博士(医学)葭内史朗 学位論文題名
Huntington 病原 因蛋 白質 huntingtin に 結合 する
HIPl(huntingtin‑interacting protein l) の 出 芽酵 母ホ モロ グ Sla2p の新 規機 能の 解明
学位 論文内容の要旨
【目的と背景】
アクチン細胞骨格の再編成は,様々な細胞機能において非常に重要な役割を果たし ている.アクチン細胞骨格の再編成を制御している蛋白質として,アクチンに直接結 合 し て 機 能 を 果 た す ア ク チ ン 結 合 蛋 白 質 が 数 多 く 知 ら れ て い る . アクチン結合蛋白質のひとつであるHIPl(huntingtin‑ln缸acnng即鹹n1)はHu血ngton 病の 原因遺伝子によってコードされるhunnngnn蛋白質の結合蛋白質として同定され た.MP1はア クチ ン細胞 骨格 の再 編成を制御することにより,エンドサイトーシス や小 胞輸送を制御していると考えられている.MP1はHurltington病のみならず癌な どの疾患においても重要な役割を担っていると考えられているが,その詳細な機能は 未だ解明されていない.
MPlには出芽酵母,跏ccカ駅珊悌.ゞ甜胞vむ洫に保存されている相同蛋白質Sla2pが 存在する.Sla2pはエンドサイトーシスに関与するアクチン結合蛋白質であり,一次 構造のみならず生理機能も保存されていると考えられる.
一 方,mP1以外 のアク チン 結合 蛋白質としてフエルミンファミリーが存在し,出 芽酵 母にも保存されている.そのひとつBmlpはアクチン線維を産生し,細胞分裂と 細胞極性の確立に関与する・
ア クチン細胞骨格の再編成の基本的なメカニズムについては出芽酵母と高等動物 で共通である.したがって,遺伝学的手法という強カなツールを利用できる出芽酵母 において,アクチン細胞骨格の再編成の機構を解明することは,高等動物のアクチン 細胞骨格の再編成の機構の解明,更には様々な疾患の発症機序の解明に非常に有用で ある .今 回,H田1の機 能の 一端 を解明するため,相同蛋白質である出芽酵母Sla2p の解析を行った・
【結果と考察】
BAU1の関連遺伝子をスクリーこングすることにより,アクチン細胞骨格の再編成に 関与する遺伝子を同定することを試みた.その結果,I‑nPl相同蛋白質である.SIA2の変 異sla2‑82が得られた.この変異では491番目のグルタミン酸がストップコドンに置換さ れ て お り , そ の 遺 伝 子 産 物 は .SLA2部 分 欠 失 変 異 体 に な る と 考 え ら れ た , sla2−82変異株は,高温でのNaCl感受性増殖やhomozygous diploidでの出芽バターン異
常 を 示 し , ま た ア ク チ ン 関 連 遺 伝 子ABP1,SAC6,RVS167各 々 の 欠 失 変 異 と 遺 伝 学 的 相 互 作 用 を 示 す こ と か ら , ア ク チ ン 細 胞 骨 格 の 再 編 成に 異常 を引 き起 こし てい る可 能 性 が 高 い こ と が 示 唆 さ れ た. 次に ,sla2‑82変異 とア クチ ン結 合蛋 白質 であ るフ エル ミ ンと の遺 伝学 的 相互 関係 につ いて 検討 した が,bnil欠失 変異(bnilA変異)とsla2‑82変異 と の 二 重 変 異 株 は 温 度 感 受 性 増 殖 を 示 し た . し か し ,出 芽酵 母の 別の フエ ルミ ンで あ るbnrl欠 失 変 異 とsla2‑82変 異の 二重 変 異株 は温 度感 受性 増殖 を示 さな かっ た. また , Bnilpは 出 芽 酵 母 のapical成 長に 関わ る ポラ リソ ーム 複合 体の 構成 蛋白 質で ある が, そ の 他 の ポ ラ リ ソ ー ム 構 成 蛋白 質で あるBud6p,Spa2p,Pea2p各 々の 欠失 変異 とsla2―82 変異 との 二重 変 異株 は温 度感 受性 増殖 を示 さな かっ た. した がっ て, .SLA2とフ エルミ ン と の 遺 伝 学 的 相 互 作 用 はBNI1に 特 異 的 で あ り ,Bnilpの ポ ラ リ ソ ー ム の 機 能 とは 独 立したものであると考えられた・
bnil△ sla2‑82二 重 変 異 株 の 温 度 感 受 性 増 殖 の 原 因がBNI1のど のド メイ ンに 関連 す る の か 検 討 し た . そ の 結 果 ,Bnilpの ア ク チ ン 重 合 に 関 連 す る 機 能 発 現 に 必 須 のド メ イ ン で あ るFH1及 びFH2ド メ イ ン が 必 要 で あ る こ と が 判 っ た .Bnilpの 局 在 やRho 蛋 白 質 に よ る 活 性 の 制 御 に 関 係 す る ド ヌ イ ン は 必 須 では ない こと から ,BnilpのSla2p と の 重 複 し た 機 能 は , ア ク チ ン 重 合 の 機 能 に つ い て の み 関 係 が あ る と 考 え ら れ た . BNI1と の 遺 伝 学 的 相 互 作 用 に 関 与 し て い るSLA2内 の 領 域 を 検 討 す る た め に3種 類 の .SLA2遺 伝 子 部 分 欠 失 変 異 株 を 作 成 し , 各 々 の 単独 変異 株及 びbnil△ 変異 との 二 重 変 異 株 の 温 度 感 受 性 増 殖 を 検 討 し た . そ の 結 果 か らSla2pのC末 端 側 が 複 雑 な 制 御 を受けていることを示唆する所見が 得られた.
み 剛j△J地 ー82二 重変 異株 の温度感受性増殖は, 多コピーの倒ゆ3及び単コピ ーのA(珊 によ り抑 圧さ れ た. 田ゆ コは エン ドサ イト ーシ スと 関連 する 遺伝 子で あ るが ,駈 .舵遺 伝子 部分 欠失 変 異株 の温 度感 受性 増殖 の抑 圧を 検討 した 結果,.馴D3はゞZ舵変異側の異 常 を 抑 圧 し て い る 可 能 性 が 高 い こ と が 示 唆 さ れ た .AC門 はア クチ ン細 胞骨 格の 素材 そ のも ので ある ア クチ ンを コー ドし てお り, 加む △Jな2・82二 重変 異株 の 温度 感受 性増殖 が単 コピ ーの 愼 口zによ り抑 圧さ れる こと か ら, 加ロ △5比一 舵二 重変 異 株は 出芽 酵母が 出 芽 し 増 殖 す る た め に 必 要 な 細 胞 内 の 利 用 可 能 な ア クチ ン量 が不 足し てい る可 能性 が 高いと考えられた.
F‐ アク チン 構造 体の 観察 では ,ぬ む△ 此12一 舵二 重変 異株 とJ地.82単独 変異 株との 問 で は 大 き な 違 い を 認 め な か っ た . 次 に ア ク チ ン の ター ンオ ーバ ーが 変化 して いる 可 能性 を検討した.その結 果,み門口出ぬ2・駝二重変 異株は,みmJ△変異株及びJZ舵・82単 独 変 異 株 と 比 較 し て ア ク チ ン の タ ー ン オ ー バ ー が 遅 延 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た . エ ン ド サ イ ト ー シ ス の 異 常 に つ い て は , 検 討 し た 各地 変異 は細 ロ△ 変異 と二 重変 異 株 に な っ て も , エ ン ド サ イ ト ー シ ス 異 常 の 更 な る 悪 化 は 認 め ら れ な か っ た . ま たACW や 口 脚 に よ り 温 度 感 受 性 増 殖 は 抑 圧 さ れ た が , エ ン ド サ イ ト ー シ ス 異 常 は 抑 圧 さ れ ず, みmJ△sぬ2・82二重 変異 株の 温度 感受 性増 殖の 原因 はエ ンド サイ ト ーシ スに 関係が 無いと考えられた・
み 所J△s地 一82二 重変 異株 の細 胞溶 解を 起こ して いる 細胞 の割 合は , 許容 温度 及び高 温での培養で共に野生株やみmJ△変 異株,s施・82単独変異株に比べて有意に高く,ざZ 2△ 変異 株と 同程 度 であ った .み 耐J△JZ舵.82二重 変異 株の 温度感受性増殖は,速やかな細 胞 溶 解 が 原 因 の ー つ で あ る 可 能 性 が 考 え ら れ た . 細 胞溶 解の 原因 を検 討し たが ,細 胞 壁 合 成 異 常 の 可 能 性 は 低 く , 細 胞 膜 の 異 常 が 原 因 で ある 可能 性が 高い と考 えら れた .
【結語】
本 論文 で は,r‑nPlの 出 芽酵 母 ホ モロ グSLA2が,BNI1及びEND3と新たな遺 伝学 的 相互作用 を持つこと を示した .フエルミンであるBNI1との新規遺伝学的相互作用 は ,これま で知られて いないSla2pとBmlpの重複し た機能の 存在を示唆し,そのひ とつはF.アクチン構造体のターンオーバーの制御である可能性が考えられる.また,
ロ 仞3との機 能的関連性 の解析は ,駈A2ファ ミリーを 初めとし たエンドサイトーシ スに関連する分子メカこズムをより明らかにすることが可能になると考えられる.更 に ,これら の関連性や 相互作用 を解析す ること絃Hundngton病や癌の原因解明の一 助になる可能性があると考えられた.
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学 位 論 文 題 名
Huntington 病 原 因 蛋 白 質 huntingtin に 結 合 す る HIPl(huntingtin‑interacting protein l) cD 出 芽 酵 母 ホ モ ロ グ Sla2p の 新 規 機 能 の 解 明
アク チン 細胞 骨格の再編成は,様々な細胞機能において非常に重要な役割を果たしてお り ,そ の解 明は 様々な疾患の発症機序の解明に非常に有用であると考えられる.本研究で は ,モ デル 生物 であ る出芽 酵母 を用 いた 遺伝 学的 手法 によ り,
Huntington病原因蛋白質
huntingtinに結 合す るHIP1 蛋白 質の 出芽 酵母 ホモ ログ であ るSLA2 が 示す 遺伝学的相互作 用を新規に解明した,
アク チン 結合 蛋白質であるフォルミンファミリーは,アクチン線維形成の制御により細 胞 極性 形成 や細 胞質分裂に関与している.出芽酵母にはフォルミシファミリーのひとっと し てBNI1 が 存在 する .本研 究で は, アク チン 細胞 骨格 再編 成に 関与 する 新規遺伝子の同 定 を目 的と して ,BNI1 の機能に関連した遺伝子変異の遺伝学的スクリーニングを行った.
そ の結 果,
491番 目の グル タミ ン酸 がス トッ プコドンに置換されたSLA2 の変異sla2 ー82 を 同 定し た.
sla2‑82変 異は ,出 芽パ ター ンの 異常や高温でのNaCI 感受性増殖,及びアクチ ン 関連 遺伝 子ABP1 ,
SAC6,
RVS167各 々の 欠失 変異 と遺 伝学 的相 互作 用を 示すことから,
ア ク チ ン 細 胞 骨 格 の 再 編 成 に 異 常 を 持 つ 可 能 性 が 高 い こ と が 示 唆 さ れ た .
解析を進める過程で,sla2 ー82 変異とbnil 欠失変異(bnil △変異)との二重変異株は温度感 受 性増 殖を 示す こと が明ら かに なっ た. すな わち ,SLA2 と
BNI1に遺 伝学 的相互作用があ る こと を世 界で 初め て見出 した .出 芽酵 母の もう ひと つの フォ ルミ ンで あるbnrl 欠失変 異 とsla2‑82 変異 の二 重変 異株 は温 度感 受性 増殖 を示さ ない こと ,及 びBnilp の属するポ ラ
1」ソ ーム 構成 蛋白質群のうち他の構成蛋白質の欠失変異とsla2‑82 変異は遺伝学的相互 作 用を 示さ ない こと から, この 遺伝 学的 相互 作用は,BNI1 に特異的であり,Bnilp のポラ リソームの機能とは独立したものであると考えられた.
遺 伝 学 的 相 互 作 用 の 存 在 か ら
SLA2と
BNI1に 重 複し た機 能が 存在 する こと が示 唆さ れ た ので ,そ の詳 細な 解明を 試み た. まず ,BNI1 の欠失変異体を用いた検討から,Bnilp の
博
馬
美
正
一
博
香
中
田
浅
田
藤
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
アクチン重合活性がSLA2 との遺伝学的相互作用において重要であることが示唆された,
また,bnil △ sla2‑82 二重変異株の温度感受性増殖を抑圧する遺伝子の探索を行った結果,
多コピ ーの
END3及び単コピーの
ACT1が温度感受性増殖を抑圧することが判った.
END3はF 一アクチン構造体に存在する蛋白質なので,
SLエA2 とBNI1 の重複した機能はアクチン 細胞骨格系に関連していると考えられた.また,ACT1 の発現量を増加させることにより
bnil△ sla2‑82 二重変異株の温度感受性増殖が抑圧されることから,二重変異株において細 胞内の利用可能な単量体アクチンが不足している可能性が高いと考えられた.そこで,
bnil
△ sla2‑82 二重変異が細胞内のアクチンにどのような影響を及ぼしているか検討した結 果,二重変異株はそれぞれの単独変異株と比較してアクチンのターンオーパーが遅延して いることが示された.これらの結果より,SLA2 とBNI1 の重複した機能はアクチンのター ンオーパーの制御であると考えられた.
また,bni lA sla2‑82 二重変異株は細胞溶解を起こすことが判明した.許容温度と高温で の培養両方で,
bnil△ sla2‑82 二重変異株の細胞溶解の割合は各々の単独変異株と比較して 有意に高く,SLA2 と
BNHに重複した機能が細胞溶解の原因のーつである可能性が考えら れた.
以上よ り,本研究において
HIP1の出芽酵母ホモ口グSLA2 がBNI1 と遺伝学的相互作用 を持つことを新規に見いだした.この結果はこれまで知られていないSla2p とBnilp の重 複した機能の存在を示唆し,そのひとっはF 一アクチン構造体のターンオーパーの制御であ る可能性が考えられた.このメカニズムの解析を進めれば,外界の刺激に応じたアクチン 細胞骨格系の調節機構を解明することが可能になると考えられる.更に,得られた知見が
Huntington病 な ど の 疾 患 の 原 因 解 明 に っ な が る 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ る .
口頭発表において,副査藤田教授より具体的な蛋白質の機能,及びHuntington 病へのア クチン細胞骨格系の関与について質問があった.続いて副査田中教授より重複した機能と 細胞溶解の関連性,及びアクチンのターンオーバーの制御の具体的な機序について質問が あった.また主査浅香教授より発癌とアクチン細胞骨格系の関係において現在判明してい ること,及び本研究の結果と転移浸潤の関連性について質問があった.これらに対して申 請 者は , 自己 の 研究 結 果 と文 献 的知 識 を基 に 誠実 に ,概ね 妥当な回答 を行った.
本研究 は,ヒトHIP1 の出芽酵母ホモログ
SLA2の遺伝学的相互作用を新たに見いだし たことにより,
Huntington病を初めとした様々な疾患の原因解明にっながる可能性を示唆 したも のとして高 く評価され ,今後高等 生物におけ る研究への 発展が期待される.