博 士 ( 医 学 ) 国 枝 保 幸
学 位 論 文 題 名
フ ィ ラ デ ル フ ィ ア 染 色 体 陽 性 急 性リ ン パ 性 白 血 病 に
関 す る 細 胞 生 物 学 的 お よ び 分 子 遺 伝 学 的 研 究
学位論文内容の要旨 I目 的
染色体転座t(9;22)(q 34;q11)により生じるフア ラデルフアア染色体(以下Phl)は,
慢性骨髄性自血病(以下CML)の約95%にみられる疾患特異性の高い染色体異常であるが,成 人急性リンパ性自血病( 以下ALL)の17〜25%の症例にも認められる。Phi染色体の分子遺伝 学的本態は,ABL遺伝子がBCR遺伝子と融合する結果, 強いチ口シンキナーゼ活性を獲得す ることがCML発症に重要と 考えられている。一方,Phi陽性ALLでは,その約半数の 症例の 切断点はCMLでみられる切 断部位(M‑bcr)の上流に生じ ていることが明らかにされている。
しか しPhl陽 性ALLとCML急性 転化 との 異同 に っいては,臨床病態 のみならず,細胞生物 学および分子遺伝学的に も不明の点が多い。本研究で はPhi陽性ALLの疾患特異性を明確に することを目的として,その細胞帰属,BCR遺伝子上の切断点,および白血化における活性化 癌原遺伝子,特にras遺伝子の関与にっき検討した。
H材料と方法
1.症例および培 養白血病細胞株の樹立:
北 大 第3内 科 でPhi陽性ALLと診 断 され た11症例および,そのう ちの2症例よりPhl陽性 ALL細 胞 株(TOM―1お よ びALL―MIK細 胞 株 ) を 樹 立 し , そ れ ら を 用 い て 検 討 し た 。 2. Phl陽性ALL細胞の細胞形質と免疫グロブ リン(Ig),T細胞受容体ロ 鎖(Tロ)の遺 伝子再構成の検討 :
Phl陽 性ALL11症例 およ びPhl陽 性ALL細 胞 株2株にっき,細胞化 学的検討と表面形質の 検 索 を 行 い ,Igお よ びTロ 再 構 成 の 有 無 は ,Southern blot法 に よ り 解 折 し た 。 3. Ph]陽性ALL細胞のin vitro分化能の検討 :
TOM―1,ALL―MIKの2細 胞 株 を 用 い 検 討 し た 。TPAlO〜lOOngを添 加し て培 養後 ,
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plastic dishに 対 す る 付 着 能 ・latex粒 子 の 貧 食 能 の 変 化 に っ き 検 討 し た 。 4. BCR遺伝子 の切断 点の同 定:
Phl陽性ALL9症例 および 細胞株2株にっき 検討し た。M‑bcr内での 再構成 の検出に は,
3 bcr probe,5 bcr probeを用い,BCR遺伝子第1イント口ン内での再構成の検出には,
BB―1お よびBB―2probeを 用 い て検 討した 。さら に細胞株 では,RT−PCR法 により 切断 点 を検討 した。
5.in vitro DNA transfection assay:
Phl陽 性ALL7症 例,細 胞株2株 にっき検 討した 。NIH3T3fibroblastを受容細胞として,
リ ン 酸 カ ル シ ウ ム 共 沈 澱 法 に よ り 高 分 子 DNA導 入 し て 検 討 し た 。 6. PCRと 合 成oligonucleotideに よ るras遺 伝 子 の 点 突 然 変 異 検 出 法 : Phl陽性ALL5症 例 , 細 胞株2株 に っき検 討し,Phl陰性ALL15症 例の解 析結果 と比較 検 討した。N ‑ras,Ha‑ ras,Ki ‑ rasの第1.第2工クソンを増幅し得るprim erとcodon12, 13,61の 点 突 然 変 異 を 検 出 し 得 るprobeを 合 成 し , 点 突 然 変 異 の 検 出 を 行 っ た 。
m結 果
1. Ph[陽性ALLにおける細胞形質にっいて:
11症例中2例は,hybridの形質を示した。リンパ芽球および骨髄芽球の増殖を示すhybrid lineage leukemiaのIg重鎖遺伝子の再構成を検討したところ,両対立遺伝子の再構成を示し た。
2. Phl陽性ALL細胞のin vitro分化能にっいて:
TOM―1細 胞 とALL−MIK細 胞 を用 い ,TPA添加 に よ るin vLtroに おける分 化能を 検討 したと ころ,plastic dishに対する付着能.latex粒子の貧食能を獲得した。d−naphthyl butvlate esterase染色陽性となったことより,monocyteへの分化能を保持することが示唆さ れた。
3. Phl陽性ALLにおけるBく'R遺伝子の切断点にっいて:
Phl陽 性ALL9症 例 の う ち4例の 白 血 病 細胞 で はM‑bcr内 で の 切断 が 確 認 され た 。 さ らにBB―lprobe,BB亠2probeに よ り1例 ずつ 再 構 成 が認 めら れ,BCR遺 伝子第1イント 口ンでの切断と考えられたが,残りの3症例では,いずれのprobeでも切断点は同定し得なかっ た。
さらにALL一MIK細 胞株お よび,Southern blot法で は切断 点を同 定し得なかったTOM−
1細胞 株 に っ いて ,RT―PCRに よ り その 切 断 部 位を 検 討 し たとこ ろ,ALL―MIK,TOMー 1いずれの細胞株でもP190be…‖ mRNAが確認された。
4. Ph]陽性ALLにおける活性化癌原遺伝子の関与にっいて:
in vitro DNA transfection assayの検討では,活性化癌原遺伝子は検出し得なかった。
PCRに よ るras遺 伝 子 の 点突 然 変 異検 出では ,Phi陽性ALL15症例中3例にras遺伝子 の点 突 然変異 が検出さ れたが ,Phi陽性ALL症例5例および細胞株2株のいずれでも,点突然変異 は検出されなかった。
IV考 案
Phi陽性ALLの細胞形質の検討では,pre−B細胞より未分化な段階での白血化と考えられ,
9例中2例 がhybridの形 質 を 示 した 。そ こでbiclonalの増殖 を示し たPhi陽性ALL症例の Ig重鎖遺伝子の再構成を検索したところ,両対立遺伝子の再構成を示したことから,同症例の lymphoidとmyeloidの特徴を有する白血病細胞は共通の前駆細胞に由来することが示唆され た 。 さ らにTOM―1細 胞 とALL―MIK細胞株 の検討 で,monocyteへの分 化能を 有して いる こ とより ,Phi陽性ALLにおける細胞起源はpre―B細胞段階での白血化のみならず,mono・ cyteへ の 分 化 能を 保 持 す るmultipotent stem cellで あ る 可能性 が強く 示唆さ れた。
Ph]陽性ALLのBCR遺伝子 上の切断 点の検 討では ,9症例 中3例はSouthernblot法 では,
切 断部位が同定し得なかったことから,6cr一2,6cr―3以外での切断が示唆された。TOMー 1細胞 はSouthernblotで はBCR遺 伝子 上 の 切 断点 は 不 明 であ った が,RT―PCRによる 検 討でP190゜cr― 6´mRNAが検出され,その切断点はBく珊遺伝子第1イントロン内に存在して い る と 考え られた 。M―6cr非再構成Phl陽性ALL症例に おけるBCR遺伝子 上の切 断点は , その第1イン卜ロンにあることを支持した。
Phl陽 性ALLの 自血化に 関与し ている と考え られる癌原遺伝子をfnUf£roDNAtransfec. tionassayにより検討したが,検出し得なかった。またPCRとoligonucleotideを用いた門口s 遺 伝子の 点突然変 異検出 法によ る検討 では,Ph|陰性ALLの一部の症例で自血病性増殖に ros遺伝子の点突然変異による活性化の関与が示唆されたが,Phl陽性ALLでは同様の関与は 否定的であった。
V結 語
1. Phi陽 性ALLはlymphoidとmyeloidのhybridの 形 質を 示 す 症 例が あ り,Phi陽性
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ALL細 胞tまTPA添 加 によ りmonocyteへ の 分化 能を 有す るこ と から ,Phi陽 性ALLで はそ の細 胞 起源 はmultipotent stem cellの 可能 性が 示唆 さ れた 。
2. Phl陽 性ALLに お け るBCR遺 伝 子 上 の切 断 点は ,大 部分 の症 例 ではM‑bcrお よび BCR遺伝 子第1イ ント 口ン 内のbcrー2,bcr―3に存在するが, 一部の症例ではそれ以外の 部位 の 切断 点が 存在 する こ とが 示唆 され た 。
3.Pht陽性ALLの自血化におけ る遺伝子学的機序は,bcr ‑abl遺伝子以外の癌原遺伝子 の 関 与 に っ い て は 不 明 で あ り , 今 後 の 検 討 課 題 と 考 え ら れ た 。
学位論文審査の要旨
I研究目的
相互転座により生じるPhi染色体は,慢性骨髄性自血病(CML)にみられる疾患特異性の高 い染色体異常であるが,成人 急性リンパ性自血病(ALL)の20%にも認められる。Phi染色体 の本態tま,ABL遺伝子がBCR遺伝子と融合することにより,強いチ口シンキナーゼを獲得す ると考えられている。一方,Phi陽性ALLでは,その約半 数の症例の切断点は,CMLで みら れ る 切 断 部 位(M‑bcr)の上 流に 生じ てい る 。し かしPhl陽性ALLとCML急 性転 化と の異 同にっいては,臨床病態のみならず,細胞生物学および分子遺伝学的にも不明の点が多い。本研 究ではPhi陽性ALLの疾患特異 性を明確にすることを目的 として,その細胞帰属,BCR遺伝 子上の切断点および自血化における活性化癌原遺伝子,特にras遺伝子の関与にっき検討した。
u材料と方法
1. 症例 お よび 培養 自血病 細胞株の樹立:北大第3内科 でPhi陽性ALLと診断された11症 例 。 そ の う ち の2症 例 よ りPhi陽 性ALL細 胞 株 (TOMOl細 胞 株 ,ALL一MIK細 胞 株 ) を 樹立し,それらを用いて検討した。
2. Phi陽 性ALL細 胞の 細胞 形質 の検 討 :Phi陽性ALL11例,細胞株2株の細胞化学 的検
保 暹
明
光
崎 巻
沼
宮 葛
柿
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
討と表面形質とを検索した。免疫グロブリン(Ig),T細胞受容体ロ鎖(TCR ‑ロ)遺伝子再構 成をSouthern blotで解析した。
3. Ph]陽性ALL細胞のin vitro分化 能の検討 :2細胞 株を用 い検討 した。TPA(12―O
←tetradecanoylphorbol―13―acetate) 10〜100ngを添加し培養後,細胞形質の変化にっき検 討した。
4. BCR遺 伝 子の 切 断 点 の同 定:Phl陽性ALL9例 ,細胞 株2株をSouthern blotで検 討 し た 。M‑bcr内 の再構 成の検 出は,3 bcr, ̄5 bcr probeを 用い,BCR遺伝子 第1イン ト 口ン内 の検出 は,BB−1,BB亠2probeを用い 、た。さ らに細 胞株では,RT−PCR法によ り切断点を検討した。
5. in vitro DNA transfection assay: Phi陽 性ALL7症 例,細 胞株2株を検討した。
NIH3T3fibroblastを受 容細胞と し,リ ン酸カ ルシウ ム共沈 澱法に より高 分子DNAを 導入 して検討した。
6. PCRに よ るras遺 伝 子 の点 突 然 変 異検 出 法 :Phl陽性ALL5例 ,細胞 株2株,Phi陰 性ALL15例 に っ き 検討 し た 。N‑ras,Ha‑ras,Ki‑rasの 第1, 第2工 クソ ン を 増 幅し得 るprimerと ,codon12; 13,61の 点突然 変異を 検出し 得るprobeを 合成し て検討 した。
m結 果
1. Phi陽性ALL11症例 中9例 の 細 胞形 質 は ,common ALLで , 全 例IgH鎖 遺 伝 子の 再 構成を認めたが,L鎖遺伝子の再構成は認められなかった。
2,11症 例中2例 はhybrid leukemiaで,リン パ芽球および骨髄芽球の増殖を示すhybrid 症例のIgH鎖遺伝子は,両対立遺伝子の再構成を示し,胚細胞型のバンドは認められなかった。
3. Phi陽 性ALL細 胞 株(TOM―1,ALL―MIK)は ,TPA添 加 に よ りplastic dishに 対する付着能とlatex粒子の貧食能とを獲得した。
4. Southern blotの検討 では,Phi陽性ALL9症例中4例ではMーbcr内での切断が確認 さ れ, さら にBB―lprobe,BB−2probeに より1例 ずつ再 構成が 認めら れた。 しかし ,残 りの3症例では,切断点は不明であった。
5. RT一PCRの 検討 に よ り ,Southern blot法 で は 切断 点 が 不 明なTOM一1細 胞で , P 190'…‖ごmRNAが確認された。
6. Phi陽性ALLにおける活性化癌原遺伝子の関与にっいて,in vitro DNA transfection assayにより検討したが検出されなかった。
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7. PCRに よ るras遺 伝 子 の 点 突 然 変 異 検 出 で はPhl陰 性ALLの20% に 点突 然 変 異 が 検 出 さ れ た が ,Phl陽 性ALLで は 検 出 さ れ な か っ た 。
IV考 案 な ら び に 結 語
1. Ph[陽 性ALLの 細 胞 形 質 の 検 討 では ,pre―B細 胞 段 階で の 自 血 化 と 考え ら れ た が ,11 例 中2例 はhybridの 形 質 を 示 し た 。
2. リ ンパ 芽 球 と 骨 髄芽 球 の 増 殖 を 示し たhybrid leukemiaのIgH鎖 遺 伝 子 の検 討 に よ り , 両 芽 球 は 共 通 の 前 駆 細 胞 に 由 来 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。
3. 一 部 のPhi陽 性ALL細 胞 は ,monocyteへ の 分 化 能 を 有 し て お り , そ の 細 胞 起 源 は , multipotent stem cellで あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。
4. Phl陽 性ALL9症 例 のBCR遺 伝 子 の 切 断 点 の 検 討 で ,3例 で は 切 断 部 位 の 同 定 は し 得 ず ,M‑bcr,bcr―2,bcr一3以 外 で の 切 断 が 示 唆 さ れ た 。
5.Southern blotでBCR遺 伝 子 上 の 切 断 点 不 明 なTOM一1細 胞 で ,RT一PCRに よ り P190゜ … ロ 。 ´mRNAが 検 出 さ れ ,M‑bcr非 再 構 成Ph| 陽 性ALL症 例 の 切 断 点 はBく'R遺 伝 子 第1イ ン ト ロ ン に あ る こ と が 支 持 さ れ た 。
6.in vitro DNA transfection assayで はPhl陽 性ALLに お け るbcr ‑abl以 外 の 癌遺 伝 子 の 関 与 は 不 明 で あ っ た 。
7. Phi陽 性ALL自 血 化 にお い て ,ras遺 伝 子 の 点突 然 変 異 に よる 活 性 化 の 関与 は 否 定 的 で あ っ た 。
以上 によ り,本 研究は 博士( 医学)の学位論文として妥当なものと判断される。