博士(医学)青木 学位論文題名
多胞性肝 エキノコ ックス 症の臨床病理学的検討 学位論文内容の要旨
茂
|,目 的
多胞性肝 エキノコ ックス症 は、発育 は緩慢では あるが浸 潤性に増 殖し、と きに肺、 脳な どへ遠隔転移をきたす寄生虫症である。本症の組織像と酵素免疫定量法(ELISA)による多包 虫抗体価 、病巣進 展度との 関係を頻 度的に検討 した報告 はない。 過去約10年 間に教室 で経 験した本 症のうち 、切除症 例につい て臨床病理 学的に検 討した。
II.対 象と方法
1982年か ら1992年ま でに教室 で経験し た本症切 除施行70例 を対象とし 、年齢、 性、肉眼 的所 見、隣接 組織臓器 浸潤及び 転移、組織 学的所見 (胚細.胞、原頭節、石灰小体、病巣石 灰化 、血管侵 襲、胆管 侵襲など の有無、病 巣辺縁部 の肉芽組織、炎症細胞浸潤の程度など)
と 病 巣 進 展 度 と の 関 係 、 そ れ ら と 血 清 多 包 虫 抗 体 価 と の 関 係 に つ い て 検 討 し た 。 病巣 辺縁部の 宿主側の 反応の程度は、光顕的に、軽度、中等度、高度の3段階に分類した。
切 除 肝は 、10% ホ ルマ リン液に て固定後 、病巣の 最大割面を 全割して パラフィ ン包埋標 本 を 作 製しHE染色 を 行い 、 血 管侵 襲 が疑 わ れ た例 で はビ ク ト リア ブ ル ―弾 性 線維 染色を 追 加し 観察した 。血清多 包虫抗体 価は、北海 道立衛生 研究所で 測定され た値を用 い、0.5以上 を陽 性とした 。検定は ぇ 検定 、Wilcoxan検定、及 びPearsonの相関 係数を用 い、p<0.05を もっ て有意差 ありとし た。
III.結 果
1) 年齢 、 性年 齢 は8〜71歳 で 、平 均 年齢 は48.7士16.6歳 であった 。性別は 、男性31例 、 女性39例で、男女比は1.:1.3であった。
2)肉眼的検討
(a)病巣の性状病巣割面の性状は、充実型が29例(41.4%)、嚢胞型が11例(15. 7?6)、充実嚢 胞型が30例(42.9?6)であった。
一b
(b)病巣 径と個数 病巣の最 大径は0 .8cm〜18cm、 平均径は6.2土3.7cmであった。病巣の個 数 は 単 発 が 38例 ( 54.3%) 、 多 発 が 32例 (45.7%) で 最 多 が 18個 で あ っ た 。 3) 血清 多 包虫 抗 体 価と 病 巣 最大 径 との 関 係 術前 血 清多 包 虫 抗体 価 は51例 で測 定 さ れ、
平均値は0.70土0.18(0.28〜1.03)であった。病巣最大径とは正の相関を示した(R:0.423,
4)隣接組織臓器浸潤隣接組織臓器浸潤は24例(34.3%)にみられ、肝門部11例(15.7:'6)、
下大静脈10例(14.3%)、横隔膜8例(11. 4:6)、後腹膜5例(7.1'X)、縦隔、大網がそれぞれ2例
(2.9%)、副腎1例(1.4%)であった。病巣径は、陽性例8.2cm、陰性例5.2cmで、陽性例が大き く 、血清多 包虫抗体 価は、陽性例0.82、陰性例0.65と、陽性例が高値を示した(p<0.05)。
5)転移同時性転移は11例(15. 7?6)にみられ、リンパ節7例(10:r6)、肺3例(4.3:6)、胸膜、
肝部下大静脈近傍の神経周囲がそれそれ1例(1. 4:6)であった。1例はりンパ節と肺に転移が みられた。
6)組織学的検討と病巣進展度との関係
(a)胚細 胞多包虫 胚細胞が 明瞭にみられたものは38例(54.3%)であった。陽性群では28.9 Xに 原 頭 節 が み ら れ た が 、 陰 性 群 で は 原 頭 節 は 認 め ら れ な か っ た (p<0.01) 。
(b)原頭節原頭節は11例(15.7'x)にみられた。原頭節陽性群の病巣径は9.3cmと陰性群の 5.6c|nに比し大きかった(p<0.05)。隣接組織臓器浸潤、転移の頻度もそれぞれ54.5f6、27.3 Xと 陰 性 群 に 比 べ 高 か っ た 。 陽 性 群 の 血 清 多 包 虫 抗 体 価 は0.79で や や 高 か っ た 。
(c)石灰小体多包虫嚢胞内にみられる石灰小体は17例(24. 3:6)に認められた。陽性群の病 巣径は8.8cmと 陰性群の5.3cmに比し大 きく、血 清多包虫抗 体価は0.78と 陰性群の0.67に比 べ高値を示した(p<0.05)。原頭節の出現頻度は陽性群52.926、陰性群3.8%と陽性群で高率で あった(p<o.01)。 b
(d)病巣の石灰化病巣の石灰化は47例(67.1X)に主に壊死部にみられた。陽性群の年齢は 45.9歳と陰性 群の54.5歳に 比し低く 、転移の 頻度は19.12;と陰性群の8.726より高かった。
(e)血管侵襲多包虫嚢胞の血管侵襲は11例(15. 7:6)にみられた。部位は、門脈5例、動脈3 例、静脈4例であっ た。1例は 門脈と動 脈の両方に みられた。病巣径は陽性群7.2cm、陰性群 6.Ocmで陽性群 がやや大 きかった 。陽性群 では2例(18.2%)にりンパ節に転移がみられた。
(f)胆管侵襲多包虫嚢胞の胆管侵襲は8例(11. 4:6)に認められた。胆管侵襲陽性群の病巣径 は9.lcmと陰性群の5.8cmに比し大きかった(p<0.05)。
(g)病巣周囲の肉芽組織、炎症細胞浸潤軽度なものは18例(25. 7:6)、中等度は27例(38.6%)、
高度は25例(35. 7:6)であった。病巣径は、軽度群4.5cm、中等度群5.6cm、高度群8.Ocmで、
高度群は 軽度群、 中等度群 に比べて 大きかった (p<0.05)。血 清多包虫 抗体価は 、軽度群 0.59、中等度 群0.73、高度 群0.75で、軽 度群は中 等度群、高 度群に比 べ低値を 示した(p<
0.05)。転移の頻度は程度が高度になるほど低い傾向がみられた。
IV. 考 察
エ キノコッ クス病巣 の発育は 嚢胞壁の 一部が外 側にむけて 突出し、 っぎっぎ と小嚢胞を 形 成し多房 化する。 多房化の 進展に伴 い外層に 角皮層が形 成され胚 層が厚み を増し、内部 に は成虫の 頭節に相 当する原頭節ができ幼虫病巣は完成する。胚細胞の有無では、病巣径、
転 移、隣接 組織臓器 浸潤の頻 度に差は なかった が、原頭節 は胚細胞 が明瞭な 例にのみみら れ た 。 こ の こ と か ら 、 胚 細 胞 の 有 無 は 包 虫 の 成 熟 度 を 反 映 し て い る と 考 え ら れ た 。 原 頭節陽性 群では病 巣径が有 意に大き く、隣接 組織臓器浸 潤、転移 の頻度も 高いことが 判 明した。 石灰小体 は胚層にみられ、実験的に原頭節を保護する働きがあるとされている。
陽 性群の病 巣径は有 意に大き く約半数 に原頭節 を認めたこ とより、 石灰小体 の存在は包虫 の 発育環境 が良好で あること を示して いると考 えられた。
血 管侵襲陽 性例のう ち2例にり ンバ節転 移がみら れたが、血行性転移との関係を証明する こ とはでき なかった 。宿主組 織反応の 程度では 、高度群は 軽度群、 中等度群 に比べ、病巣 径 が明らか に大であ った。こ のことよ ルヒトで は宿主の防 御組織反 応の程度 により、包虫 の 発育が規 定される 可能性は 低いと考 えられた 。
ELISA法 による多 包虫抗体 価は、包 虫の発育 環境が良 好である石灰小体陽性群で高値を、
宿 主組織反 応軽度群 で低値を 示し、病 巣径と正 の相関を示 した。こ のことよ り、病巣の進 展 に 伴 い 宿 主 側 の 免 疫 防 御 機 構 が 増 強 し て い く こ と が 示 唆 さ れ た 。
V.結 語
1. 胚 細 胞 は38例 (54.32G) に み ら れ 、 陽 性 群 に の み 原 頭 節 が 認 め られ た 。 2.原頭節は11例(15.7{x)にみられ、陽性群の病巣径は大きく、進行例が多かった。
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3.石灰小体は17例(24.3%)にみられ、陽性群では病巣径は大きく、約半数に原頭節が認め られた。
4.血管侵襲は11例(15.7 cX)、胆管侵襲は8例(11 .42;)に組織学的にみられた。
5. 宿 主 組 織 反応 が 高度 な 群は 、 軽度 群 、 中等 度 群に 比 べ病 巣 径が 大 きか っ た。
6.血清多包虫抗体価は、石灰小体陽性群で高値を示し、宿主組織反応軽度群で低値であり 病巣径と正の相関を示した。
学位論 文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
多胞 性肝エキノコックス注の臨床 病理学的検討
多 胞 性 肝 工 キ ノ コ ッ ク ス 症 は 、 発 育 は 緩 慢 で は あ る が 浸 潤 性 に 進 展 し 、 と き に 肺 、 脳 な ど へ 遠 隔 転 移 を き た す 寄 生 虫 症 で あ る 。 本 症 の 組 織 像 と 酵 素 免 疫定 量法 (ELISA)に よる 多 包 虫 抗 体 価 、 病 巣 進 展 度 と の 関 係 を 多 数 例 に つ い て 頻 度 的 に 検 討 し た 報 告 は な い 。 そ こ で 著 者 は 過 去 約10年 間 に 教 室 で 経 験 し た 本 症 の う ち 、 切 除 症 例 に つ い て 臨 床 病 理 学 的 に 検 討 し た 。1982年 か ら1992年 ま で に 教 室 で 治 療 し た 本 症81例 中 切 除 施 行70例 を 対 象 と し 、 年 齢 、 性 、 肉 眼 的 所 見 、 隣 接 組 織 臓 器 浸 潤 及 び 転 移 、 組 織 学 的 所 見 と 病 巣 進 展 度 と の 関 係 、 そ れ ら と 血 清 多 包 虫 抗 体 価 と の 関 係 に つ い て 検 討 し た 。 病 巣 辺 縁 部 の 宿 主 刪 の 反 応 の 程 度 は 、 光 顕 的 に 、 軽 度 、 中 等 度 、 高 度 の3段 階 に 分 類 し た 。 切 除 肝 は バ ラ フ ィ ン 包 埋 標 本 を 作 製 し HE染 色 を 行 い 、 血 管 侵 襲 が 疑 わ れ た 例 で は ビ ク ト リ ア ブ ル 一 弾 性 線 維 染 色 を 追 加 し 観 察 し た 。 血 清 多 包 虫 抗 体 価 は 、 北 海 道 立 衛 生 研 究 所 で 測 定 さ れ た 値 を 用 い 、0.5以 上 を 陽 性 と した。
結 果 : 年 齢 は8〜71歳 で 、 平 均 年 齢 は48.7土16.6歳 で あ っ た 。 性 別 は 、 男 性31例 、 女 性3 9例 で 、 男 女 比 は1:1.3で あ っ た 。 肉 眼 的 検 討 で は 、 病 巣 割 面 の 性 状 は 、 充 実 型 が29例 (41.
4X)、嚢胞型が1l例(15.7X)、充実嚢胞型が30例(42.9噐)であった。病巣が最大径は0.8cm‑‑
18cm、 平均 径は6.2土3.7cmで あっ た。 病巣 の個 数は 単発 が38例(54.3X)、多 発が3Z例(45.7 覧 ) で 最 多 が18個 で あ っ た 。 血 清 多 包 虫 抗 体 価 と 病 巣 最 大 径 と の 関 係 で は 、 術 前 血 清 多 包 虫 抗 体価 は51例で 測定 され 、平 均 値は0. 70土0.18(0.28〜1.03)で病巣最大径 とは正の相関を 示した(R=O. 423.p<0.01)。隣接組織臓器浸潤は24例(34.3X)にみられ、肝門部Il例(15.7X)、
下 大静 脈10例(14.3X)、 横隔膜8例(11. 4%】、後腹 膜5例(7.ltX)、縦隔、大網がそれぞれ2例
(2.9X)、 副腎1例 (1.4X) であ った 。病 巣径 は、 浸潤 が みら れた 辞8.2cm、み られない群5.2c mで 、 み ら れ た 群 が 大 き く 、 血 清 多 包 虫 抗 体 価 は 、 浸 潤 が み ら れ た 群0.82、 み ら れ な い 群0. 65と、 みら れた 群が 高値を 示した(p<0. 05)。同時性 転移はIl例(エ5.7X)にみ られ、リンバ節 7例(10:6)、肺3例(4.3%)、胸膜、肝部 下大静脈近傍の神経周囲がそれぞれ1例(1.4%)であっ た 。1例 は り ン パ 節 と 肺 に 転 移 が み ら れ た 。 組 織 学 的 検 討 と 病 巣 進 展 度 と の 関 係 で は 、 多 包 虫 胚細 胞が 明瞭 にみ られ たも の は38例(54. 376)で 、み ら れた 群で は28. 9:bに 原頭節が認めら れ たが 、み られ ない 群で は原 頭 節は 認め られ なか った (p<0.01)。 原頭 節は11例 (15. 7'X)にみ ら れ た 。 原 頭 節 が み ら れ た 群 の 病 巣 径 は9. 3cmと み ら れ な ぃ 辞の5.6cmに比 し大 きく (p<0.0 5) 、 隣 接 組 織 臓 器 浸 潤 、 転 移 の 頻 度も それ ぞれ54. 5%、27. 3'Xと みら れな い群 に比 ベ高 か っ た 。 原 頭 節 が み ら れ た 群 の 血 清 多 包 虫 抗 体 価 は0.79で や や 高 か っ た 。 多 包 虫 嚢 胞 内 に み ら れ る 石 灰 小 体 は17例 (24.3X) に 認 めら れ、 みら れた 群の 病巣 径は8.8cmとみ られ ない 群の5. 3cmに 比 し 大 き く 、 血 清 多 包 虫 抗 体 価 は0.78と み ら れ な い 群 の0.67に 比ベ 高値 を示 した (p<
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一郎 紀、 純和 知 野嶋 川 内長 皆 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
0. 05) 。原 頭節 の出 現頻 度は 石灰 小体 が みら れた群52. 9'X、みられな い群3.8'Xとみられた群 で高 率で あっ た(p<0. 01) 。病 巣の 石灰 化 は47例(67.lX) に主 に壊 死部 にみられ、みられた群 の 年 齢は45.9歳と みら れな い群 の54.5歳 に比 し 低く 、転 移の 頻度 は19. 1:1;と みら れな い群 の 8. 7%よ り高 かっ た。 多包 虫嚢 胞の 血管 侵襲 は11例 (15. 7X)に みら れ、 門 脈5例、 動脈3例、 静 脈4例 で あ っ た 。 病 巣 径 は 血 管 侵襲 がみ られ た 群7. 2cm、 みら れな ぃ群6.Ocmでみ られ た群 が や や 大 き く 、 み ら れ た 群 で は2例 (18.2X) に り ン パ 節 に 転移 を認 めた 。 多包 虫嚢 胞の 胆管 侵 襲 は8例 (11.4X) に 認 め ら れ 、 胆 管 侵 襲 が み ら れ た 群 の 病巣 径は9.lcmとみ られ ない 群の5.8 cmに 比 し 大 き か っ た (p〈0.05)。 病巣 周囲 の肉 芽組 織、 炎症 細胞 浸潤 の 程度 では 、軽 度な も のは18例(25.7X)、中等度は27例(38.6X)、高度は25例(35. 7%)であった。病巣径は、軽度群 4. 5cm、 中 等 度 群5.6cm、 高 度 群8.Ocmで 、 高 度 群 は 軽 度群 、中 等度 群 に比 べて 大き かっ た
(p〈0. 05) 。血 清多包虫抗体価は、軽度群0.59、中等度群0.73、高度群O.75で、軽度群は中 等 度 群、 高度 群に 比ベ 低値 を示 した (p〈0. 05) 。転 移の 頻度 は程 度が 高 度に なる ほど 低い 傾
概 ね 妥 当 な 回 答 を 行 っ た 。
本 研 究 で は 、 本 症 の 組 織 像 と 多 包 虫 抗 体 価 、 病 巣 進 展 度 と の 関 係 を 多 数 例 の 切 除 症 例 に つ い て 臨 床 病 理 学 的 に 明 ら か に し た 点 で 意 義 が あ り 、 博 士 ( 医 学 ) に 値 す る も の と考 える 。 関あ 切例 中と とが り移 巣ど 移 疑 お転 病な 転 質 てが
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