博 士 ( 農 学 ) 池 滝 学 位 論 文 題 名
孝
ウシの横臥に関する行動学的及び運動力学的解析による 牛床構造の評価方法
学位論文内容の要旨
家畜をとりまく環境に関する従来の研究は、寒冷・暑熱ナょどの温熱環境や畜舎 内換気などの空気環境に関するものが主で、工学的アブローチをしているものが 多い。一方、家畜側から生理的あるいは行動的変化等の情報を的・確に把握し、そ れらに基づぃて環境を評価する必要も強まっている。家畜の行動面から、施設や 飼養管理を適正に評価することが出来れば、施設設計や飼養管理に関する新技術 の導入に際して、有益な知見を容易に得ることが可能になる。また、家畜の飼育 環境にっいては、近年アニマルウェルフェアという観点からも配慮が求められて いる。
そこで以上の観点から、本研究では、居住感の良好な快適環境を構築するため の基礎的情報を得るため、種々の環境下で飼育きれているウシの行動を観察し、
行動と飼育環境の関連を分析した。とくに、個体維持,行動のうち横臥休息行動を 取りあげ、横臥・起立動作と牛床構造との関連にっいて、行動学的及び運動力学 的観点から詳細な解析を行い、牛床構造の評価方法を検討した。得られた結果の 概要は以下の通りである。
1. 異なる飼養環境下におけるウシの横臥行動
放牧をふくめた放し飼い飼育及び繋ぎ飼い飼育下で、ウシの個体維持行動を横 臥行動を中心に比較検討した。横臥行動は飼育環境の相違によって、大きく異な った。放し飼い飼育下では、人為的制約の少ない放牧群において、どの季節にお いても、ドライ口ット飼育群にくらべ横臥回数が多く、床表面が堅いドライ口ツ ト飼育群では横臥休息行動が抑制されている可能性が示唆きれた。しかし、自由 な姿勢で・横臥ができず、快適な飼育環境とは思えない繋ぎ飼いのスタンチョン牛 床でも横臥回数が多くなり、飼育環境の評価には横臥回数だけでなく、四肢の伸 縮、頚曲げなどの横臥姿勢にっいても検討を加える必要があると判断きれた。放 し飼い飼育下での敷料の汚れが、横臥行動に及ばす影響にっいて検討したところ、
敷料の汚れの進行にともない、横臥時間・回数が減少し、横臥姿勢に変化が見ら れたことから、これらが牛床面の汚れを判断するためにも有効な指標となりうる と判断できた。
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2.ウシ の 横臥 行 動 と牛 床 構造
農家 の 牛舎 及 び 実験 牛 舎に お い て、 牛床表面 及び牛床構 造,が異 ナょる平 床、傾斜 床 、 ス ノ コ 床 で ウ シ を 飼 育 し 、 行 動 観 察 を 行 い 、 横 臥 , 起 立 動 作 に っ い て の 詳細 な 解 析 を 加 え 、 牛 床 構 造 と の 関 連 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 農 家 の 牛 舎 及 び 実 験牛 舎 の い ず れ に お い て も 、 傾 斜 床 及 びス ノ
と も 少 な な っ た 。 と く に ス ノ コ 床 では 、 方 、 一 回 の 横 臥 が 長 時 間 に な る 場 合が 多
コ 床 で は 平 床 に く ら べ て 横 臥 時間 ・ 回 数 f全 体 と し て 横 臥 時 間 ・ 回 数 が 減少 す る ー く な り 、 横 臥 行 動 が 抑 制 さ れ てい る こ と が 明 ら か に な っ た 。 平 床 に く ら ベ ス ノ コ 床 で は 、 四 肢 を 縮 め た 姿 勢 や 頸 曲 げ 時 間 の 割 合 が 少 な く な っ た 。 ま た ス ノ コ 床 で は 、 横 臥 ・ 起 立 と も 動 作 が ス ム ー ズ で は な く 、 横 臥 ・ 起 立 動 作 所 要時 間 が長 く ナ ょり 、 横臥 ・ 起 立時 に 動 作を 躊 躇、 中 断 す る よ う な 行 動 や 前 肢 か ら 立ち 上 がる な ど の非 典 型的 ナ ょ 起立 動 作 が多 く みら れ 、 ス ノ コ 床 で の 横 臥 行 動 の 抑 制 が 動 作 解 析 か ら も 裏 付 け ら れ た 。 こ の よ う に 横 臥 行 動 に っ い て の 動 作 解 析 は 、 牛 床 構 造 の 評 価 に と っ て よ り 有 効 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。
3.横 、 臥 ・ 起 立 行 動 の 運 動 力 学 的 解 析 と 牛 床 構 造 の 評 価
牛 床 構 造 の も つ 物 理 的 特 徴 と 横 臥 ・ 起 立 行 動 の関 連 を より 詳 細 に解 明 する に は 、 横 臥 ・ 起 立 動 作 に っ い て の 運 動 力 学 的 な 解 析 が 必 要 に な る が 、 大 家 畜 を 対 象 と し た 荷 重 変 動 及 び 荷 重 中 心 の 位 置 が 検 出 可 能 な 装 置 は 従 来 存 在 し な か ぅ た 。 そ こ で ロ ー ド セ ル4点 支 持 型 台 秤 仕 様 の 荷 重 変 動 記 録 装 置 を 試 作 し 、 得 ら れ た 荷 重 変 動 デ 一 夕 と VTR映 像 を も と に 、 横 臥 ・ 起 立 動 作 の 運 動 力 学 的 解 析 を 行 い 、 牛 床 構 造 の 評 価 方 法 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 横 臥 ・ 起 立 動 作 時 の 荷 重 変 動 デ ー タ と 画 像 デ ー タ は よ く 一 致 し て お り 、 荷 重 変 動 波 形 と 荷 重 中 心 の 移 動 軌 跡 は 動 作 解 析 に き わ め て 有 効 で あ っ た 。 荷 重 変 動 波 形 と 荷 重 中 心 の 移 動 軌 跡 か ら 求 め た 動 作 所 要 時 間 や 荷 重 の タ ー ニ ン グ ポ イ ン ト 数 は 横 臥 ・ 起 立 動 作 の ス ム ー ズ き を 示 し 、 タ ー ニ ン だ ボ イ ン ト 数 が 多 い こ と は 頻 繁 な 姿 勢 反 射制 御 が必 要 ナ ょこ と を意 味 し 、横 臥 ・ 起 立 動 作 め 困 難 さ 、 ひ い て は 横 臥 ・ 起 立 行 動 の 抑 制 要 因 に な る と 判 断 さ れ た 。 ま た 荷 重 変 動 の 最 大 値 は ウ シ の 体 躯 が 床 か ら う け る 衝 撃 の 程 度 、 床 反 カ を 示 す こ と か ら 、 や は り 行 動 抑 制 要 因 の ー っ と 推 察 さ れ た 。 こ れ ら の 運 動 力 学 的 パ ラ メ ー タ は 、 牛 床 構 造 の 評 価 を 行 う た め の 新 た な 指 標 に な り 得 る と 判 断 さ れ た 。 こ の 荷 重 変 動 記 録 装 置 を 用 い 、 平 床 、 板 床 、 コ ン ク リ ー ト 製 ス ノ コ 床 の3種 類 の 牛 床 の 特 徴 を 、 運 動 力 学 的 面 か ら 解 析 、 評 価 し た 。 そ の 結 果 、3種 類 の 牛 床 の な か で は 平 床 の 横 臥 ・ 起 立 動 作 所 要 時 間 及 び 荷 重 中 心 の 移 動 距 離 が 短 く 、 タ ー ニ ン グ ポ イ ン ト 数 及 び 動 作 時 の 最 大 荷 重 が 小 き く 、 最 も 良 好 な 牛 床 と 判 断 さ れ た 。 ー 方 、 ス ノ コ 床 は 橋 臥 ・ 起 立 動 作 所 要 時 間 及び , 荷重 中 心 の移 動 距離 が 長 く、 タ ー ニ ン グ ポ イ ン ト 数 及 び 動 作 時 の 最 大 荷 重 が 大 き く 、 こ の よ う な 横 臥 ・ 起 立 動 作 の 困 難 き が 横 臥 ・ 起 立 行 動 を 抑 制 す る 要 因 に な っ た と 推 察 さ れ た 。 以 上 の 結 果 か ら 、 ウ シ の 横 臥 に 関 す る 行 動 学 的 及 び 運 動 力 学 的 解 析 に よ り 牛 床 構 造 の 評 価 を 、 よ り 明 確 に 行 う こ と が 可 能 に な っ た 。 ま た 快 適 な 休 息 場 所 と し て の 牛 床 に は 、 @ 横 臥 ・ 起 立 動 作 所 要 時 間 が 短 い こ と 、 ◎ 横 臥 ・ 起 立 時 の 荷 重 中 心
の移動距離が短いこと、◎荷重のターニングポイント数が少ないこと、@荷重変
動の最大値が小さいことが必要条件であると結論した。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
大久保 田中 松田 近藤
学 位 論 文 題 名
正彦 桂一 従三 誠司
ウシの横臥に関する行動学的及び運動力学的解析による 牛床構造の評価方法
本 論 文 は 総 頁 数234、 図35、 表71、 引 用 文 献70を 含 む5章 か らな る 和 文 論文 で あ り、 別 に 26編 の 参考 論 文 が添 え ら れて い る 。
家 畜 の 環 境 に 関 す る 従 来 の 研 究 は 、 温 熱 環 境 や 畜 舎 の空 気 環 境に 関 す る工 学 的 ア ブ口 ー チ が 多 い 。 一 方 、 家 畜 の 生 理 的 あ る い は 行 動 的 変化 に 基 づぃ て 環 境を 評 価 する 必 要 も 強ま っ て い る 。 家 畜 の 行 動 面 か ら 、 施 設 や 飼 養 管 理 を適 正 に 評価 出 来 れぱ 、 施 設設 計 や 飼 養管 理 に 関 す る 新 技 術 の 導 入 に 際 し て 、 有 益 な 知 見 を 容 易 に 得 る こ と が 可 能 に な る 。 以 上 の 観 点 か ら 、 本 研 究 で は 、 居 住 感 の 良 好 な 快 適 環境 を 構 築す る た めの 基 礎 情 報を 得 る た め 、 ウ シ の 行 動 と 飼 育 環 境 の 関 連 を 解 析 し た。 と く に、 横 臥 行動 と 牛 床構 造 と の 関連 に ぅ い て 、 行 動 学 的 及 び 運 動 力 学 的 観 点 か ら 詳 細な 解 析 を行 い 、 牛床 構 造 の評 価 方 法 を検 討し た 。
本 研 究の 結 果 は以 下 の よう に 要 約さ れ る 。
1)放 牧 を ふ く め た 放 し 飼 い 飼 育 及 び 繋 ぎ 飼 い 飼 育 下 で の ウ シ の 横 臥 行 動 の 比 較 か ら 、 横 臥 行 動 は 飼 育 環 境 の 相 違 に よ ぅ て 、 大 き く 異 なる こ と が明 ら か にな っ た 。放 し 飼 い 飼育 の 場 合 、 床 表 面 が 堅 い ド ラ イ 口 ッ ト 飼 育 群 で は 放牧 群 に くら べ 横 臥回 数 が 少な く 、 横 臥行 動 が 抑 制 き れ て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 一 方 、自 由 な 姿勢 で の 横臥 が で きな い 繋 ぎ 飼い の ス タ ン チ ョ ン 牛 床 で も 横 臥 回 数 が 多 く な り 、 飼育 環 境 の評 価 に は横 臥 回 数だ け で な く、
四 肢 の 伸 縮 、 頚 曲 げ な ど の 横 臥 姿 勢 に っ い て も 検討 が 必 要と 判 断 され た 。 また 放 し 飼 い飼 育 下 で 敷 料 の 汚 れ が 進 む に と も な い 、 横 臥 時 間 ・回 数 が 減少 し 、 横臥 姿 勢 に変 化 が 見 られ たこ と か ら、 横 臥 行動 に 関 する 指 標 が牛 床 面 の 汚れ を 判 断す る た めに も 有 効と 考 え られた 。 2)牛 床 構 造 が 異 な る 平 床 、 傾 斜 床 、 ス ノ コ 床 で ウ シ を 飼 育 し 、 横 臥 ・ 起 立 動 作 に っ い て の 詳 細 な 解 街 を 加 え 、 牛 床 構 造 と の 関 連 を 検 討し た 。 傾斜 床 及 びス ノ コ 床で は 平 床 にく
らべて横臥時間・回数とも少なくなった。また平床にくらベス丿コ床では、四肢を縮めた 姿勢や頚曲げ時間の割合が少なくなった。スノコ床では横臥・起立動作所要時間が長くな り、横臥・起立時に動作を躊躇、中断する行動も多くみられ、スノコ床での横臥行動の抑 制が動作解析からも裏付けられた。
3) 牛床 構造 のも つ物理的特徴と横臥・起立行動の関連をより詳細に解明するには、横 臥・起立動作についての運動力学的な解析が必要になる。そこで大家畜を対象とした荷重 変動記録装置を試作し、横臥・起立動作の運動力学的解析にもとづく牛床構造の評価方法 を 検討 した 。そ の結 果、 横臥 ・起 立動 作時 の荷 重変動 デ一 夕とVTR画像 デー タはよく一 致し、動作解析にきわめて有効であった。荷重変動波形と荷重中心の移動軌跡から求めた 動作所要時間や荷重のターニングポイント数は横臥・起立動作のスムーズさを示し、ター ニングポイン卜数が多いことは、横臥・起立動作の困難き、ひいては横臥・起立行動の抑 制要因になると判断きれた。また荷重変動の最大値はウシの体躯が床からうける衝撃の程 度、床反カを示すことから、やはり行動抑制要因のーっと推察された。これらの運動力学 的 パ ラ メ ー タ は 、 牛 床 構 造 評 価 の た め の 新 た な 指 標 に な り 得 る と 判 断 さ れ た 。 この荷重変動記録装置を用い、平床、板床、コンクリート製スノコ床の特徴を、運動力 学的面から解析、評価した。その結果、平床では横臥・起立動作所要時間及び荷重中心の 移動距離が短く、夕ーニングポイント数及び動作時の最大荷重が小さく、最も良好な牛床 と判断された。一方、スノコ床では横臥・起立動作所要時間及び荷重中心の移動距離が長 く、ターニングボイント数及び動作時の最大荷重が大きく、このような横臥・起立動作の 困 難 さ が 横 臥 ・ 起 立 行 動 を 抑 制 す る 要 因 に な っ て い る と 推 察 し た 。 以上のように、本研究ではウシの横臥に関する行動学的及、び運動力学的解析により牛床 構造の評価が可能であること、また快適な休息場所としての牛床には、@横臥・起立動作 所要時間が短いこと、◎横臥・起立時の荷重中心の移動距離が短いこと、◎荷重のターニ ングポイント数が少なぃこと、@荷重変動の最大値が小さいことが必要条件であることを 明らかにした。これらは、ウシの快適環境を構築するための新たな知見を提示するもので あ り、 学術 的に も実 用的 にも 高く 評価 され る。 よって審査員一同は、池滝孝が博士(農 学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。
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