博士(医学) 村尾尚規 学位論文題名
ケロイドにおける制御性T 細胞
学位論文内容の要旨
【背景と目的】
ケロイドは真皮線維芽細胞の増殖,コラーゲン産生を主体とする皮膚良性腫瘍である。
ケロイドは炎症性疾患,線維化疾患としての側面を持ち,T細胞などの炎症細胞が病態に 関与すると考えられている。ケロイド真皮内にはCD4・+T細胞が多く浸潤しているが,ケロ イド線維芽細胞との相互作用の詳細は不明である。
CD4+T細 胞 は 制 御 性T細 胞(regulatoryTcell:Treg)とThl、Th2、Th17のeffector T細胞(Teff)に分類される。Teffは免疫反応を亢進し,Tregは免疫反応を制御する。Treg は他のTeffを抑制し,両者の持続的バランスが炎症,アレルギー性疾患の発症,病態を決 定す る。TregはTGF‑ロの刺激により特異的な転写因子であるforkhead box P3 (FOXP3) が誘導され分化が促進するが,TGF‑ロとIL−6で同時に刺激された場合,FOXP3の誘導が抑 制され,Th17の誘導が促進される。したがって,Treg,Th17の両者の関係が特に免疫バラ ンスに反映される。Tregの減少による免疫バランスの破綻は全身性自己免疫疾患を発症さ せるが,近年,自己免疫疾患,炎症性の皮膚病変においても同様の免疫バランスの破綻が 見られることが明らかになっている。また,Tregの増加が線維化を抑制するとの報告もあ る。
炎症性疾患,線維化疾患であるケロイド局所においても免疫バランスが破綻している可 能性がある。また,ケロイド線維芽細胞はTGF‑ロやIL−6を高産生することが明らかとな っており,免疫バランスに影響を与える可能性がある。本研究ではケロイドにおける免疫 バ ラ ン ス と, ケロ イド 線維 芽細 胞とTregの相 互作 用を 解明 する こ とを 目的 とし た。
【対象と方法】
ケ ロイ ド(n=14,体幹7,耳介7) ,正常皮膚(n=7,体幹4,頭 頸部3),瘢痕(n=8,体 幹4,頭 頸部2,上 肢1,下 肢1) ,浅 達性n度熱傷(n=6,体幹3,上肢2,下肢1),表皮 嚢腫(n=6,体 幹4,頭 頸部1,下 肢1) の組織を採取した。浅達 性H度熱傷は上皮化後の 組織を,表皮嚢腫は嚢腫上の皮膚を炎症性のサンプルとして検討対象とした。免疫染色に より 真皮 に浸 潤す るTregを 同定 しCD4+T細胞に占めるTregの比 率やTh17/Treg比率を比 較 検 討 し た 。 ま た ,IL―6染 色 に よ り , 各 サ ン プ ル のIL−6発 現 を 比 較 し た 。 ケロイド患者(n 5),正常人(n 5)より得られた末梢血CD4+T細胞をTGF‑ロで刺激し Tregを誘 導し ,FOXP3誘導効率の差 を検討した。また,CD4+T細 胞をTGF‑ロ,ILー6で同 時に刺激し,FOXP3の誘導抑 制の有無について検討した。
採取した組織から培養したケロイド線維芽細胞と同一個体の末梢血から誘導,活性化し たCD4+T細胞またはTregーenriched CD4+T細胞を間接共培養し(n:ニ8),両者の相互作用 を検証した。共培養後のケロイド線維芽細胞および培養上清中のI型コラーゲン,TGF‑ロ,
IL−6産生をmRNA,タンパク レベルで評価した。
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【 結 果 】
ケ ロ イ ド 内 のCD4+T細 胞 浸 潤 は 真 皮 浅 層 の 血 管 周 囲 に 多 く 見 ら れ た 。 ケ ロ イ ド , 浅 達 性 II度 熱 傷 , 表 皮 嚢 腫 の サ ン プ ル の 真 皮 に 浸 潤 す るCD4+T細 胞 数 は 同 程 度 で あ っ た 。 ケ ロ イ ド のTreg/CD4+T細 胞 比 率 は 正 常 , 瘢 痕 と 同 程 度 で , 浅 達 性n度 熱 傷 , 表 皮 嚢 腫 と 比 較 し て 低 下 し て い た 。Th17/Treg比 率 は ケ ロ イ ド で は 浅 達 性u度 熱 傷 , 表 皮 嚢 腫 と 比 較 し て 増 加 し て い た 。 ケ ロ イ ド 真 皮 にILー6の 高 発 現 を 認 め た が , 他 の 炎 症 性 皮 膚 病 変 で もIL―6の 発 現 を 認 め る も の が あ っ た 。 正 常 皮 膚 , 瘢 痕 で はIL―6の 発 現 を 認 め な か っ た 。 TGF‑ロ で 刺 激 し た ケ ロ イ ド 患 者 の 末 梢 血CD4+T細 胞 は 正 常 人 と 同 様 にFOXP3が 発 現 し , FOXP3の 発 現 低 下 は な か っ た 。CD4+T細 胞 をTGF‑ロ ,IL―6で 同 時 に 刺 激 し た 場 合 , ケ ロ イ ド 患 者 , 正 常 人 と も にFOXP3の 発 現 が 低 下 し た 。
ケ ロ イ ド 線 維 芽 細 胞 の コ ラ ー ゲ ン 産 生 はTregーenriched CD4+T細 胞 と の 共 培 養 で は mRNA, タ ン パ ク レ ベ ル ,CD4+T細 胞 と の 共 培 養 で はmRNAレ ベ ル で 低 下 し た 。Treg―enriched CD4+T細 胞 お よ びCD4+T細 胞 は ケ ロ イ ド 線 維 芽 細 胞 のTGF‑B mRNA発 現 を 抑 制 し た 。 一 方 ,CD4+T細 胞 と 共 培 養 し た ケ ロ イ ド 線 維 芽 細 胞 のIL−6産 生 はmRNA, タ ン パ ク レ ベ ル で 増 加 し ,Treg−enriched CD4+T細 胞 と の 共 培 養 に お い て も 同 様 の 結 果 で あ っ た 。
【 考 察 】
同 程 度 の 炎 症 の 皮 膚 病 変 と 比 較 し て ケ ロ イ ド 真 皮 内 のTreg/CD4+T細 胞 比 率 が 低 下 し て い た こ と か ら , ケ ロ イ ド 内 で 免 疫 バ ラ ン ス の 破 綻 が 生 じ て い る と 考 え ら れ た 。 ケ ロ イ ド 真 皮 内 のTh17/Treg比 が 他 の 皮 膚 炎 症 病 変 と 比 較 し て 高 い こ と か ら , 免 疫 バ ラ ン ス の 破 綻 に IL−6が 関 与 す る こ と が 推 測 さ れ た 。 ケ ロ イ ド 患 者CD4+T細 胞 のFOXP3誘 導 効 率 の 低 下 は な い た め , 免 疫 バ ラ ン ス の 破 綻 は 全 身 で は な く ケ ロ イ ド 局 所 で 生 じ て い る と 考 え ら れ た 。 Tregの 抗 線 維 化 作 用 に よ り , ケ ロ イ ド 線 維 芽 細 胞 の コ ラ ー ゲ ン 産 生 を 低 下 さ せ る こ と が で き た 。 免 疫 バ ラ ン ス の 破 綻 に よ り , 実 際 の ケ ロ イ ド 組 織 で は 線 維 化 が 亢 進 し て い る と 考 え ら れ た 。 一 方 ,CD4+T細 胞 に よ っ て 高 ま る ケ ロ イ ド 線 維 芽 細 胞 のIL−6活 性 は ,Tregを 増 加 さ せ て も 抑 制 す る こ と は で き な か っ た 。 ケ ロ イ ド 線 維 芽 細 胞 のIL―6異 常 産 生 性 ,Treg 抵 抗 性 が 免 疫 バ ラ ン ス の 破 綻 を 生 じ さ せ る 可 能 性 が あ る 。
局 所 でTregを 増 加 , 活 性 化 さ せ 免 疫 バ ラ ン ス を 維 持 す る こ と は ケ ロ イ ド に 対 す る 新 た な 治 療 ア プ ロ ー チ と な る 。 免 疫 抑 制 剤 や 抗IL−6抗 体 薬 な ど が ケ ロ イ ド に 応 用 で き る 可 能 性 が あ る 。
【 結 論 】
ケ ロ イ ド 内 で はTregが 減 少 し 免 疫 バ ラ ン ス が 破 綻 し て い る と 考 え ら れ た 。 免 疫 バ ラ ン ス の 破 綻 は 局 所 で 生 じ て お り , ケ ロ イ ド 線 維 芽 細 胞 が 産 生 す るIL−6が 関 与 し て い る 可 能 性 が あ る 。Tregは ケ ロ イ ド 線 維 芽 細 胞 のI型 コ ラ ー ゲ ン 産 生 を 抑 制 す る 作 用 が あ り , 免 疫 バ ラ ン ス を 改 善 す る こ と は ケ ロ イ ド の 予 防 や 治 療 に 応 用 で き る 可 能 性 が あ る 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ケロイドにおける制御性 T 細胞
ケ口イド内に浸 潤する制御性T細胞のケロイ ド病態への関与を検証することを目標とし て研究を行い、免 疫組織学的染色により、ケロイド内に浸潤するCD4陽性T細胞に占める 制御性T細胞の比率が他の炎症性病変と比較し て低下しており、ケロイド組織局所内で免 疫バランスが破綻 している可能性を示した。また、ケ口イド患者と正常人の末梢血CD4陽 性T細 胞 から 制御性T細胞を誘導したところ、ケ口イド 患者の制御性T細胞誘導効率 の低 下はなかったが、ケロイド患者、正常人共にTGF‑ロ(transforming growth factor beta)、ILr
(インターロイキン)6の同時刺激下で誘導が抑制されたことから、ケ口イド局所の免疫バ ラ ンス の破 綻に は、 局所 のTGF‑8やIL‑6が原 因と なる 可能 性を 示 唆した。CD4陽性T細 胞とケロイド線維芽細胞の共培養により両者の相互作用について検証したところ、制御性T 細 胞含 有率 を高 めたCD4陽 性T細胞との共培養でケ口イ ド線維芽細胞のI型コラーゲ ン産 生が低下したが、IL‑6産生は抑制されなかった。したがって、制御性T細胞の抗線維化作 用が示された一方 で、ケロイド線維芽細胞のIL‑6異常産生性が免疫バランスの破綻に関与 する可能性が示された。
発表後、瀬谷教 授からは、ケ口イドにおいて増殖する細胞の由来や幹細胞の病態への関 与、ケ口イド病態 への免疫の関与を示した過去の報告の有無、IL‑6のケ口イド病態への関 与、制御性T細胞とケ口イド線維芽細胞の直接 の関連について質問があった。増殖細胞の 由来については、 血液中のf ibrocyteが関与する可能性があるが、同細胞が局所で線維芽 細胞に分化したと しても実際のケ口イド線維芽細胞内に占める割合が低く、病態にどの程 度寄与するかは現 状では不明であり、幹細胞の関与についても不明であると回答した。ケ 口イド病態への免 疫の関与を示した報告の有無に関しては、ケ口イド内ではCD4陽性細胞 がCD8陽性細胞より多いことを示した報告はあ るが、それ以外の報告はなく、本研究は、
CD4陽性細胞、制御性T細胞のケ口イド病態への関与を免疫バランスの観点から考察し、CD4 陽性細胞一ケロイ ド線維芽細胞共培養モデルを用いて実際に両者の相互作用を検証した世 界で初めての試みであると答えた。IL−6のケ口イド病態への関与については、ケ口イドと
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典 司
平 宏
正
有
原 谷
本 水
笠 瀬
山 清
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
正 常 な 創 傷 治 癒 の 終 末 像 で あ る 瘢 痕 と で 線 維 芽 細 胞 の コ ラ ー ゲ ン 産 生 を 増 加 さ せ るIL―6の 発 現 に 差 が あ る こ と か ら 、 通 常 の 創 傷 治 癒 過 程 で は 発 現 し たIL−6が い ず れ 低 下 す る が 、 免 疫 パ ラ ン ス の 破 綻 が 原 因 で ケ 口 イ ド で はIL―6の 高 発 現 が 持 続 す る 可 能 性 が あ る と 回 答 し た 。 制 御 性T細 胞 と ケ ロ イ ド 線 維 芽 細 胞 の 関 連 に つ い て は 、 制 御 性T細 胞 の 産 生 す るIL―10が ケ 口 イ ド 線 維 芽 細 胞 の コ ラ ー ゲ ン 産 生 を 低 下 さ せ る 可 能 性 が あ る と 答 え た 。 清 水 教 授 は ケ 口 イ ド 内 に お け る 制 御 性T細 胞 に 着 眼 し た こ と を 評 価 し た 上 で 、 ケ 口 イ ド は 体 質 が 関 与 す る た め 血 液 中 の 免 疫 パ ラ ン ス を 検 証 す る 必 要 性 を 指 摘 し た 。 申 請 者 は 、 ケ ロ イ ド で は 発 症 し な い 部 位 が あ り 体 質 以 外 に 局 所 的 な 要 因 も 発 症 に 大 き く 関 与 す る こ と を 説 明 し 、 血 液 中 の 制 御 性T細 胞 に つ い て は 今 後 の 検 討 課 題 と す る 考 え を 示 し た 。 山 本 教 授 か ら は 、 他 の 臓 器 の 炎 症 性 疾 患 、 線 維 化 疾 患 と 比 較 し た 際 の 制 御 性T細 胞 の 皮 膚 病 変 に お け る 作 用 の 特 異 性 の 有 無 に つ い て 質 問 が あ っ た 。 申 請 者 は 、 明 ら か な 特 異 性 は な い が 、 免 疫 バ ラ ン ス の 破 綻 が 皮 膚 の み で 生 じ て い る 場 合 、 免 疫 バ ラ ン ス を 是 正 す る 治 療 を 局 所 の み で 行 う 方 法 を 検 討 す る 必 要 が あ る と 回 答 し た 。
笠 原 教 授 か ら は 、 ケ 口 イ ド 動 物 モ デ ル が 成 立 し な い 理 由 、 ケ 口 イ ド 微 小 環 境 の 実 験 的 再 現 の 今 後 の 展 望 に つ い て 質 問 が あ っ た 。 申 請 者 は ケ 口 イ ド 動 物 モ デ ル に つ い て 、 免 疫 不 全 モ デ ル 動 物 に ヒ ト ケ ロ イ ド 線 維 芽 細 胞 を 移 植 し ケ 口 イ ド 様 組 織 を 再 現 し た 報 告 は あ る が 、 実 験 動 物 自 身 に ケ ロ イ ド を 作 製 す る こ と は 不 可 能 で あ り 詳 細 な 原 因 は 不 明 で あ る と 回 答 し 、 実 験 動 物 と ヒ ト と のlife spanの 差 や 創 傷 に か か る 緊 張 の 有 無 等 を 例 示 し 、 ケ 口 イ ド に 類 似 し た 肥 厚 性 瘢 痕 で 、 創 傷 に 持 続 的 緊 張 を 与 え る こ と で モ デ ル 作 製 に 成 功 し た 報 告 を 説 明 し た 。In vitroで の 微 小 環 境 の 再 現 に は 限 界 が あ り 、 実 験 動 物 に 作 製 し た 創 傷 モ デ ル で 通 常 の 創 傷 治 癒 過 程 に お け る 制 御 性T細 胞 の 意 義 の 詳 細 を 検 証 し た 上 で 、in vitroや 臨 床 の 研 究 結 果 と 合 わ せ て 考 察 す る こ と に な る と 回 答 し た 。
こ の 論 文 は 、 こ れ ま で 内 容 を 発 表 し た 国 内 の 学 会 で 高 く 評 価 さ れ , ケ 口 イ ド の 病 態 解 明 、 治 療 法 開 発 に 関 す る 基 礎 お よ び 臨 床 研 究 結 果 に 有 用 な 新 知 見 を 付 与 す る も の と 期 待 さ れ る 。 審 査 員 一 同 は 、 こ れ ら の 成 果 を 高 く 評 価 し 、 大 学 院 課 程 に お け る 研 鑽 や 取 得 単 位 な ど も 併 せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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