博 士 ( 理 学 ) 米 田 純 也
学 位 論 文 題 名
フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン 由 来 の 組 換 え ぺ プ チ ド に よ る 癌 転 移 の 抑 制 と そ の 作 用 機 序 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
癌 の 転 移は 種 々の 複 雑 な反 応 カス ケ ー ドか ら成 り立って いる。この メカニズ ムが分子 レ ベ ル で 研究 が 進む に っ れて 、 多く の 細 胞接 着分 子が接着 という現象 を通して 癌転移に 関 与 し て おり 、 その 機 能 ・調 節 が転 移 成 立に 重要 な役割を 担っている ことが明 らかとな っ て き た 。こ れ らの 細 胞 接着 分 子は 、 本 来は 細胞 の発生、 分化、増殖 、炎症、 創傷治癒 、 血 液凝固な どの生命 現象の調 節、維持を 司る分子 である。 その接着 様式も蛋白質―蛋白質 問 、蛋白質 ‐糖鎖間、あるぃは糖鎖‐糖鎖間と多種多様であることが明らかにされてきた。
癌 細胞は転 移の各段 階で癌細 胞→癌細胞 間、癌細 胞,正常 細胞(血 管内皮細胞、血小板、
免 疫 担 当細 胞 など ) 問 ある い は癌 細 胞 ・細 胞外 マトリッ クス(Extracellular matrix, ECM) 構 成蛋 白 質問 に 関 わる 接 着分 子 の 基質 特 異 性や 親 和性 あ る いは 量 的な違 いを巧み に 使い分け ながら遠 隔臓器ヘ 転移すると 考えられ る。
一 方、接着 分子を介 した細胞 の接着相互 作用の機 能を細胞 接着性ベ プチドによって調節、
制 御するこ とにより 、癌の転 移・浸潤を 抑制しよ うとする 試みが以 前からなされている。
特 に 、 フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン 分 子 中 の GRGDS配 列 や ラ ミ ニ ン 分 子 の 接 着 配 列 CDPGYIGSR( イ ン テ グ リ ン 分 子 群 に 属 さ な ぃ67kDaラ ミ ニ ン レ セ プ タ ー が 認 識 す る ) を 用 い た研 究 が数 多 く 行わ れ てい る 。 本研 究 で は図1に 示 す様 な フ ィブ ロネ クチン中 に 存 在する細 胞接着ド メイン(C‑274)とへパリ ン結合ド メイン(H‑271)を融合させたキメ ラ ベ プ チド (CH‑271) を 用い て 異な る 機 能性 ドメイン を融合さ せることに より、癌 転移 の 抑 制 効 果 に 及 ぼ す影 響 にっ い て 検討 を 行っ た 。 また 、 この よ う な接 着 ペ プチ ド を用 い た 癌 転移 の 治療 (Anti‑adhesion therapy) の応 用 の 可能 性 を探 る た めに、 抗癌剤と の 併用効果 とその作 用機序に ついても検 討した。
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C‑ 2'74 H‑271 CH‑271
図1. フ ィ プ ロ ネ ク チ ン の 構造 と 組 換 え べ プ チ ド
細胞結合ドメインペプチド(C‑274): Pr01239‑Asp151213つのタイプmホモロジ―ユニットを台む,
ヘパリン結合ドメインベブチド(H‐271):川a16901Thr1960.
キ メ ラ ペ プ チ ド ( CH・ 271) : Pr01239− Scr1515‐ (Mct) ・ H. 271. 1.CH―271は フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン と 同 様 に 細 胞 の 移 動 、 伸 展 お よ び 接 着 斑 (Focal contact) の 形 成 を 誘 導 し た が 、C‐274あ る ぃ はH‐271で は こ れ ら の 誘 導 は 観 察 さ れ な か っ た 。CHー271は 細 胞 膜 表 面 上 の イ ン テ グ リ ン お よ び へ パ ラ ン 硫 酸 な ど の グ リ コ サ ミ ノ グ リ カ ン に よ っ て 、 細 胞 接 着 ド メ イ ン お よ び へ パ リ ン 結 合 ド メ イ ン を そ れ ぞ れ 認 識 さ れ て い る こ と が 以 下 の 実 験 よ り 明 ら か と な っ た 。 (1)RGDSペ プ チ ド 、 抗n5あ る ぃ はa3 抗 体 お よ び 抗 声1抗 体 がCH・271に よ っ て 誘 導 さ れ る 癌 細 胞 の 移 動 を 阻 害 し た 。 (2) 癌 細 胞 をheparatinaseIで 前 処 理 す る こ と に よ り 培 養 初 期 段 階 で の 一 時 的 な 細 胞 移 動 の 阻 害 が 観 察 さ れ た 。 (3)CH‐271の へ パ リ ン 結 合 ド メ イ ン 中 の 第13番 目 の タ イ プIII モ ジ ュ ー ル を 欠 損 さ せ る こ と に よ り 、 接 着 斑 の 形 成 を 伴 う 細 胞 伸 展 お よ び 細 胞 移 動 の 誘 導が著しく減少あるいは失活することが示唆された 。
ま た 、CH‐271の ヘ パ リ ン 結 合 ド メ イ ン 内 の 第13番 目 の タ イ プIIIモ ジ ュ ー ル が 特 に活性発現に重要な働きを持つことが示唆された。
2. CH―271は マ ウ ス メ ラ ノ ー マB16‐BL6細 胞 の 肺 転 移 お よ び マ ウ ス リ ン パ 腫 L5178Y‐ML25細 胞 の 肝 転 移 をC‐274、H‐271あ る い は 未 処 置 群 と 比 較 し て 、 有 意 な 抑 制 お よ び 治 療 効 果 と 延 命 効 果 を 示 し た 。 ま た 、CH.271の 転 移 抑 制 効 果 の 機 序 の1っ と し て 、 免 疫 機 能 低 下 マ ウ ス を 用 い たL5178Y‐ML25細 胞 の 肝 転 移 実 験 に お い て も 転 移 抑 制 効 果 を 示 し た こ と か ら 、 免 疫 系 の 細 胞 を 介 し た も の で は な く 、 む し ろL5178Y‐ML25細 胞の肝臓への着床の阻害によることが示された。
3. CH―271は 癌 細 胞 の フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン お よ び ラ ミ ニ ン 基 質 へ の 接 着 を 濃 度 依 存 的 に 阻 害 し た 。C‐274はRGDS依 存 的 に 癌 細 胞 の フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン ヘ の 接 着 の み 抑 制 し 、 一 方 、H‐271は ラ ミ ニ ン ヘ の 接 着 の み を 抑 制 し た 。 同 様 に し てCH‐271は フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン お よ び ラ ミ ニ ン と の 相 互 作 用 を 介 在 し た 癌 細 胞 の 移 動 ・ 浸 潤 を 濃 度 依 存 的 に 抑 制 し た 。
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なお、本実験に用いた組換えベプチドは、癌細胞に対して直接的な増殖抑制活性および毒 性は示さなかった。
4 .L5178Y‑ML25 リ ン パ腫細胞由 来の培養上 清により、 炎症部位で 見られるよ うな 血管内皮細胞の活性化を引き起こし、癌細胞の血管内皮細胞への接着能を亢進させた。ま た、活性化 内皮細胞に 対するL5178Y‑ML25 細胞の接着 能の亢進は 、抗 IL‑1 ロ抗体、抗 ELAM‑1 抗 体お よ び ELAM‑1 のり ガ ンド の ーっ で ある シ アリル LeX 糖鎖 の添加によ り濃 度依存的に阻害された。以上の結果から、活性化内皮細胞への癌細胞の接着の増強は、
癌細胞由来の IL‑1 ロにより内皮細胞が活性化され、それに伴って内皮細胞上に発現が誘 導された ELAM‑1 分 子を介して 引き起こさ れていることが示唆された。このような活性 化内皮細胞 への癌細胞の接着はCH‑271 およびH‑271 によって抑制されたが、 C ―274 では 抑制されなかった。
5 . CH ― 271 と抗癌剤 との併用投 与は、マウ スメラノー マ B16‑BL6 細胞 の肺転移およ び、マウス リンパ腫 L5178Y‑ML25 細胞の肝 転移をそれ ぞれ単独投 与群と比較して、よ り 効 果 的 に 抑 制 し た 。 L5178Y ・ ML 25 細胞 を 移植 し た担 癌 マ ウス に 対し て 、 CH − 271 と抗癌 剤との併用 投与 t ま、各単独 投与群に比較して有意な延命効果を示した。癌 転移に対する CH ―271 および抗癌剤による癌転移抑制効果は併用投与により増強した。そ の作用機序は、CH‑271 は癌細胞のマトリジェルヘの接着・浸潤の阻害、抗癌剤は直接的 な癌細胞の増殖抑制に基ずくことが示唆された。
以上のことから、フィブロネクチン由来の2 つの機能性ドメインを融合したキメラベプ チド(CH‑271 )は、その立体構造が元来のフィブロネクチン分子とは異なっている可能性 があるにも関わらず、 癌細胞表面上のインテグリン・レセプターおよびグリコサミノグリ カンによって、 CH‑271 中の細胞接着ドメイン翁よびへパリン結合ドメインをそれぞれ認 識され、細胞の機能発現を誘導しうることが明かとなった。このことが、各ドメイン単独 による癌転移抑制に比ぺ、より強い癌転移の抑制効果を示した要因の1 っであるかも知れ ない。また、癌細胞の接着や運動を阻害する CH‑271 とは異なり、主として癌細胞の増殖 抑 制 に 働 く 抗 癌 剤 と の 併 用 投 与 は 、 よ り 効 果 的 な 癌 転 移 抑 制 効 果 を 示 し た 。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 東 市郎
副査 教授 盛田フミ 副査 教授 菊池九二三 副査 教授 済木育夫
(富山医科薬科大学和漢薬研究所)
学 位 論 文 題 名
フィブ口ネクチン由来の組換えペプチドによる 癌転移 の抑制 とその作用機序に関する研究
癌 の転 移 は種々の複雑 な反応カスケードから成り立 っている。このメカニズム が分子レベルで研究が進むに っれて 、多くの細胞接着分子が接 着とぃう現象を通して癌転移 に関与しており、その機能・調節が転移成立に 重要な役割を担っていることが明らかとなってきた。
一 方、接着分子を介した細胞 の接着相互作用の機能を細胞 接着性ペプチドによって調節、制御することに よ り、 癌 の転移・浸潤 を抑制しようとする試みが以 前からなされている。特に 、フィプロネクチン分子中の GRGDS配 列 や ラ ミ ニ ン 分 子 の 接 着配 列CDPGYIGSR( イン テグ リン 分 子群 に属 さな い67kDaラミ ニ ンレ セプ ターが 認識する)を用いた研究が 数多くなされている。本研究 ではフィプロネクチン中に存在する細胞接着ド メイン(C‑274)とへバリン結合ドメ イン(H‑271)を融合させたキメラペプチド(CH‑271)を用いて異なる機能性ド メイン を融合させることにより、 癌転移の抑制効果に及ぼす影 響ついて検討を行った。また、このような接着 ペプチドを用いた癌転移の治療(Anti‑adhesion ther.apy)の応用の可能性を探るために、抗癌剤との併用効果とそ の作用機序についても検討した。
1.CH‐271はフィプロネクチンと同様に細胞の移動、伸展およぴ接着斑(Fo凵contact)の形成を誘導したが、
C‐274あるいはH‐271ではこ れらの誘導は観察されなかっ た。CH‐271は細胞膜表面上 のインテグリンお よ ぴ ヘバラン硫酸 などのグリコサミノグリカン によって、細胞接着ドメイ ンおよぴヘパリン結合ドメイ ン を それ ぞれ 認識 され て いる ことが以下の実 験より明かとなった。(1)RGDSペプチド、抗ロェあるい は ユ抗 体お よぴ 抗pエ抗 体がCH.271に よっ て誘 導さ れる 癌 細胞 の移 動を 阻害 した。(2)癌細胞を hep弧d| 職Iで前 処理 する こと に より 培養 初期 段階 で の一時的な細胞移動 の阻害が観察された。(3) CH‐271の ヘ パリ ン結 合ド メイ ン 中の 第13番目 のタ イ プIIIモジュールを 欠損させることにより、著し く 接着班の形成を伴う細胞抻 展およぴ細胞移動の誘導が減 少あるいは失活した。ことから、示唆された。
2.CH‐271は マウ スメ ラノ ー マB16−BL6細 胞 の肺 転移 およ ぴマウスリンパ腫L5178Y‐ML25細胞の肝転移を C・274、H‐271あ るいは未処置群と比較して、 有意な抑制およぴ治療効果 と延命効果を示した。また、
CH―271の 転 移抑 制効 果の 機序 の1っとして、u178Y.M125細胞の肺およぴ 肝臓への着床の阻害によるこ とが示された。
3.CH.271は癌細胞 のフィプロネクチンおよぴラ ミニン基質への接着を濃度 依存的に阻害した。C‐274は RGDS依存 的に 癌細 胞の フ イブ ロネ クチ ン ヘの 接着 のみ 抑制し、一方、H‐271はラミニンへの接着のみ を 抑 制し た。 同様 にし てCH−271はフィブロネ クチンおよぴラミニンとの 相互作用を介在した癌細胞の
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移動・浸潤を濃度依存 的に抑制した。
4.L5178Y‑ML25細胞由来の培養上清により 、炎症部位で見られるような 血管内皮細胞の活性化を引 き起こ し、癌細胞の血管内皮細胞への接着能を亢進させた。活性化による内皮細胞への癌細胞の接着の増強は、
癌細胞由来のIL‑1pに より活性化された内皮細胞上 に発現が誘導されたEl.AM‑1分子を介して引き起こ されていることが示唆 された。このような活性化 内皮細胞への癌細胞の接着はCH‑271およびH‑271によ って抑制されたが、C‑274では抑制されなかった。
5.CH‑271と 抗癌 剤 との 併用 投与 は、 マ ウス メラ 丿― マB16‑BL6細 胞 の肺 転移 およ び 、マ ウス リン バ腫 L5178Y‑ML25細 胞 の 肝 転 移 を そ れ ぞ れ 単 独 投 与 群 と 比 較 し て 、 よ り 効 果 的 に 転移 を抑 制し た。
以上のことか ら、フィプロネクチン由来の2つの機能性ドメインを融合 したキメラペプチド(CH‑271)はその 立体構造が元来 のフィプロネクチン分子とは 異なっている可能性があるにも関わらず、癌細胞表面上のインテ グ ルン ・レセプターおよ ぴグリコサミノグリカンによ って、CH‑271中の細胞結合 ドメインおよぴへバリン結 合ドメインをそ れぞれ認識され、細胞の機能 発現を誘導しうることが明らかとなった。このことが、各ドメイ ン単独による癌 転移抑制に比べ、より強い癌 転移の抑制効果を示した要 因の1つであるかも知れない。また、
癌 細胞 の癌細胞の接着や 運動を阻害するCH‑271とは異 なり、主として癌細胞の増 殖抑制に働く抗癌剤との併 用投与は、より 効果的な癌転移抑制効果を示 した。