるSA2289株の培養液中に阻害物質が生産されていることを見いだ     し た 。 構 造 解 析 の 結 果 , 新 規化 合 物で あっ たの でpyrizinostatinと 命名 し た。

  9.Pyrizinostatin生産菌であるSA2289株は,中国上海市海底土壌より分離された放線菌     である。その形態および菌学的性状からStreptomyces属に属すると考えられ,Strepto〜     myces sp.SA2289と同定された。

  10. Streptomyces sp. SA2289の培養濾液14Lより,ダイアイオンHP―20,セパビーズSP−     206,遠心液→液分配クロマトグラフィーおよびセファデックスLH・20により精製し,無色     活性粉末を得た。その無色粉末をメタノール中より結晶化することによりpyrizinostatin     無色針状結晶として40. 2mg単離した。

  11.Pyrizinostatinの阻害様式をLineweaver・Burkプ口ツ卜により解析したところ,基質     に対して不拮抗的であり,そのIC…値は1,8Ug/磁であった。また,pyrizinostatinは各     種癌細胞に対し細胞障害性を示したが,マク口ファージ,好中球およびりンパ球への作用,

    分化誘導活性を検討したが強い活性は認められなかった。

  12. Pyrizinostatinは無色針状結晶として得られ,その分子式撒,高分解能FAB―MSおよ     び元素分 析の結果よりCllH15N501と決 定された。呈色反応においては硫酸,GL,モリ     ブデン硫酸試薬に陽性であった。Pyrizinostatinの構造はx線結晶解析により2,4,4a,     8―tetrahydro亠2,  6,  8―trimethyl−4a―(2‑oxopropyl) pyrimido[5,  4‑e]  1,     2.4・triazine・3,5,7(6H)・trioneと決定した。また,HMBC実験等により,|H     および'3C NMRシグナルの帰属を行った。

  Benarthinお よびpyrizinostatinはPGPase阻害物質としてはじめて報告された天然化合物 である。これら阻害様式の異なる阻害物質は,生理活性ペプチドおよび蛋白質の代謝機構を理解 する上に,ま た,免疫疾患の予防および治療へのアプ口ーチに寄与することが期待される。

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学位論文審査の要旨

  本 論文は 和文82頁,図72,表33,引用 文献138,研 究史 ,和文 および 英文総 括から なり ,ほか に 参考論 文13編が 付さ れてい る。

  酵 素は, 個体発 生か ら老化 に至る すべて の生命 現象 と深い っなが りを有 している。生体内で起 こ る様々 な現象 に関与 する酵 素の 働きを 知り, それら の酵 素に対 する阻 害物質の役割を明らかに す ること は,生 体の制 御機構 なら びに病 因を理 解する 上に 役立ち ,治療 への重要なアプローチの ー つ で あ ると 考 え ら れ る。 こ れ ら の 観点 か ら ,ピ口 グル タミル ペプチ ダーゼ (PGPase)に対 す る 阻 害 物 質を 微 生 物 培 養液 か ら 探 索 した 。PGPaseは タ ンパ ク 質 や ペプ チドの アミノ 末端の ピ ロ グ ル タ ミル ン 酸 残 基 を特 異 的 に 遊 離す る 酵 素 で ある 。 ま た ,PGPaseは広く 各組織 に分布 し て いるに もかか わらず ,、そ の生理的機能に関しては未だ解明されていない部分が数多く残されて い るのが 現状で ある。

  こ の様 な 背 景 の 中で , 本 研 究 はPGPase阻 害 物 質 の 探索 方 法 , 生 産菌の 同定, 単離方 法, 生 物 活 性 , 物 理 化 学 的 性 状 お よ び 構 造 解 析 あ る い は 合 成 法 に っ い て 検 討し た も の で ある 。   第 二編, 研究史 では ,微生 物培養 液中よ り見い ださ れた酵 素阻害 物質に 関する研究史にっいて 述 べられ ている 。

  第 三編 実 験 の 部 ,第 一 章 は ,PGPase阻 害 物 質 ,benarthinに っ いて 述 べ ら れ ,下 記 の 内 容 が 含まれ ている 。

  1. 牛 肝 臓 由 来PGPaseの ア ッ セ イ 系 を 確 立 し , 阻 害 物 質の 探 索 を 行 い,MJ244・SF1株 の     培 養液中 に阻 害物質 が生産 されて いる ことを 見いだ し,新 規化合 物で あった のでbenarthin     と 命名し た。

  2.  Benarthin生 産 菌 で あるMJ244−SF1株 は , 東 京 都 品川 区 の 土壌 より分 離され ,形態 お     よ び 菌 学 的 性 状 か らStreptomyces xanthophaeus MJ244ーSF1と 同 定 さ れ た 。   3. Streptomyces xanthophaeus MJ244―SF1の 培 養 液4Lを 活 性 炭 , っい で ダ イ ア イオ     ンHP―20で 処理し ,活 性粗粉 末を得 た。こ の粗粉 末を セファ デック スG‑10によるゲル濾過,

    さ ら に , 遠 心 液 亠 液 分 配 ク 口 マ ト グ ラ フ ィ ― を 行 い ,benarthinを396mg単 離し た 。

男 成

房 純

田 谷

冨 水

授 授

教 教

査 査

主 副

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  4.  Benarthinの阻害様式は,基質に対して拮抗的であり,そのKi値は1.2xio‑。Mであっ     た。また,マクロファージ,好中球およびIJンパ球への作用,細胞障害性および分化誘導活     性を検討したが活性は認められなかった。

  5.Benarthinは 水溶性の無色粉末として得 られ,その分子式は,高分 解能FAB‑MSおよ     び元素 分析の結果よりC17 H25N507と決定された。IRスペクトル において1660,1520     cm―|にアミド基に由来する吸収が認められた。

  6.   Benarthinの13C NMRスペクトルでは17本の炭素シグナルが観測 され,また,iH     NMRスペクトルにおいては,それぞれの炭素に対応したシグナルのほかに三っの交換性水     素のシ グナルが認められた。これら のシグナルのっながりを,'H‑'H COSYおよびHM‑

    BC実験 により解析し,平面構造の決定を行った。次いで,酸加水分解によりL‑arginine     およびL‑threonineを得ることによ りbenarthinの絶対構造をL− (2,3−dihydroxy‑

    benzoyl)arginyl‑L‑threonineと決定した。また,合成法を確立し,この構造を確認した。

  7.  benarthinの合成法を応用し,12個の誘導体を合成し構造活性相関の検討を行った。そ     の結果 ,benarthinのPGPaseに対する阻害活性発現部位はカテコール部分であることが     明らかとなった。

  第二章で は,PGPase阻害物質,pyrizinostatinにっいて述べられ,下記の内容が含まれて いる。

  1. Benarthin発見の後も,阻害物質の探索を行ったところ,SA2289株の培養液中に阻害物     質 か生 産さ れ ていることを見いだした。 構造解析の結果,新規化合 物であったので     pyrizinostatinと命名した。

  2.生産菌であるSA2289株は,上海市海底土壌より分離された放線菌で,その形態および菌     学的性状からStreptomyces属に属すると考えられる。

  3. Streptomyces sp. SA2289の培養濾液14Lより,ダイアイオンHP―20,セパビーズSP−     206,遠心液―液分配ク口マ卜グラフィーおよびセファデックスLH―20により精製し,メタ     ノ ー ル 中 よ り 無 色 針 状 結 晶 と し てpyrizinostatinを40. 2mg単 離 し た 。   4. Pyrizinostatinの阻害様式を解析したところ,基質に対して不拮抗的であり,そのIC50     値 は1. 8lig/ 紺 で あ っ た 。 ま た , 各 種 癌 細 胞 に 対 し 細 胞 障 害 性 を 示 し た 。   5. Pyrizinostatinは無色針状結晶と して得られ,その分子式は,高分解能FAB‑MSおよ     び元素 分析の結果よりCiiH|5N504と決定された。Pyrizinostatinの構造はx線結晶解     析により2,  4,4a,  8―tet rahydro―2,  6,  8―trimethyl―4a−(2一oxopropyl)

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    pyrimido[5,4‑e]‑1,2,4ーtriazlne―3,5,7(6H)ーtrioneと決 定し た。

  BenarthinおよびpyrizinostatinはPGPase阻害物質としてはじめて報告された天然化合物 である。これら阻害様式の異なる阻害物質は,生理活性ペプチドの代謝機構を理解する上に,ま た , 免 疫 疾 患 の 予 防 お よ び 治 療 へ の ア プ 口 ― チ に 寄 与 す る こ と が 期 待 さ れ る 。   よって,審査員一同は別に行った学力確認試験の結果と合わせて,本論文の提出者発正浩は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。

参照

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