博士(医学)木下 浮 学位論文題名
骨 表面の膠 原線維 の配列と骨芽細胞との関連 一走 査電子顕微鏡による観察
学位論文内容の要旨
研究目的
骨は 支持組織として生体にかかる物理的負荷に耐える構造をしている.とく に,骨にかかるカの方向に関連する構造は骨基質内の膠原線維が立体的に配列す ることによる.この膠原線維の走行は,骨表面で骨芽細胞が分泌するコラーゲン 分子 が線維を形成するときに決定され,カルシウムに埋没した後には変化しな い.すなわち,骨基質内部の膠原線維の走行は骨表面で決定される.この際,骨 芽細胞は骨基質表面に接レて骨表而の膠原線維の走行の決定に関わっている可能 性が考えられる.そこで膠原線維の走行と骨芽細胞の関連を明らかにするために 走杏電子顕微鏡で骨表而の膠原線維,骨表面上の骨芽細胞,骨芽細胞の骨接触面 の細胞突起を観察した.
材料と方法
dd−マウスを用い,生後3週で摘出した脛骨の骨幹部について,1)骨表面の膠 原線維,2)骨表面上にある骨芽細胞と細胞突起,3)骨芽細胞の骨接触面を走査 電子顕微鏡で観察する標本を以下のように作製した.
標本1:摘出した脛骨を次亜塩素酸ナ卜リウムに浸して骨表面の有機成分を溶 解除去した後,骨表面を観察した.
標本2:脛骨を固定レてから骨膜を顕微鏡視下に剥離した.っづぃてK〇Hで処 理し て膠原線維を消化した後,EDTAで脱灰した.さらに導電染色,臨界点乾燥 して骨表面を観察レた.
標本3:脛骨を骨膜をっけたまま標本2と同様に処置して,膠原線維を除去し た.そして骨表面の細胞層を顕微鏡視下に剥離し,その骨に接する面を観察し た.
結果
1.骨表面の膠原線維
脛骨表層の膠原線維層は線維の走行の違いによりいくっかの領域に分かれてい た.各領域内の膠原線維は互いにほぼ並行して走っていた.その走行は多少迂曲 しながら領域内では一定の方向に向かっていた.骨幹部表面の膠原線維の走行 は , 広 く 観 察 す る と , 全 体 と し て は 脛 骨 長 軸 の 方 向 に向 か っ て い た . 2.骨表面の骨芽細胞と細胞突起
骨膜側から骨芽細胞を観察すると,骨芽細胞は骨表面上に互いに密着して,上 皮細胞状に集合していた.骨芽細胞はほぽ楕円形であった.骨幹部の骨芽細胞の 配列を見ると,骨芽細胞の長径の方向が脛骨の長軸方向を向いているものが多か った.
3.骨芽細胞層の骨接触面
骨芽細胞層の骨接触面は平面状を呈し,その表面は骨芽細胞から出る多数の長 い細胞突起でおおわれていた.このような細胞突起が骨表面にそって走る様子 は,流しそうめんをみるようでもであった.細胞突起集団は突起の走行の違いに よりいくっかの領域に分かれていた.ひとつの領域内で各突起はやや蛇行して走 っていたが,集団としてはほぼ一定の方向に向かっていた.骨芽細胞の骨接触面 の細胞突起の走行は,広い範囲で見ると,全体として脛骨長軸の方向に向かって いた.
4.骨 ( 類 骨 ) 表 面 の 膠 原 線 維 の 走 行 と 骨 芽 細 胞 の 細 胞 突 起 の 走 行 骨芽細胞が集団で剥離した脛骨表面で骨芽細胞の細胞突起とその直下の類骨膠 原線維の両者を同時に観察すると,膠原線維の走行にそって細胞突起が走ってい た.また,下層の膠原線維の上に別の方向に走る膠原線維があるとそれは,細胞 突起も上層の線維の方向に走っていた.
考察
骨では膠原線維が骨にかかる負荷の方向に関連して配列し,骨の立体的な形を っくる.このような膠原線維は,骨形成の場である骨表面で骨にかかる負荷の方 向に対応してっくられていくはずである.ここでは,骨表面の膠原線維とその上 の骨芽細胞を観察し,膠原線維の配列と骨芽細胞の細胞突起の配列の関連性を明 らかにすることに成功した.
脛骨は長軸方向に加重される.この表面を観察すると,膠原線維は長軸方向に 並列するよりもやや傾斜して形成され,これが重層するとき別の走行に膠原線維 が並んで,ベニヤ板状となり,負荷に対抗するカ学的に強固な骨の構造をっく る.骨表面の膠原線維はその原料となるコラーゲンを分泌する骨芽細胞の直下で 形成されていく.
所見は,骨基質線維走行が次のように設定されていくことを示唆する.骨芽細 胞は骨表面にあって骨にかかる負荷の方向に関連して配列し,この細胞の直下の 骨表面にそって長い細胞突起を仲ばす.この際,突起の走行は骨への加重方向と ほぼ一致する.骨芽細胞は骨表面の方向にコラーゲン分子を分泌し,このコラー ゲン分子は骨芽細胞下面と骨(類骨)表面との狭い間隙で互いに重合し,膠原線 維が形成される.この際,膠原線維は並走する細胞突起の間に長く形成され結果 として膠原線維は骨への加重方向とほぽ一致して配列する.このようにして骨表 面 類 骨 が 形 成 さ れ , こ こ に 石 灰 が 沈 着 レ て 硬 い 骨 基 質 と な る . 結語
骨芽細胞は骨にかかる加重方向と関連して,細胞突起を伸ばし,これにそって 膠原線維をっくって配列させる.
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 金 田 清 志 副査 教授 大河原 章 副 査 教 授 寺 沢 浩 一
学 位 論 文 題 名
骨表面の膠原 線維の配列と骨芽細胞との関連 一走査電子顕微鏡による観察
研 究 目 的
骨 に か か る カ の 方 向 に 関 連 す る 構 造 は 骨 基 質 内 の 膠 原 線 維 が 立 体 的 に 配 列 す る こ と に よ る . こ の 膠 原 線 維 の 走 行 は , 骨 表 面 で 骨 芽 細 胞 が 分 泌 す る コ ラ ー ゲ ン 分 子 が 線 維 を 形 成 す る と き に 決 定 さ れ る . こ の 際 , 骨 芽 細 胞 は 骨 表 面 の 驂 原 譲 維 の 走 行 の 決 定 に 関 わ っ て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る . そ こ で 膠 原 線 維 の 走 行 と 骨 芽 細 胞 の 関 連 を 明 ら か に す る た め に 走 査 電 子 顕 微 鏡 で 骨 表 面 の 膠 原 線 維 , 骨 表 面 ト . の 骨 芽 細 胞 , 骨 芽 細 胞 の 骨 接 触 而 の 細 胞 突 起 を 観 察 し た . 材 料 と 方 法
dd− マ ウ ス を 用 い , 生 後3週 で 摘 出 し た 脛 骨 の 骨 幹 部 に つ い て 以 下 の3種 類 の 標 本 を 作 製 し た ・ 標 本1: 脛 骨 を 次 亜 塩 素 酸 ナ ト リ ウ ム に 浸 し て 骨 表 面 を 観 察 し た . 標 本2: 脛 骨 を 固 定 し て か ら 骨 膜 を 顕 撤 鏡 視 下 に 剥 離 し た . っ づ い て KOHで 処 理 し て ,EDTAで 脱 灰 し , 骨 表 面 を 観 察 し た . 標 本3: 脛 骨 を 骨 膜 を つ け た ま ま 標 本2と 同 様 に 処 置 し て , 骨 表 面 の 細 胞 眉 を 頭 微 鏡 視 下 に 剥 離 し , そ の 骨 に 接 す る 面 を 観 察 し た .
結 果
脛 骨 表 層 の 膠 原 線 雑 屠 は 線 維 の 走 行 の 違 い に よ り い く つ か の 領 域 に 分 か れ て い た . 骨 幹 部 表 面 の 啓 原 線 維 の 走 行 は 全 体 と し て は 脛 骨 長 軸 の 方 向 に 向 か っ て
いた.骨膜側から骨芽細胞を観察すると,骨芽細胞は骨表面上に互いに密着し ていた.骨幹部の骨芽細胞の配列を見ると,骨芽細胞の長径の方向が脛骨の長 軸方向を向いているものが多かった.骨芽細胞層の骨接触面は平面状を呈し,
その表面は骨芽細胞から出る多数の長い細胞突起でおおわれていた.細胞突起 集団は突起の走行の違いによりいくつかの領域に分かれていた.骨芽細胞の骨 接触面の細胞突起の走行は,広い範囲で見ると,全体として脛骨長軸の方向に 向かっていた.骨芽細胞が集団で剥離した脛骨表面で骨芽細胞の細胞突起とそ の直下の類骨膠原線維の両者を同時に観察すると,膠原線維の走行にそって細 胞突起が走っていた.
考察
骨では膠原線維が骨の立体的な形をつくる.ここでは骨表面の膠原線維とそ の上の骨芽細胞を観察し,膠原線維の配列と骨芽細胞の細胞突起の配列の関連 性を明らかにすることに成功した.
所見は,骨基質線維走行が次のように設定されていくことを示唆する.骨芽 細胞は骨にかかる負荷の方向に関連して配列し,この細胞の直下の骨表面にそ って細胞突起を伸ばす.この際,突起の走行は骨への加電方向とほぽ一致す る.骨芽細胞は骨表面の方向にコラーゲン分子を分泌し,このコラーゲン分子 は骨芽細胞ド画と骨表面との狭い間隙で互いに重合し,膠原線維が形成され る.この際,膠原線維は並走する細胞突起の間に長く形成され結果として膠原 線維は骨への加重方向とほぽ一致して配列する.このようにして骨表面類骨が 形成され,ここに石灰が沈着して硬い骨基質となる.
以上,本研究は,膠原線維の走行と骨芽細胞の関連を明らかにし,骨にかか る負荷とそれに対応した骨基質構造形成を示唆したものであり,博士(医学)
の学位を授与するに値するものと認定される.