博士 ( 農 学 )梁 成 錫
学 位 論 文 題 名
施 設果 菜 類 の フザ リ ウ ム 病の 発 生 生 態と
生 物 的 防 除 に 関 す る 研 究
(トマ ト根 腐萎 ちょ う病およびキュウりっる割病を対象として)
学 位 論 文内 容 の 要 旨
近 年、 韓国 の施設果菜類では栽培地によって、フザリウム病が発病して問題になっ てい る。 本病 は冬期と夏期にかかわらず発病しているが、このような現状は連作によ る病原菌の密度増加、土壌物理性の悪化および塩類集積等が発病の原因と考えられる。
しか しな がら 、韓国ではフザリウム病の発生と土壌環境との関係に関する研究は少な い。 本研 究で はトマトとキュウりについて、フザリウム病の発生状況、病徴および発 病地 土壌 の土 壌環境の実態を調ベ、土壌の物理・化学性および生物性とフザリウム病 の発 生と の関 連を解明し、その発生生態を明らかにしようとした。一方、キュウりつ る割 病の 生物 的防 除法 とし て非 病原 性Fusariumox‑yslj〇rLlmを用いた交叉防御の効 果を究明し、実用化を図った。
1.フザリウム病の発生生態
1) 発 生 状 況 お よ び病 徴: 施設 栽培 地の トマ 卜で は2月 から4月の 間に 根腐 萎ち ょ う 病 が 多 発 生 し た が、 発病 率は圃 場に より1% から90% であっ た。 本病 の症 状は 発 病初期には下位葉が黄化し、後期には株全体が黄化症状を現わし、激しい場合は萎ちょ うや 枯死 した 。被害株の根は褐変、腐敗し、茎の維管束が褐変した。ウリ科作物では 6月 と8月 の間 につ る割 病の 発生 が確 認さ れた が、発 病株 の根 は腐 敗、 脱落した。以 上の よう に、 低温期に発病するトマト根腐萎ちょう病と高温期に発病するウリ科作物 の つ る 割 病 は 根 の 褐 変 、 腐 敗 お よ び 脱 落 が 共 通 的 な 特 徴 で あ っ た 。 2)病 原菌 :低 温期に 発病 した 卜マ ト根 腐萎ちょう病とキュウりつる割病の発病株 からF, oxySiOOTLITnが分離された。これらの菌株については各作物の幼苗に対する病 原性 が確 認さ れた。しかし、病原菌の間に菌糸発育適温、胞子形成量の差はあまりな かった。
3)発 病地 の特 徴:フ ザリ ,ウ ム病 の発 病地の栽培環境特性を調べた結果、2〜3年 の連 作地 で最 も多かった。本病は栽培圃場の土性によっても発病の差があったが、発 病程 度は 砂土 >砂壌土>埴壌土の順であった。施用有機物の種類と発病との関係を見 ると 、鶏 糞堆 肥を多量施用した栽培地において発病率が最も高く、次いで豚糞堆肥で あっ た。 また 、発病地土壌の塩類濃度は4.ldS /m以上の圃場が75%であった。発病地 と無 発病 地の 土壌 微生 物相 は、 発病 地で は無 発病地 の土 壌よ りFoxysporum、細菌、
糸状菌 の密度は 高かったが 、放線菌 の密度は 低い傾向であった。以上のように、フザ リウム 病tま連作 地、養水分保有カが低い砂土、そして、塩類濃度が高い土壌、鶏糞や 豚糞堆肥の多量施用した栽培地において多発生した。
4)フザ リウム病 の多発生原 因の解明 :(1)F.o燭′sroorumの病 原性と苗 齢との 関係に ついては 、幼苗検定 では病原 菌の濃度 が高いほど、発病が多かったが、成植物 検定で は菌濃度 よりは未熟 家畜糞堆 肥(調製3カ月未満 のもの) の施用量 が発病に大 き く影 響 を及 ば し た。 (2)F. oxyp〇rumの土 壌中の分 布につい ては発病 植物体の 残根に 最も多く 、次いで有 機物(イ ナわら、 バーク)、土壌の順であった。有機物の 種類と 土壌微生 物の増殖と の関係を 調べた結 果、完熟 堆肥(1年 以上腐熟 したもの)
施用区 では未熟 堆肥(調製3力月未満のもの)施用区より放線菌の密度が高く、一方、
F,〇x恥 ,ponImや細菌 および糸状菌の密度は低い傾向であった。また、未熟堆肥施用 区 よ りも 完 熟堆 肥 施 用区 か らキ ュ ウ りつ る 割病 原 菌 の拮 抗 菌 が多 く 分離 さ れ た。
(3)発 病率が異 なる土壌を 用いて作 物を栽培 した場合 、発病率 が高い土 壌において は根の 褐変、腐 敗が激しく 、発病も 多かった 。また、発病率が高い土壌からの土壌抽 出溶液中ではキュウりの発芽率が低く、幼苗の褐変程度が激しく、そして発病も多かっ た。(4)有機物 の腐熟程度 と発病と の関係を 見ると、 未熟家畜 糞堆肥の 多量施用区 が完熟 堆肥施用 区よりも植 物体の根 の褐変、 腐敗が激しく、発病も多かった。また、
土壌の 塩類濃度 が高くなる ほど発病 率が低く 、作物の生育の抑制や根の褐変・腐敗が 激しく 、発病も 多かった。 (5)キュ ウりつる 割病菌は 塩類濃度 が低い土 壌ではキュ ウりに 限って病 原性を示し たが、塩 類濃度の 高い土壌では他のウリ科作物にも病原性 を示し た。(6) 土性の異な る土壌に おいてキ ュウりを 栽培した 場合、砂 土で根の褐 変と発病が最も多く、次に砂壌土、埴壌土の順であった。また、水分含量の差(過湿、
乾燥) が激しい 場合、発病 が多かっ た。(7) フザリウ ム病の萎 ちょうや 枯死の外観 的症状 は根の腐 敗と導管内 の菌の感 染、そし てチ口ーシス形成による導管閉鎖がその 原因として考えられた。
以上の 結果から 、フザリウ ム病は植 物体の根 の活カ低下(褐変、腐敗、脱落)が発 病助長 の大きな 原因のーっ として考 えられた 。根の活カ低下を招く要因としては、未 熟家畜 糞椎肥の 多量施用、 塩類の集 積および 土壌水分の過不足が最も大きな要因と考 えられ た。また 、FI〇ぬ′.sp〇rumは作物の生育状態や土壌の悪化程度によって、病 原性と発病程度が異なった。したがって、土壌環境を考慮したF.〇珂′Sp〇rL!mの病原 性 お よ び 分 化 型 の 新 し い 検 定 方 法 と 防 除 対 策 が 必 要 で あ る と 考 え ら れ る 。 2.キュウりつる割病の生物的防除
非病原性F.〇め′Sp〇rumをキュウりに前接種してキュウりつる割病の防除法の実用 化 を 図っ た 。1)植 物 体 と根 の 近辺 の 土 壌か ら 分離 し た130菌 株 中、 非 病 原性 菌 株 は92菌 株で あ っ た。 こ れら の菌株の前 接種によ るキュウ リ幼苗の 発病抑制 効果は21 菌株で認められた。2)非病原性F.〇め′Sp〇rL!伽の前処理方法を検討した場合、土壌 ふすま 培養土に 培養して育 苗ポット に前処理 したものが、液体培養菌の前処理や移植 直前処 理より菌 の密度が高 く維持さ れ、発病 抑制効果も高かった。また、非病原性菌 株 の 前 接 種 量 が 多 く な る ほ ど 防 除 効 果 が 高 く な っ た 。 そ し て 、 非 病 原 性F. の げsp〇rumは 他 の作 物 には病 原性を示さ なかった 。3)非病 原性菌株 の前処理 によ る 農家 圃 場2カ所 の 実 証試 験において 発病抑制 効果が認 められた が、非病 原性菌9菌
株中、キュウリ健全植物体から分離した非病原性F.〇め′sporurnCu−1菌株の処理で 発病抑制効果が最も高かった。4)非病原性菌株の大量培養のために、水稲用育苗床 に調製床土を詰め、液体培養した非病原性菌株を接種したのち、接種箱(28℃)で 5日間培養すると多量の菌体が得られた。これらの大量菌体の前処理による農家実証 試験において発病抑制効果が示され、実用化の可能性が認められた。5)非病原性F, oxyS pOTLimの前接種による発病抑制効果は非病原性菌株が植物体の主根、胚軸部に 局 在し て い て、 病 原菌 の 侵入 を 抑制 し ていること によるもの と考えられ た。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
生越 小林 喜久田 近藤
学 位 論 文 題 名
明 喜六 嘉郎 則夫
施設果菜類のフザリウム病の発生生態と 生 物 的 防 除 に 関 す る 研 究
( ト マ ト 根 腐 萎 ち ょ う 病 お よ び キ ュ ウ り っ る 割 病 を 対 象と し て )
韓国における施設栽培のトマ卜とキュウりについて、フザリウム病の発生状況、病徴お よび発病地土壌の土壌環境の実態を調査し、特に、土壌の物理・化学性および生物性とフ ザリウム病の発生との関連を解明し、その発生生態を明らかにしようとした。また、キュ ウりっる割病の生物的防除法として、非病原性Fusariu′″ oxysporumを用いた交叉防御の 効果を究明し、実用化を図った。.
1.フザリウム病の発生生態
1) 発生状 況および 病微:施 設栽培 地の卜マ 卜では2月か ら4月 の問に根腐萎ちょう病 が、ウ リ科作 物では6月と8月の 間につる 割病が多発生したが、これらは根の褐変、腐敗 および脱落が共通的な特徴であった。
2) 病原菌 :低温期に発病した卜マ卜根腐萎ちょう病とキュウりっる割病の発病株から それぞ れF OXYsporumが分離 され、こ れらの菌 株の病 原性が確 認された。しかし、両病 原菌の間に菌糸発育適温、胞子形成量の差はあまりなかった。
3)発 病地の 特徴: フザリウ ム病の 発病地の 栽培環境 特性を 調べた結 果、2〜3年の連 作地で発病が多く、土性についてみると、砂土ニ冫砂壌土>埴壌土の順で発病が多かった。
鶏糞堆肥と豚糞堆肥を多量施用した栽培地におぃて発病が多く、発病地土壌は塩類濃度が 高かっ た。ま た、発病 地では無 発病地 の土壌よりF OKysportmA細菌、糸状菌の密度が高 かったが、放線菌の密度は低い傾向にあった。
4) フザリ ウム病の 多発生原 因の解 明:(1)E oxysporumの病 原性と苗齢との関係で は、幼苗検定では病原菌の濃度が高いほど、発病が多かったが、成植物検定では菌濃度よ りは未熟家畜糞堆肥の施用量カく発病に大きく影響を及ばした。(2)P oxy.sporu切の土壌 中の分布については発病植物体の残根に最も多く、次いで有機物、土壌の順であった。完 熟堆肥 の施用 区では未 熟堆肥の 施用区 より放線菌の密度が高く、ー方、E oxysportmA細
菌および糸状菌の密度は低。、傾向にあった。また、未熟堆肥施用区よりも完熟堆肥施用区 か らキュ ウりつる割病原菌の拮抗菌が多く分離された。(3)発病率が高い土壌におぃて は 根の褐 変が激しく、発病も多かった。(4)未熟家畜糞堆肥の多量施用区、塩類濃度が 高い土壌では根の褐変、腐敗が激しく、発病も多かった。 (5)キュウりっる割病菌は塩 類濃度の低い土壌ではキュウりに限って病原性を示したが、塩類濃度の高い土壌では他の ウ リ科作 物にも病 原性を示 した。(6)土性の異なる土壌におぃてキュウりを栽培した場 合、砂土で根の褐変と発病が最も多く、また、過湿と乾燥の差が激しい場合、発病が多か っ た。(7)フ ザリウム病の萎ちょうや枯死の外観的症状は、根の腐敗と導管内の菌の感 染 、 そ し て チ ロ ー シ ス 形 成 に よ る 導 管 閉 鎖 カ マ そ の 原 因 と し て 考 え ら れ た 。 以上の結果から、フザリウム病は植物体の根の活カ低下(褐変、腐敗、脱落)が発病助 長の大きな原因のーっとして考えられた。根の活力低下を招く要因としては、未熟家畜糞 椎肥の多量施用、塩類の高集積および土壌水分の過不足が最も大きな要因と考えられた。
また、′. oxysporun<;t作物の生育状態や土壌の悪化程度によって、病原性と発病程度が異 な った。 したがって、土壌環境を考慮したP oxysporumの病原性およぴ分化型の新しぃ検 定方法と防除対策が必要であると考えられる。
2.キュウりつる割病の生物的防除
ユ )植物 体と土壌 から分 離した非 病原性92菌株中、前接種によって顕著な発病抑制効 果 を示し たものは9菌株 であっ た。2)非病原 性F oxysporumを土壌 ´ふすま培養土に培 養して育苗ポッ卜に前処理したものが、菌数も高く維持され、発病抑制効果も高かった。
3)非病 原性菌 株の前処 理によ る農家圃 場2カ所の実証試験で発病抑制効果が認められた が 、非病 原性菌9菌株中 、キュ ウリ健全 植物体から分離した非病原性¢OxYspo′.脚Cu1 菌 株の処 理で発病 抑制効果が最も高かった。4)水稲用苗床に調製床土を詰め、非病原性 菌 株を接 種したの ち、接種 箱(28℃ )で5日問培 養すると 多量の 菌体が得られた。これ らの大量菌体の前処理による農家実証試験で発病抑制効果が示され、実用化の可能性が認 められた。
以上の研究成果は、韓国の施設果菜につ。、てこれまで明らかでなかったフザリウム病の 発生生態を明らカ、にし、生物的防除の可能性を示したものであり、学術上応用上高く評価 される。よって審査員一同は、梁成錫が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有 するものと認めた。