博士(農学)尾崎 学位論文題名
酪農における牛舎の経営的位置づけに関する研究 学位論文内容の要旨
繁
1.研 究の目 的お よび方 法
第 二次 世界大 戦後の わが国 の牛舎 は, 乳牛の 個体管 理を目 指す 伝統的 なストールバーンが主流 で あった が,1960年代以 降に 群管理 方式の ルーズ バーン ある いはフ リース トールバーンが導入さ れ ,これ を機に 「人 と乳牛 と牛舎 との係 わり 方」を1っの体系として見直す必要が高まってきた。
本 論文で は牛舎 を単 に乳牛 の収容 施設と して とらえ るので はなく ,人と 乳牛からの多面的な要請 に 応える 場とし てと らえる ことに よって ,新 たな牛 舎構造 のあり 方を明 らかにしようとしたもの で ある。
研 究方 法としてはこのような三者の関f系を人一牛舎・一乳牛系としてとらえ,さらにこれを人一 乳 牛系, 人―牛 舎系 ,乳牛 ー牛舎 系に分 解し て考察 するこ とによ って, 酪農における牛舎の経営 的 位置づ けを明 確に した。 本研究 で調査 対象 とされ た牛舎 数はル ーズバ ーン61例,ストールバ―
ン125例 ,フリ ース トール バーン138例 で,こ のほ か補完 資料と して,1950以降の農水省畜産統計 が 用いら れた。
2.戦 後にお ける牛 舎の 変遷と 各系と の関係
わ が国で 牛舎 の建築 が活発 化した のは ,1戸 あた りの乳 牛飼養 規模が 急激に 拡大 した1960年以 降で ある。 いま ,当時 から現 在までの酪農の展開過程を10年きざみでみると,@1960〜 1969年は 酪農 の始動 〜加 速期, ◎1970〜1979は跛 行期, ◎1980〜 国際競 争始動 期といえよう。牛舎の中心 は 全 期 間を 通 じ て ス トー ル バ ― ン であ る が , 詳 細 にみ る と そ れ ぞれ の時 代に変 容し ている 。 すな わ ち @ の 時 期に は 戦後長 らく続 いた1頭余 の全国 平均 飼養規 模が, 一挙に5頭 (北海 道は 10頭 )を超 えた。 高度経 済成長 のもとで農村の労働力不足が深刻化してきた時期でもあったので,
新築 される 牛舎 では省 力化の ための スト ールの 配列の 検討, バケッ ト式 ミルカ―の導入などが進 ん だ 。 この 意 味 で は 人牛 舎系 が重視 された 時期と もいえ る。 省力牛 舎を標 ぼうす るル ーズバ ー ンが 登場し たの もこの 時期で あるが ,そ の機能 を十分 に発揮 する条 件が 揃わず,次期には大部分
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が中止またはストールバーンヘ転向した。
◎では平均飼養規模が16頭(北海道で33頭)を突破するが,土地条件を無視した急激な規模拡 大のために畜産公害が頻発し,さらには生乳の過剰生産傾向があらわれるに至って,無謀な規模 拡大に警告が発せられた時期である。いいかえると乳牛―牛舎系が問題になった時期である。パ イプラインミルカ一,バルククーラ一,バーンクリーナーなど,生乳あいるは牛舎の衛生管理の ための機械設備の導入とあわせて,酪農家の関心は牛舎内外におけるふん尿の合理的処理方法に 集まった。
◎に入ると平均飼養規模は30頭(北海道で53頭)を超えた。国際競争に勝っための低コスト生 産を可能とする牛舎が,人一牛舎―乳牛系のなかで議論された時期である。具体的にいえば,少 ない管理労働カと少ない牛舎所要面積のもとで高泌乳牛の能カをいかに発揮させ,良質な生乳を 生産するかが課題となった。フリーストールバーンはそれに応え得る牛舎として導入されたが,
個体管理に慣れた酪農家にとってこの方式を使いこなすには問題が多く,なお試行錯誤が続いて いる。この牛舎で実績をあげている経営者の共通点は,十分な時間をかけてその特徴を研究し,
自 分の 経営 に見 合っ た 形( 人・ 乳牛 ・牛 舎 の調 和) にし て 導入 して いる ことである。
3.牛舎の経営的位置づけ
酪農経営における牛舎を人(酪農家)―牛舎―乳牛系のなかでとらえると,牛舎は人―乳牛あ るいは人―牛舎,乳牛―牛舎の各系の中で生じた諸矛盾(課題)が還流するかなめにあたる。そ れは換言すれば飼養技術と経営経済の結節点でもある。このように牛舎を経営のなかで位置づけ ると,現存する牛舎は人・乳牛・牛舎がそれまでに内包していた諸矛盾の解決(最小化)を意図 して建てられた所産といえる。
人,乳牛,牛舎が抱える矛盾は多様で時代とともに質・量ともに変化している。労力不足の時 代には牛舎設計はもヮぱら省力化に重点がおかれるし,乳量・乳質が重視される時代には高泌乳 牛の管理に合わせた牛舎が建てられる。そして省資源時代には低コスト牛舎が求められる。しか しながら,短期的対応としてこのような動きが認められるとしても,長期的には特定の系の重視 は他方にしわ寄せを生み,ある矛盾の解決は新たな矛盾発生の原因となる。経営の大規模化とと もに牛舎も大型化かつ精緻化し,小回りが効きにくくなった昨今,人・乳牛・牛舎のバランスの 取れた牛舎であることが望ましい。牛舎の日常管理をはじめとして,この調整役は,酪農家自身 であることも忘れてはならない点である。
4.こ れから の牛舎 のあり 方
最後 に 以 上 の 諸点 を 踏 ま えたう えで, 本研究 では これか らの牛 舎のあ り方 にっい て2,3の 提 言を 試みて いる 。
@農 場の 新旧, ストー ルバー ン, フリー ストー ルバー ンのい かん を問わ ず,共通的に分娩,哺 育, 育成関 連施 設が成 牛舎に 比べて 見劣り する 。これ までに もしば しは 指摘されていたように,
大 規 模 酪農 経 営 の 成 果は , 哺育 ー育成 種付ー 分娩の サイ クルを いかに 円滑に するか によ って決 まる ので, 経営 全体と して, この部 門にそ の重 みに見 合った 資金と 労カ の再分配を検討する必要 があ る。
@さ らに 共通的 な課題 として ,土 地面積 の多少 に関係 なく, 舎飼 いの周 年化が進んでいること であ る。陽 光の 下での 飼養を あきら め,人 工的 環境の 下での 飼養に 終始 することの弊害は論ずる まで もない が, せめて 天窓( 採光窓 )の設 置と 開閉を ,換気 に対す る配 慮と同じように行うべき であ る。ふ ん尿 処理問 題が再 燃して いるの も, このよ うな舎 貞司い 傾向 によるところが大きい。
◎ス トール バーン は省力 管理 ,乳牛 の居住 性,搾 乳衛 生など からみ て,今 後の改善の余地は少 な い。た だし, 多く の酪農 家がこ の管理 方式に 慣れ ている し,中 小規模 の経営では牛群を揃えに く いなど の理由 もあ って, シェア を低め ながら 今後 とも存 続して いくも のと予想される。当面の 改 善点と しては ,搾 乳の衛 生管理 と省力 化があ げら れる。 ミルキ ングパ ーラーを併設するのが効 果 的であ るが, この 場合ス トール とパー ラーの 位置 関係, パ―ラ ーとス トール間の牛の通路など の 見直し が必要 とな る。
@ 大規模 経営 におけ るフリ ースト ―ル バーン のシェ アは, 今後ま すま す拡大するものと考えら れ る。 高泌 乳牛の 管理の むずか しさ もさる ことな がら,100頭 前後 の大群 をひと まとめ にして 管 理 する こと は容易 でない 。優れ た牛 群維持 のため には多 数の育 成牛 の飼養 管理も 伴う。 した が1 て ,この 方式を 採用 するこ とは単 なる牛 舎形式 の変 更や省 力効果 の追求 ではなく,乳牛の能カを 最 高度に 引き出 すた めに牛 舎環境 をいか に整備 する か,と いう発 想が基 本になければならない。
1群 あたり の頭数 は牛 の能カ や社会 的行動 ,作 業者の 管理能 カなど を考慮 して 决める 必要が ある が ,経営 主体( 家族 経営か 企業経 営か) の規模 限界 とあわ せて検 討する 問題である。同時に,そ れ ら の 群 分 け に 対 応 で き る 牛 舎 の 構 造 や レ イ ア ウ ト の 研 究 が 今 後 の 課 題 と な る 。 以 上本研 究は ,乳牛 舎を「 人一牛 舎一 乳牛」 系とし て把え,酪農家と乳牛と牛舎自体との3者の 内 包する 諸矛盾 の結 節点と して把 握するという視点から,過去,現在,将来の乳牛舎のあり方を明 ら かにし たこと にユ ニーク さがみ られる。よって審査員一同は別に行われた学力確認試験の結果を も 勘案し て,本 論文 の提出 者尾崎 繁は博士(農学)の学位を受ける十分な資格があると認定した。
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学位論文審査 の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
天 間 七 戸 太 田 原 長 南
征 長 生 高 昭 史 男
1.研 究の目 的およ び方法
第 二次世 界大戦 後の わが国 の牛舎 は,個 体管 理を目 指す伝 統的な ストールバ―ンが主流であヮ た が,1960年以降 に群管 理方式 のルー ズバ ーンあ るいは フリー スト ールバーンが導入され,これ を 機に「 人と乳 牛と牛 舎と の係わ り方」 を1っの体 系とし て見直 す必 要が高 まって きた。 それ は 牛 舎を単 に乳牛 の収容 施設 として とらえ るので はなく ,人 と乳牛 からの 多面的な要請に応える場 と してと らえる ことに よっ て,新 たな牛 舎構造 のあり 方を 明らか にしよ うとしたものである。本 論 文では このよ うな三 者の 関係を 人一牛 舎―乳 牛系と して とらえ ,さら にこれを人―乳牛系,人 一 牛舎系 ,乳牛 一牛舎 系に 分解し て考察 するこ とによ って ,酪農 におけ る牛舎の経営的位置づけ を 明確に した。
本 研究で 調査対 象と された 牛舎は ,ルー ズバ ーン61例 ,スト ール バーン125例 ,フリ ースト ー ル バ ー ン138例 で ,こ の ほ か 補 充 資料 と し て ,1950年 以降 の 農 水 省 畜産 統 計 が 用 い られ た 。
2.戦後に おける 牛舎 の変遷 と各系 との関 係
わが国 で牛舎 の建築 が活発 化し たのは1960年以 降であ る。い ま,当 時か ら現在までの酪農の展 開 過程を みる と,@1960〜1969年 は酪 農の始 動〜加 速期, ◎1970〜1979年は 跛行期,◎1980〜国 際 競争始 動期 といえ よう。 牛舎の 中心 は全期 間を通 じてス トール バー ンであ るが,詳細にみると そ れぞれ の時 代に変 容して いる。
すなわ ち@の 時期に は,新 築さ れる牛 舎では 省力化 のた めのス トール の配列の検討,バケット 式 ミ ル カ ー の導 入 な ど が 進んだ 。この 意味 では「 人―牛 舎系」 が重視 され た時期 ともい える。
◎では ,土地 条件を 無視し た急 激な規 模拡大 のため に畜 産公害 が頻発 し,さらには生乳の過剰 生 産傾向 があ らわれ るに至 った時 期で ある。 いいか えると 「乳牛 牛舎 系」が 問題にナょった時期 で ある。 パイ プライ ンミル カ一, バル ククー ラー, バーン クリー ナー など, 生乳あるいは牛舎の 衛 生管理 のた めの機 械設備 の導入 とあ わせて ,酪農 家の関 心は牛 舎内 外にお けるふん尿の合理的
処理方法に集ま1た。
◎ に入 る と平 均飼 養 規模は30頭を超 えた。国際競争に 堪えるための低コ スト生産を可能とす る 牛舎 が, 「 人一 牛舎 一 乳牛系」のなか で議論された時期 である。具体的に は,少ない管理労働 カ と牛舎面積のもとで 高泌乳牛の能カを いかに発揮させ, 良質な生乳を生産す るかが課題となった。
フリーストールバー ンはそれに応え得 る牛舎として導入 された。
3.牛舎の経 営的位置づけ
酪 農 経営 にお け る牛 舎を 人(酪農 家)‥牛舎―乳牛系 のなかでとらえる と,牛舎は人―乳 牛あ るい は 人― 牛舎 , 乳牛 牛舎 の 各系 の中 で 生し た諸 矛 盾( 課題 ) か還 流す るかなめにあたる 。そ れは 換 言す れば 牛 舎は 飼養 技術と経 営経済の結節点でも ある。このように 位置づけると,現 存す る牛 舎 は人 ・乳 牛 ・牛 舎が それまで に内包していた諸矛 盾の解决(最小化 )を意図して建て られ た所産といえ る。
人 , 乳牛 ,牛 舎 が抱 える 矛盾は多 様で時代とともに質 ・量ともに変化し ている。労力不足 の時 代には牛舎言 殳計はもっぱら省 力化に重点がおかれ るし,乳量・乳質 が重視される時代には高泌乳 牛の 管 理に 合わ せ た牛 舎が 建てられ る。そして省資源時 代には低コスト牛 舎が求められる。 経営 の大 規 摸化 とと も に牛 舎も 大型化か っ精緻化し,小回り が効きにくくなっ た昨今,人,乳牛 ・収 容能カのバラ ンスの取れた牛舎 であることが望まれ ている。
4.将来への 提言
以 上 の諸 点を 踏 まえ たう え で, 本研 究 では これ か らの 牛舎 の あり 方に っいて2,3の提言 をし ている。
@ ス トー ルバ ー ン, フリ ーストー ルバーンのいかん を聞わず,共通的に 分娩,哺育,育成 関連 施設 が 成牛 舎に 比 べて 見劣 りする。 大規模酪農経営の 成果は,喃育‥育成 ―種付ー分娩のサ イク ルをいかに円 滑にするかによっ て决まるので,経 営全体として,これ らの部門にその重みに見合っ た資金と労カ の再分配を行なう 必要がある。
◎共通的な 課是頁として,土 地面積の多少に関係なく,舎飼いの周年化が進んでいることである。
人工 的 環境 下で の 飼養 に終 始する場 合,せめて採光窓 の設置と開閉を,換 気に対する配慮と 同じ ように行うべ きである。
◎ ス トー ルバ ー ンは 省力 管理,乳 牛の居住性,搾乳 衛生などからみて, 今後の改善の余地 は少 ない 。 ミル キン グ パー ラー を併設す るのが効果的であ るが,この場合のス トールとパーラ― の位
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置 関 係 , パ ー ラ ー と ス ト ー ル 間 の 牛 の 通 路 な ど の 見 直 し が 必 要 と な る 。 (4つ フリーストールバーンのシェアは,今後ますます拡大するものと考えられる。高泌乳牛の管 理 のむず かし さもさ ること ながら ,100頭前 後の大 群をひ とまと めに して管 理する ことは 容易で な い。優 れた 牛群維 持のた めには 多数 の育成 牛の飼 養管理 も伴う 。1群あた りの 頭数は 牛の能 カ や 社会的 行動, 作業者 の管理 能カ などを 考慮し て決め る必 要があ るが, 経営主体の規模限界とあ わ せて検 討すべ き問題 である 。同 時に, それら の群分 けに 対応で きる牛 舎の構造やレイアウトの 研 究が今 後の課 題とな る。
以上本 研究は 乳牛舎 を「人 ―牛 舎―乳 牛」体 系とし て把 え,酪 農家と 乳牛と 牛舎自 体と の3者 の 内包す る諸矛 盾の結 節点と して 把握す るとい う視点 から ,過去 ,現在 ,将来の乳牛舎のあり方 を 明らか にした ことに ユニー タさ がみら れる。 よって 審査 員一同 は別に 行われた学力確認試験の 結 果をも 勘案し て,本 論文提 出者 尾崎繁 は博士 (農学 )の 学位を 受ける 十分な資格があるものと 認 定した 。