国際農業経済論
貿易と環境問題
•
環境政策は、競争政策や労働基準とともに、貿易に影響を及ぼす国 内政策。(越境的な問題に対しては、国境政策が必要な場合あり)•
貿易・貿易政策は生産・消費の変化を通して環境に影響を及ぼす•
一国の環境政策は、貿易を通して他国に影響を及ぼす貿易と環境問題
• WTO
の基本理念は、自由貿易を通して相互に便益を享受すること•
環境保護派の理念に親和的ではない側面もある。•
第20
条で「人、動物又は植物の生命又は健康の保護のために必要 な措置」として貿易制限措置を例外的に認めている。•
無差別主義の原則•
必要以上に貿易制限的であってはならない。貿易と環境問題
•
環境保護派は自由貿易が環境基準を緩和させると考えるのに対し、自由 貿易推進派は環境基準が国際競争を妨げると考えている• Anderson(1992)
は、農産物貿易自由化は環境負荷水準(
肥料・農薬の投入量
)
を引き下げると主張する。肥料や農薬を多投している国は貿易自由 化で農業生産を減少させるからである。でも、農業には多面的機能(正の 外部性)もある。•
農業の負の外部性:地下水汚染、地下水枯渇、土壌浸食、塩類累積、温 室効果ガス排出、・・・•
農業の正の外部性(
多面的機能)
:景観形成、国土保全(
水資源の涵養、洪水防止、土壌浸食の防止、・・・
)
、再生可能な天然資源の持続可能な 維持、生物多様性の保全、・・・貿易と環境問題
•
貿易自由化:環境負荷の小さな技術が低コストで「輸入」できる可能性が あり、海外との競争により、効率的な技術の導入インセンティブの向上 経済成長の促進、環境改善の促進 ・・・プラスの影響•
貿易自由化:所得の向上 「環境」は上級財なので、環境改善・・・プラス(環境逆
U
字仮説 所得の向上は環境を悪化させる場合もある)•
貿易自由化:生産効率は向上するが、財の貿易は拡大 輸送の増大に伴 う汚染物質の排出量の増大・・・マイナスの影響•
貿易自由化は環境に良いのか悪いのか?•
関税削減のもとで、貿易政策以外の政策が関税の代替として使われる懸 念がある(TBT
、SPS
、環境)
が、問題は?•
環境保護に貿易政策を使うことの是非?貿易と環境
(
外部性)
に関する経済分析•
外部性の復習• PMC:
私的限界費用• SMC
:社会的限界費用•
外部性の内部化(
課税・補助金)
PMC SMC
D
汚染除去の限界費用 EP ES
貿易と環境
(
外部性)
に関する経済分析•
貿易と外部性:小国の輸入•
貿易自由化のメリットは?•
外部性を内部化していない場合•
外部性を内部化している場合•
何れの場合も余剰は増加PMC SMC
D EP
ES
Pw
Q C Q1
Q2
貿易と環境
(
外部性)
に関する経済分析• 貿易と外部性:小国の輸出
• 自由貿易のメリットは?
• 外部性を内部化していない場合
• 外部性を内部化している場合
• 内部化していない場合、余剰の正負は 判断できないが、内部化していれば 余剰は正
PMC SMC
D Pw
C Q2 Q Q1
貿易と環境
(
外部性)
に関する経済分析•
貿易と外部性:小国の輸出•
貿易自由化後の外部性への対処•
輸出税で外部性に対応する場合•
外部性の内部化で対応する場合•
輸出税は内部化に劣るPMC SMC
D Pw
C C1 Q2 Q1
貿易と環境
(
外部性)
に関する経済分析•
貿易と外部性:小国の輸出•
貿易自由化後の外部性への対処•
最適な輸出税は?•
追加的な便益=追加的な費用PMC SMC
D Pw
C C1 Q2 Q1
国際基準の経済分析
•
ワシントン条約:絶滅危惧種の野生動植物の国際取引に関する条約•
象牙の輸出禁止:生息数の少ない国vs
生息数の多い国•
ケニア・ウガンダ ボツワナ・南アフリカ•
一律規制は非効率的?国際基準の経済分析
• SMCD
:ダメージの社会的限界費用• MCA
:ダメージ緩和の限界費用SMCD
MCA
ダメージ
国際基準の経済分析
•
第1国と第2国に資源の差などが ある場合•
統一の基準(Dh)
を設けるよりも、個々の情況に応じて基準を設定す る方が効率的な場合もある
SMCD1
MCA1
ダメージ SMCD2
MCA2
D1 Dh D2
貿易と環境の対立を解決するための原則
•
貿易問題の解決には貿易政策を、環境問題の解決には環境政策を 用いるべき。公害問題には輸入制限措置を用いず、公害に対する 直接税を採用すべき。•
貿易政策は、環境問題に対して中立的で、貿易制限を削減すること を目的とすべき。•
環境政策は、貿易問題に対して中立的で、環境問題の緩和を目的 とすべき。•
直接税は、徴税コストが大きい場合もある。まとめ
• WTO
の基本理念は、自由貿易を通して相互に便益を享受することな ので、環境保護派の理念に親和的ではない側面もあるが、第20
条 で「人、動物又は植物の生命又は健康の保護のために必要な措置」として例外的に貿易制限的措置を認めている。
•
環境問題に関する経済理論:環境問題解決のための最適政策は、環境問題から生ずる外部性に直接介入することである。貿易政策を 使って間接的に介入するのは効率的ではない。
•
国際基準については、被害の社会的限界費用と緩和の限界費用に 応じて国ごとに基準を設定する方が良い場合もある•
環境問題を扱う国際機関を創設するのが良いのかもしれないが、各 国が合意するかどうかは疑わしい気候変動対策と国境措置
•
気候変動対策・・・国際社会共通の重要課題• 1992
年「気候変動に関する国際連合枠組条約」• 1997
年「京都議定書」2005
年に発効• 2015
年「パリ協定」•
先進国と途上国で「共通だが差違のある責任」が原則•
温室効果ガスの排出削減・・・大きな経済的負担•
先進国:途上国からの輸入品に対して課徴金を賦課すべき•
「カーボン・リーケージ」問題への対処気候変動対策と国境措置
•
温室効果ガスの排出削減義務を負わず、または削減義務が不十分 な国からの輸入品に対し、税・賦課金その他何らかの義務を課す国 境措置の必要性•
国境炭素税・・・輸入品の生産時に排出された温室効果ガスに対す る金銭的負担•
輸入時の温室効果ガスの排出権提出義務づけ・・・環境負荷の高い 業種で生産される財の輸入時に、輸入国内産業の温室効果ガス削 減のコスト負担との均衡を考慮した量の排出権の提出を義務づける 制度•
国内対策の対象となる産品と同等の負担を輸入品に求めるもの気候変動対策と国境措置
•
対立の構図•
賛成派:地球的規模の排出削減を目指す上で、大排出国が削減義 務を拒否続けるなら、国境措置も辞さない。•
慎重派:WTO
ルールとの関係が明確ではない、保護主義的な措置と 見なされる危険性から、導入に反対、または慎重な検討を求める。•
反対派:措置の受け手となる途上国・新興国は、自国製品の輸出の 支障となるので反対。気候変動対策と国境措置
•
国境税調整 国境を越えて取引される商品について、各国の内国 税の差異を調整する措置•
輸入国境税調整2
条2
項3
条2
項•
輸出国境税調整6
条4
項、16
条注釈•
輸入国境税調整は「当該輸入産品の全部もしくは一部がそれから 製造(
生産)
されている物品」に課すものであり、産品そのものか、産 品の原材料、部品を対象とすることを想定。国境炭素税を「CO2
」に 対する課税と解釈すると、輸入国境調整にあたらない可能性がある気候変動対策と国境措置
•
温室効果ガスの排出権提出義務づけ•
「関税その他の賦課金以外の禁止・制限」11
条 何らかの正当性が必要。排出権提出が「関税その他の賦課金」とみなせば問題はない
•
「国内規制の輸入産品への適用」3
条4
項海外産品にのみ適用される国境措置ではなく、国内規制の一環と 捉えれば、海外産品に対して、国産品より不利でない待遇を与えなけ ればならない。多くの温室効果ガスを排出して製造された鉄と殆ど温 室 効果ガスを排出せずに製造された鉄を「同種の産品」と判断でき るかどうかが問題
貿易と環境
(
外部性)
に関する経済分析•
貿易と外部性:小国の輸入•
貿易自由化のメリットは?•
外部性を内部化していない場合•
外部性を内部化している場合•
何れの場合も余剰は増加PMC SMC
D EP
ES
Pw
Q C Q1
Q2
貿易と環境
(
外部性)
に関する経済分析• 貿易と外部性:小国の輸出
• 自由貿易のメリットは?
• 外部性を内部化していない場合
• 外部性を内部化している場合
• 内部化していない場合、余剰の正負は 判断できないが、内部化していれば 余剰は正
PMC SMC
D Pw
C Q2 Q Q1
貿易と環境
(
外部性)
に関する経済分析•
貿易と外部性:小国の輸出•
貿易自由化後の外部性への対処•
輸出税で外部性に対応する場合•
外部性の内部化で対応する場合•
輸出税は内部化に劣るPMC SMC
D Pw
C C1 Q2 Q1
貿易と環境
(
外部性)
に関する経済分析•
貿易と外部性:小国の輸出•
貿易自由化後の外部性への対処•
最適な輸出税は?•
追加的な便益=追加的な費用PMC SMC
D Pw
C C1 Q2 Q1