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博士(文学)林 美朗 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(文学)林   美朗 学位論文題名

平安末から鎌倉初期に於ける 伊勢物語の生成と伝流に関する研究

学位論文内容の要旨

は じ め に

    現 在 流 布 す る 「 伊 勢 物 語 』 は 藤 原 定 家 の 校 訂 し た 「 初 冠 本 」 系 統 の も の で あ る が 、 平 安 末 〜 鎌 倉 初 期 の 顕 昭の   r古 今 集 注 』 に は こ の 系 統 の 「 伊 勢 物 語 』 を 「 普 通 本 」 と 呼 び 、 こ れ と は 異 な る 本 を 「 普 通 ナ ラ ヌ 本 」 と 呼 ん で   い る 。 ま た 伝 為 氏 筆 大 島 本伊 勢 物語 ( 大島 為 氏本 )の 巻 末に は 初冠 本 (朱 雀 院塗 籠本 ) とは 異 なる 「 狩使 本」 ( 小式   部 内 侍 本 ) が 存 在 し て い た こ と が 伝 え ら れ 、 鎌 倉 時 代 建 仁 二 年 藤 原 定家 書 写本 伊勢 物 語の 転 写本 ( 冷泉 時雨 亭 文庫   本 伊 勢 物 語 = 冷 泉 本 ) に1ま 、 初 冠 本 、 狩 使 本 の 他 に 「 む か し 、 賀 陽 の み こ と 申 す み こ 、 お はし ま しけ り」 で 始ま   る 「 業 平 朝 臣 自 筆 本 」 の 存 在 が 記 さ れ て い る 。

1狩 使 本 ( 小 式 部 内 侍 本 ) の 資 料 に つ いi

    狩 使 本 の 基 礎 資 料 に 大 島 為 氏 本 の 巻 末 付 載 章 段 が あ り 、 こ の 部 分 の 識 語 等 は 、 一 誠 堂 旧 蔵 伝 為 相 筆 本 ( 一 誠堂   為 相 本 ) の 巻 末 章 段 識 語 と 関 連 づ け て 種 々 に 解 釈 が 可 能 で あ り 、 ま た 、 大 島 為 氏 本 に あ る 「 顕 昭 本 云 々 」 の 識語   か ら 六 粂 家 本 と の 関 連 を 考 察 で き る 。 さ ら に 天 理 図 書 館 蔵 伝 為 家 筆 本( 天 理為 家本 ) の巻 末 付載 章 段も 大島 為 氏本   と 比 較 し 、 さ ら に 神 宮 文 庫 本 系 諸 本 ( 神 宮 本 系 ) の 付 載 章 段 と も 関 連 さ せ て 検 討 で き る 。 2狩 使 本 ( 小 式 部 内 侍 本 ) の 復 元 に つ いi

  狩 使 本 に も 増 補 等 に よ る 種 々 の 異 本 が 存 在 し た 。 武 者 小 路 本 に 見 ら れ る 特 異 な 章 段 番 号 ・ 和 歌 番 号 に 従 っ て 本文   を 並 べ 換 え 、 そ れ を 基 準 に し て 、 西 本 願 寺 本 「 業 平 集 』 、 雅 平 本 『 業 平 集j、r伊 勢 物 語 絵 巻 』 、 大 島 為 氏 本 付   載 章 段 、 天 理 為 家 本 付 載 章 段 、 『 参 考 伊 勢 物 語 』 第 二 部 に ほ ぼ 共 通 し て 見 ら れ る25の 章 段 の 配 列 を 決 定 し 、 そ   れ 以 後 の 武 者 小 路 本 の 無 い 部 分 に っ い て も 同 様 に し て 決 定 す る こ と が で き る 。 こ う し て 復 元 さ れ た も の を 「n次   本 抄 」 と し 、 各 資 料 に 遍 在 す る 章 段 を 勘 案 し て 「n十1次 本 」l‑ n十 2次 本 」Fn十3次 本 」 を 想 定 す る 。 3狩 使 本 ( 小 式 部 内 侍 本 ) の 構 成 と 増 益 ・ 本 文 を め ぐ っ て

    (1) 雅 平 本 業 平 集 に は 伊 勢 物 語 以 外 の も の が 採 録 さ れ て い る こ と 、     (2)n次 本 抄 は 特 定 の 語 や 同 類 の テ ー マ で 近 縁 の 章 段 を 連 鎖 し て い る こ と 、     f3)n十1次 本 、n十2次 本 も 同 様 の 原 理 で 増 補 さ れ て い る こ と 、

    (4)n十1次 本 、n十2次 本 の 先 後 関 係 は 確 定 で き な い こ と 、

    (5) 大 島 本 に 見 え る 「 或 本 」 はn―1次 以 前 本 で あ り 、 「 他 本 」 はn十1次 以 降 本 で あ り 、 神 宮 本 巻 末 章 段 は     n十2次 以 降 本 で あ る こ と 、

    (6) 鎌 倉 初 期 写 の 本 間 美 術 館 蔵 伝 民 部 卿 局 筆 本 ( 本 間 塗 籠 本 ) の 本文 は 狩使 本の そ れに 近 似す る とこ ろが あ り、

    n十3次 本 と 関 連 す る こ と 、

    (7) 鎌 倉 初 期 に す で に 数 度 の 狩 使 本 の 増 補 か あ っ た と 認 め ら れ る こ と 、

  等 を 述 べ て 、 狩 使 本 は 、 伊 勢 物 語 の 原 初 形 態 で は な く 、 『 伊 勢 物 語 』 と い う 題 号 に 辻 褄 を 合 わ せ て 作 り 替 え た本

ー 12―

(2)

  で あ る と す る 。

4狩 使 本 ( 小 式 部 内 侍 本 ) の 復 元 本 文     ニ

  「 狩 使 本 の 断 片 を 伝 え る と さ れ る 諸 資 料 か ら 抽 出 さ れ 得 る 或 る 時 期 の 狩 使 本 系 諸 本 数 本 の 種 々 相 を そ の 復 元 本 文   と 校 異 を 具 体 的 に 示 す こ と に よ り 、 明 示 す る 」 と し て 既 に 公 刊 済 み の 校 本 を 転 載 し 、 校 訂 補 記 を 追 加 す る 。 5六 条 家 本 と 業 平 自 筆 本 ・ そ の 他 特 異 な 「 普 通 ナ ラ ヌ 本 」 に つ い て

  「 普 通 本 」 「 朱 雀 院 塗 籠 本 」 と は 異 な る 本 と さ れ る も の と し て 、 「 業 平 自 筆 本 」 に つ い て は 、 神 宮 本 系 、 大 島 為   氏 本 の 奥 書 中 に 記 述 が あ る 。 「 朱 雀 院 塗 籠 本 」 か 業 平 自 筆 本 で あ る と す る 記 述 も あ る か 、 顕 昭 古 今 注 所 引 の も の   と 比 較 す る と 「 狩 使 本 」 か 業 平 自 筆 本 で あ る と も 言 え る 。 鎌 倉 期 に は 「 朱 雀 院 塗 籠 本 」 「 業平 自 筆本 」 「狩 使 本」

  が 混 同 さ れ て い た 。 六 条 家 の 諸 書 に ひ か れ た 伊 勢 物 語 を 現 今 の 研 究 者 が 「 六 条 家 本 」 と 呼 ん で い る が 、 こ れ は 特   定 の 一 本 や 特 定 の 系 統 の 本 の み を 示 す も の で は な い 。 「 清 輔 所 見 本 」 に つ い て も 、 特 定 の 一 本 、 特 定 の 系 統 の 本   に 限 定 で き な い 。 『 参 考 伊 勢 物 語 』 の 第 一 部 ・ 第 三 部 に も 、 特 異 な 本 の 存 在 を う か が い 知 る こ と が で き る 。 こ の   よ う に 、 「 普 通 ナ ラ ヌ 本 」 は 現 存 諸 本 や 六 粂 家 諸 書 の 中 に か い ま 見 る こ と が で き る 。 6平 安 末 か ら 鎌 倉 初 期 の 「 普 通 本 」E2! ー :‑

    現 存 本 の 定 家 本 系 と 諸 異 本 を 比 較 す る と 、 泉 州 本 は 定 家 本 系 に 近 く 、 大 島 為 氏 本 や 神 宮 本 系 は 本 間 塗 籠 本 に 近   い 。 大 島 為 氏 本 ・ 神 宮 本 系 は 「 普 通 本 」 「 朱 雀 院 塗 寵 本 」 の 系 統 に 連 な る も の で あ り 、 こ れ を 節 略 し た の が 本 間   塗 籠 本 で あ る 。 定 家 本 系 は 、 同 じ 「 普 通 本 」 の 中 で も 別 系 統 の も の で あ る 。 大 島 為 氏 本 は 、 本 間 塗 籠 本 や 顕 昭 古   今 注 ・ 「 清 輔 所 見 本 」 と 合 致 す る も の が 多 い 。 そ れ ら は 一 見 後 世 的 な 本 文 に 見 ら れ る と し て も 平 安 末 期 以 来 の も   の と 見 な せ る 。 一 方 で 、 大 島 為 氏 本 か ら 始 ま っ て 、 神 宮 本 系 、 本 間 塗 籠 本 へ と 後 世 的 改 編 が 進 ん だ 部 分 も あ る 。   神 宮 本 系 も 、 古 態 を 伝 え た 面 と 後 世 的 な 面 の 双 方 を も っ て い る 。 「 普 通 本 」 の 中 で 、 ー 代 記 的 構 想 に 向 か っ た も   の が 定 家 本 系 で あ り 、 本 間 塗 籠 本 は 「 普 通 本 」 の 中 で も 雜 簒 的 構 想 を 残 す 方 向 で 纏 め ら れ た 本 で あ る 。 7通 行 本 伊 勢 物 語 の 生 成 と 新 た な 伊 勢 物 語 論 へ の 道

    「 普 通 本 」 は 定 家 本 系 よ り や や 小 さ め の も の で あ っ た 。 定 家 本 系 に も 類 聚 と 雜 簒 の 背 反 が見 ら れ、 「 普通 本 」の   構 成 を 組 み 替 え て 成 立 し た と 認 め ら れ る 。 さ ら に 、 定 家 系 本 の み で な く 、 広 本 系 諸 本 、 本 間 塗 籠 本 に つ い て も 類   聚 と 雛 簒 の 背 反 が 見 ら れ る 。 現 存 本 の 中 に は 最 明 寺 時 頼 本 、 伝 肖 柏 筆 本 、 藤 原 藤 房 筆 本 等 、 「 古 本 系 」 あ る い は     「 別 本 系 」 と 言 わ れ る 諸 本 が あ る が 、 こ れ ら は 平 安 末 期 か ら 鎌 倉 期 の 亠 般 的 な 伊 勢 物 語 の様 相 を伝 え るも の であ     る 。

お わ り に     . −

    今 後 と も 散 逸 異 本 の 掘 り 起 こ し 、 異 本 本 文 の 古 態 と 後 世 的 な も の の 振 り 分 け 、 各 章 段 ご と の 各 伝 ・ 資 料 間 で の     「 横 断 的 な 解 釈 」 ( 諸 本 ご と の 作 品 内 容 と し て の違 い が異 本生 成 と関 連 する と いう 立 場で の解 釈 )や 各 々の 伝 本・

  異 本 を そ れ ぞ れ ー っ の テ ク ス ト と し て 取 り 扱 う 研 究 法 が 必 要 で あ る 。

‑ 13ー

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

平安末から鎌倉初期に於ける 伊勢物語の生成と伝流に関する研究

   平 成 13 年 1 月 に 審 査委 員 会 を 発 足さ せ 、 各 委員 が本論 文を 通読し 3 月 に問題 事項・ 検証事 項の確 認を 行った 。そ の 結果 、本 論文の 審査に あたっ ては、 「@ 本論文 の第1 章〜 第4 章(「 狩使本 」の復 元本 文提示 )が伊 勢物語 研究の 分 野で どのよ うに位 置付け られ るか。 ◎本論 文の第 5 章 以下( 現存諸 本の 本文研 究への 見通し )か国語文献学的にど の よ う に 位 置 付け ら れ るか 。」 の2 点 の検 証調査 が必要 との結 諭に 達し、 それら の調査 ・検証 の結 果に基 づき10 月 に 内 容 を 検 討 し 、 口 述 試 問 を 行 い 、 11 月 の 教 授 会 に 報 告 し 、 12 月 の 教 授 会 で 決 定 を 見 た 。    第 1 章 〜第4 章 の 内 容は 、 既 にr 狩使 本 伊 勢 物 語ー 一 復 元 と 研究 ー − 』(和 泉選 書115 、1998 年 9 月、 和泉 書院)

と して 公刊さ れたも のであ り、 中古文 学界( 平安朝 文学研 究界 )でも 「狩使本」を目に見える形で提示した最初の研 究 と し て 高 く 評価 さ れ て い る。 公 刊 さ れ た復 元 本文は 第4 章に提 示し、 補筆 ・訂正 され、 第1 .2 ,3 章 では 、「狩 使 本」 本文復 元に関 わる基 本的 な事柄 が論じ られて L `る。その復元の手続きは先行研究を踏まえ、妥当なものと思量 さ れる っ

   ただし 、大島 為氏本 の識 語につ いて論 者が提 示し た解釈 は必ず しも納 得できるものとは言えず、斯学会での論争必 須 の事 柄であ ろう。

   第 5 章 は、 「 狩 使 本 」復 元の 背景と なる平 安末期 ・鎌倉 初期 の亡佚 系諸本 につい て論 じたも ので、 第l 〜3 章の内 容 と深 く関わ ってい る。

   なお、 この章 でも朱 雀院 塗籠本 に関わ る「或 本奥 書」等 の論者 の解釈 は、斯学会で今後の展開があるべき所であろ う 。

   第 6 章 以 降 は 、 鎌 倉 時 代 の 「 初 冠 本 」 の 展 開 等 、 現 存 諸 本 の 諸 問 題 点 ・ 諸 課 題 を 論 じ た も の で あ る 。    終章に は、伊 勢物語 は、 諸本ごとに異なる作品内容として成り立っことによって異本が生成されるという考え方と、

伊 勢物 語諾本 のそれ ぞれを ーつ の「テ クスト 」とし て取り 扱う 研究法 、っまり諸本研究を、成立論の側からの本文の 遡 源 校 訂 の 研 究と す る の で はな く 、 享 受 論の 側 か ら の 本文 の 変 動 ・ 展 開の 研 究 と す る方 向 が提 示され ている 。    中古文 学界の 伊勢物 語諸 本研究 の現況 は、現 存本 諸本の 位置・ 系統関 係の確認を遂げておらず、国語文献学的には 十 分の 成果を 挙げて はいな いと 思量さ れる。 本論文 もその よう な文学 界での研究の流れのうちにあり、成立論の側か ら の現 存諸本 による 本文の 遡源 研究へ の見通 しは必 ずしも 明瞭 ではな く、むしろ諸本研究を伊勢物語の享受研究とす る 方向 が提示 されて いる。

   中古文 学界に おいて は「 狩使本 」等の 亡佚本 の探 索研究 も、そ のよう な状況の中で行われており、多くの先行研究

ー 14ー

雅 通

俊 晴

澤 塚

宮 石

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

が 「狩使 本」の 様体に つい てその アウト ライン を構想するのみにとどまっていたのに対し、本論文が「狩使本」を具 体 的に本 文・章 段を目 に見 える形 で構築 した成 果は 十分に 評価で きるも のであ る。

   従 来、冒 頭に 伊勢斎 宮の話 を配し ている 「狩 使本」 が、r 伊勢 物語』の原初形態とするのにふさわしいという見解 が 強かっ たよう である が、 本論文 では、 「狩使 本は 、伊勢 物語の 原初形態ではなく、r 伊勢物語』という題号に辻褄 を 合わせ て作り 替えた 本で ある」 として いる。 これは、復元した「狩使本」本文の内容そのものを依り所とした主張 で あり、 本論文 が「狩 使本 」を具 体的に 構築し た成 果のー つでも ある。

―15―

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