博 士 ( 医 学 ) 寺 江 聡
学位論文題名
Wavelet CompresslononDeteCtionofBrainLeSionS WithMagnetiCReSOnanCeImaglng
(磁気共鳴画像( MRI )での脳病変の検出能に及ぼす wavelet 圧 縮 の 影 響 に つ い て の 検 討 )
学 位 論 文 内 容の 要 旨
「目 的」近年、コンピュータおよびネットワーク関連の技術進歩により、大規模な医用画像の電子保管・
伝 送 シス テム(PAく‑S: picture archiving and communication system)の構築が可能となってきた 。 しか し、医用画像の発生デー夕 量は年々増加しており、全て の画像データをオリジナルのまま数年以上 保 管 する のは 今なお困難である。それゆえ 、PACSでは画像圧縮によっ て保管・伝送する画像データ を 減量 することが必要となる。画 像圧縮の欠点は画質劣化であ り、診断に影響を与えない範囲で、できる だ け 高い 圧縮 率を 達成 で きる 方法 カ淫ま れる。wavelet圧縮は、現在 広く用いられているJPEG (Jomt PhotograpMcD【pertsGroup) 圧縮 より も高 い 圧縮 率を 達成 できる方 法として注目されている。本 研 究は 、磁気共鳴画像(MRI冫での 脳病変の検出能について、 臨床的に許容できるwavelet圧縮の圧縮率に つい て検討したものである。
「 対象 と方 法」 受信 者 動作 特性(ROC)解 析 およ び圧 縮誤 差 の定 量解析を行った。対象画 像は、北海 道 大学 医学 部附 属病院放射線部に 電子保管してある画像データ から、軽微な病変を含む16症例と正常 4症 例を 選択 し た。病変の有無とそ の局在の判定は、3名の神経 放射線科医の同意により行 い、各症例 ごとに連続する4横断面を抽出した。病変の 有無の評価は、解剖学的部位別(前頭葉、側頭葉、頭頂葉、
後 頭葉 、基 底核 とそ の 周囲 、視 床、 小脳 、中脳、橋、延髄) に行った。全体として109箇 所の解剖学 的 部位 が対 象と なっ た 。そ のう ち50箇所 には病変が存在し、59箇所には病変はなかった。 別の3名の 放 射 線 科 医 が 、 各 解 剖 学 的 部 位 ご と に 連 続 確 信 度 法(50点 満 点 ) で 病 変 の 有 無 を 評 定 し た 。 原 画 像 は1.5テ ス ラ のMR装 置 で 撮 像 さ れ たTl強 調 像 とT2強 調 像 で 、 ピ ク セ ル サ イ ズ0.9‑1.2x 0.47 mm、 ス ラ イ ス 厚5mniで あ っ た 。 原 画 像 をDICOMフ ァ イ ル に 変 換し て ワー クス テー ショ ン に 伝 送 し 、3種 類 の 圧 縮 率(1/20、1/40,1/60)のwaヽ ′elet圧 縮 画 像を 作成 した 。DICOMファ イ ル 変 換 後 の フ ァ イ ル サイ ズは512x512 x16 bitと なっ た。 原画 像と3種 類のwavelet圧 縮画 像を4つ の 画 像群 に割 り振 った 。 各画 像群 には 異な る20症例が含まれ、 非圧縮と各圧縮率の画像が5症例ずっと な るよ うに した 。評 定 実験 は4回に 分け て行い、各観察者は1度に1つの画像群を評定した 。観察はワ ー ク ス テ ー シ ョ ン のCRTで 行 っ た 。ROC解 析 に は 、ROCKITプ ロ グ ラ ム(Metz CEら ) を 用 い た 。 Az検定を用い、 片側検定でP値が0.05未満を 有意差ありとした。
誤差 の定 量に はRMSE (root mean squared error)を用 い た。 対象 は、 正常 ポ ラン ティ アの脳のT l強 調 像 とT2強 調 像 で 、2種 類 の ピ ク セ ル サ イ ズ(0.94x0.94 mmと0.94x0.47 mm)で 撮 像 し
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たものを用いた。また、原画像から圧縮画像を引き算した差分画像を視覚的に評価した。
「 結果 」視 覚上 は1/20圧縮ですでに画像に軽度 のぽけが認められた。圧縮 率が大きくなるに従い、ぼ け の程 度は 大き く なっ た。ROC解析 では 、原 画 像と 比べ て1/20圧 縮 では 診断 能に 有 意差 を認 めなか っ た 。1/40圧 縮 で は1名 の 観 察 者 で 有 意 に 診 断 能 が 低下 し(P=0.023)、1/60圧縮 では 全て の 観察 者 で有 意に 診断 能 が低 下し た(P〓0.001ー0.012)。1/′40と1/60圧 縮で は画 像の ぽ けに より 、血管 周 囲腔 (正 常構 造 )と 白質 病変 との 区 別が 難し くな っ た。
異 な る ピ ク セ ル サ イ ズ にお けるwavelet圧 縮の 影響 に関 して は 、画 像表 示が256x256マト リ クス に 相 当 す る 画 像 で は 、 画 像 の ぼ け は 、Tl強 調 像 で は1/5圧 縮 で 、T2強 調 像 で は1/10圧 縮 で 認 め ら れた 。512x512マ トリ ク ス相 当の 画像 では 、 同一 圧縮 率で は画 質 劣化 はよ り軽 度 であ った 。RMSE は 圧縮 率が 大き く なる とと もに 増加 し た。RMSEおよ び その 増加 率は 、256x256マ ト リク ス相 当画像 が512x512マ ト リ ク ス 相 当 の 画 像 よ り も 大 き く 、T2強 調 像 がTl強 調 像 よ り も 大 き か っ た 。RMSE と 視 覚 上 の 画 質 劣 化 の 程 度 は 、256x256マ ト リ ク ス 相当 画像 の1/10、1/15,1/20圧縮 が、 そ れぞ れ 512x512マ ト リ ク ス 相 当 画 像 の 1/20、 1/40, 1/60圧 縮 と ほ ぼ 等 し か っ た 。
「考 察」 本研 究で は 、撮 像条 件が1.0x0.5 mm程度 のピ ク セル サイ ズで あれ は1/′20 wavelet圧縮 では 脳MRIの 診断 能に は影 響 がな いこ とが 判明 し た。 ただ し、1/20圧 縮で も画 像に 軽 度のぽけ が生 じていた。人間の視覚はある 程度の範囲の画質に順応で きるフレキシピリティがあり、画質の低下がす ぐに は診 断能 の低 下には結びっかないこ とを示している。それゆえ 、許容できる圧縮率の検討に はRO C解析が必要である。なお、 圧縮による画質劣化の評価に おいては、病変が検出しに くくなることのみ で な く 、 血 管 周 囲 腔 な ど の 正 常 構 造 が 異 常 所 見 に 類 似 し て く る こ と に も 注 意 が 必 要 で あ る 。 許 容で きる 圧縮 率は、画像の種類と対 象臓器によって異なる。そ のため、ある臓器を対象とし たー つの画像モダリティで得られ た結果を、そのまま他の臓 器やモダリティに当てはめることはできない。
さらに、同一臓器、同一モダ リティであっても、ピクセ ルサイズが異なる場合には、許容できる圧縮率 は異なる。アナログ画像をデ ジタル化したものか、本研 究のように最初からデジタルデ―夕であるかに よっ ても 、許 容で き る圧 縮率 は異 なる と 考えられる。ROC解析は労 カと時間のかかる方法であり 、全 てのモダルティの全ての臓器 で、かつ、種々の画像撮影 パラメータを網羅する検討は困難である。その ため 、RMSEを はじ め 、圧 縮誤 差の 数学 的 定量 化が 試み ら れて きた 。しかし、視覚上の画質劣化 と数 学的定量化とは、臓器やモダ リティ、撮像パラヌータな どの条件が異なると相関は低く、許容できる圧 縮率を決めることのできる しきい値 も存在しない。 ただし、これら条件が固定であれば、両者は相 関 す る と 考 え ら れ る 。 本 研 究 で は マ ト リ ク スサ イズ の みを 変化 させ てRMSEを計 算し た。256x256 マ ト ル ク ス 相 当 画像 の1/10、1/15,1/20圧 縮のRMSEと視 覚上 の 画質 劣化 の程 度は 、 そゎ ぞゎ512x 512マ ト リ ク ス 相 当 の1/20、1/40,1/60圧 縮 の そ れ と ほ ぼ 等 か っ た 。512x512マ ト リク ス相 当の 1/20圧 縮 が 許 容 で き る た め 、256x256マ ト リク ス相 当画 像で は1/10圧縮 まで は許 容 でき ると 考え らる。
「 結 論 」Tl強 調 像 とT2強 調 像 の 両 方を 用い て 診断 する 場合 、 撮像 時の ピク セル サ イズ が1.0x0.5 mm程 度 の 脳MRIに 関 し て は 、wavelet圧 縮 は 圧 縮 率1/20ま で 許 容で きる 。 撮像 時の ピク セ ルサ イ ズ が1.0x1.0 mm程 度 で は 圧 縮 率1/10ま で 許 容 で き る と 考 え ら れ る 。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
Wavelet CompresslononDeteCtionofBrainLeSionS WithMagnetiCReSOnanCeImaglng
(磁気共鳴画像(MRI )での脳病変の検出能に及ぼす wavelet 圧 縮 の 影 響 に つ い て の 検 討 )
こ の 論文 は、 磁気 共鳴 画像(MRI)での脳病変の検出能につ いて、臨床的に許容できるwavelet 圧 縮 率 に つ い て 検 討 し た も の で あ る。 脳MRI上 での 病 変50カ所 と正 常59カ 所を 対象 とし て、
3名 の 放 射 線診 断医 によ るROC解 析、 お よび 圧縮 誤差 の 定量 解析 、差 分画 像 の視 覚評 価を 行っ た 。 対 象 画 像 は256x512マ ト リ ッ ク ス 撮 像 相 当 ( ピ ク セ ル サイ ズ 約1.0x0.5 mm)。 視覚 上は 1/20圧 縮 で 画 像 に 軽 度 の ぼ け が 認 めら れた が 、ROC解 析で は原 画像 と比 べ て1/20圧 縮で は診 断能 に 有意 差を 認め なか った。1/40圧縮では1名の観察者で 有意に診断能が低下し(P=0.023)、 1/60圧 縮で は全 ての 観察 者 で有 意に 診断 能 が低 下した(P:0.001―0.012)。圧縮誤差の 定量に はroot mean squared error (RMSE) を用 いた 。RMSEは、256x256マト リク ス画 像 が256x512 マ ト ル ック ス撮 像 相当 画像 より も大 き く、T2強 調像 がTl強 調像 より も大 き かっ た。RMSEと視 覚 上 の 画 質 劣 化 の 程 度 は 、256x256マ ト リ ク ス 画 像 の1/10、1/15,1/20圧 縮が 、256x512マ トリ ックス撮像相当画像の1/20、1/40,1/60圧縮とそれそれ ほぼ等しかった。差分画像で も、同 一 圧 縮 率 で は256x256マ ト リ ク ス 画 像 の 方 が 圧 縮 誤 差 が 目 立 っ た 。Tl強 調 像 とT2強調 像の 両方 を 用い て診 断す る場 合 、256x 512マ ト リッ クス撮像相 当画像の脳MRIに関しては、wavelet 圧 縮 率 は1/20ま で 許容 でき る。 撮像 時 のピ クセ ルサ イ ズが1.0x1.0 mm程 度 では 、圧 縮率1/10 まで許容できると 考えられる。
公開発表では、 副査の櫻井教授よりwavelet圧縮の将来性、JPEG圧縮との 比較、観察者3名のROC 曲線の差異、ROC曲 線作成と統計解析のプログラムについての質問があった。副査の田代教授より観
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良
郎 雄
男
太
長
恒 邦
和
木 井
代 坂
玉
櫻 田
宮
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
察者の経験年数とROC曲 線の差異との関係、病変選択 の基準と病変の種類、他の撮像法での評価や 脊髄での評価にっいての質問があった。副査の宮坂教授より圧縮率によっては原画像より画質が良くな る場合があるか、物理的な画質劣化と視覚的な画質劣化との相関性の低さ、画像の種類と画像保管の 方法についての質問があった。主査の玉木教授より、評定実験の際の読み取り順序効果の影響、医用 画像における画像圧縮の将来展望についての質問があった。申請者は、wavelet圧縮は静止画像に関 しては今後世界の標準的な圧縮方法になっていくであろうことをJPEG Committeeの報告を引用して解 答した。ROC曲線作成と統計解析のプログラムについては、Metzらの報告を引用して解答した。また、
JPEG圧縮との比較、画像によって圧縮率を変える必要があることや低圧縮率では雑音低減効果により 画質がよくなることをEricksonらの論文を引用して解答した。物理的な画質劣化と視覚的な画質劣化との 相関性の低さについては、画像全体の圧縮誤差よりも原画像に含まれる低周波成分の割合の影響が大 きいのではなぃか、ROC曲線にっいては観察者の脳病 変の診断における経験年数の影響ではないか と推測した。病変選択の基準と病変の種類、読み取り順序効果はほとんど無視できる研究方法であった こと、他の撮像法や他の対象臓器では圧縮率は個々に決めなければならないことを述べた。将来展望 については、医用画像にもwavelet圧縮が取り入れられていくであろうこと、大きな圧縮率を達成するた めに はROC解 析が 必要 で ある が、 一方 でコ ン ビュ ータ ー技 術 の進 歩による画 像デー夕保管・伝 送 の 能 カ と 医 用 画 像 の 増 加 の 速 度 と の バ ラ ン ス も 重 要 で あ る こ と が 述 べ ら れ た 。 医用画像の発生デー夕量 は年々増加しており、発生 データの圧縮が必要である。 それゆえ、画像 圧縮 での 許容 で きる圧 縮率についての検討は重要 である。この目的にはROC解 析が最適である。
ROC解析は労カと時間の かかる方法であるが、審査委 員は申請者がROC解析を綿密 に計画し実行し ていることを評価する。また、異なるマトリックスサイズの画像についての圧縮率が数学的圧縮誤差解析 で予測できることを明らかにした点も注目に値する。公開発表では、申告者は論文の内容を理路整然と 発表した。質疑応答では、適宜文献を引用し論理的に解答した。
この論文は、注意深く行われたROC解析に基づぃて臨床的に許容できる画像圧縮率を明らかにした 点で高く評価される。今後wavelet圧縮が広く用いられると予測されること、PACSやteleradiologyが普 及 し つ っ あ る こ と か ら 、 本 研 究 の 結 果 が 広 く 臨 床 に 応 用 さ れ る と 期 待 さ れ る 。 審査員一同は、これら 成果を高く評価し、研究過 程における研鑽なども併せ申 請者が博士(医 学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。
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