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博士(医学)林 美朗 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(医学)林   美朗 学位論文題名

妄 想 型 精 神 分 裂 病に おけ る

Visual Backward INtIasking につしゝて 学 位 論 文 内 容 の 要旨

  精 神分裂病に対する認知論的,情報論的アプローチは急速な発展を遂げ,分裂病研究の 主要な一領域となってきた。とりわけ神経心理学,精神生理学等の側面から行われてきた多角 的研究データの蓄積から,分裂病の背景に認知障害の存在することが提唱され,臨床症状が 情報処理障害と密接に関わる(state−dependent)だけでなく,分裂病の発症準備状態,ないし は脆弱性(trait−dependent)の中核にもそれは位置するとも考えられるようになってきている。ま たいろいろな前頭葉機能検査法を用いた研究から,分裂病で見られる認知障害が前頭葉機能 障害によるとも想定されている。

  と ころでAndreasenらに よって 分裂病の臨床症状のーっとして注意障害の存在が指摘さ れ ているが,注意は認知機能の基本的要素でもある。分裂病患者の注意機能に関する研究 方法としては,眼球運動,反応時間,Continuous Performance Test (CPT),Stroop Test等が あるが,その他に視覚的にごく短時間のみ呈示される文字刺激の中にあらかじめ指定された 文字があるか否かを答える検査で,意図的に集中カと処理速度を高めて作働記憶の速度・容 量の限界を推し量ろうとすることを目的としたSpan of Apprehention Test (SA)があり、本研究 で取り上げたVisual Backward Ma.skingは,丹羽によれば,刺激呈示の後に妨害刺激を与え て 短時間記憶内でのりハーサルを妨害した上で,正確な認知のための最短刺激呈示時間を 測定することにより,初期の視覚刺激処理速度とぃうSAの一側面を検討できるようにしたも の で あ る。 ま たMarderら の 分 裂病 急 性 期に お け るSA研 究の 知 見 から は , それ に より state−dependentとtrait一dependentの両側面を知ることができる可能性も示唆されている。

  こ の視覚刺激処理は視覚刺激の認知に至る過程であり、その初期の過程にまた注意が関 与する。Visual Backward Maskingはこのように視覚情報処理のスピードや正確さを反映する と考えられるものであり,精神分裂病や感情障害等の精神疾患とその重篤度,罹病年数,年 齢,服薬している薬物の種類やその用量によって検査成績が影響を受けることが知られてい る。精神分裂病に関してはSaccuzoらによる一連の横断面的検討を主とした研究があり、そこ ではISIが短い場合にtarget刺激文字の有意な判読正答数の低下が見られること,その成績 の 低 下 が 精 神 症 状 , 罹 病 年 数 , 服 薬 用 量 等 と 関 係 あ る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 以 上のよう に精神 分裂病に 対するVisual Backward Maskingを用いた研究は比較的古くか ら行われてきた。しかし,例えばこれまで若年者や高齢者で視覚情報処理のスピードが遅く,

正確さに欠けるとされる指摘,またVisual Backward Maskingの成績の20才代と70才代の比 較研究で,70才代でtarget刺激文字の認知に困難が伴うとされている報告があるが,成人健 常 者 , 分 裂 病 患 者 と も 各 年 齢 階 層 別 に 詳 細 に 検 討 さ れ た 報 告 は な ぃ 。   そこで本研究では,精神分裂病における視覚情報処理の初期の過程,機能としての注意・

認知機能の実態と,その特質をより明らかにすることを目的に,まず第一に成人健常者の各年 齢階層別においてtarget刺激文字の認知の正確さに差異があるか否かを検討した。次いで,

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分 裂 病患 者 で 従 来の 研 究 で 報告 さ れ てい るよう にtarget刺 激文字 の判読正 答数が 低下し てい るか どうか を確認 し,さ らにそ れが各年 齢階層 別に差 異があ るか否 かにつ いて検 討を加えた。

Visual Backward Maskingで は こ れ まで 反 復 施 行す る こ と の効 果 につい て,成 人健常者 では 効 果 があ る と いうSaccuzoらの考 察があ るが, それ以 外には 見当た らなぃ。 そこで 第二に ,成 人 健 常者 , 分 裂 病患 者 で 同 一施 行 日 に 反復 し て 検 査を 施 行 し ,短 期 の 再 現性 の 問 題 を慣 れ の 現 象や 学 習 効 果と も 関 連 させ な が ら 検討 を 加 え た。 第 三 に 分裂 病 患 者 で症 状 の 推 移や 服 薬 用 量の 変 更 で 検査 成 績 が どの よ う に変 化する か,こ れまで 詳細に 検討さ れた報告 がない の で , 同一 症 例 で 異な っ た 時 期に 検 査 を 施行 し , 精 神症 状 の 推 移, 服 薬 用 量の 変 更 な どが 検 査成績にどのような影響を与えるか,縦断面的に比較検討した。

  そ の 結 果 , 成 人 健 常 者 で は1) 加 齢 に 伴 う 有 意 な 判 読 正 答 数 の 低 下 と2) 反 復 試 行 で の 有 意 な 判 読 正 答 数 の 増 加 が 見 ら れ た 。 一 方 , 分 裂 病 患 者 で は1) 各 年 齢 階層 で 成 人 健 常 者 に 比 べ て 判 読 正 答 数 の 有 意 な 低 下 と , 加 齢 に 伴 う 判 読 正 答 数 の 成 人 健 常 者 と の 差 の 拡 大 が 見 ら れ ,2) 反 復 試 行 に よ る 判 読 正 答 数 の 増 加 は 見 ら れ な か っ た 。ま た 患 者 の 中 の3) 成 績 上 位 者 は 年 齢 が 若 く , 罹 病 年 数 が 短 く , 服 薬 用 量 が 少 な い 症 例で あ る の に 対 し , 成 績 下 位 者 は 陽 性 症 状 と 陰 性 症 状 が 混 在 し た 精神 症 状 の 悪い 症 例 , 未治 療 で 未 服 薬 症 例 , 脳 画 像 で 異 常 所 見 の あ る 症 例 で あ っ た 。 さ ら に4) 同 一 症 例 で 症 状の 変 化 後 の 再 検 査 に お い て は , 精 神 症 状 が 改 善 さ れ て 社 会 適 応 が可 能 な 状 態に な っ て も低 下 し た 判 読 正 答 数 の 増 加 は 見 ら れ ず , 成 人 健 常 者 と の 有 意 差 は 残 存 し た ま ま で あ っ た 。   ここ で , 最 後の 精 神 症 状の 改 善 に 伴って 判読正 答数が 増加し ても, 成人健 常対象 群のレ ベ ル は 言う に 及 ば ず, 検 討 し た分 裂 病 患 者群 全 体 の 平均 値 レ ベ ルに し か 判 読正 答 数 が 到達 し て い ない こ と を考慮 すると ,Visual Backward Maskingで見 い出さ れる知 見は, 精神分裂 病の trait―dependent詮面 をより 強く反映 してい るもの と考え られる 。最近 ,分裂 病患者の家族で Visual Backward Maskingを 検 討 し たGreenら の 報告 で は , 患者 の 第 一 親等 で も 異 常所 見 が 見 られ た と の こと で あ る 。ま たSaccuzoらの いわゆ るschizophreniaspectrumの諸疾 患でも 同様 な異常 所見が 見られ るとの ことであ る。こ れらの 報告, そして 今回の 知見も 含めて考える な ら ば,VisualBackwardMaSkmgは 単に 視 覚 情 報処 理 の ス ピー ド や 正 確さ を 反 映 する だ けで はな く,精 神分裂 病のtrait一dependentな側 面の検 討に有 用な手 段と言 えるよ うに思われる。

  本 研 究 で 見 い 出 さ れ たVisualBackwardMaskingに お け る 加 齢 の 影 響 , 精 神 分裂 病 で の 異常 所見は ,target刺 激による 一過性 の感覚 情報貯 蔵シス テム(sensoryinfomationstorage) の機 能や容 量の低 下,あ るいは そのため に生ず るより 高次の連合野ーど integration される 過程が,maSk刺激によって mterruption されてしまうことによると考えることもできる。それと同 時 にVisualBackwardMaskingは , 精 神 分 裂 病 に お け る 視 覚 情 報 刺 激 の 認 知 に 至 る 過 程

(視 覚情報 処理) のごく 初期の 機能とし ての注 意機能 の一側 面を知 る認知 の検査 法として,ま た そ の 認 知 障 害 が 症 状 軽 快 後 や 類 縁 疾 患 , 家 族 に も 散 在 す る 精 神 分 裂 病 のtrait一 dependentな 側 面 を 検 証 す る 手 段 と し て き わ め て 簡 便 か つ 有 用 な 方 法 と 思 わ れ る 。   VisualBackwardMaskingのはっ きりし たメカ ニズム はまだ 解明さ れてい ないが ,最近, 動物 実 験 で 記 録 し た 覚 醒 動 物 で の 単 一 ニ ュ ー ロ ン 活 動 とVisualBackwardMaskmgの 関 係 に つ い て の実 験 で , 前頭 眼 野 の ニュ ー ロ ン がVisualBackwa.rdMask血gに 対応し て発射 してい た とぃ う報告 がなさ れた。 今後, この領域の研究に関心が集まり,さらなる成果が積み重ねられて VisualBackwardMaskingの メ カニ ズ ム や ,精 神 分 裂 病の 認 知 障 害がより 一層解 明され ること が 望 まれ る 。 ま た妄 想 型 だ けで は な く, 也の病 型等に ついて も症例 を集め て検討を 加える 必 要があると考えている。

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

妄想型精神分裂病における

Visual Backward Masking につしゝて

  刺激 呈 示 の後 に 妨害刺 激を与え て正確な 認知の ための最 短刺激 呈示時間 を測定 する こと により、 視覚情 報処理の ごく初 期の過程 ・機能 を検討す るというVisual Backward Maskingを 、 成 人 健 常 者 と 妄 想 型 精 神 分 裂 病 患 者(ICD‑10) 各50例 を 対 象 に 施 行し、検討を試みた。

  その 結 果 、成 人 健常者 では1)加齢に 伴う有 意な判読 正答数 の低下と2)反 復試行 で の有 意な判読 正答数 の増加が 見られ た。一方 、分裂 病患者で は1) 各年齢 階層で成人健 常者 に比べて 判読正 答数の有 意な低 下と、加 齢・罹病年数に伴う判読正答数のより一層 の低 下が見ら れ、2)反復 試行に よる判読 正答数の 増加は 成人健常 者ほど 見られなかっ た。 また患者 の中の3)成 績上位 者は年齢 が若く、 罹病年 数が短く 、服薬 用量が少ない 症例であるのに対し、成績下位者は陽性症状と陰性症状が混在した精神症状の悪い症例、

未治 療で未服 薬症例 、脳画像 で異常 所見のあ る症例 であった 。さらに4) 同一症例で症 状の 変化後の 再検査 において は、精 神症状が 改善されて社会適応が可能な状態になって も低 下した判 読正答 数の増加 は見ら れず、成 人健常者との有意な差は残存したままであ った。但し、精神症状が有意に改善した症例では、成人健常者と差がなぃほどまで判読正答 数が改善している傾向も見られていた。

  以上 の 結 果は 分 裂 病のtrait‑dependentな側 面がより 強く反 映された ものと 考えら れる 。Visual Backward Maskingは分裂 病の視 覚情報処 理のご く初期の 過程・機能と、

traitーdependentな 側 面 の 検 討 に 簡 便 か つ 有 用 な 方 法 で あ る と 考 え ら れ た 。   以上 の内容 の学位論 文にっき 、主査 から紹介 があった後に、申請者はスライドを用い ながら約20分に渡ってその内容の発表を行った。

  その 後、副 査の福島 教授から 検査方 法の詳細 な点についてと、成績下位者の脳画像所 見の 詳細につ いての 確認の質 問があ った。ま た成績下位者の主な病変部位の特定につい ての 質問があ った。 申請者は いずれ に対して も、わかりにくい点については繰り返しわ かりやすく解説し直し、特に信頼すべきデータにするべく意を砕いた点にっき強調した。

ま た 成績 下 位 者の 主な病 変部位 の特定に ついて は、前頭 葉を考 えている 旨を答え た。

  次い で副査 の真野教 授から、 検査方 法の吟味 ・修正の必要性に関する質問と、刺激呈 示の 時間の長 短によ る結果の メカニ ズムにつ いての質問があった。申請者は刺激呈示の 順序 がランダ ムにな されてい ない点 での不備 を認め、刺激呈示の時間の長短による結果

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司 郎

   

   

菊 行

山 島

小 福

授 授

教 教

査 査

主 副

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に つ い て も 、 そ の メ カ ニ ズ ム に 相 違 が 考 え ら れ る 旨 を 解 答 し た 。    さらに主査の小山教授からも、他の病型・病態での検討計画や、他の方法による脳画 像所見の取り方に関する今後の展望、またこの Visual Backward Masking の異常と社 会的予後との関係についての質問があった。申請者はいずれの質問に対しても、今後の 展望や検討計画とも合わせ、解答した。特に器質性疾患を有する患者群を対象としたり、

PET や SPECT 、 f‑MRI 等を 用いた研 究が必要 である旨、 またこの Visual Backward Masking 検査 の 施 行が り ハ ビリ テ ーシ ョ ン 的意 味 もあ ることな どを強調 した。

   最後に副査の福島教授から再度、刺激呈示の大きさにっき、申請者の答えた視角と視 点からの距離では妥当な大きさにはなり得ない旨の指摘があった。申請者はうっかり先 行 研 究 に 弓 | か れ て 、 実 際 の 視 角 を 失 念 し て い た 旨 を 弁 明 し た 。    しかし審査員一同は、申請者の質疑応答の結果には承認の意を表し、合格点を与えた。

また質疑応答の時間は約10 分、出席者はおよそ 25 名であった。

   この論文は、精神分裂病における視覚情報処理の初期の過程,機能の実態と,その特 質をより明らかにした点で高く評価される。今後、 Visual Backward Masking のさらな る メ カニ ズ ムや 、 分 裂病の 認知障害が より一層 解明され ることが 期待され る。

   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また公開発表も過不足なく遂行し得たこ

とから、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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