博 士 ( 農 学 ) 任 淑 坤 ( レ ン シ ュ ク ン )
学 位 論 文 題 名
Studies on Cadmium‑Releasing Protease Produced by Arthrobac た ダ nicoti7zovora7zs 23‑0 ― 11
(Arthrobacter nicotinovorans 23‑0‑11
株に よる カ ド ミ ウ ム 遊 離 プ ロ テ ア ー ゼ に 関 す る 研 究 )
学 位 論文 内 容の 要旨
環境汚染は、世界の中で最も注目されている問題のーっである。中でも、金属汚染は重大な 環境問題であり、特に海洋生物に影響を与える。金属汚染は生物組織の変異を引き起こし、海 洋食物鎖に乗って、最終的に、人類の健康を脅かす。
日本は世界の中で、最も水産物が豊富であり、特に北海道では、ホタテガイの漁業生産が数 十万トン、五百億円あまりに達し、北海道水産業にとって主要な地位を占めている。しかし、
一方では生産量の増大に伴って、貝毒問題以外にも水産加工の際に発生する残渣とりわけウロ など軟体部の処理という新たな問題が生じている。
道内で排出されるウロなどの軟体部の量は年間8 〜9 万トンと推定され、殆どが陸上で埋立 処分されている。オホーツク海や噴火湾沿岸では、埋立処分も悪臭が発生する事や、ホタテガ イ 中 腸 線 に 蓄 積 さ れ て い る カ ド ミ ウ ム に よ る 環 境 汚 染 が 懸 念 さ れ て い る 。
一方で、ホタテガイ加工残渣が高タンパク質である事から、飼肥料や調味料として有効利用 する研究が始まっている。しかし、ホタテウロのタンパク質は、カドミウムと強く結合してい るため、カドミウムを除去するためには、その結合 を分解する事が課題となっている。
市販のプロテアーゼによる分解を試みた結果、ホタテのウロを分解しカドミウムを遊離する ことが分かった。しかし、より効果的かつ安価にホタテのウロを処理することが求められてい る。
以上のような背景のもとで、未利用資源羽j 用のためにホタテのウロを効果的に分解するプロ テアーゼの探索を行った。
ホタテウロのタンパク質と強く結合しているカドミウムを遊離するために、北海道内の土壌
より、プロテアーゼを分泌する約百種の菌株を単離した。そのうち、23‑0‑11 株は最もカドミ
ウムを遊離させる能カが高いと期待された。本菌はウロを含んた培地の中でプロテアーゼを生
産するが、LB などの培地では生産できない事から、本酵素は誘導酵素だと考えている。この
株はグラム陽陸、好気性のコリネ型菌で、16S rDNA の配列解析の結果に基づきArthro ぬ靤r
nicotinovoransと同定された。 それに従いこの菌株をArthroぬ吮H疵D出D、′D.瑠ぬs23.O.nと 名づけた。
本 菌 が 培 地 中 に 分 泌 し た プ ロ テ ア ー ゼ を 精 製 す る こ と を 試 み た 。 そ の 結 果 、DR丶E― 恥yopear1650MとCM一rッopear1650Mの ニ つ の 陰 と 陽 イ オ ン 交 換 ク ロ マ ト グ ラ フ イ ー に よ って 、単 一タ ンパ ク 質ま で、 精製 で きた 。本 酵素 はSDS・H`GEに よる 解析 の結果から、
相 対 分子 量は27,000Daで あっ た 。酵 素の 精製 収率 は41.4%であり、25.4倍の 精製率の向上 が 見 られ た。 しか し、 そ のN末 端 から30個 のア ミノ 酸 配列と部分的中央末端のア ミノ酸酉己列 を 分析した結果、本酵素と相同 性をもっタンノミク質は、 データベースからは見っからず、新規 のプロテアーゼではないかと考えている。
本酵素の至適pHは7.Oであり 、至適温度は50℃あった。 また、Ca2十,Cd2+,Mg2十,Mn2゛な どの金属イオン(lomM)の存住下では活陸が高まり、Cb2十,Cu2゛,Hg2十,Ni2+ Zn2゛の存荏下では 活 陛 が阻 害さ れる こと が 分か った。さらに、本酵素 は、プロテアーゼの阻害剤の 中でも、特に セ リ ン プ ロ テ ア ー ゼ の 阻 害 剤 で あ るPhenyhuethybumnylnuodde(PMSF) に よ っ て よ く 阻 害 さ れ る こ と か ら 、 セ リ ン 中 性 プ ロ テ ア ー ゼ で あ る 可 育 旨 陸 が 示 唆 さ れ た 。 本 酵素 のカ ドミ ウム 遊 離活 性は、市販されている 酵素(endopepbda8ePC10)と 比べ、その活 性 は 四倍 近く 高い 結果 が 得ら れた。この結果より、 ホタテのウロからカドミウム を遊離するバ イ オプロセスが出来ることが確 かめられた。4.血め面2ら珊瑠ロs23.O‐n株が生産した酵素を用 い て 、ホ タテ のウ ロか ら カド ミウムを液体の培地の 中に遊離させ、その後、カド ミウムを吸収 す る 励 】 鰯DmD珊ssp.URNo.2株 を使 って 、 遡雑 した カド ミウ ム を吸 収さ せる 。さ ら に、 カ ド ミ ウ ム を 取 り 除 い た ウ ロ の 粗 タ ン パ ク 質 は 乾 燥 さ せ 、 飼 料 に す る こ と が で き る 。 本 酵素 を用 いて 、工 業 的に ホタテウロを処理する には、簡便に本酵素を大量に 生産する必要 が あ る事 から 、本 酵素 遺 伝子 の遺伝子クローニング を試みた。精製酵素標品から のアミノ醸配 列 を 元に 合成 した オリ ゴ ヌク レオ チド プ ライ マー を用 い、A面めを2Dm瑠ぬs23‐O・n株のゲノ ムDNAよ り 本 酵素 遺伝 子の ス クリ ーニ ング を 行い 、大 腸菌 中で セ リン プロ テア ーゼ 遺 伝子 の 大 量発現系を構築し、4,j2め ぇめDm溜田s23・O・11株以上の酵素生産能を得る事を、現在試みて いる。
本研究によって、本酵素を用 いて、ホタテのウロからカ ドミウムを.遊離尹ることが出来た。
他 の 海産 物、 例え ばイ カ 、蝦 、蟹、魚などの廃棄物 にもカドミウムが含まれてい る。それらの 処 理 にも 応用 的可 能陸 が ある と考えられる。それに 、それらの海産物の廃棄物に はカドミウム に 限 らず 、他 の重 金属 、 鉛な どもたくさん含まれて いる。それらの重金属の処理 も期待されて いる。
― 167 ‑
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Studies on Cadmium‑Releasing Protease Produced by Arthrobac たダnicotiyzovora7zs 23‑0‑11
(Arthrobacter nicotinovorans 23‑0‑11
株による カ ドミウム遊 離プロテア ーゼに関する研究)
本論文は、4 章からなり、図20 、表15 、文献80 を含む総頁数112 の英文論文である。別に 参考論文2 編が付されている。
日本は世界の中で、最も水産物が豊富であり、特に北海道では、ホタテガイの養殖 生産が数十万トン、五百億円あまりに達し、北海道水産業にとって主要な地位を占めて いる。しかし、一方では生産量の増大に伴って、貝毒問題以外にも水産加工の際に発生 す る 残 渣 、 と り わ け ウ ロ な ど 軟 体 部 の 処 理 とい う 新 たな 問 題が 生 じて い る。
道内で排出されるウロなどの軟体部の量は年間8 〜9 万トンと推定され、殆どが陸上で 埋立処分されている。オホーツク海や噴火湾沿岸では、埋立処分も悪臭が発生する事や、
ホタ テガイ中腸線に蓄積されているカドミウムによる環境汚染が懸念されている。
一方で、,ホタテガイ加工残渣が高タンパク質である事から、飼肥料や調味料として有 効利用する研究が始まっている。しかし、ホタテウロのタンパク質は、カドミウムと強 く結合しているため、カドミウムを除去するためには、その結合を分解する事が課題と なっている。
市販のプロテアーゼによる分解を試みた結果、ホタテのウロを分解しカドミウムを遊 離することが分かった。しかし、より効果的かつ安価にホタテのウロを処理することが 求められている。
以上のような背景のもとで、未利用資源利用のためにホタテのウロを効果的に分解す
.るプロテアーゼの探索を行った。
1
.カドミ,ウムを遊離する微生物の単離および同定
ホタテウロのタンパク質と強く結合しているカドミウムを遊離するために、北海道内 の土壌より、プロテアーゼを分泌する約百種の菌株を単離した。そのうち、23‑0‑11 株は 最もカドミウムを遊離させる能カが高いと期待された。本菌はウロを含んた培地の中で
蔵
和
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行 博
野
井
田
浅
松
横
授
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授
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教
教
査
査
査
主
副
副
プロ テアーゼ を生産す るが、LB など の培地では生産できない事から、本酵素は誘導酵素 だ と 考え て いる 。この株 はグラム 陽性、好 気性のコ リネ型菌で 、
16S rDNAの配列 解析 の 結 果に 基 づき
Arthrobacter nicotinovoransと同定 された。 それに従 いこの菌 株を
Arthrobacter nicotinovorans 23‑0‑ 11と名 づけた。
2
.
Arthrobacter nicotinovorans 23‑0‑11株によるカドミウム遊離プロテアーゼの精製
本 菌が 培 地中 に分 泌したプ ロテアー ゼを精製 することを 試みた。 その結果 、
DEAE―
Toyopearl650Mと
CM−
Toyopearl650Mの ニ つ の 陰 と 陽 イ オ ン 交 換 ク ロ マ ト グ ラ フ イ ー に よっ て 、単 一タンパ ク質まで 、精製で きた。本酵 素は
SDS‑PAGEによ る解析の 結 果 か ら 、相 対 分子 量 は
27kDaであ っ た 。酵 素 の精 製収率は
41.4% であり、
25.4倍の精 製 率 の 向上 が 見ら れ た 。し か し、 そ の
N末 端か ら
30個のア ミノ酸配 列と部分 的中央末 端 のアミノ 酸配列を 分析した結 果、本酵 素と相同性をもっタンパク質は、データベース か ら は 見 っ か ら ず 、 新 規 の プ ロ テ ア ー ゼ で は な い か と 考 え て い る 。
3.
精製したプロテアーゼの性質
本酵素の至適pH は
7.0であり、至適温度は
50℃あった。また、Ca2 十,Cd2 十,Mg2 十,Mr12 + などの金属イオン(lOmM) の存在下では活性が高まり、C02 十,Cu2 十,Hg2 十,Nj2 十,2n2 ゛の存 在下では 活性が阻 害されるこ とが分か った。さらに、本酵素は、プロテアーゼの阻害剤 の中 で も、 特 に セリ ン プ ロテ ア ーゼ の 阻 害剤 であ る
Phenylmethylsulfonyl fluoride (PMSF)に よっ て よく 阻害され ることか ら、セリ ン中性プロ テアーゼ である可 能性が示 唆された。
本酵素の カドミウ ム遊離活性 は、市販 されている酵素
(endopeptidase PC10)と比べ、
その活性 は四倍近 く高い結果 が得られ た。この結果より、ホタテのウロからカドミウム を遊離す るバイオ プロセスが出来ることが確かめられた。A. nicotinovorans 23‑0‑11 株 が生産し た酵素を 用いて、ホ タテのウ ロからカドミウムを液体の培地の中に遊離させ、
その後、 カドミウ ムを吸収す る
Xanthomonas sp. UR No.2株を使 って、遊 離したカドミ ウムを吸 収させる 。さらに、 カドミウ ムを取り除いたウロの粗タンパク質は乾燥させ、
飼料にすることができる。
4.
カドミウム遊離プロテアーゼの遺伝子のクローニング
本酵素を用いて、工業的にホタテウロを処理するには、簡便.に本酵素を大量に生産す る必要が ある事か ら、本酵素 遺伝子の 遺伝子クローニングを試みた。精製酵素標品から の ア ミ ノ 酸 配 列 を 元 に 合 成 し た オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド プ ラ イ マ ー を 用 い 、
A.nicotinovorans 23‑0‑11
株のゲノ ム
DNAより本 酵素遺伝子 のスクリ ーニングを行い、大 腸菌中で セリンプロテアーゼ遺伝子の大量発現系を構築し、
A. nicotinovorans 23‑0‑11株以上の酵素生産能を得る事を、現在試みている。
本研究に よって、 本酵素を用 いて、ホ タテのウロからカドミウムを遊離することが出 来た。他の海産物、‑ti えばイカ、蝦、蟹、魚などの廃棄物にもカドミウムが含まれてい る。それ らの処理 にも応用的 可能性が あると考えられる。それに、それらの海産物の廃 棄物には カドミウ ムに限らず 、他の重 金属、鉛などもたくさん含まれている。それらの
―169 ‑
〆
重金属の処理も期待されている。
よって審査員一同は、任 淑坤(レン シュクン)が博士(農学)の学位を受けるのに十 分な資格を有するものと認めた。
‑170ー