博士(農学)田中勝三郎 学位論文題名
甜菜製糖副産物の反芻家畜飼料資源としての 特性に関する研究
学位論文内容の要旨
甜菜は家畜との結びっきが深く、欧州では古くから甜菜と家畜を組み合わ せた有畜農業が発達してきた。わが国においても、明治時代に甜菜糖業が導入 されて以来、その製造副産物であるピートパルプや糖蜜等が家畜、特に乳牛の 飼料として広く用いられてきており、その飼料価値に関する研究も行われてき た。しかし、ビートパルプは粗飼料源として、また、糖蜜は糖質含有飼料とし ての一般的認識のもとに慣行的に使用されており、研究も、これに沿った形で 行われてきた。,従って、これら副産物の飼料価値が、いかなる機序に由来する のか、また、飼料としてどのような特性を有するか等の詳細については未だ明 らかではなぃ。さらに、近年、わが国では製糖方法として、イオン交換法が採 用されているが、この方法にともなって産出される副産物である、ビートパル プ 、糖蜜や新 たに加わっ たイオン交 換樹脂廃液(CAL:Concentrated anion liquor)等の飼料としての特性についての研究は全く行われていなぃ。これらの 特性や作用機序を明らかにすることは、甜菜製糖副産物の有効利用に資するば かりでなく、飼料としての新たな利用法を開発するための基礎となる知見を得 ることにもなる。
そこで、本研究は、イオン交換樹脂法による甜菜製糖副産物のビートパル プ、糖蜜およびCALの化学組成、理化学性、消化性ならびに反芻家畜飼料とし ての特性等を究明し、これらの結果より、乳牛用飼料への使用モデルを構築す ることを目的として行ったものである。本論文の内容の要旨は以下の通りであ る。
緒論では、本研究と関わりのある既往の研究報告について紹介、論述し、
本研究を行うに到った経緯、ならびに、本研究の意義、目的等を記述している。
本論第1章では、甜菜製糖副産物の化学組成および理化学的特性を知るため、
ピートパルプ、糖蜜ならびにCALの化学組成を調査し、ビー卜パルプの構成炭 水化物を分画するとともに、ピートパルプとその構成繊維質の発酵特性や保水 性について試験した。ピートパルプの繊維成分はぺクチン含量が高い点に特徴 がある。ビートパルプの組織は多孔質であり、保水能や膨潤度(SV値)が他の慣
用飼 料と 比較 して 最も 高く 、こ れら理化学性にはぺクチンが大きく関与してい る。 人工 ルー メン によ る発 酵消 化試験で、ピートパルプのぺクチン画分は、酢 酸 、 プ ロ ピ オ ン 酸、 総 酸 の 産 成 量 お よ びA/P比 がNDF画分 やADF画 分よ りも 高 かっ た。糖蜜およびCALは、.主として糖とアミノ酸から構成され、いずれもケ ーン 糖蜜 に比 して 粗蛋 白質 含量 がたかく、粗灰分は少なく、易発酵性の窒素源 とエネルギー源を有する。
第2章では、甜菜製糖副産物の消化性について検討するため、in vitroとin vivoでの 方法 を用 いて 、消 化試 験を行った。国産と米国産韜よび中国産の輸入 ピ― トパ ルプ との 消化 率を 比較 した結果では、前者が後者よりも高い値を示し た。 また 、国 産の ビー トパ ルプ は輸入物と比較して、可溶性窒素含量が高く、
窒素 出納 試験 にお いて 、窒 素蓄 積量が中国産の物より有意に高い値を示した。
さらに、尿素を用いて、溶解性窒素の添加による消化への効果を見た結果では、
添加量と消化率の間に高い相関を認めたが、その効果は、産出国間で異なった。
これ らの 結果 より 、消 化性 の異 なる原因として可溶性窒素含量が係わることを 明ら かに する とと もに 、一 般に 流通しているピートパルプの飼料価値には差異 があ るこ とを 指摘 した 。し かし 、現行の利用形態である、粗砕とぺレットの形 状の 違い によ る消 化性 の差 異は 認めら れな かっ た。 糖蜜 とCALでは、主成分の 糖および粗蛋白質が、いずれも高い消化性を示した。
第3章では、甜菜製糖副産物の乳牛用飼料としての利用性について試験した。
ビートパルプの利用形態別(生、乾燥粗砕および水浸漬)に人工ルーメンによる 消化や乳牛による消化と泌乳について試験を行った結果、差異を認めなかった。
ビー トパ ルプ とイ ネ科 乾草 なら びにアルフんルフア乾草との泌乳牛に対する給 与効果を比較した結果では、乳牛の反芻行動、糞の性状、乳脂率等に差がなく、
産乳 量、 乳蛋 白質 率で はピ ート パルプが優ったことから、ピートパルプが良好 な粗 飼料 とし ての 特性 を有 する ことを認めた。また、泌乳牛に対する給与濃厚 飼料 中の50%を ビー トパ ルプ とト ウモ ロコ シで それ ぞれ 置き 換えて試験した結 果で 、産 乳量 、乳 成分 組成 とも 差がなかったことから、ピートパルプはエネル ギー 飼料 とし ての 要素 を併 せ持 つことを認めた。ピートパルプにイースト菌を 吸着 させ て効 果を 調べ た試 験で は、加熱に対するイースト菌の活性の保持に効 果を 認め た。 また 、こ れに ビタ ミンを組み合わせたプレミックスを子牛と乳牛 に投 与し た結 果、 増体 や産 乳に 改善効果が見られたことから、ピートパルプに は、 吸着 剤と して も優 れた 特性 を有することを明らかにした。乳牛用飼料への 糖蜜 とCALの添 加給 与試 験で は、 添加 によ り飼 料の 嗜好 性が 高まり、その改善 効 果 は ピ ー ト 糖 蜜 が ケ ー ン 糖 蜜 よ り も 大 き ぃ こ と を 示 し た 。
第4章では、以上の研究結果について総合的に考察し、以下のように結論し てい る。甜 菜製 糖副 産物 の飼 料資 源としての特性について、ビートパルプは、
ペクチンを多量に合み、膨潤度(SV値)と保水性に優れ、この理化学的特性には、
ペク チンが 大き く関 与す る。 消化 性から見て、一般に流通しているピートパル プの 飼料価 値は 必ず しも 同一 では なぃ。乳牛用飼料としてピー卜パルプは、粗 飼料 とエネ ルギ ー飼 料の 要素 を併 せ持つ。ビ―ト糖蜜は、ケーン糖蜜に比べて 粗蛋 白質含 量や 消化 性が 高く 、嗜 好性 に優 れて いる 。ビ ート 糖蜜とCALの化学 組成 は、製 造工 程に よっ て変 化す るが、いずれも反芻家畜に対する嗜好性や消 化性 は良好 であ る。 さら に、 これ らの結果より、甜菜製糖副産物の乳牛用飼料 への 利用法 とし て、 従来 の粗 飼料 に加え、濃厚飼料への利用を合む、新たな使 用モデルを提示した。
以上の よう に、 本研究は、ビートパルプの反芻家畜飼料としての特性を体 系的 に究明 する とと もに 、糖 蜜、CAL等 の飼 料価 値についても明らかにしてお り、 甜菜製 糖副 産物 の飼料資源としての有効利用に資する基礎的知見を提示し た。
学位論文審査の要旨
学 位論 文題 名
甜 菜製糖副産物の反芻家畜飼料資源としての特性に関する研究 本論 文は 、緒 論な らび に本論4章 より 構成 され てお り、表72、 図38、引用文 献115を 合 む 、 和 文 論 文 で あ る 。 他 に 、 参 考 論 文10編 が 添 え ら れ て い る 。 甜 菜 製 糖 副 産 物 は、 明治 初期 に甜 菜製 糖技 術が わが 国に 導入 されて 以来 、 主 とし て、 乳牛 用飼 料と して広 く用 いられてきている。しかし、ピートパルプ は 粗飼 料源 とし て、 また 、糖蜜 は糖 質含有飼料としての一般的認識のもとに慣 行 的に 使用 され てお り、 研究も これ に沿った形で行われてきた。従って、これ ら 副産 物の 飼料 価値 が、 いかな る機 序に由来するのか、また、飼料としてどの ような特性を有するか等の詳細については未だ明らかではなぃ。さらに、近年、
わ が国 では 、製 糖方 法と して、 イオ ン交換法が採用されているが、この方法に と も な っ て 産 出 さ れる 副産 物の ピー トパ ルプ 、糖 蜜や 新た に加 わった イオ ン 交 換 樹 脂 廃 液(CAL:Concentratedanion liquor)等 の飼 料と して の特性 につ い ての研究は全く行われていなぃ。
そ こで 、著 者は 、こ れらの 甜菜 製糖副産物について、その化学組成、理化 学性、消イヒ性ならびに反芻家畜用飼料としての特性等を究明し、この結果より、
乳 牛用 飼料 への 使用 モデ ルを構 築す ることを目的として本研究をおこなった。
その研究成果は、以下のように要約される。
1. 甜菜 製糖 副産 物の 化学 組成 およ び理 化学 的特 性を 知るため、ビートパ ル プ 、 糖 蜜 な ら び にCALの 化 学 組 成 を 調 査し 、ビ ート パル プの 構成 炭 水 化 物 を 分 画し 、そ の発 酵特 性や 保水 性につ いて 試験 した 。ピ ート パ ル プ の 繊 維 成分 はベ クチ ン含 量が 高い 点に特 徴が ある 。ビ ート パル プ の 組 織 は 多 孔質 であ り、 保水 能や 膨潤 度が他 の慣 用飼 料と 比較 して 最 も 高く 、こ れら 理化 学性にはぺクチンが大きく関与している。人工ル ー メ ン に よ る発 酵消 化試 験で 、ビ ート パルプ のぺ クチ ン画 分は 、酢 酸 (A)、 プロ ピオ ン酸(P)、総酸 の産 生量 およ びA/P比 が中性デタージェン
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主 副
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ト 繊維画 分や 酸性 デタ ージ ェン ト繊 維画分よりも高かった。糖蜜およ びCALは 、 主 と し て 糖 と ア ミ ノ 酸 か ら 構 成 さ れ 、 い ず れも ケー ン糖 蜜 に比 して粗 蛋白 質含 量が 高く 、粗 灰分 は少なく、易発酵性の窒素源・と エネルギ―源を有する。
2.甜菜製糖副産物の消化性について検討するため、in vitroとin vivoでの 方 法 を 用 い て 、 消 化 試 験 を行 った 。国産 ビー トパ ルプ と米 国産 およ び 中 国 産 の 輸 入 ビ ー ト パ ル プと の消 化率を 比較 した 結果 では 、前 者が 後 者 よ り も 高 い 値 を 示 し た 。ま た、 国産の ピー トパ ルプ は輸 入物 と比 較 し て、可 溶性 窒素 含量 が高 く、 窒素 出納試験において、窒素蓄積量が 中 国産の もの より 高い 値を 示し た。 さらに、溶解性窒素の添加による 消化 への効 果を 見た 結果 では 、添 加量 と消化率の間に高い相関を認め,
た が 、 そ の 効 果 は 、 産 出 国問 で異 なった 。こ れら の結 果よ り、 消化 性 の 異なる 原因 とし て可 溶性 窒素 含量 が係わることを明らかにするとと も に、一 般に 流通 して いる ピー トパ ルプの飼料価値には差異があるこ と を指摘 した 。し かし 、現 行の 利用 形態である、粗砕とぺレットの形 状 の 違 い に よ る 消 化 性 の 差 異 は認 め ら れ な か っ た 。 糖 蜜 とCALでは 、 主 成 分 の 糖 翁 よ び 粗 蛋 白 質 が 、 い ず れ も 高 い 消 化 性 を 示 し た 。 3. 甜菜 製糖 副産 物の 乳牛 用飼 料と しての 利用 性に つい て試 験し た。 ビー トパルプの利用形態(生、乾燥粗砕および水浸潰)による、消化性や産乳 効 果 へ の 試 験 結 果 に は 差 異が なか った。 ピ― トパ ルプ とイ ネ科 乾草 な ら びにア ルフ んル ファ 乾草 との 泌乳 牛に対する給与効果を比較した結 果 で は 、 乳 牛 の 反 芻 行 動 、糞 の性 状、乳 脂率 等に 差が なく 、ピ ート パ ル プ が 良 好 な 粗 飼 料 と し ての 特性 を有す るこ とを 示し た。 また 、泌 乳 牛に 対する 給与 濃厚 飼料 中の500/0をピ ート パル プと トウ モロ コシ でそ れ ぞ れ 置 き 換 え て 試 験 し た結 果で は、産 乳量 、乳 成分 組成 とも 差が な く 、ビー トパ ルプ はエ ネル ギー 飼料 としての要素も併せ持つことを認 め た。さ らに ピー ト糖 蜜とCALの添加 は、 反芻 家畜 飼料 の嗜 好性 を改 善した。
4. ビー トパ ルプ にイ ース ト菌 を吸 着させ て効 果を 調べ た試 験で は、 加熱 に 対する イー スト 菌の 活性 の保 持に 効果を認めた。また、これを子牛 と 乳牛に 投与 した 結果 、増 体や 産乳 に改善効果が見られたことから、
ピ ー ト パ ル プ は 、 合 水 量 の多 い飼 料の吸 着剤 とし ても 優れ た特 性を 有 することを明らかにした。
5.以上の結果に基き、甜菜製糖副産物の乳牛用飼料への利用方法として、
慣行の粗飼料源としての利用に加えて、濃厚飼料原料としての活用を 合めた新たな使用モデルを提示した。
以上の成果は、ピートパルプの反芻家畜飼料としての特性を体系的に究明 するとともに、糖蜜やCAL等の飼料的特性を明らかにしたもので、学術的に高 く評価されるだけでなく、実用面でも、甜菜製糖副産物の飼料資源としての活 用に大きく寄与するものである。
よって、審査員一同は、別に実施した学力確認試験の成績とあわせて、本 論文の提出者田中勝三郎は、博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格あるも のと判定した。