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【平成28年度日本保険学会大会】シンポジウム⽛民事司法利用支援のための保険制度の役割⽜
民事司法利用支援のための保険制度の 役割:はじめに
平成28年度大会シンポジウム
総合司会 山 下 典 孝
民事司法にかかわる分野は,市民生活や経済活動にかかわる密接でかつ重 要な分野である。また,今日の複雑な社会状況において公共的インフラとし ても重要な役割を果たすものである。このような市民生活に密接かつ重要な 分野であるにもかかわらず,実際には,民事司法は国民にとって利用しにく く,分かりにくく,また頼りとなる制度とはなっていない。
民事司法の利用の阻害となっている理由の⚑つとして,費用問題がある1)。 この費用問題を解決する手段として,法律扶助制度の拡充,訴訟費用保険の 拡充などが提唱されている2)。
例えば,交通事故件数が減少傾向にありながら,一般民事紛争の中で,交 通事故を巡る裁判は増加傾向にあり,その原因の⚑つには自動車保険に付帯 される弁護士費用補償特約(権利保護保険,弁護士保険3))の普及にあると 言われている4)。このように費用問題という障害を,保険を利用することに
*平成28年10月29日の日本保険学会大会(立命館大学)報告による。
/ 平成28年11月21日原稿受領。
1) 民事司法を利用しやすくする懇談会⽝民事司法を利用しやすくする懇談会最 終報告書⽞(2013年)60頁以下参照。
2) 民事司法を利用しやすくする懇談会・前掲81頁以下参照。
3) 日本弁護士連合会リーガル・アクセス・センター(日弁連 LAC)と協定し た保険者が引き受ける弁護士費用保険のことを,特に⽛権利保護保険⽜又は
⽛弁護士保険⽜と呼ぶことがある。
4) 読売新聞2014年10月25日朝刊⚑頁,日本経済新聞2015年⚕月23日朝刊⚒頁参 照。
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01-総合司会 山下先生 Page 2 17/03/17 18:05 v3.30 民事司法利用支援のための保険制度の役割:はじめに
より解消することが実際に統計上の数字からも示されている。
しかし,このような弁護士費用等補償特約の普及に伴い,国民の裁判を受 ける権利が格段に保障されてきたと肯定的な評価がある一方で,不必要な訴 訟を助長している,高額な弁護士報酬が保険者に請求されている等,新たな 問題が発生している5)。
訴訟費用保険の一種である弁護士費用保険は,先述の通り,交通事故を中 心として,それに加えて限定された範囲ではあるが日常生活を対象として普 及してきた。
民事司法利用の費用障害を解消するために,弁護士費用保険の対象となる 分野の拡充が数年前から弁護士会を中心に検討されてきた。近時,少額短期 保険事業者において個人向けの対象分野拡大版の弁護士費用保険の開発販売 が行われ,その後,損害保険会社においても同様に個人向けの対象分野拡大 版の弁護士費用保険の開発販売が行われた。今後は,これらの保険以外にも 中小企業向けの弁護士費用保険の開発が検討されている6)。
このような動きがあるなか,民事司法の利用を支援するための保険に関し ては,これまで弁護士会を中心として活発に議論されてきた。そこでは主に 司法アクセスの改善という観点が中心であり,法曹関係者による議論が主で あった7)。
5) 前掲・読売新聞39頁,前掲・日本経済新聞⚒頁参照。
6) 日本弁護士連合会主催の第19回業務改革シンポジウム第⚗分科会⽛弁護士保 険制度の発展とその可能性⽜においては資料として中小企業向け権利保護保険 のモデル約款案が示されている。
7) 日本弁護士連合会主催の第17回,第18回,第19回の業務改革シンポジウムに おいて権利保護保険が各分科会のテーマとしてあげられている
(http : //www.nichibenren.or.jp/jfba_info/organization/event/gyoukaku_sympo.
html#Y2011)。
第17回業務改革シンポジウム第⚗分科会
(http : //www. nichibenren. or. jp/library/ja/jfba_info/organization/data/17th_
keynote_report_7.pdf)
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01-総合司会 山下先生 Page 3 17/03/17 18:05 v3.30 保険学雑誌 第 636 号
本シンポジウム8)では,弁護士,法と経済学を専門とする研究者,損害保 険実務家,生命保険実務家,保険法を専門とする研究者が,民事司法利用支 援の保険が果たす役割に関して理論と実務を踏まえて共同研究を行ってきた 成果を報告した。
その内容の詳細は,各論文に譲るとするが,弁護士の大井暁氏からは,こ れまでの民事司法利用支援として重要な役割を担ってきた弁護士費用保険に 関する諸問題について,法曹の立場から,近時生じている保険を利用した場 合の弁護士報酬問題,弁護士費用保険における保険者の同意を求める約款条 項の解釈,弁護士費用保険に特化した ADR 機関設置の問題等について検討 頂いた。熊本大学の池田康弘氏からは,法と経済学の見地から,経済分析に 基づく民事紛争への保険利用の問題と課題として,近時問題となっている少 額事件の訴訟件数の増大,保険を利用した弁護士報酬の過大請求,被害者救 済基金設立に関する問題等について検討頂いた。損害保険ジャパン日本興亜 株式会社の木村彰宏氏からは,民事司法利用支援のために,これまで実際に 損害保険商品を開発してきた損害保険会社の立場から,権利保護保険の開発 を巡るこれまでの問題や今後,問題となる点の報告を頂いた。第一生命保険 株式会社の一ノ瀬淳氏からは,生命保険分野・生命保険会社における民事司 法制度の利用促進に関連する保険契約者等の権利保護に係る取組みとして,
裁判外紛争解決制度,成年後見制度,指定代理請求制度等の概観を報告頂い た。最後に総合司会を務める山下典孝からは,民事司法において重要な役割 を担う弁護士等の過誤の問題について,近時,日本弁護士連合会においても
第18回業務改革シンポジウム第⚕分科会
(http : //www.nichibenren. or. jp/library/ja/jfba_info/organization/data/18th_
keynote_report_5_tr.pdf)
第19回業務改革シンポジウム第⚗分科会
(http : //www. nichibenren. or. jp/library/ja/jfba_info/organization/data/19th_
keynote_report_7_tr.pdf)
8) 本シンポジウムは,公益財団法人民事紛争処理研究基金による共同研究助成 の成果の一部である。
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検討されている⽛依頼者保護給付金制度⽜も含めた依頼者保護制度の課題に ついて報告した。
これら⚕つの報告で示された課題や問題に中心に,活発な質疑応答がなさ れた。
民事司法は社会の根幹をなすライフラインの⚑つであり,民事司法利用支 援における保険の役割は今後ますます重要な意義を有するものと考える。
(筆者は大阪大学教授)
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