博 士 ( 理 学 ) 松 田 明 生
学 位 論 文 題 名
自己免疫疾患モデルマウスMRL/MpJ ― lpr/lpr におけるチロシン残基 特異的プ口ティンホスファ夕一ゼ,とくにSH −PTP1 の動態と意義
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
夕ン パク質のチロシン残基ルン 酸化・脱リン酸化は、細胞の 増殖や分化などの様々な細 胞機能の調節に 重要な 役割を担っている。夕ンパ ク質チロシンリン酸化レベル は、チ口シンリン酸化を触 媒するチロシン キナー ゼとこれに拮抗して脱リン 酸化を触媒するチロシンホス ファ夕一ゼの両作用のパラ ンスにより調節 される 。免疫系においても、これ を構成する免疫担当細胞の増 殖、分化、細胞死や免疫応 答が、標的夕ン パク質 のチ口シンルン酸化を介し て調節されることが明らかに され、チロシンキナーゼ側 から多くの研究 がなさ れてきた。それに対し、チ ロシンホスファ夕一ゼ側から の解析は遅れており、本研 究はこの点に着 目し、 免疫系におけるチロシンル ン酸化・脱ルン酸化の役割を 明らかにする目的から、自 己免疫疾患モデ ル マウ スMRL/MpJ―lpr/lpr (lprマウス)を実験題材として用 い、特にチロシンホスファ 夕一ゼ側からの 解 析を 試 み、 その 病態 変異を検討 した。lprマウスは、ヒト全 身性エリテマトーデスに似 た症状を示す自 己 免疫 疾 患モ デル マウ スであり、 生後8週齢頃より自己抗体産 生、糸球体腎炎などの病態 を発症し、致死 率 は20週 齢で 約50%に 達す る 。ま た最 近に な り、lprマウス の責任遺伝子lprは、アポト ーシスを誘導す るF、aS抗原遺伝子の突然変異を起 こしたものであることが明 らかになった。本研究の目的、すなわち「免 疫系に おけるチロシンリン酸化・ 脱リン酸化の役割の解明」の題材としてこのモデルを用いた理由として、
Fas抗 原の 誘導 す るア ポトーシス には早期のチ口シンキナーゼ の活性化と、細胞質型チロ シンホスファ夕 一ゼの ーつであるSH―阿丶P1の活´陞北が必須である、とする報告がなされたことが挙げられる。すなわち、
Fas抗 原か らの 情 報伝 達の下流に 、チロシンキナーゼとチ口シ ンホスファ夕一ゼの両酵素 が関わっている ことが 示唆された。従って、Fas抗 原の機能欠損が原因とされ るlprマウスにおいて、チロ シンキナーゼお よびチ 口シンホスファ夕一ゼ両酵 素を解析することは、この免 疫病態における情報伝達機 構の変異を理解 するの みならず、正常な免疫系で のチロシンリン酸化・脱リン 酸化の意義を解明する上で も重要なことで あると 考えられる。本論文の要点 は以下の2点にまとめられる 。
1. まず 、自 己免 疫 病態 にお ける チ口 シンリン酸化の動態 を明らかにするため、lprマ ウスにおけるチロ シ ン リ ン 酸 化 レ ベ ル 、 チ ロ シ ン キ ナ ーゼ 活性 、 チロ シン ホス ファ 夕 一ゼ 活性 につ いて 、 対照 マウ ス
(十/十 マウ ス)と比較した。 夕ンパク質チロシンリン酸化 レベルの解析では、lprマウ ス、十/十マウス の脾臓および肝臓に ついて抗ホスホチロシン抗体を用しゝたウエスタンブロッティングにより比較したとこ ろ、いくっかのタン パク質で増減が認められた。 チロシンリン酸化レベルの 増減が、チロシンキナーゼと チロシンホスファ夕 一ゼの両作用によって調節されることを考慮し、次に両酵素の活性について検討した。
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ま ず、 脾臓 お よび 肝臓 にお け るチ ロシ ンキ ナー ゼ 活性 をlprマウスと十/十マウスとで比較したところ 、 細 胞質 画分 ・ 膜画 分と もに 、lprマ ウスで1.3―1.5倍の活性上昇がみられ た。次いで、臓器粗抽出液に お け るチ ロシ ン ホス ファ ター ゼ 活性 測定 系を 確立 し 、そ れを 用いてlprマウ スと十/十マウスにおける本 酵 素 活性 を比 較した 。チロシンホスファターゼ活 性の測定には、基質として チロシン残基のみが特異的に り ン 酸化 され た基質 夕ンパク質を調製する必要が ある。そこで、ウサギ脾臓 の顆粒画分よルチロシンキナ ー ゼ を精 製し 、 これ を用 いてRCM―リ ゾチ ー ムの チロ シン 残 基を 特異 的に りン 酸 化し た。ここで得られ た .32P‑RCM− ルゾチ ームを基質として用い、チロ シンホスファターゼ活性測 定系を確立し、細胞質画分お よ び 膜画 分そ れ ぞれ のチ ロシ ン ホス ファターゼ 活性の分別定量を行った。そ の結果lprマウスでは、脾臓 ・ 肝臓とも に十/十マウスに比べて細胞 質および膜の両画分ともチ ロシンホスファ夕一ゼ活性は 高値を示し、
特 にlprマ ウス 肝臓 の 細胞 質画 分で は、十/十 マウスの約2.5倍に上昇して いることがわかった。さらに 、 lprマ ウス における チロシンホスファ夕一ゼ活 性の上昇は、脾臓の細胞質画 分においては2―メルカプト 工 夕/一 ル(2―ME)濃 度 依 存 的 で あ った が、 こ れに 対し 肝臓 の 細胞 質画 分に おい て は2−ME濃度 非依 存的 で 、そ の性 状が異 なることから、両組織におい て活性上昇に寄与するチロ シンホスファターゼ分子種が 異 な る可 能性 が示唆 された。以上の結果より、自 己免疫病態において、チロ シンキナーゼおよびチ口シン ホ ス ファ 夕一 ゼの両 酵素活性が亢進していること を明らかにした。その結果 として、細胞内夕ンパク質の チ ロ シン ルン 酸化の 夕一ンオーバーの亢進やチロ シンリン酸化レベルの増減 を引き起こしている可能性が あ る。
2. 肝 臓に おい て活 性上 昇 を示 した 分子 種が 、 細胞 質型 チロ シ ンホ スフ ァタ ーゼ の ーつSH‑PTP1である こ とを 明ら かに し た。SH―I:TPlは、 遺伝学的アプローチから免疫 系特に血液細胞の発生や分 化に必須で あ るこ とが 示さ れ 、さらにlpr変異の 責任遺伝子であるFas抗原か らの情報伝達の下流にSH‑PTP1が関わっ て い る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 そ こ で 、Fas抗 原 の 機 能 欠 損 が 原 因 と さ れ るlprマ ウ ス に おい て 、 SH‑I:TP1の 動態 を ノー ザン ブロ ッ ティ ング 、ウェスタンブロッテ ィングにより解析した。脾 臓および肝 臓 では 十/十マ ウス と比 べ てmRNAお よび 酵素 夕 ンパ ク量 で有 意 な差 は認められなかった。と ころが活性 について検 討したところ、十/十マウス と比べてlprマウスの脾臓で は僅かながら有意な減少が認 められ、
こ れに 対し てlprマ ウス 肝 臓で は3―4倍 の顕 著な上昇が認められ た。これが先に記した2―ME濃度非依存 的 なlprマ ウス 肝臓 のチ ロ シン ホス ファ 夕一 ゼ 活性 上昇 の主 因 であ ることが明らかになった 。次いで、
SH‑PTP1の チ ロ シン リ ン酸 化レ ベル を解 析 した とこ ろ、 脾 臓で はlprマ ウス と十/十 マウ スは 同程 度 で あ った が、 肝臓 で はlprマ ウス のSH−vrPlは 十/十マ ウ スの それ に比 べて チ ロシ ンリ ン酸 化 レベルが明 ら かに 低下 して い た。 従っ て、lprマウ ス肝 臓 にお けるSH‑PTP1の活 性上 昇 とチ ロシ ンリ ン 酸化の低下 との相関が 示唆された。
本研究の対象であるチロ シンホスファ夕一ゼについ ては、一般の酵素夕ンパク質 と異なり酵素夕ンバク 質が不安定であり、基質特 異性が幅広いこと、またそ の研究の比較的初期段階に全 てのチロシンホスファ ターゼ分子種に共通のアミ ノ酸配列の存在が明らかに されたことから、生化学的解 析に先行して分子生物 学的手法を用いた研究が盛 んに行われ、様々なチロシ ンホスファターゼ分子種の構 造が明らかにされてき た。しかし、細胞内基質や 膜型チ口シンホスファ夕一 ゼのりガンドなどはほとんど 解明されておらず、実 際悦リン酸r匕活性を有す るのかどうかを正式には検証できていないケースすらある。従って次の段階では、
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基質の同定、活性調節の様式、生理的役割についての研究がなされる必要がある。そのためには、本酵素 の精製、活性特性の決定などの生化学的解析が不可欠である。本研究は、遅れていたチロシンホスファ夕 一ゼの生化学的解析の基礎的な研究であり、また先に述べた次の段階への研究を展望するものである。
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