博 士 ( 獣 医 学) 武 知 雅 人
学 位 論 文 題 名
鶏 の ク ル 病 の 骨 病 変 に 関 す る 超 微 形態 学 的 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要旨
鶏 の ク ル 病 は ビタ ミ ンD, カ ル シ ウ ム お よ びり ン 欠 乏 , あ る い はカ ルシ ウム と り ン の 血 中 比 率 の不 均 衡 に よ り 生 じる 疾患 であ る。 そし て, 骨端 軟骨 の肥 厚と 軟 骨 基 質 の 石 灰 化 障害 , お よ び 骨 幹 端に おけ る未 分化 細胞 の出 現を 伴う 破骨 細胞 と 骨 芽 細 胞 の 増 殖 が特 徴 病 変 で あ る 。骨 端軟 骨の 肥厚 は軟 骨細 胞の 成熟 遅延 ,軟 骨 基 質 の 石 灰 化 障 害は 石 灰 化 の 進 行 遅延 ,骨 幹端 の変 化は 二次 性上 皮小 体機 能亢 進 症 に 起 因 す る と 考え ら れ て い る 。 しか し, クル 病病 変の 個々 の細 胞の 超微 形態 あ る い は 細 胞 活 性 に 関 す る 研 究 は 少 な く , そ の 病 変 の 病 理 発 生 に っ い て は 未 だ 不 明 な 点 が 多 い 。 一 方 , 正 常 な 鶏 の 骨 端 軟 骨 な ら び に 軟 骨 内 骨 化 の 超 微 形 態 に っ い て は , 哺 乳動 物 と の 類 似 性 が示 唆さ れて いる が, 詳細 な検 索は なさ れて い ナよ い。 鳥類 の骨 端軟 骨に は血 管が豊 富で あり ,軟 骨細 胞を取り巻く環境は哺乳動 物の それ とや や異 ナょ って いる 。また ,従 来変 性細 胞と して余り注目されていなか った 石灰 化層 の軟 骨細 胞は ,活 発ナょ 生命 活動 を営 むと ともに,軟骨基質の石灰化 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と が 近 年 の 研 究 で 明 ら か に さ れ つ っ あ る 。 本 研究 では ,最 初に 正常 ナょ 鶏の骨 端軟 骨に おけ る軟 骨細胞の成熟過程と,その 過 程 に お け る 軟 骨細 胞 の 役 割 を 明 らか にし た。 次い でこ の知 見を 基に クル 病鶏 の 骨 端 病 変 の 細 胞 動 態 を 形 態 学 的 に 観 察 し , そ の 病 理 発 生 に っ い て 検 討 し た 。 第1章 で は , 正 常 な 鶏 の 骨 端 軟 骨 を 超 微 形 態 学 的 なら び に 酵 素 組 織化学 的に 検 索 し た 。 こ の 検 索 は , 特に 石 灰 化 層 の軟 骨細 胞と 軟骨 基質 の石 灰化 との関 係に つ い て 注 目 し て 実 施 し た 。 検 索 に は 肉 用 種 鶏 の 雄 雛10羽 (4,7,14,18,21 日齢 )を 用い た。 静止 軟骨 層の 軟骨 細胞 は, 活発ナ ょ蛋 白産生を示唆する超微形態 像 を 示 し た 。 増 殖 軟 骨 層の 軟 骨 細 胞 は, 分裂 期細 胞の 特徴 を有 し, 有糸分 裂に よ り 増 殖 し て い た 。 成 熟 軟骨 層 の 軟 骨 細胞 は, 細胞 小器 官が 発達 し蛋 白産生 能が 最 も 高 い 細 胞 で あ る と 考 えら れ た 。 石 灰化 層で は, 軟骨 基質 の石 灰化 段階に 一致 し て3型 の 軟骨 細胞が 出現 して いた 。す ナょ わち ,軟 骨基 質の 石灰 化初 期像が 観察 さ れ る 上 部 で は 淡 明 細 胞 ,石 灰 化 進 行 像が 観察 され る中 間部 では 星型 細胞, 石灰 化 が 完 熟 し 軟 骨 内 骨 化 が 進行 す る 下 部 では 肥大 淡明 細胞 が認 めら れた 。これ らの 各 軟 骨 細 胞 は そ の 機 能 が 異な り , そ れ ぞれ 石灰 化の 開始 ,進 行お よび 維持に 関与 す る と 考 え ら れ た 。 ま た ,石 灰 化 層 の 最外 層お よび 表層 に限 局し て粗 面小胞 体と ラ イ ソ ゾ ー ム に 富 み ,ACPase活 性を 示 す 細 胞 が 観 察 さ れ た 。 こ の 細 胞 は 未 石 灰 化 基 質 を 吸 収 す る こ と に より , 破 骨 細 胞の 石灰 化基 質の 吸収 およ び骨 組織へ の置 換 を 促 す と 考 え ら れ た 。 軟骨 細 胞 の 運 命に っい ては ,肥 大淡 明細 胞は 軟骨小 腔内 に 侵 入 し た 単 球 に よ り 貪 食さ れ , 軟 骨 小腔 から 離脱 した 粗面 小胞 体と ライソ ゾー ム に 富 む 細 胞 . は 生 存 し , 造 骨 系 細 胞 に 分 化 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。
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第2章では,実 験的に作出 したクル病鶏の骨端軟骨を超微形態学的および酵素 組織化 学的に検索 した。この 実験では, 肉用種鶏の 雄雛20羽を対照群とビタミ ンD欠 乏 群(D欠群 ) に 分け , 後者 に は初 生 から ビタ ミンD欠乏飼料を 与えた。
検索材料は4,7,14,.18,21日齢時に各群2羽ずっを解剖して得た。この結果,
14日齢以降 に骨にクル 病病変が発 現し,超微 形態学的に も変化が観察された。
静止軟骨層,増殖軟骨層および成熟軟骨層の軟骨細胞では,細胞小器官が減少 し てお り ,蛋 白 産生 能 の低 下 が示 唆 され た 。 さらに ,静止軟骨 層の軟骨細 胞 にはマイクロフィラメントが出現していた。増殖軟骨層では有糸分裂像がみられ たが,軟骨細胞数あたりの分裂細胞数は減少していた。また,増殖軟骨層および 成熟軟骨層の軟骨細胞では,ライソゾームが増加し,両層では変性細胞巣がしば しば観察された。石灰化層では,基質小胞内のアパタイト結晶の出現とアパタイ ト結晶塊の形成を特徴とする初期石灰化像が認められた。しかし,コラーゲン線 維へのアパタイト結晶の沈着が不十分なため,アパタイト結晶塊の融合あるいは 連結は阻害されていた。また,この領域に出現する軟骨細胞は石灰化の開始に関 与する淡明細胞のみであり,石灰化の進行に関与する星型細胞は認められなかっ た。酵 素組織化学 的には,正 常な鶏と同 様にALPase活性が骨 端軟骨の静止軟骨 層と増殖軟骨層上部を除く全層で観察され,軟骨細胞の染色態度にも異常はみら れなかった。以上の結果から,クル病鶏の骨端軟骨の肥厚は,軟骨細胞の増殖な らびに基質産生亢進によるものではなく,軟骨細胞の成熟遅延によることが示唆 された。また,軟骨基質の石灰化障害は石灰化の進行遅延であり,軟骨細胞が石 灰 化 の 進 行 に 必 要 な 機 能 を 有 す る 細 胞 に 分 化し ナ ょい た めと 考 えら れ た。
第3章 で は, ク ル病 鶏 の骨 幹 端病 変 と上 皮 小 体に っ いて 超 微形 態学的な ら び に 酵素 組 織 化学 的 に検 索 した 。 検索 材 料は , 第2章 の実 験 で 用いた鶏 から 採取した。
検 索の結果,14日齢以降の 骨幹端にク ル病病変が観察された。この病変には 破 骨 細胞 が 増 数し て いた が ,そ の多く は軟骨柱お よび骨梁表 層から離脱 して いた。離脱した破骨細胞は,発達した細胞質突起を有し,正常ナょACPase活性を 示 した。軟骨 柱あるいは 骨粱表層に 残存する破 骨細胞はruffled borderを形成 せ ず,大型の 石灰化片はphagocytosis,小型のアパタイト結晶塊はpinocytosis に よって吸収 されており ,破骨細胞 の骨吸収に はruffled borderを介さない別 の機序のあることが示唆された。これらの破骨細胞は正常な破骨細胞に比べ強い ACPase活 性を示した 。クル病鶏 の骨芽細胞 では,粗面小胞体腔の拡張が認めら れ ,ALPase活性とACPase活性 は正常な骨 芽細胞と同様の反応を示した。また,
病 変に出現し ていた未分化細胞は,球形細胞と紡錘形細胞の2型に分類された。
超微形態学的および酵素組織化学的特徴から,前者は前破骨細胞,後者は前骨芽 細 胞である とみなした 。7日 齢.以降, 上皮小体は 肥大し,主 細胞が増生 して いた。増生した主細胞は,超微形態学的に,.粗面小胞体が発達する合成期の細胞 と,ゴルジ装置の発達と分泌顆粒の増数を特徴とした分泌期の細胞であった。以 上の所見から,クル病鶏では上皮小体機能亢進により破骨細胞と骨芽細胞の前駆 細胞が刺激されて増生し,これに伴い骨幹端で破骨細胞と骨芽細胞が増数すると 考えられた。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
鶏のクル病の骨病変に関する超微形態学的研究
鶏のクル 病におけ る骨病変は ,骨端軟 骨の肥厚 と軟骨基 質の石灰 化障害, 及び骨幹 端におけ る未分化 細胞の出現 を伴う破 骨細胞と 骨芽細胞 の増殖を 特徴とす る,申請者 は , 鶏 に ク ル 病 を 作 出 し , そ の 骨 病 変 を 超 微 形 態 学 的 に 研 究 し た . 最初に, 病変を理 解するため に正常鶏 の骨端軟 骨の発達 過程,特 に石灰化 層の軟骨 細 胞と 軟 骨基 質 の 石灰 化 との 関 係 を検 索 し た. 検 索は4〜21日齢 の 肉用 種 鶏 につ い て行った .石灰化 層の軟骨細 胞tま,軟 骨基質の 石灰化段 階に関連 づけて3型 に分類さ れた,す なわち, 軟骨基質の 石灰化初 期像を示 す軟骨層 上部では 淡明細胞 ,石灰化進 行像が観 察される 中間部では 星型細胞 ,石灰化 が完熟し 軟骨内骨 化が進行 する下部で は肥大淡 明細胞が 認められた .肥大淡 明細胞は ,軟骨小 腔に侵入 した大食 細胞により 貪食 さ れて い た .こ れ ら3型の細胞の ほかに, 未石灰化 軟骨基質 の吸収に 関与する 粗 面小胞体 とライソ ゾームに富 む細胞が 認められ た.この 細胞は造 骨系細胞 に分化する 可能性が 示唆され た.
ク ル 病に つ いて は , 肉用 種 鶏の 初 生 時か ら ビタ ミ ンD欠 乏飼料を 給与レ,4〜21日 齢の間経 日的に採 材レて検索 した.骨 端の静止 軟骨層, 増殖軟骨 層および 成熟軟骨層 の軟骨細 胞では, 細胞小器官 が減少レ ,蛋白産 生能の低 下が示唆 された. 石灰化層で は,石灰 化の開始 に関与する 淡明細胞 のみが認 められ, 石灰化の 進行に関 与する星型 細胞は認 められな かった,石 灰化層の 軟骨基質 では,初 期石灰化 像は認め られたが,
コラーゲ ン線維へ のアパタイ ト結晶の 沈着は不 十分であ った.以 上から, クル病鶏の 骨端軟骨 の肥厚は 軟骨細胞の 成熟遅延 であるこ と,軟骨 基質の石 灰化遅延 は石灰化に 必 要 な 機 能 を 有 す る 軟 骨 細 胞 へ の 分 化 の な い こ と が 重 視 さ れ た . 骨 幹 端の 病 変は14日齢 以 降に 発 現 レた . こ の病 変 は,上 皮小体の 機能亢進 により 破骨細胞 と骨芽細 胞の前駆細 胞が刺激 されて増 殖し,結 果とレて 破骨細胞 と骨芽細胞 の増殖が もたらさ れることが 証拠づけ られた.
敏夫 晃彦 智 富
敏 倉 野 本 永 板菅 橋岩 授授 授授 教教 教教 査査 査査 主副 副副
以上のように,申請者は,鶏のクル病の骨病変の超微形態像を明らかにし,同時に 鳥類の軟骨内骨化機転に新知見をもたらした,よって審査員一同は,武知雅人氏が博 士 ( 獣 医 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た .