博士(医学)須甲憲明 学位論文題名
Immunohistochemical study of cathepsin B : prognostic significance in human lung cancer
( カテ プシ ンBの免 疫組織 化学 的研 究: 肺癌 の予 後に おけ る意 義)
学位論文内容の要旨
| 研 究 目的
転移 能は 癌の 悪性 度を 規定 する 因子 の― つで ある が、転 移が おこ るためには 上 皮下 およ び血 管内 皮下 基底 膜を 癌細 胞が 通過 する ことが 必要 であ る。最近、
癌 転移 に関 して マト リッ クス メタ ロプ ロテ ア― ゼな どの基 底膜 分解 能をもった プロテアーゼの研究が進んでいる。カテプシンBもプロテアーゼの―つであるが、
本 来 、 粗 面 小 胞 体 で 合成 され 、ゴ ルジ小 体で プロ セシ ング を受 け、 ラfソ ゾー ム に移 動し 、細 胞内 蛋白 の代 謝に 重要 な働きをもってぃる。近年、カテプシンB も また 癌細 胞に おぃ て基 底膜 分解 能を もち 、転 移と 関連が ある こと が示唆され て ぃる 。し かし 、カ テプ シンBの臨 床医 学的検討は少なぃ。そこで、筆者らは肺 非 小細 胞癌 にお ぃて 、カ テプ シンBの臨 床病理学的パラメータ―との比較、およ び独立予後因子とレての価値を検討した。
II対 象 と 方 法
北海 道大 学医 学部 附属 病院 第一 内科 に入 院し 、原発 性肺 非小 細胞 癌の 診断に て 手 術 治 療 を お こ な っ た108例 を 対 象 と し た 。108例 の 内 訳 は 、 肺 腺 癌5 9例 、 肺 扁 平 上 皮 癌49例 で あ っ た 。 臨 床 病 期 で はI期 が44例 、H期 が12 例 、mA期 が47例 、IIIB期 が4例 、IV期 が1例 で あ っ た 。 カ テ プ シ ンBの 染 色 は 以 下 の よ う に お こ な っ た 。10% ホ ル マ リ ン で 固 定 し、 パラ フィ ンで 包埋 し た 組織 より4ルmの切 片を 作製 した 。先 ず最 初に ヘマト キシ リン ・エ オジ ン染色 に て 病 理 組 織 学 的 に 検 討 し た 後 、 同 部 位 の 組 織 標 本 の 切 片 を 使 用 し た 。 対 象 切 片 は キ シ レ ン ( 各10分 間 、2回 ) で 脱 パ ラ フ ア ン 後 、100% 、10 0% 、90% 、70% ( 各5分 間 ) 、PBS( 各 ′5分 間 、3回 ) で 加 水 処 理 後 、 3%H2○2(10分 間 ) に て 内 因 性 ベ ル オ キ シ ダ ― ゼ ブ ロッ キン グを 、次 に正 常
血 清(20分間) で非特異的 染色をブロ ッキングした。1次抗体としてヒツジ 抗 ヒ ト カ テ プ シ ンBポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体(BindingSite)(1:150)を も ちぃて4℃、ー昼夜反応させた。´2次抗体としてビオチニル化ウサギ抗ヒ`ソジ 抗 体(Vector)(30分間)、 さらにアビ ジン・ビオ チン・ペル オキシダーゼ 複 合体(Vector)(20分間) を室温で反 応させた。H2○2添加ジアミノベンジ ジン‑4HCIで発色させ、ヘマ卜キシリンで核染色した。陰性コント□ールとし て一次抗体の代わりにPBSあるいは正常ヒツジ血清をもちぃた。各切片内のマ クロファージを内因性の陽性コントロ―ルとした。
判 定 は 腫瘍 細 胞1000個 数え 、 そ のう ち 陽性 細 胞の 割 合を 求 め、20%未 満 を (ー)、20% 以上80%未満 を(十)、80%以上を( 十十)と分 類した。
カテプシンBと各パラメーターの関連はカイ二乗検定をもちぃた。生存曲線は Kaplan‑Meier法で算出し、生存曲線の有意差検定はgeneralized Wilcoxon test でおこなぃ、5%以下の危険率をもって統計学的有意差ありとした。単およぴ 多変量解析はCox比例ハザードモデルをもちいた。
川 結 果
カテプ シンBは細胞質に顆粒状に染色された。108例の肺癌におけるカテプ シ ンBの 発 現は ( ―) は18例 (17% )、 (十) は25例(23%)、 (十十)
は65例 (60% ) で あ っ た 。 カ テ プ シンB(十 十 )の 発 現は こ 男性44/70 例 ( 63% ) 、 女 性 21/ 38例 ( 55% ) 、 60歳 以 上 42/ 67例 ( 63
% ) 、60歳 末 満23/41例 (55% ) で あ っ た 。 組 織 型 別 で み た カ テプ シ ンBの発 現(ー/ 十/十十) は、扁平上 皮癌では(9/12/28例 )、腺癌で は (9/13/37例 ) であ り 、 統計 学 的有 意差は なかった。 病理学的病 期別 でみ たカテプシ ンBの発 現(―/十 /十十)は 、I期では(8/14/22例)、
ll期で は (2/3/7例) 、IIIA期で は (8/8/31例)、川B、IV期で は(0
/O/5例)であり、川B期以上で(十十)が多かったものの統計学的有意差は なかった。病理学的T因子別でみたカテプシンBの発現(―/十/十十)は、T1 で は ( 5/ 10/ 18例 ) 、 T2で は (9/11/32例 ) 、 T3で は ( 4/ 4
/12例 ) 、T4では (0/O/3例 ) であ り 、統計学的 有意差はな かった。病 理 学的N因子別で みたカテプ シンBの発現(− /十/十十 )は、NOでは (10
/15/25例 ) 、N1で は (3/5/10例 ) 、N2で は (5/5/29例 ) 、 N3では(0/0/1例)であり 、統計学的 有意差はな かった。しかしながらり ンパ節転移の有無でみた場合、リンパ節転移を有する例ではカテプシンBの発現 が(十十)であるものが非小細胞癌、腺癌で有意に多かった(各々pく0.05)。
扁平上皮癌でも同様の傾向を認めたが、統計学的には有意差はなかった。生存
曲線におぃて非小細胞癌及ぴ腺癌では1(−)v.s.(十十):pく0.01|、1(十)
V.S.(十十):pく0.011、扁平上皮癌でも1(―)V.S.(十十):pく0.0 51、 t期の非小細胞癌でも同様I(−)v.sI(十十):pく0.05tの結果で、カテプシ ンBの発現が(十十)であるものが有意に予後不良であった。多変量解析の結果 からカテプシンBの発現が病理学的病期、病理学的T因子、病理学的N因子とは 独立した強カな予後因子であった。
V考 案 な ら ぴ に結 語
近年、マトリックスメタロプ口テアーゼなど多くの蛋白分解酵素が、細胞外マ トリックスを分解することによって浸潤転移と関連のあることが報告されてぃ る。カテプシンBもまた細胞外マトリックスの分解、浸潤転移と関連のあること が報告されている。今回筆者らの研究ではカテプシンBの免疫組織化学的発現が りンバ節転移と密接な関連にあり、浸潤転移と関連のあることが原発性肺非小 細胞癌におぃてin vivoでも示された。
―方、これまでにカテプシンBの予後における価値の検討はあまりなされてい なぃ。アスパルティックプロテアーゼのーつであるカテブシンDに関しては乳癌 主体に多くの研究報告がなされ、一般に予後と関連があると考えられている。
システインプロテア―ゼにおぃては、乳癌におぃて末転移生存率を検討した報 告ではカテブシンB、カテプシンLともにニ年間の短い期間では有意な関連はな かった。しかし、今回筆者らの研究では原発性肺非小細胞癌におぃて更に長期 間の予後との関連を検討した結果、原発性肺非小細胞癌、およぴ各組織型いず れにおぃてもカテプシンBが強く発現している例では有意に予後不良であった。
同様の結果は原発性肺非小細胞癌のりンバ節転移の認められなぃ病理学的病期1 期におぃてもみられ、その死亡例がすべて転移再発例であることより、カテプ シンBの強い発現は手術時には明らかではなぃ微小転移を示唆するものと考えら れた。更に、Cox比例ハザ―ドモデルによる多変量解析を加えた結果、カテプシ ンBの免疫組織化学的発現は独立レた予後因子であった。
―般に、癌におぃて転移は予後を規定する大きな因子となってぃる。今回筆者 らの結果では、原発性肺非小細胞癌におぃてカテプシンBの免疫組織化学的発現 は浸潤転移と密接な関連があり、さらには独立した予後因子と考えられた。こ のことは臨床上、患者の生存予測に役立っとともに、今後カテプシンBとそのイ ンヒビターの分子生物学的研究が肺癌における転移制御のアプ□−チの―っと なることを示唆するものと考えられた。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Immunohistochemical study of cathepsin B : prognostic significance in human lung cancer
( カテ プシ ンBの免 疫組織 化学 的研 究: 肺癌 の予 後に おけ る意 義)
研究目的
転 移は 癌の 悪性度を規定する因子のーつであるが、転移がおこるために は癌 細胞 が基 底膜 を通過 する こと が必 要で ある。カテプシンBは本来ライ ソゾ ーム で細 胞内蛋白の代謝に重要な働きをもっているが、癌細胞ではそ の活 性が 増加 し、基底膜の主成分であるラミニン、コラ―ゲンを分解する 能カ をも もつ ことがin vitro中心に報告されている。しかし、臨床検体に てカ テプ シンBの臨 床病 理学 的パ ラメ ―タ ―との比較、および多変量解析 を用いた予後の検討はほとんどなぃ。
本 論文 は、 ヒト 肺非小 細胞 癌に おけ るカ テプシンBの発現と臨床病理学 的パ ラメ ータ ーと の関連 を検 討、 同時 にCox比例ハザードモデルを用いて 予後 因子 とし ての 解析を し、 カテ プシ ンBの発現が転移、予後の指標とな り得るかを検討したものである。
対象と方法
対 象 は 術前 無 治 療 の 原 発 性 肺 非 小 細 胞 癌 患 者108例 ( 肺 扇 平 上皮 癌4 9例 、 肺 腺 癌59例 ) で 、 ホ ル マ リン 固定 パラ フアン 包埋 病理 組織 標本 を 用い た。 カテ プシンBの発現はABC法にて免疫組織化学的に胞体が穎粒状に 染色 され る癌 細胞 の割合 を算 出し た。 その 割合により、カテプシンBの発 現 をO% 以 上20% 未 満 を ( ‐ ) 、20%以 上80%未満 を( +) 、80%以 上 を(十十)と3.群に分類した。病理学的バラメーターとの関連はchi‑square test、 予 後曲 線 はKaplan‑Meierを 用 い て 描 出 し 、 そ の 有 意 差検 定に は
和 年
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巻
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授 授
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査 査
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主 副
副
generalized‑Wilcoxon testを 用 い た 。 ま た 、 独 立 予 後 因 子 と し て の 価 値 はCox比 例 ハ ザ ー ド モ デ ル を 用 い て 解 析 し た 。
結果
肺 非 小 細 胞 癌 で は 病 理 病 期 、pT因 子 に よ る 違 い は 認 め な か っ た 。pN因 子 に 関 し て は り ン パ 節 転 移 を 有 す る 例 で は 、 有 し な ぃ 例 に 比 べ て カ テ プ シ ン B(十十)が有意に多かった(p <0. 05)。また、カテプシンB(++)症例はカテプシ ンB( ― ) 症例 に比 べて 、肺 非小 細胞 癌 全症 例、 肺腺 癌全 症例 、肺 扁平 上皮 癌 全 症 例 、 肺 非 小 細 胞 癌 病 理 病 期I期 症 例 に お ぃ て 、 各 々 有 意 に 予 後 不 良 で あっ た(p<0.01、p<0‐01、p<0.05、p<0. 05)。Cox比例ハザードモデルを用 い た 多 変 量 解 析 よ り 、 カ テ プ シ ンBは 病 理 病 期 、pT因 子 、pN因 子 と は 独 立 した有カな予後因子であった。
結論ならびに結語
癌 に お ぃ て 転 移 は 予 後 を 規 定 す る 大 き な 因 子 と な っ て い る 。 今 回 の 結 果 で は 、 原 発 性 肺 非 小 細 胞 癌 に お ぃ て カ テ プ シ ンBの 免 疫 組 織 化 学 的 発 現 は 浸 潤 転 移 と 密 接 な 関 連 が あ り 、 さ ら に は 独 立 し た 予 後 因 子 と 考 え ら れ た 。 こ の こ と は 臨 床 上 、 患 者 の 生 存 予 測 に 役 立 つ と と も に 、 今 後 カ テ プ シ ンB と そ の イ ン ヒ ビ タ ― の 分 子 生 物 学 的 研 究 が 肺 癌 に お け る 転 移 制 御 の ア プ ロ
―チのーっとなることを示唆するものと考えられた。
口 答 発 表 に あ た り 、 武 市 教 授 よ ル カ テ プ シ ンBと 血 行 性 転 移 、 周 囲 へ の 浸 潤 と の 関 係 、 有 転 移 症 例 で の カ テ プ シ ンBの 発 現 、 病 期 ・ 分 化 度 と の 関 係 に つ い て 、 葛 巻 教 授 よ ル カ テ プ シ ンBとras癌 遺 伝 子 と の 関 係 や 転 移 先 で の カ テ プ シ ンBの 発 現 に つ い て 、 阿 部 ( 和 ) 教 授 よ りcell cycleと の 関 連 に つ い て 、 藤 本 教 授 よ ル カ テ プ シ ンBと 基 底 膜 と の 関 係 や 予 後 に 及 ば す 治 療 の 影 響 に つ い て 質 問 が あ っ た が 、 申 請 者 は 概 ね 妥 当 に 答 え た と 思 う 。 ま た 、 武 市 教 授 、 葛 巻 教 授 よ り 個 別 に 審 査 を 受 け 、 合 格 と の 御 返 事 を ぃ ただぃている。
こ れ ま で に 肺 非 小 細 胞 癌 に お ぃ て カ テ プ シ ンBの 独 立 予 後 因 子 と し て の 価 値 は 明 ら か に さ れ て お ら ず 、 カ テ プ シ ンBが 浸 潤 転 移 の 指 標 お よ び 独 立 予 後 因 子 と な る こ と を 示 し た こ と は 意 義 あ る も の と 考 え ら れ 、 よ っ て 本 論 文は博士(医学)に相当するものと認めた。