学 位 論 文 題 名
博 士 ( 理 学 ) 森 田 直 樹
Biochemical studies on the fatty acid synthesis in relation to low― temperature adaptation inapsychrophilic bacterium,  ̄ 眈 ろ 九 〇sp.strainABE―1
( 好 冷 性 細 菌W6rめsp.strainABE―1の低 温適 応に 関わ る脂 肪 酸合 成の 生化 学的 研究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
Vlbrio sp. stirain ABE−1(Vibno ABE―1株)は、至適生育温度を15℃、最高生育温度 を20℃ にも つ 好冷 性細 菌で ある 。Vibrio ABE―1株 は0〜20℃まで温度範馴において膜の 流 動性 を適切な状態に保つ能カを持っていることか ら、低温環境に非常に良く適応してい る と思 われ る 。膜 脂質 の脂 肪酸 組成 は膜 の流 動性 の調 節に 重要であると考えられている が、Vibrio ABE―1株の脂肪酸組成は、(1)炭素数16の脂肪酸(16:0、16:1(9c)、16:1(7 c)、16:1(9t))に富む、(2)これら炭素数16の脂肪酸の割合は全脂肪酸の80%を占め、
そ の割 合は 生 育温 度が 変化 して も殆ど変動しをぃ、(3)最高生育温度付近でユニークな トラン ス型脂肪酸16:1(9t)が合成される、以上3つの特徴をもつ。これらの特徴的な脂肪 酸 組成 をもつ膜脂質が低温環境下で膜の流動性を適 切な状態に保つことによって、Vibrio ABE―1株の 好 冷性 はも たら され ると 考え られ てい る。 しか し、本菌の脂肪酸合成の調節 機構に関してはこれまで不明であった。
本研 究は 、 特にVibrio ABF.←1株 のお ける 脂肪 酸の 鎖長 調節川fのM定と不飽和脂肪酸 の合成 機構の解明に焦点を当て、好冷性微生物の膜の流動性調節機構を′!t化学的側面から 明らかにすることを目的に行われた。
Vlbrio rV3E一1株の脂肪酸の鎖長調節機構を明らかにするため、ネ0f胞質1山1う の55〜75% 硫 安沈 殿を 本 菌の 脂肪 酸合 成酵 素(FAS)画分とし、 [1‑1C]マ□ニルC(1Aを魅質とするin vitr〇 脂肪 酸 合成 反応 を行 った 。本菌のFASによる 脂肪酸合成はアシルキャリア一夕ンバ ク 質(ACP)の 濃度 に完 全に 依存 し、 又、 [14C]マ □二 ルCoAの脂 肪酸 への 取り 込み がチ オ ラク 卜マイシンによって完全に阻害されることか ら、II型び〕AへSであることが示され た 。史 に、本菌のFASは 炭素数16、18の脂肪酸に加え、炭素数20〜3()の超長鎖脂肪酸を アシル ーACPの形で合成する能丿Jを潜在的に有していることがnハ′ffrU脂肪酸合成実験から 明らかとなった。この糸占果は本菌のFAS自体には、J亅旨肪酸鎖長洲節能/Jが命くないことを 意味している。
本菌 の脂 肪 酸の 鎖長 調節 機構 を明らかにするために、まず、面みぱ0脂肪酸合成反応に お けるACP濃度の影響を 訓べた。その結果、反応系r書IのACP濃度が|奇くなるにっれて合 成される脂肪酸の炭素鎖艮が短くなることが確認された。本菌細胞lllのA(:i・亅濃度は明ら か に さ れ て い な ぃ が 、 こ の 結果 はACP濃度 が脂 肪酸 鎖長 を調 節し て いる 要因 の1っで あ る こ と を 示 唆 す る も の で あ る。 次に 、FASを調 製す る際 に除 かれ る 細胞 質画 分のO〜55
% 硫 安 沈 澱 (55% 画 分 ) を 面WnIo脂 肪 酸合 成反 応系 に加 えた とこ ろ、 合成 され た脂 肪 酸の約50%は本菌が本来もっている炭素数14、16の遊離脂肪酸として1¨1Jl乂された。又、
この活 性は加熱処理によって完全に失われることから、酵素活性、只I亅ちチオェステラーゼ 活 性で ある こ とが わか った 。そ こで 、本 活性 の鎖 長特 異性 を調べたところ、炭素数16の アシル 一ACl〕とアシルーCOAに対して最も高い活性を示した。 以Jニの結果より、本菌の主 要脂肪酸を炭素数16のJl旨肪酸としている要因の1っは、この55%|‖11分II|びjチオエステ ラーゼ活性の鎖長特嶷 1゛1:にあると示唆される。
釧菌 のモノ小飽和脂肪酸合成経路には、嫌気(非酸化)経路 とむ「気(酸化)経路の2つ の存他 が知られている。嫌気経路ではモノ不飽和脂肪酸はIIの)脂JIん酸合成酵素により飽
一22‑
和脂肪 酸ととも に合成 される。 一方、 好気経路 ではモ ノ不飽和 脂肪酸は酸素に依存した飽 和脂肪酸の不飽和化反応によって合成される。
Vibrio ABE―1株に好気条件下で[14C]酢酸を与えて脂肪酸をパルスラベルすると、16:1、 18:1の 他に14:1の合 成が認め られた 。しかし 、これ らの脂肪 酸のうち14:1はその合 成 が 嫌気 経 路 の特 異 的 阻害 剤 で ある3― デシ ノ イ ル‑Nア セ チルシ ステアミ ンの存 在下で完 全 に阻 害 さ れた が 、16:1、18:1の合成は 阻害され なかっ た。これ らの結 果は、本 菌の 14:1は嫌気 経路に よって合 成され ること、 即ち、好 気条件 下でも嫌気経路が機能している こ とを示 している 。また 、16:1、18:1は好 気経路に よって も合成さ れるこ とを示唆 する もので ある。一 方、本 菌に嫌気 条件下 、好気条件下で[14CII14:0を与え、本菌の脂肪酸を バルス ラペルす ると、 嫌気条件 下では 不飽和脂 肪酸の 合成は見 られなかったが、好気条件 下では 飽和脂肪 酸とし て16:0が、不 飽和脂肪酸として16:1が合成された。しかし、14:1 の合成 は認めら れなか った。こ れらの 結果は、 好気条 件下にお いて、14:0は速やかに鎖長 伸 長、 好 気 的不 飽 和 化を 受 け 、16:0、16:1に 変 換 され る ことを示 す。よ って、本 菌は 16:0を好気 的不飽 和化する ことが 明らかと なった。 以上の 結果から、本菌が好気条件下で 不飽和 脂肪酸を 嫌気、 好気の両 経路を 経て合成 するこ とが示さ れた。両経路をもつことに よ る不 飽 和 脂肪 酸 供 給能 の 高 さが、 本菌の低 温生長( 適応) を可能に してい ると思わ れ る 。これ まで生物 は上述 の2つ の経路 の内、い ずれか一 方のみ をもっと 考えら れてきて お り 、単一 の生物で これら2つの 経路に よって不 飽和脂肪 酸を合 成すると いう例 は本菌が 初 めてである。
本薗の 最高′k育温J蔓付近で合成されるユ二一クな16:1(9t)は、これまでの研究で16:1 (9c)のシス 一卜ラ ンス異性 化反応 によって 合成され ること が間接的に示されているが、直 接的な 証明はな されて いなかっ た。16:1 (9t)の生合成経路を明らかにするために、重水素 化され た16:1 (9c)を本菌に 与えて その代謝を調ぺた。訓製した脂肪酸メチルエステルを硝 酸銀簿 層ク□マ 卜グラ フイーで シス型 とトランス型不飽和脂H方懴に分けた後、各々を二重 結合の 位置決定 に非常 に有効な 二硫化 ジメチル 付加物 としてGC一MSでう}折した。その結 果、L6:1(9t)は16:1(9c)が異性化されることによって生成されることが示され、同様に重 水素化された16:1(9t)を用いることによって16:1(9t)から16:1(9c)が生成さ才1ることも明 ら かにさ れた。こ ォ1までに知 られて いるシス ー卜ラン ス異性 化反応と 興なり 、本菌の シ ス 一 卜 ラ ン ス 異 性 化 反 応 は 二 重 結 合の 位 置 の 移動 を 伴 わな い 点 でユ ニ ー/ノ で あ る。
次 に、本 菌にお ける卜ラ ンス型脂 肪酸の 機能を明 らかに するため に、5℃で培 養した細 胞 を20℃ の培 地 に 植え 継 ぎ 、そ の 後 の炭 素 数16の 脂 肪 酸の 代謝を詳 細に調 べた。16:1 (9c) の割合は 植え継ぎ後に激減するが、その後は漸増を示した。L6:0の割合は植え継ぎ後 に増加するが、対数増殖期後矧になると減少を始め、それに伴って1(j:1(9L)の割合は増カr1 し 始めた 。又、[14C] 酢酸を用 いて本 菌の出novo飽 和脂肪 酸合成能 を植え 継ぎ後か ら経 時的に 訓べたと ころ、 弛え継ぎ 後には 合成能が 上がる が、その 後減少を続けることが明ら かにな った。こ のこと は、本菌 の飽和 脂肪酸合 成を副 る1‑ASが比較的熟に不安定であるこ とを示唆している。これまで、16:1(9t)の機能にっいては、トランス!馴脂肪酸の融点が飽 和脂肪 酸とシス 型不飽 和脂肪酸 の融点 の間にあ ること から、膜 流動性の微妙な調節に関与 していると考えられていたが、以上の結果は、16:1(9t)は細胞l勺の16:0の合成能の低下を 補 償 す る た め に 合 成 さ れ る と い う 新 し い 可 能 性 を 示 唆 す る も の で あ る 。 このよ うに、Vibrio ABE−1株におい ては、炭 素数16の アシル−ACPに特異的なチオエス テ ラー ゼ に よる 厳 密 な脂 肪 酸 の鎖長 調節、嫌 気経路と 好気的 不飽和化 の両経 路をもつ こ とによ る不飽平 ‖脂肪 酸の高い 供給能 力、そし て16:1(9c)のシストランス其1生化反応に よって 、本菌の 特徴的 な脂肪酸 組成が 決定され 、それ によって 本薗の膜脂質の流動性が適 切に訓節さォ1ていると結論される。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 石川
副査 教授 落合 鑛 廣 副査 副 査 助教授 教 授 奥山英登志 吉 田 静 夫
学 位 論 文 題 名
Biochemical studies on the fatty acid synthesis in relation to low―temperature adaptation inapsychrophilic bacterium,
 ̄Vibri〇sp.strain ABE―1
(好 冷性 細 菌Vibrio sp. strain ABE―1の低温適応に関わる脂肪酸合成の生化学的研究)
細 菌 の温 度適 応に 関 する 従米 の研 究は 、 温度 変化 と細 胞成 分組成及びf| !1!u活性の変動を 関 連 付 け る と ぃ う 現 象 面 の 記 載 に と ど ま って いた 。本 研 究は 至適 生育 温度 を15℃ 、・ 巌高 生 育温 度 を20℃に もつ 灯 冷性 細菌 (Vibrio sp.strain ABE‑1)という好適な 制・料を得て、かつ 本襾 の 脂質 に関 する 詳 荊0な 分析 結 果を もと にし て 、細 菌の 低温 適応 機 構をJ亅 旨肪 酸代謝の而 からf量三化学的 に斛19jすぺく行われたもの である。以下に、そのイi丿『究成永の熨点を述ぺる。
(1)本1謝はIIJFiUのJ亅旨Jjん職合成酵素をもち、本酵素には鎖長訓節能丿丿はなく、滞イ|:的に炭 素 数30ま で の 超K鎖 〃 冑 肪 酸 を 合 成 す る 能 カ を 有 し て い る こ と を19jら か に し た 。
(2) 本 菌 の 細 胞 質 中 に は ア シ ル ― 中 間 体 を 遊 離 脂 肪 酸 と す る 活 性 、 チ オ エ ス テ ラ ー ゼ活 性 が あ り 、 本 菌 膜 脂 質 の 主 要 脂 肪 酸 を 炭 素 数16と し て い る 要 因 の1っ は 、 こ の チ オ エ ステラーゼ活性の鎖長特異性にあることを示唆する結果を得た。
(3)ACP濃 度 が 脂)1)jpr$2:合 成 の 炭 素 鎖 長 に 影 響 を 与 え る こ と をI川 ら か に し た 。
(4) 本 菌の イく 飽和1脂 肪職 は、 好 気条 件下 では 、 好気、嫌 気のfl町経路を経て合成さ れるこ と を り ] ら か に し た 。 全 脂 質 の80% 以ヒ が 不飽 和脂 肪酸 によ っ てlITめ られ てい る本 菌の 場 合 、 両 経 路 に よ っ て 不 飽 和 脂 肪 酸 が 供 給 で き る こ と の 低 温 適 応 に お け る 生 理 的 意 義 は極めて人きい。
(5) 重 水 素 化 さ れ たJJ旨Jl)j舷 を ト レ ー サ ー と し 、 そ の 結 果 をGC・MSで 分 析 す る こ とに よってホmのトランス !叫脂肪酸、16:1(9t)は二 重結合の他越の移勦をf`1とわないシスート ランスy′1.′1イヒ反応により合成されるを明らかにした。
(6)16:1(9t)は 、l6:0の合 成能 の低 下を 補 償し 、膜 の流 動性 を 適り 丿な 状態 に維持す るため に合成されることを Jミ唆する結果を得た。
こ れら の成 釆 は、I11|占 将が ラジ オア イソトープをJrJいた 実験とそのデ`一夕のj巾r、 夕ン パ ク 質 と 脂 質 の 分 離 ・ 分 析 、G C‑MSな ど の 機 器 分 析 、 代 謝iin.:IJ:刑 の 利 川 と デ ー タ の 解 析な どのmfで 勝 れた 能丿 丿を 発揮 し たこ とに より 得 られ たも ので ある。また、1 .記の諸 知見 は 、 好 冷 性 釧 簡 の 低 温 適 応 機 構 の 理 解 に と っ て 重 要 な も の で 、 こ の 分 野 の 発 艇 に 寄 与 す る ところ大であり、1勺外よ りの高い評価を得ている。
こ れ ら のf沂 究 成 果 を ま と め た 主 論 文 の 内 容 、 お よ び 凵 頭 発 表 に よ る 妓終 試 験の 成績 を総 合して検討した結果、審 備員,同は中請者が障上(l:qlt'f:)の学f、・′.を受けるのに充分な資格 をイrするものと認めた。
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