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学位授与記録簿(博士)

バイオサイエンス研究科 氏 名 桂木 雄也 学 位 の 種 類 博士(バイオサイエンス) 授 与 年 月 日 2015 年(平成 27 年)3 月 21 日 学位授与の要件 本学学位規程第 18 条第 1 項該当者(学位規則第 4 条第 1 項) 学位論文の題名

イネにおける植物病原細菌の鞭毛タンパク質フラジェリンの

受容機構に関する研究

審 査 委 員 主査 教授 蔡 晃植 副査 教授 西 義介 副査 教授 山本 博章 論 文 内 容 要 旨 植物は、多くの病原菌に対して効果的な二つの免疫システムを持つ。最初の免疫シス テムは、PAMPs (pathogen-associated molecular patterns) と呼ばれる広範囲な病原菌に共 通に存在する分子群を、植物細胞膜表面に存在する PRRs (pattern-recognition receptors) と呼ばれる受容体を介して認識して誘導する PAMP-triggered immunity (PTI) であり、 次は、植物病原細菌などが TypeIII 分泌装置を介して植物細胞内に分泌するエフェクタ ーと呼ばれる分子を認識して誘導する Effector-triggered immunity (ETI)である。このふ たつの免疫システムの中で、PTI は病原菌認識後比較的早期に誘導され、活性酸素の 発生や防御関連遺伝子の発現、カロースの沈着などの免疫反応が含まれることが明ら かになっている。

イネは植物病原細菌 Acidovorax avenae の非病原性菌株のフラジェリンを認識し PTI を誘導する。シロイヌナズナ等においてフラジェリンの認識部位として同定されてい る flg22 や A. avenae のフラジェリン由来の flg22-avenae をイネに処理した場合、ほと んど PTI が誘導されなかった。一方、イネにはシロイヌナズナの flg22 受容体 FLS2 (Flagellin sensing 2) のオルソログ Oryza sativa FLS2 (OsFLS2) が存在している。OsFLS2 は FLS2 と同様に flg22 を認識する能力を有し、また、OsFLS2 の過剰発現イネは flg22

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- 2 - を認識して PTI 反応を強く誘導する。これは、イネは flg22 認識能を有する OsFLS2 を 保有しているが、フラジェリンによる PTI 誘導においては OsFLS2 が主要な受容体と して機能しないことを示している。同時に、このことは、イネはシロイヌナズナとは 異なるフラジェリン受容機構によりフラジェリンを認識し PTI 反応を誘導することを 示している。そこで本研究では、イネにおけるフラジェリンの認識機構を分子レベル で明らかにすることを目的とした。まず、イネにおけるフラジェリン認識部位を大腸 菌で作製したフラジェリン部分ペプチドを用いて同定を試みた。フラジェリンの 7 つ のドメイン (D0、D1、D2、D3、D2、D1、D0) を N 末端領域の ND0–2 (D0、D1、D2)、 中央領域の ND2–CD2 (D2、D3、D2)、C 末端領域の CD2–0 (D2、D1、D0) の 3 つの領 域に分けたタンパク質を作製し PTI 誘導活性を調べた。その結果、イネにおいては CD2–0 にのみ PTI 誘導活性が認められた。このことから、イネにおけるフラジェリン 認識部位は C 末端の CD2–0 領域に存在することが明らかになった。次に、CD2–0 領 域の N 末端または C 末端からアミノ酸を欠損させたペプチドを作製し、詳細なイネに おける PTI 誘導活性部位について調べたところ、CD2–1 に全長のフラジェリンと同様 の PTI 誘導活性が存在することが明らかになった。そこで、CD2–0 により誘導される PTI が病原細菌に対する抵抗性に寄与するか調べたところ、CD2–1 を処理したイネ植 物体において、A. avenae 非病原性菌株または病原性菌株の菌体数が有為に減少してい た。このことから、CD2–1 によって誘導される PTI は病原菌防御にも役立っているこ とが明らかになった。 CD2–1がイネに認識されて免疫反応を誘導する部位であることが明らかになったの で、次にこのCD2–1を認識する受容体の同定を試みた。イネにフラジェリンを処理した 時に発現誘導される遺伝子を、マイクロアレイで解析したところ、フラジェリンを処理 したときに発現誘導される受容体型キナーゼ遺伝子を16個同定した。これら遺伝子の中 で、分子内にSignal peptide、LRR N-terminal domain、LRR domain、Transmembrane domain、 Ser/Thr kinase domainを持つ、一回膜貫通型受容体キナーゼをコードする2つの遺伝子を イネのフラジェリン受容体遺伝子として選抜した。そこで、この2つの候補遺伝子がフ ラジェリン認識に関与するかを明らかにするため、これらをイネプロトプラストに一過 的に高発現させたところ、Flagellin-induced receptor kinase 2 (FliRK2) と名付けた遺伝子 を発現したときにフラジェリン感受性が増加することが示された。そこで、FliRK2がフ ラジェリン認識によるPTI誘導に関与するかどうかを、FliRK2欠損イネ変異体(flirk2変 異体)を用いて調べたところ、フラジェリンによるPTIが減少しており、このPTIの減少 はflirk2変異体にFliRK2を発現させることで回復した。興味深いことに、flirk2変異体に キナーゼドメインを欠損させたFliRK2を発現させた場合には、フラジェリン認識による PTI誘導能は回復しなかった。このことから、FliRK2がイネのフラジェリン認識に関与

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- 3 - しており、その認識情報の細胞内伝達には細胞内キナーゼドメインが必須であることが 示された。そこで、FliRK2とフラジェリンの相互作用にをFliRK2高発現細胞を用いて ELISAで検出した。その結果、FliRK2高発現細胞においてフラジェリンの結合量が有為 に増加していたことから、FliRK2とフラジェリンが相互作用することが明らかになった。 以上のことから、FliRK2はイネおけるフラジェリンCD2–1領域を認識する受容体である ことが明らかになった。そこで、次に、FliRK2を介した細胞内情報伝達機構について様々 な情報伝達阻害剤を用いて解析を行った。その結果、プロテインキナーゼ阻害剤である スタウロスポリンやカルシウムイオンキレート剤によりフラジェリンによるPTI誘導が 阻害された。さらに、細胞内情報伝達に関与するMAPKのリン酸化を調べたところ、フ ラジェリンを処理すると数分以内に細胞内のMAPKが速やかにリン酸化されることも 明らかになった。これらのことから、イネはフラジェリンのCD2–1領域を細胞膜に存在 するFliRK2で認識し、その認識情報をカルシウムイオンとMAPKカスケードを介して細 胞内に伝達していることが明らかとなった。 論 文 審 査 結 果 要 旨 本論文には、Acidovorax avenae N1141 菌株のフラジェリンの認識機構に関する研究 内容が記載されている。イネは植物病原細菌 A. avenae の非病原性菌株のフラジェリン を認識し PTI を誘導する。イネにおけるフラジェリンの認識機構を明らかにすること を目的とし、イネにおけるフラジェリン認識部位の同定を試みたところ、イネは C 末 端領域の CD2–0 を認識することを明らかにした。次に、この CD2–1 を認識する受容 体を同定するために、イネにフラジェリンを処理した時に発現誘導される遺伝子を、 マイクロアレイで解析したところ、受容体型キナーゼ遺伝子を 16 個同定した。これら 遺 伝子の中 で、分子 内に Signal peptide、 LRR N-terminal domain、 LRR domain、 Transmembrane domain、Ser/Thr kinase domain を持つ、一回膜貫通型受容体キナーゼを コードする 2 つの遺伝子をイネのフラジェリン受容体遺伝子として選抜した。そこで、 こ れ ら を イ ネ プ ロ ト プ ラ ス ト に 一 過的 に 高 発 現 さ せ た と こ ろ 、 Flagellin-induced receptor kinase 2 (FliRK2) と名付けた遺伝子を発現したときにフラジェリン感受性が 増加することが示した。また、FliRK2 欠損イネ変異体(flirk2 変異体)は、フラジェリ ン認識能を持たないこと、FliRK2 の発現により認識能が相補されることを示すと共に、 FliRK2 とフラジェリンが相互作用することも明らかにした。以上のことから、FliRK2 はイネおけるフラジェリン CD2–1 領域を認識する受容体であることを明らかにした。

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- 4 - さらに、このフラジェリン認識シグナルが、MAP キナーゼカスケードを介して細胞内 に伝達されることも明らかにしている。 本研究は、イネにおけるフラジェリン受容機構を初めて明らかにしたものであり、 その研究結果は大いに評価できる。研究は膨大な実験量に裏打ちされた論理性が高い ものであり、本論文の研究結果は非常に完成度が高い。論文審査におけるプレゼンテ ーションも質が高く、口頭試問においてもこの分野における高い知識を有しているこ とが確認された。さらに、英語論文としては筆頭著者で 1 報、学会等での発表は国際 学会での英語発表3 回も含め多数行っており、農芸化学会では論文賞も受賞している。 審査員は全員一致で、本論文が長浜バイオ大学の博士(バイオサイエンス)の学位論 文として相応しいものと結論づけた。

参照

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