博 士 ( 理 学 ) 加 々 田 剛
学位 論 文題 名
Effect of Surface Interaction on Fricton of Gels (ゲルの表面 摩擦に及ぼす界面 相互作用の効果)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
生体に関する摩擦の研究学―バイオトライポロジーにおいて、現在最も多くの関心を 集め、かつ臨床的に極めて切実な問題となっているのは、関節(人工関節)の摩擦で ある.現在の人工関節は全て固体物質で造られているが、これが示す摩擦係数は生体 関節のそれよりも数十倍大きい.その結果人工関節表面は磨耗を来し、関節のゆるみ (looserung)の発生や磨耗粉が体内へ徐々に溶出するといった問題を今も抱えたままで いる.加えて、このような固体素材による人工関節では、本来の関節軟骨が示すクッ ションとしての衝撃吸収性はほとんど期待できない.生体関節の軟骨はコラーゲン繊 維のネットワークを骨格とし、その間隙に75〜78重量%もの水を含んだゲル状の物質 である.人工関節が抱える諸問題は、この含水構造の事実を全く無視した設計である ことに起因しているであろうことは想像するに難くない.
他のどのような固体物質とも異なり、高分子ゲルは溶媒を含んでいて柔らかく、外 部の環境変化に対して動的に応答し、その構造や形状,性質を変化させる極めて興味 深い素材である.その可能性の高さゆえ、前述した人工関節の軟骨部分や人工臓器な ど生体への応用が期待されているが、それに深く関わってくる高分子ゲルの表面・界 面の性状に関する知見は、基礎的な部分でさえもほとんど明らかになっていない.そ のため「表面摩擦」という切口でもって、高分子ゲルの表面・界面性状の基礎的知見 を得ることを目的としたのが本研究である.
本論文は第1章の序論、第2章から第5章までの本論、第6章の結論で構成される.
第2章では、摩擦界面における表面間相互作用の観点から、ゲルの表面摩擦が理論 的にどのようなメカニズムによって生じうるかについて述べている.要点は次の通り である:表面間相互作用が(a)反発的である場合は、界面において高分子網目の欠乏 層が生じ、替わりに溶媒層が形成される.結果、溶媒層のニュートン流れで生じる粘 性抵抗が摩擦を支配する.逆に(b)吸着的である場合は、定常な相対運動の下、ある 平均の数でもって吸着点が存在する,この吸着点の移動によって高分子鎖は延伸され、
弾 性 カ が 蓄 え ら れ る . 結 果 、 こ の 弾 性 カ が 摩 擦 と し て 現 れ る . 次 章 以 降 で は 、 こ の 理 論 的 予 測 の 正 否 を 実 験 的 に 検 討 ・ 議 論 し て い る . 第3章では、電荷が網目上に固定された電解質ゲルを用いることで、表面間相互作 用の効果を検討した.結果、同種電荷のゲルどうし間で生じる摩擦は極めて小さい(摩 擦係数ロ〜1■―1■)のに対し、互いに異なる電荷を持っゲルどうしでは、ゲルが壊れ
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る ほど の大 きな 摩擦 が生 じた .更 には 、電 解質 ゲル の摩擦挙動は系のイオン強度に強 く 依存 する こと を実 験的 に明 らか とし た, これ らの 結果は、表面間の静電相互作用が 摩 擦挙 動に 大き く影 響し たた めで あり 、第2章で 述ぺ たモ デル の基 本概 念一 界面相互 作用が摩擦を支配する―は 間違っていないことを示している.
ゲル は単 一の 超巨 大分 子( およ び溶 媒) から なる 物質である.すなわち、ゲル―ゲ ル 間の 相互 作用 は単 一分 子間 の相 互作 用に 他ぬ らず 、その効果・影響が摩擦という現 象でもって巨視的に観察さ れたことは非常に意義深い.
第4章で は、 ゲル 表面 で 生じ る摩 擦カ の滑 り速 度依 存性 に焦 点を 絞り 、そ の検討を 図 っ た , そ の 結 果 、 界 面 相 互 作 用 が 反 発 的 で あ る 場合 、(1)摩 擦力Fと滑 り速 度vは Fばv (05asl/2)の 関 係 に あ り 、aは あ る 臨 界 の 圧縮 歪み を境 に0か ら1/2へと 変化 す る. 更に(2)この 臨界 の 圧縮 歪み は温 度に 強く 依存 し、 高温 であ るほ ど, よめ小さ い 歪み でaが変 化す るこ と を明 らか とし た. この 結果 は、 ニュ ート ン流 れに よる粘性 抵 抗(a=l)が 摩擦 を支 配 する とい うモ デリ ング とは 異な って おり 、高 分子 網目の表 面(え&表面間の反発相互 作用)だけではなく、パルクの性状も何らかの寄与をし てい ることを示唆する.他方, 相互作用が吸着的である場合、摩擦カはある滑り速度vlluul に おい てピ ーク を示 すこ とを 実験 的に 示し た. このVmaxは、熱揺らぎによって摩擦基 板 との 間で 吸脱 着を 自発 的に 繰り 返す 高分 子鎖 の揺 らぎ速度に相当しており、それ以 上の滑り速度の下では高分 子鎖の吸着寿命が著しく縮まる(吸着点数が減る).そ の結 果摩擦カがピークを示した ことを明らかとした.
表 面 問 で 斥 カ が 働 く 場合 、生 じる 摩擦 カは 流体 潤滑 (HL)の 寄与 によ り 非常 に小 さ い が 、 そ の 摩 擦 挙 動 はHLの 考 慮 だ け で は 理 解 で きな かっ た. そこ で第5章で は、
摩 擦さ せ始 めに おけ る挙 動、 すな わち ,静 止摩 擦の 挙 動に 焦点 を当 てた .第4章まで は 、 定 常 な 相 対 運 動 下 で平 衡に 達し た動 摩擦 を対 象に 議論 した が、 単純 にHLの 機構 だ けで は理 解で きな いゲ ルの 摩擦 界面 の特 異性 は「 静→動」で平衡が崩れる移行過程 に こ そ 、 よ り 色 濃 く 現 れ る で あ ろ う と の 考 え に 基 づ ぃ て い る . . その 結果 、静 電的 斥カ が働くゲルーゲル界面は(1)摩擦界面に剪断を加えた直後に お いて は互 いに 滑り 合わ ず、(2)ある臨 界の剪断応力(静止摩擦力)Or。が界面に加わ っ て初 めて 相対 的に 滑り 出す こと を確 認し た. 加え てこのacは、剪断速度にほとんど 依存しないが系の温度には強く依存し、高温であるほど小さい(f.¢.滑りやすい)こと を 明 ら か に し た . 静 止 摩擦 を示 す理 由と して は@ 電解 質ゲ ル界 面に おけ る 水分 子の 特 異 性 状 ◎ ゲ ル 表 面 の モ ル フ ォ ロ ジ ー に よ る 影 響 ◎ 対 イ オ ン を 介 し て の 間 接 的な 表面間吸着相互作用などの 可能性を検討してぃゝる.いずれの効果・影響が静止摩 擦を 引 き 起 こ し た の か に つ いて は断 定に 至っ てい ない が、HLの 立場 では 静止 摩 擦の 存在 自 体が 考え られ ず、 静電 的斥 カが 働く ゲル 界面 の特 異性がより明確に示された.それ と 同 時 に 、 特 殊 な 相 互 作用 が界 面に 作用 して いる 可能 性が 示唆 され るに 至 った .、
第6章では、本論の内容を総括して結論とした.
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
長田 川端 佐々木 襲
義仁 和重 直樹 剣萍
学位論文題名
Effect of Surface Interaction on Fricton of Gels (ゲルの表面摩擦に及ぼす界面相互作用の効果)
本 論 文 は 第1章 の 序 論 、 第2章 か ら 第5章 ま で の本 論 、 第6章 の 結論 で 構 成さ れ る .そ の要旨は以下の通りである.
第2章 で は、 摩 擦 界面 に お ける 表 面 間相 互 作 用 の観 点 か ら、 ゲ ル の表 面 摩 擦カ 端 的に ど のよう なヌカニ ズムに よって生 じうる かについ て述べ ている. 要点は次 の通り である:
表 面 間 相 互 作 用 が り 反 発 的 で あ る場 合 は 、 界面 に お いて 高 分 子網 目 の 欠乏 層 が 生じ 、 替 わりに 溶媒層が 形成さ れる.結 果、溶 媒層のニ ュート ン流れで 生じる粘 性抵抗 が摩擦を 支 配 する . 逆 に(b) 吸着 的 で ある 場 合 は、 定 常 な 相対 運 動の下、 ある平 均の数で もって 吸 着点カ 洋紺る. この吸 着点の移 動によ って高分 子鎖は 延伸され 、弾性カ が蓄え られる・
結果、この弾性カカ即謝察として覡れる.
第3章 で は、 電 荷 が網 目 上 に固定 された 電解質ゲ ルを用 いること で、表 面問相互 作用の 効 果を検 討した. 結果、 同種電荷 のゲル どうし間 で生じ る摩擦は 匳めて小 さい( 摩擦係数 ロ 〜l(ーl03)の に対 し 、 互い に 異 なる 電 荷 を 持っ ゲ ル どうし では、ゲ ルが壊 れるほど の 大きな摩擦が生じた.更には、.電解質ゲンレの摩擦挙動は系のイオン強度に強く依存するこ と を実験 的に明ら かとし た.これ らの結 果は、表 面間の 静電相互 作用が摩 擦挙動 に大きく 影 響 した た め であ り 、 第2章 で述 べたモ デルの基 本概念 ―界面相 互作用が 摩擦を 支配する ーは間違っていないことを示している・
ゲルは単 一の超 巨大分子 (および 溶媒) からなる 物質で ある.す なわち 、ゲルー ゲル間 の 相互作 用は単一 分子間 の相互作 用に他 ならず、 その効 果・影響 が摩擦と いう現 象でもっ て巨視的に観察されたことは非常に意義深い・
第4章 で は、 ゲ ル 表面 で 生 じる摩 擦カの 滑り速度 依存性 に焦点を 絞り、 その検討 を図っ た . そ の 結 果 、 界 面 相 互 作 用 が 反 発 的 で あ る 場 合 、(1)摩 擦力Fと 滑り 速 度vはFばv (Osaく1/2)の 関 係 に あ り 、aは あ る 臨 界 の 圧 縮 歪 み を 境 にOから1/2へ と 変 化す る . 更 に(2)こ の 臨界 の 圧 縮歪 み は 温度 に 強 く依 存 し 、 高温 で あるほ ど,より 小さし ゝ歪みでa
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が変化することを明らかとした.この結果は、二ユートン流れによる粘性抵抗(a =1)が 摩擦を支配するというモデリングとは異なっており、高分子網目の表面(えB表面間の反 発相互作用)だけではなく、パルクの性状も何らかの寄与をしていることを示唆する.他 方,相互作用が吸着的である場合、摩擦カはある滑り速度Vmaxにおいてピークを示すこと を実験的に示した.このVmaxは、熱揺らぎによって摩擦基板との間で吸脱着を自発的に繰 り返す高分子鎖の揺らぎ速度に相当しており、それ以ヒの滑り速度の下では高分子鎖の吸 着寿命が著しく縮まる(吸着点数が減る).その結果摩擦カがピークを示したことを明ら かとした.
表面間で斥カカ湖く場合、生じる摩擦カは流体潤滑(HL)の寄与により非常に小さい が、その摩擦挙動はHLの考慮だけでは理解できなかった.そこで第5章では、摩擦させ 始めにおける挙動、すなわち,静止摩擦の挙動に焦点を当てた.第4章までは、定常な相 対運動下で平衡に達した動摩擦を対象に議論したが、単純にHLの機構だけでは理解でき ないゲルの摩擦界面の特異陸は「静・一勃」で平衡が崩れる移行過程にこそ、より色濃く現 れるであろうとの考えに基づいている.
その結果、静電的斥カが働くゲル―ゲル2表面は(1)摩擦界面に剪断を加えた直後にお しゝては互いに滑り合わず、(2)ある臨界の剪断応力(静Iヒ摩擦力)acが界面に加わって初 めて相対的に滑り出すことを確認した.加えてこのび。は、剪断速度にほとんど依存しな いが系の温度には強く依存し、高温であるほど小さいげなわち滑りやすい)ことを明ら かにした.静止摩擦を示す理由としては@電解質ゲル界面における水分子の特異性状◎
ゲル表面のモルフォロジーによる影響◎対イオンを介しての間接的な表面間吸着相互作 用などの可能性を検討している.いザれの効果・影響が静止摩擦を弓Iき起こしたのかに ついては断定に至っていないが、HLの立場では静Iヒ摩擦の存在自体が考えられず丶静電 的斥カが働くゲル界面の特異l生がより明確に示された.それと同時に、特殊な相互作用が 界面を支配している可能性を示唆するに至った.
著者は、高分子ゲ7レカ囀異的に示す表面摩擦の性状について、摩擦界面における表面間 相互作用の観点から系統的かつ独創的な実験を行ったことで、学術的に価値ある新知見を 多く得るに至った.よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格があ るものと認める.
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