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博 士 ( 農 学 ) 後 藤 清 孝 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 農 学 ) 後 藤 清 孝

学 位 論 文 題 名

ジ ャ ガ イ モ 疫 病 菌 の 集 団 構 造 と そ の 多 様 化 要 因 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  ジ ャガ イモ 疫病 は ジャ ガイ モの 最重 要 病害 のひ とっ であ り ,そ の的 確な 防 除は ジャ ガイ モ生 産に欠 か せない.本病はジャガイモ 疫病菌(Phytophthora infestans)により引き起こされる .本菌はへテロタリ ッ ク なた め,Al,A2両交 配型 が存 在し な いと 有性 生殖 が出 来 ない .1980年 代 にジ ャガ イモ 疫病 菌の大 規 模 な 伝 播 が お こ り , そ れ ま で は 一 部 の 地 域 を 除き 存在 が確 認 され てい なか ったA2交配 型菌 株が 世 界 中 で 発 見 さ れ た . 同 時 期 に 薬 剤 耐 性 株 や 強 病 原性 菌株 が見 っ かり ,有 性生 殖が そ れら の出 現に 関 与 し たの では ない か と考 えら れた .多 く の地 域でジャガ イモ疫病菌集団が遺伝学的 に解析され,データ が 蓄 積さ れて いる が ,ア ジア にお ける 集 団は 知見に乏し い.また,大きな多様化要 因と考えられている 有 性 生殖 も, 日本 を 含む アジ アに おい て は確 認さ れて いな い .本 研究 はジ ャ ガイ モ疫 病菌 の個 体群構 造 お よび 変遷 を遺 伝 学的 に把 握す るこ と ,さ らにその多 様化要因の解明を目的とし た.ジャガイモ疫病 菌 個 体 群 解 析 は , 日 本 お よ ぴ ア ジ ア 諸 国 の 個 体 群に っい て行 っ た, 日本 の集 団に つ いて は薬 剤感 受 性 検 定 に よ り , 表 現 型 の 多 様 性 を 調 査 し , そ の 多 様 化 要 因 を 有 性 生 殖 と の 関 連 で 検 討 し た .

個体群構造の解析

個 体 群 が 未 解 析 で あ る , ア ジ ア 諸 国 の ジ ャ ガ イ モ 疫 病 菌 集 団 の 遺 伝 学 的 解 析 を 行 っ た .     1992‑1997年 に韓 国 ,イン ド,インドネシア,台湾, タイ,中国,ネパールから分 離した計90菌株,

お よ び1958,1993‑2002年 に 分 離 し た 日 本 産54菌 株 を 供 し ,RG57プ ロ ー ブ を 用 い たrestriction fragments length polymorphism (RFLP)およ びmitchondrial DNA (mtDNA)ハ プロ タイ プ を解 析し た.

加えて,アロザイム多型[glucose‑6‑pho・印カロセむD朋P′甜e((ゆめ,ぴpf紘珊¢印)]のデータを基に,遺伝 子型を決定した.

    日 本 を 除 く ア ジ ア7カ 国 で は ,19種 の 遺 伝 子 型 が 同 定 さ れ , う ち13種 は 未報 告 の遺 伝子 型で あ っ た . ネ パ ー ル に お い て ,既 報の 優占 遺 伝子 型と 類似 の 遺伝 子型 ,NP−1が発 見さ れ た, 中国 北部 集 団 の ひ と っ で あ るJP‐2遺 伝 子 型 と , ポ ー ラ ン ド で 同 定 さ れ たPO‐28遺 伝 子 型 が 同 様 のRFLP, mのNAハ プ ロ タ イ プ , アロ ザ イム 多型 ,交 配型 を 示す こと が判 明し た .複 数の 地域 お よび 国で 同一 の 遺伝 子型 が 見っ かり ,ジ ャガ イ モ疫 病菌 の国 聞伝 播が確 認された.RFI足mtI冫NAハプ ロタイプ,アロザ イム 多型 に より ,NP‐1,NP.2遺伝 子型 が, 世界 中 に分 布し てい るUS‐1遺伝子型と アジアにのみ確認

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さ れてい るTH‑1遺伝 子型の 有性後 代であ る可能性 が示唆 された .

    日 本 に お ける 遺 伝 子 型は ,US‑1,JP‑1,JP‑2,JP‑3のみ が報告 されて いた.本 研究で10種の遺 伝 子 型 が 同 定 さ れ , そ の う ち6遺 伝 子 型 は 新 規 の 遺 伝 子 型 で あ っ た . こ れ ら6種 の 遺 伝 子 型 はRG57 を 用 い たRFLPで の み 識 別 可 能 で あ っ た . ま た 新 た に 同定 さ れ た 遺伝 子 型 は 全て , 既 報 の遺 伝 子 型 と 近 縁 であ っ た . これ ら をJP‑1群 ,JP‑2群,JP‑3群と 命名し た.今 回,同一 圃場で 異なる 交配型 菌株 が 分離さ れており ,有性 生殖の 可能性 が示唆 された .以上 のこと より,日 本のジ ャガイ モ疫病 菌集団の 多 様性は ,以前の 報告よ りも増 加して いるこ とがわ かった ,

薬剤感受性検定

ジ ャ ガ イ モ 疫 病 菌 に お け る メ タ ラ キ シ ル 耐 性 菌 の 報 告よ り , 薬 剤感 受 性 の 多様 性 検 定 を行 っ た .   北 海 道 菌 株32菌 株(1992‑2002,1958年 分 離 ) を 用 い て 薬 剤 感 受 性 試 験 を 行 っ た , 供 試 薬 剤 はメタラキシル,フルアジナム,クロロタロニル(゜TPN),シアゾファミド,シモキサニル十ファモキサドン の 計5種 を 用 い た , 検 定 方 法 は 希 釈 平 板 法 と し , 各 薬 剤 の 生 育 阻 害 効 果 をECso値 で判 断 し た .そ の結 果,メ タラキ シルとフ ルアジ ナムに おいて 薬剤の 感受性に菌株間差が確認された.メタラキシルとフ ル ア ジ ナ ム に お い て1ppmに お け る 菌 糸 生 育 阻 害 率 を 遺 伝 子 型間 で 比 較 した と こ ろ ,各 薬 剤 の 感受 性が 遺伝子 型間で 異なるこ とが確 認され た.ま たメタ ラキシ ル登録 前であ る,1958年 に分離 された 菌株 が 耐 性 を 示 し た こ と か ら , メ タ ラ キ シ ル 耐 性 は 前 適 応 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た .

日 本菌株 におけ る有性 生殖お よび有 性後代 の解析

JP‑1,JP‑2,JP‑3遺 伝 子 型 菌株 に お け る有 性 生 殖能を 確認す るため ,in vitroで 交配試 験を行 った.

  JP‑2,JP‑3菌 株(Al交 配 型 ;11菌 株 ) ,JP‑1菌 株(A2交 配 型 ;10菌 株 ) を 用 い てV‑8平 板 培 地 上 で 交 配を 行 い , その 卵 胞 子 の発 芽 を 試 みた , そ の 結果 ,110組 み 合わ せの うち,35の組み 合わせ で 卵 胞 子 の発 芽 が 確 認さ れ た . これ は 日 本 産菌 株 同士の 組み合 わせによ る卵胞 子が発 芽した ,初の 報 告 である .

  上 記 の 親 株 の 組 み 合 わ せ か ら3組 を 選 抜 し ,31菌 株 の 単 卵 胞 子 株 を 分 離 し た. こ の 後 代菌 株 の 交 配 型 お よび メ タ ラ キシ ル 耐 性 にっ い て 解 析し た 結果, 親株と 異なった 後代菌 株は17% であっ た.こ れ らのこ とによ り日本 菌株は ,薬剤 耐性能 を交配 により獲得できる可能性があることがわかった.さらに 遺 伝 的 な 交 雑 を 確 認 す る た め , 親 株 HK2とKK0101お よ び そ の 後 代11菌 株 をRAPD解 析 に 供 し た.そ の結果 ,91%と いう高 率で親 株と異 なる多 型が検 出され ,遺伝的 交雑が 示唆さ れた. この結 果 よ り , 日 本 に お い て , ジ ャ ガ イ モ 疫 病 菌 株 の 間 で 遺 伝 的 交 雑 が お き て い る こ と が 考 え ら れ た .

培 地 上 およ び 宿 主 内に お け る 有性 器 官 形 成頻 度

    日 本 菌 株 にお け る 有 性器 官 形 成 頻度 ( そ れぞれ の有性 器官が 共培養 したど ちらの 菌株由来 である か ) を 野 生 株3菌 株 と3‑glucuronidase (GUS)形 質 転 換 体 を 用 い て ,3種 の 交 配時 の 培 地 条件 ( 平 板 培 地 , 液 体 培 地 , 植 物 体 内 ) で 比 較 し た , 他 国 のAl菌 株 とは 異 な り ,日 本 産Al交 配 型 菌 株は 。 40% 程度 の 自 家 交配 卵 胞 子 を形 成 し , かつ 蔵 精 器 を形 成 す る 傾向 が 高 い とい う 有 性 器官 形 成 頻度 を

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示した.さらに植物体内での有性器官形成頻度は培地上での頻度を反映していなかった.このため,P. infestansが 有 性 器 官 形 成 時 に , 宿 主 か ら 何 ら か の 影 響 を 受 け て い る 可 能 性 が あ る .

  本研究により,日本およびアジア諸国のP. infestans集団は,世界中に分布していた old 遺伝 子型を除けば,その多くがアジア独自の遺伝子型により構成されていることがわかった.これらの遺伝子 型のいくっかは国を越えて伝播していた.また,タイ,ネパール,インド集団,および日本集団では,有 性生殖によると考えられる,新たな遺伝子型の発生が確認された.日本菌株を用いてin vitroで交配 させ,その有性後代を分離し,これらの有性後代を解析したところ,遺伝的に交雑していることが示唆さ れ,日本において有性後代菌株が出現する可能性が考えられた.これらのことより,ジャガイモ疫病菌 集団のアジア,特に日本における多様化は伝播および有性生殖によりおきていると思われる.本研究の 結 果 は , ジ ャ ガ イモ 疫病 の発 生予 察な ど, 本病 害の 適 切な 防除 に寄 与で きる と考 えら れる .

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学位論文審査の要旨 主査    教授    内 藤繁男 副査    教授    幸 田泰則 副査   助教授   近藤則夫

学 位 論 文 題 名

ジャガイモ疫病菌の集団構造と その多様化要因に関する研究

本 論 文 は 図9, 表14,95頁 か ら な る 和 文 で あ り , 別 に 参 考 論 文4編 が 付 さ れ て い る .   1980年代にジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)の大規模な伝播がおこり,一部地域に 限られて いたA2交 配型菌株 が世界 中で発見 され,薬 剤耐性株や強病原性菌株が蔓延し問題とな った.本病原菌はへテロタリックなため,交配型AlとA2による有性生殖が疑われた.欧米におい ては,ジャガイモ疫病菌集団が遺伝学的に同定されデータが蓄積されているが,アジア集団について は知見に乏しく,多様化要因と考えられている有性生殖にっいても不明である.本研究は,日本およ びアジア諸地域におけるジャガイモ疫病菌の個体群構造とその変遷を遺伝学的に把握するとともに,

その個体群の多様化要因を解明することを目的とし,個体群の遺伝子型と薬剤感受性,および有性 生殖の可能性を明らかにした,

1.個体群構造の解析

ア ジ ア 産144菌 株(1958,1992‑2002)を 供 し ,RG57プ ロ ー プ を 用 い たRFLPお よ びmtDNAハ プロタイプを解析した.さらに,2種のアロザイム多型のデータを加えて,遺伝子型を決定した,

    日本を除くアジア諸地域において,19種の遺伝子型が同定され,そのうち13種は未報告の遺 伝子型であった.複数の国で同一の遺伝子型が見っかり,ジャガイモ疫病菌の多国聞伝播が確認さ れた.加えて,有性生殖が起きている可能性が示唆された.

    日本におy` ては11種の 遺伝子 型が同定 され, そのうち6種の遺伝子型は新規の遺伝子型で あった.これら新規遺伝子型は全て,既報の遺伝子型と近縁であった,これらをJP‑1群,JPー2群,

JP‑3群と命名した.以上より,日本のジャガイモ疫病菌集団の多様性が増加していると考えられた.

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2.薬剤感受性検定

北 海道 菌株32菌 株(1958,1992‑2002)を用い て薬剤 感受性試 験を行 った.検 定方法 は希釈平 板 法とし,その菌糸生育阻止効果をECso値で評価した.5種の薬剤に対する感受性を検定した結果,

メタラキシルとフルアジナムにおいて感受性に菌株間差が確認された.さらにこの2薬剤(1 ppm) での菌糸生育阻止率を比較したところ,各薬剤の感受性が遺伝子型間で異なった.メタラキシル登録 前に分離された保存菌株が耐性を示したことから,メタラキシル耐性は前適応であることが示唆された.

3.日本菌株における有性生殖およぴ有性後代の解析

日 本 産Al交 配 型 菌 株11菌 株 ,A2交 配 型 菌 株10菌 株 を 用い て 交 配を 行 い ,そ の 卵 胞子 の 発 芽を試みた.その結果,5種の組み合わせで発芽が確認された.これは日本産菌株同士の交配で卵 胞子の発芽に成功した初の報告である.

  親 株3組から31菌 株の単 卵胞子株 を分離し た.こ の後代菌 株の交 配型およ びメタ ラキシル 耐 性を 解析し た結果,親株と異なる後代菌株が約2割出現した.そのうちの1組について親株とその 後 代単卵 胞子株を3種の プライ マーを用 いてRAPD解 析により 精査し たところ ,遺伝 的交雑の 結 果と思われる多型が検出された.したがって日本のジキガイモ圃場で疫病異菌株の間で遺伝的交雑 がおきている可能性がある.

4●培地上および宿主内における有性器官の形成頻度

野生 株3菌株とP‑glucuronidase (GUS)形 質転換体 を用い て,P.infestansの有性器官形成頻度 (sexual preference:共培養時における各有性器官の由来割合)を平板培地,液体培地,宿主体内で 比較した.日本菌株は,約4割の自家交配卵胞子を形成し,かつ蔵精器を形成する傾向が高いことが 明らかとなった,また植物体内での有性器官形成頻度は培地上での頻度を反映していなかったことか ら,P. infestansが,有 性器官形 成時に宿主から何らかの影響を受けていることがわかった.

  本研究により,日本およぴアジア諸地域のP. infestans集団は,その多くがアジア独自の遺伝子 型により構成されていることがわかった.これらの遺伝子型のいくっかは多国間伝播をし,有性生殖に よって新たな遺伝子型を生じているとの可能性を明らかにするとともに,in vitroでの日本菌株による有 性世代交雑株の状況証拠を得た.すなわち,ジャガイモ疫病菌集団のアジア,特に日本における多 様化は,他の地域からのジャガイモ疫病菌の伝播と,有性生殖による新たな遺伝子型の出現とによっ て韜きている可能性が高い,本研究の成果は,ジャガイモ疫病の省力防除,種イモの管理,防疫シス テムの構築に基礎となる知見を提供している.

  よって審査委員一同は,後藤清孝が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと認 めた.  −1251―

参照

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