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博士(工学)木村尚仁 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(工学)木村尚仁 学位論文題名

時間分解螢光法によるLB膜分子の動的構造に関する基礎研究

学位論 文内容の要旨   Langmuir一Blodgett膜(LB膜)は有機分子素子、

パ イオ 素子 を開 発す る上 での 重要 な基盤 技術 であ る。そのため、LB膜 の構造、物性に関して様々な角度から研究が行われている。本研究はそ れ ら従 来の 研究 では 見逃 され てい た新た な観 点か らLB膜を捉え直すこ とを目指すものである。すなわち、膜を構成する分子はけっして静止し ているわけではなく絶えず熱によって揺らいでいて、これが薄膜機能発 現に対して大きな役割を涜ずるはずであると思われる。本研究は、この 分子の揺らぎ運動の測定法および解析法の基礎を確立することを目的と した。

  分子の揺らぎを測定する方法として、時間分解螢光偏光解消法を用い た。これは、試料に螢光分子をプローブとして挿入しておき、ある方向 に倔光したパルス光を照射することで励起した後、発せられる螢光の偏 光の度合いを微小な時間領域(ナノ秒、マイクロ秒等)で追跡・観測し、

その変化から分子の動きを捉える方法である。従来一般には、液体、粘 性体、あるいは生体膜やべシクル中の脂質分子、タンパク貫分子の分子 運動を測定するために用いられてきた。これらの測定対象は系全体とし て分子の分布が等方的であるために、理詰的にも実験的にも比較的取扱 い が容 易で あり 、数 多く の研 究が 行われ てき たが 、LB膜のように平面 的に配向した系を扱うためには新たな理諭・測定法を確立する必要があ っ た。 その 際第 ーに 問題 とな るの は、LB膜か ら発 せられる螢光の偏光 の度合いを、どのような指標をもって表すかと云うことである。従来一 般的に使用されてきた異方性比は、それがもつ物理的な意味において、

この場合には余り適当ではない。そこで本諭文ではこれに替わって、互 いに直交する三っの螢光倔光成分を、卜ータルの螢光強度で規格化した 量、

    Mx(t)=Sdロn(ロ;t)(ロ.X)2     MY(t)=Sdロn(皿;t)(皿'Y)2

(2)

    Mz(t)=Sdun(皿;t)(肛.Z)2

を 定義 し、 これ を偏 光率 と名 付け て、 これ を用い てLB膜等 の平 面的 に 配向 した 分子 膜系の偏光性の指標とすることにした。ここで肛は分子の 方位ベク卜ル、n(皿;t)は励起分子の配向分布関数、「^」は各軸方向の 単位ペク卜ルを示す。偏光率の各成分Mx(t)、MY(t)、Mz(t)はそれぞれ 0か ら1ま で の 値 を と り 、 分 子 がX,Y,Z各 軸 に ど れ だ け 近 寄 っ て 分 布し てい るか を表 して いる 。軸 に近 寄っ て分布しているほど1に近い値 をと り、 逆に 軸か ら遠 く分 布す るほ ど0に 近い値をとる。これらの基本 的性 質を もと にして、測定された倡光率の時間変化から、容易に分子の 分布に関して定性的な考察を行うことができる。

  さ らに 、分 子の配向状態、運動状態に関する定量的な解析は、分子分 布を 表す モデ ルを仮定することにより、倔光率の測定値を用いて詳細に 行う こと がで きる。本研究ではこのモデルとしてー軸配向円錐内揺動運 動モ デル を仮 定し た。 これ は、 分子 が角 度8。(揺動角)の角度の仮想 錐内に束縛され、その中で揺動拡散定数Dーで表される速度で揺らぎ運動 を行っているとするものである。また、この円錐は基板に対して極角d、 方位 角ア で表 される角度だけ傾いていると仮定した。これらのパラメー 夕Oe、6、 ア、D と 偏光 率の 関係 を理 諭的 に定式 化す ると 、偏 光率 の 定値 を用 いる ことにより、パラメータの値が算出され、膜構成分子の揺 動、 配向 状態 を定量的に評価できる。また、偏光率の時間変化をシミュ レー ショ ン計 算することは、理諭的考察、解析を行う上での重要な手段 とな る。 その ためには励起分子の任意の時間における配向分布関数を求 める必要がある。この分布関数はスモルコフスキー方程式(拡散方程式)

に従 う。 通常 はこの場合、分布関数は球面調和関数を用いて展開するこ とが でき るが 、円錐内揺動運動モデルのように特定の角度内に分布が限 られ てい る場 合にはこの方法は使うことができない。この場合その代わ りに 、境 界条 件を満たすような実数添字のルジャンドルの陪関数を使え ばこの分布関数を展開し、表現することができる。その表現式に対して、

揺動 角(Oc) 、配 向角 (6、 ア) の値 を与 えると、偏光率の時間変化を 数値的に計算することができる。実際にシミュレーションを行った結果、

倔光率の基本的性質から予想される通り、配向角dが大きくなることで、

揺動 円錐 がX軸、Z軸から遠ざかり、Y軸に近づくと、Mx(t)、Mz(t)は 小さく、MY(t)は大きくなることが分かった。また、揺動角が大きくなる と、偏光率のt=0とt=ooにおける億の差が大きくなり、緩和時間が長くな っていることが分かった。

  時 間分 解螢 光倔光解消の測定は次のように行われる。アルゴン―色素 レ ーザ ーに よる パル ス光 を試 料( 螢光 プロ ーブを 挿入 したLB膜 )に 照 射し 、発 せら れる螢光の侶光成分をナノ秒の時間領域で測定した。螢光 の測 定は 、感 度、時間分解能の点で優れている時間相関単一光子計数法

(3)

により行った。

  倔光 率を 求め るた めに は、 直交する3っの螢光偏光成分を測定しなけ れ ばならない。そのためには、試料に対して、直交する二方向から倡光 解 消測定を行う必要があるが、本研究では基板(試料)の置き方を変え て、二度の測定をすることでこれと等価な測定を行い得ることを示した。

す なわ ち、 第1の測定 にお いて 、基板法線と励起光の入射方向のなす角 度 をと とす る。 この 測定 の後 、法緑と入射方向のなす角度を死/2一暑 に 設定 し、 基板 を上 下逆 さに して第2の測定を行う。ただし、励起光は 縦 に偏 光し てい るも のと する 。こ の第2の測 定は 、第1の測 定の条件下 で 入射方向側から倔光測定を行うことと等価であるために、従って螢光 倔光の3成分が得られることとなる。

  本 研 究 の 実 験 試 料 とし ては、DPH−プ ロピ オン 酸を 螢光プ ロー ブと し て 混 入 さ せ た ス テ ア リ ン 酸 のLB膜 を 用 い た 。LB膜 製膜用 トラ フ(

水 槽)に塩化カドミウムの水溶液を満たし、その水面にステアリン酸と DPH− プ ロ ピ オ ン 酸を 溶か した クロ ロホ ルム 溶液 を滴 下する 。ク ロロ ホ ルムが蒸発し、水面上に単分子膜が形成されるのを待ってから、その 膜 の圧縮を開始し、表面圧が設定した値に達した時点で溶融石英基板上 に垂直浸漬法に依って1層累積した。

  このステアリン酸LB膜について時間分解螢光偏光解消測定を行った。

そ の結果より、倡光率を指標とする表し方は直観性に優れ、他の指標を 用 いた場合に比べて有効であることが示された。加えて全螢光強度のカ ー ブも求められることから、プローブ分子の螢光寿命に関する推定が可 能 となった。実際の測定から、プローブ量を増すことでプローブ間の相 互 作用も増加することを示唆する結果が得られた。最後に、累積の際の 表 面 圧 を 変 え てLB膜 の累 積を行 った とこ ろ、 巧一A曲 線上で 固体 膜に な った直後の膜は分子分布がかなり乱雑であるが、完全な固体膜状態に お いては比較的分子配向が揃い、その後膜が崩壊してしまうと、再び分 子分布が乱れることが分かった。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査  教授  武笠幸ー 副査  教授  小川吉彦 副査  教授  田頭博昭

副査  助教授  荒磯恒久(応用電気研究所)

    学位諭文題名

時間分解螢光法によるLB膜分子の動的構造に関する基礎研究

  ラングミュアーブロジェット膜(LB膜)は有機分子素子、パイオ素 子を開発する上での重要な基盤技術であり、そのため、LB膜の構造、

物性に関して様々な角度から研究が行われている。本研究では薄膜機能 発現に対して大きな役割を漬ずる分子の熱ゆらぎに着目し、新たな視点 よりLB膜を捉え直すことを目指す。従って本研究は、この分子の揺ら ぎ 運動の測定法および解析法の基礎を確立することを目的とした。

  分子の揺らぎを測定する方法としては、時間分解螢光偏光解消法を用 い、試料に螢光分子をプローブとして挿入し、偏光したパルス光を照射 することで励起した後、発せられる螢光の偏光の度合いを微小な時間領 域(ナノ秒、マイクロ秒等)で追跡・観測、その変化から分子の動きを 捉える方法である。従来一般に、液体、粘性体、あるいは生体膜やぺシ クル中の脂質分子、タンパク質分子の分子運動を測定するために用いら れてきたが分子の分布が等方的であるために、理論的にも実験的にも比 較的取扱いが容易である。ー方LB膜のように平面的に配向した系を扱 うためには新たな理諭・測定法を確立する必要があった。その際第一に 問題となるのは、LB膜から発せられる螢光の偏光の度合いを表す指標 であり、従来の異方性比に対して、互いに直交する三っの螢光偏光成分 を、トータルの螢光強度で規格化した偏光率という物理量を新たに導入 した。

  さらに、分子の配向状態、運動状態に関する定量的な解析は、分子分 布を表すモデルを仮定することにより、偏光率の測定値を用いて詳細に 行うことができた。本研究ではこのモデルとして一軸配向円錐内揺動運 動モデルを仮定し、モデル中のパラメータと偏光率の関係を理諭的に定 式化すると、偏光率の測定値を用いることにより、パラメータの値が算

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出さ れ、 膜構成分子の揺動、配向状態を定量的に評価できる。また、偏 光率 の時 間変化をシミュレーション計算することは、理諭的考察、解析 を行 う上 での重要な手段である。励起分子の任意の時間における配向分 布関 数は 境界条件を満たすような実数添字のルジャンドルの陪関数を使 い展 開し 、表現することができるため、その表現式に対して、揺動角、

配向 角の 値を与えることにより、倔光率の時間変化を数値的に計算する こと がで きる。実際にシミュレーションを行った結果、偏光率の基本的 性質から予想される通り、配向角が大きくなることで、揺動円錐がX軸、

Z軸 か ら 遠 ざ か り 、 鉛 直 軸 で あ るY軸 に 近 づ く と 、 偏 光 率 のX、Z成分 は小 さく 、Y成分 は大き くな るこ とが 分かった。また、揺動角が大きく なると、偏光率のt=0とt=00における値の差が大きくなり、緩和時間が長 くなっていることが分かった。

  時 間分 解螢光偏光解消の測定は次のように行われる。アルゴン一色素 レー ザー によ るパ ルス 光を 試料 (螢 光プ ロー ブを挿 入し たLB膜) に照 射し 、発 せられる螢光の偏光成分をナノ秒の時間領域で測定した。螢光 の測 定は 、感度、時間分解能の点で優れている時間相関単一光子計数法 により行った。

  偏 光率 を求 める ため には 、直 交す る3っの螢光偏光成分を測定しなけ れば なら ない。そのためには、試料に対して、直交する二方向から偏光 解消 測定 を行う必要があるが、本研究では基板(試料)の置き方を変え て、二度の測定をすることでこれと等価な測定を行い得ることを示した。

  本 研 究 の 実 験 試 料 と して は 、DPHー プロ ピオ ン酸 を螢 光プ ロー ブと し て 混 入 さ せ た ス テ ア リン 酸 を 垂直 浸漬 法に より1層累 積し たLB膜を 用い た。 この ステ アリ ン酸LB膜 につ いて 時間 分解螢 光偏 光解 消の 測定 を行 った 。その結果より、偏光率を指標とする表し方は直感性に優れ、

他の 指標 を用いた場合に比ぺて有効であることが示された。加えて全螢 光強 度の カーブも求められることから、プローブ分子の螢光寿命に関す る推 定が 可能となった。プローブ量を増すことでプローブ問の相互作用 も増 加す ることを示唆する結果が得られた。最後に、累積の際の表面圧 を 変 え てLB膜 の 累 積 を 行っ た と ころ 、ガ ーA曲 線上 で固 体膜 にな った 直後 の膜 は分子分布がかなり乱雑であるが、完全な固体膜状態において は比 較的 分子配向が揃い、その後膜が崩壊してしまうと、再び分子分布 が乱れることが分かった。

  こ れを 要す るに 本諭 文は 、時 間分 解螢 光偏 光解消 法を 用い てLB膜分 子の 揺動 運動、配向状態を測定するための基盤を確立したもので、分子 エレ クト ロニクス、電子材料工学、電子デパイス工学の進展に寄与する とこ ろ大 である。よって著者は博士(工学)の学位を授与される資格あ るものと認める。

参照

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