博 士 ( 医 学 ) 小 野 寺 雅 史
学 位 論 文 題 名
レ チ ノ イ ン 酸 受 容 体 RAR ロ の 過 剰 発 現 に よ る マ ウ ス 正 常 骨 髄 細 胞 の 分 化 に あ た え る 影 響
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
活 性 化 ピ タ ミ ンAで あ る レ チ ノ イ ン 酸 (RA) は 細 胞 の 増 殖 , 分 化 に 対 しRA 特 異 的 な 核 内 受 容 体 を 介 し て 幅 広 い 生 物 学 的 活 性 を 発 揮 す る 。 現 在 ま で に RAの 核 内 受 容 体 と し てRAR群 (‑a, − ロ , ― ア ) とRXR群 が 同 定 さ れ て いる 。 血 液 細 胞 の 分 化 に お い て も RAお よ びRARaの 影 響 が 注 目 さ れ て い る 。 例 え ば 前 骨 髄 球 性 自 血 病 細 胞 株IILー60に 対 す るRAのRARaを 直 接 介 し た 分 化 脱 癌 作 用 や , 大 多 数 の 急 性 前 骨 髄 性 自 血 病 (APL) の 患 者 がRARロ 遺 伝 子 を 含 む 染 色 体 異 常 を 示 す こ と や ,all‑trans RAがAPLの 自 血 病 細 胞 を 最 終 的 な 成 熟 細 胞 へ と 分 化 誘 導 す る こ と な ど が あ げ ら れ る 。 し か し , そ の 正 確 な 作 用 機 序 に つ い て は 不 明 な 点 が 多 く 、RAお よ びRARaの 正 常 骨 髄 細 胞 の 分 化 に 対 す る 影 響 をinレ itroで 解 析 し た 報 告 は な い 。 本 研 究 で は マ ウ ス 正 常 骨 髄 細 胞 の 分 化 に お け るRAお よ びRARaの 影 響 を 解 析 す る た め に , レ ト ロ ウ イ ル ス ベ ク タ ー を 用 い て , マ ウ ス 正 常 骨 髄 細 胞 に ヒ トRARa(hRARa) の 遺 伝 子 を 導 入 し , ス ト ロ ー マ 細 胞 株 (PA6ーneo) 上 で , 薬 剤 耐 性 マ ー カ ー
(Neo ) に て 感 染 細 胞 を 選 別 し , そ の 感 染 細 胞 の 動 態 を す べ てjロvi troの 系で解析 ,検討し た。
[ 材 料 と 方 法 ]hRARacDNAを レ ト ロ ウ イ ル ス ベ ク タ ー (pM5neo) に 組 み 込 み り コ ン ピ ナ ン ト レ ト ロ ウ イ ル ス ペ ク タ ー pM5neoRARaを 作 成 し た 。pM5neo お よ びpM5neoRARaをpackaging細 胞 株 あ る 砂CREに り ン 酸 カ ル シ ュ ウ ム 法 に て 導 入 し , 高 カ 価 を 示 し た ウ イ ル ス 産 生 細 胞 株 を 樹 立 し た 。 各 々 を 砂control(ウイ ルスカ価 4x10sC FL1/ml),リRARa(8xlOsCFし/ml)とした。
血 液 幹 細 胞 群 と し て 約8週 令 のC57BL/6マ ウ ス よ り 正 常 骨 髄 細 胞 を 採 取 し , lineage marker( 抗Mac―1抗 体 , 抗B220抗 体 , 抗 赤 血 球 抗 体 , 抗CD4,CD8抗 体) および抗c−kit抗体(ACK4)にて染色 し,lineageー/c−kit+細胞群を 分取し た 。2Gyの 放 射 線 照 射 し た ウ イ ル ス 産 生 細 胞 株 上 で 血 液 幹 細 胞 群 を ポ リ ブ レン (5ロg/ml), リ コ ンピ ナ ントIL3(50U/ml) お よびstem cell factor(SCF 100ng/ml) の 存 在 下 で 一 昼 夜 共 培 養 し た 。 培 養2日 目 に ス ト ロ ー マ 細 胞 株 で あるPA6−neoを 加 え,4日 目 にG418(250皿g/ml)およ びSCF(100ng/ml) を合む 培 養 液 に 交 換 し た 。G418の 存 在 下 で12日 か ら14日 間 培 養 し , 生 存 細 胞 を ウ
イルス感染細胞として,その動態を解析,検討した。
[結 果 ]1 . マウ ス 正常 骨 髄細 胞 へ のウ イ ルス 感 染実 験 :マ ウ ス正 常骨髄 細胞 にり control ウ イルスを感 染させ,PA6 − neo 上で長期培 養を行った とこ ろ, G418 存 在下 で 20 日 かぢ 40 日 間 生存が可 能であった 。ウイルス 感染操作 を行 っ てい な い骨 髄 細胞 は G 418 存 在下でほ ぼ7 日目 で全て死滅 した。ウイ ル ス 感 染 細 胞 の Neo 遺 伝 子 の 発 現 を Northern blot 法 に て 確 認 し た 。 また,培養系に IL7 (200U/ml )を加えることにより,ウイルス感染細胞からの B 細 胞 の出 現 を抗 B220 抗 体を 用 いた フ ロー サ イト メ 卜リ ー に て確 認し た。
2 . マ ウス 正 常骨 髄 細胞 へ のり RARa ウ イル ス 感染 実 験: マ ウ ス正 常骨 髄細 胞 に 砂 RARa ウ イ ル ス を 感 染 さ せ , そ の 発 現 を Northern blot 法 に て確 認 した 。M ― G 染色に よる形態学 的検索では 砂 control 感染 細胞は大部 分が成熟 し た 顆 粒 球 で あ る の に 対 し , 砂RARa 感 染 細胞 で は細 胞 質内 に 微細 な 顆粒 を認 め ,核 が 粗で あ る前 骨 髄球 様 の細胞を 多数を認め た。これら の細胞は MPO 染色 が 陽性 で あ った 。 感染 細 胞の 表 面抗 原 を ACK4 と Macl で展 開 すると り RARa 感 染 細 胞 で は c ー kit 陽 性細 胞 の頻 度 が 増加 し てい た 。両 培 養系 に お け る マ ク ロ フ ア ー ジ の 数 , そ の 形 態 に 変 化 を 認 め な か っ た 。 培養12 日目頃 の骨髄培養系にRA (10 ― 6M )を加えたところ,砂control 感染細 胞 で は 細 胞 数 や 形 態 学 的 に 変 化を 認 めな か った が , 砂 RARa 感 染細 胞 では 細胞 数 が激 減 し, 感 染細 胞 は成 熟 顆粒球へ と分化する 傾向を示し た。この こと確かめるために, G 418 存在下培養12 日目の感染細胞を用い,RA (10 ー6M ) の有 無 でIL3 コ ロ ニ ーア ッ セイ を 行った。 砂control 感染 細胞におけ るコロ ニ ー 数 は RA の 存 在 下 で 若 干 の増 加 を 認め た が, 砂 RARa 感 染 細 胞で は 著明 に RA 存在 下 でそ の コロ ニ ー 数を 低 下させた。 また,各々 のコロニー を独立 に回収し, M ― G 染色を行 いその内訳 を解析した 。両感染細胞の顆粒球系,単 球系 コ ロニ ー の出 現 頻度 に 著明 な 差を認め ないが,顆 粒球系コロ ニーを構 成す る 細胞 が 砂 control 感 染 細胞 で は成 熟 し た顆 粒 球が 大 部分 を 占めるの に対 し ,砂 RARa 感 染細 胞 では そ の構 成細胞が未 熟な細胞で 占められ, 成熟 し た 顆 粒 球 が 極 端 に 減 少 し て いた 。 さら に RA 存 在 下で そ の傾 向 が緩 和 さ れ, 顆 粒球 系 コロ ニ ーに 多 数の 成 熟顆粒球 を認めた。 単球系のコ ロニーで は構成する細胞に変化を認めなかった。
[考 案 ]本 研 究で は レ卜 ロ ウイ ル スベクタ ーを用いた 遺伝子導入 法とマウ
ス長 期 骨髄 培 養法 を 併用 す るこ と で,遺伝 子導入率が きわめて低 いとされ
てい る 血液 細 胞に 外 来遺 伝 子を 導 入し,薬 剤耐性マー カーを用い てス卜ロ
ーマ細胞株 上でウイル ス感染細胞 を選択し, その動態をすべてj ロレi‑tro の
系で 解 析す る こと が でき た 。ウ イ ルス感染 細胞が IL7 の存在下で B 細胞 へも
分化 し たこ と から , ウイ ル ス感 染 は非常に 未熟誼細胞 にも可能で あり,感
染自 体 によ っ ても 細 胞の 増 殖, 分 化に多大 な影響を与 えないこと が分かっ
た。 本 研究 に おけ る 血液 細 胞へ の 外来遺伝 子導入法は 正常骨髄細 胞の分化
に関わる遺伝子の解析には非常に有用な系を思われた。
本研 究ではこの系を用いて RARa の正常骨髄細胞に対する影響をf ロ ¥‑itro で解 析した。 hRARa を過剰に発現したマウス骨髄細胞は顆粒球系の分化過 程が未熟な段階(前骨髄球)で抑制されていた。さらにその抑制傾向は高 濃度のRA の投与により回復し,未熟な細胞は最終的には成熟顎粒球へと分 化し た。長期骨髄培養および IL3 コロニーにおけるマクロフアージの動態 に変 化を認めないこ とから, RARa は顆粒球系の分化に対して重要な役割 を演 じていることが 示唆された。 RARa の過剰発現が顆粒球系の分化過程 を未 熟な段階で抑制 したことに関 しては下記のように推論した。RARQ は RA と結合 することで活 性化され,二 量体を形成し,転写因子として標的 遺 伝子の転写 調節領域内に あるRAR 反応配列に 直接結合し, その発現を 誘 導する。し かし, RARa が転写因 子として作用 するためには RXR と 結合 し て,RARa / RXR の二量 体を形成するこ とが重要であ り,RARa / RARa の 二量体ではRAR 反応配列に結合できず,標的遺伝子の発現を誘導できない。
RARQ を過剰 に発現している 骨髄細胞では RA が結合したRARQ のほとんどは RARa / RARa の二量 体を形成し,顆 粒球系の分化に必須な遺伝子の発現を 誘 導 す る RARa/RXR の 二 量 体 を 形 成 で き な い こ と と な る 。 そこに10 −6M という生理的濃度の約103 倍高濃度のRA を投与することにより 比率 的には低い諡がらもRARa / RXR が形成され,転写因子として作用し,
顆 粒球 系 の分 化 に必 須 な遺 伝 子の 発現を 誘導し,骨髄細 胞は最終的な 成熟 顆粒球へと分化 したと考えら れた。今後は正常骨髄細胞内でRARa と RXR が実際に二量体を形成しているのか,さらにはこの二量体が誘導する 遺伝子を解明することで血液細胞の分化の機構がより一層明確にされると 思われた。
[結語]
1 )レトロウイルスベクターによる遺伝子導入法と長期骨髄培養法の併用 により,マウス正常骨髄細胞に外来遺伝子を導入し,ウイルス感染細 胞 を 長 期 に j ロ vitro の 系 で 解 析 す る こ と が で き た 。 2)hRARQ を過剰に発現したマウス骨髄細胞はその顆粒球系の分化過程を 未熟な段階で抑制される傾向にあり,高濃度の RA の投与によりその抑 制傾向が緩和される傾向にあった。
3 )マクロフアージ系に変化を認めないことから,RAR ばは羃賈粒球系細胞 の 分 化 に 対 し て 重 要 な 役 割 を 演 じ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。
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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主 査 教 授 松
副 査 教 授 西 副 査 教 授 葛
太
巻
学 位 論 文 題 名
脩 三 信 三 暹
レ チ ノ イ ン 酸 受 容 体 RARa の 過 剰 発 現 に よ る マ ウ ス 正 常 骨 髄 細 胞 の 分 化 に あ た える 影響
活陸 化 ピ タミ ンAであ る レチノ イン酸(RA)は、RA特 異的な核 内受容 体(RAR)を 介 し て 幅広 い 生 物学 的 活 陸を 有する ことが 知られて いる。 近年、白 血病細 胞の遺伝 子 解 析か ら 、 血液 細 胞 の分 化に対 してもRARaが重要 な影響を およぼす ことが 知ら れ て きた 。 し かし 、 そ の作 用機序 に関し てはいま だ不明 な点が多 く、現 在各方面 か ら 種々 の 解 析カ 垳 わ れて いる。 本研究 ではまず レトロ ウイルス ベクタ ーによる 遺 伝 子導 ス 法 とマ ウ ス 長期 骨髄培 養法を 併用する ことで 、遺伝子 導入率 がきわめ て 低 いと さ れ てい る 正 常血 液細胞 に外来 遺伝子を 導入し 、ストロ ーマ紐 胞株上で 薬斉晞す陸マーカー(Neo )を用いてウイルス感染縄皰を選択し、その動態をすべて i凡vitroで 解 析 でき る 系 を確立 した。 次にこの 実験系 を用いる ことで マウス正 常 骨 髄 細胞 に ヒ トRARacDNA(hRARa)を導 入し、そ の感染 細胞の動 態を解 析するこ と で 、 血 液 細 胞 の 分 化 に 対 す る RAお よ び RARQの 影 響 を 検 討 し た 。 ウ イルス感 染によ りNeo 遺伝子 を獲得し た骨髄細 胞はneomycinの アナロ ーグで あ るG418存在 下 で も長 期 骨髄 培養が 可能であ り、IL7の添加 によりB細胞 へも分化 することが可能であった。このことはレトロウイルス感染がジ賄ぎに未熟な糸日靤に も 可 能で あ り 、感 染 自 体に よって も細胞 の増殖、 分化に 多大な影 響を与 えないこ と を 示唆 し て いる と 思 われ た。次 にこの 実験系を 用いる ことで正 常骨髄 細胞に対 す るhRARQの 影 響 をin vitroで解 析した。 ウイル ス感染に よりRARばを過 剰に発現 し た マウ ス 骨 髄細 胞 は 顆粒 球系の 分化過 程が未熟 な段階 (前骨髄 球)で 抑制され る 傾 向に あ っ た。 さ ら にそ の把埔 噸向は 高濃度のRAの投与 により回 復し、 未熟な 細胞は最 終的に は成農髞 頁粒球へ と分化した。IL3コロニーアッセイにおいても顆粒 球 系 コロ ニ ー はそ の 大 部分 が未熟 な細胞 群によっ て占め られてお り、高 濃度のRA
によってコ口ニーを形成する細胞は成譲噸粒球へと変化した。1個のコロニーが 1個のIL3反応細胞より形成されることを考えれば、RARばの過剰発現が骨髄昧の 分化過程を未熟な状態で停止させていると考えられ、長期骨髄培養およびIL3コ口 二ーにおけるマクロフアージの動態に変化を認めないことから、RAおよびRARaは 顆粒球系の分化にたいして重要な役割を演じていることは明白と考えられる。本 研究はRARQ遺伝子の異常と関連陸の高い前骨髄陸自血病の病態解析に有用顔示唆 を与えるものであり、さらにこのようなin vitroの実験系を用いることで血液分 化に関与すると考えられる各種遺伝子の機能的解析が一層進むことが想定される。
これらの観点から本論文は学位論文として評価しうるものと判断された。冨fJ査 の西、葛巻両教授との間で各萎燗の質疑があり、又その後f 3ifi<Jにも審査を受け た が 、 い ず れ も 適 正 な 応 答 を 得 た と 判 断 さ れ 、 合 格 と 判 定 さ れ た 。